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第二章 森の平定
第87話 北との戦い⑥ トーヤ 対 ルーベルト
しおりを挟む黒装束の男を退かせ、なんとか訓練室まで辿り着く。
そこでは丁度、イオと侵入者が対峙しているところであった。
(良かった……。イオが間に合っていたか……)
イオが地下にいることは気づいていた。それこそが一筋の光明だったのだが、本当に間に合って良かった……
先程のアンナの感情――、あれはまさに、死を覚悟したものだった。
恐らく決死の覚悟で何かを放ったのだろうが…………、こうして無事な姿を確認できたことは幸いと言っていいだろう。
ただ、状況はあまり良くないようである。
あのイオを相手にして、この侵入者は余裕を崩していない。
そんなレベルの相手に、俺が加わったところでどの程度影響があるか……
「トーヤ様!」
「アンナ、無事でいてくれて何よりだ。……ただ、何をやろうとしたかは知らないけど、もう妙な真似はしないでくれよ?」
「……はい」
アンナは悔しそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情で返事を返してくる。
その真意は読み取れないが、少なくとももう同じことはしないだろうということは理解できた。
「……それで、一応確認するが、ルーべルトであってるよな? お前の目的はなんだ?」
俺の質問に対し、男は振り向きながら答える。
「名乗った覚えはないが、どこで聞いた?」
「足止め役の黒装束が、な」
「チッ……、口の軽い奴め。……まあいい、質問に答えてやろう。俺の目的はそこの娘だ。ドルイドの力を持つその娘さえ渡せば、他の者に手を出さないでやる」
「……断る。俺は家族を売る気なんてない」
ルーベルトは俺の言葉に対し一瞬きょとんとした表情を浮かべるが、次の瞬間には不快そうな表情に切り替わる。
「家族、だと……? クック……、そのハーフエルフ達がか?」
「……それの何がおかしい」
「おかしいに決まっている。そいつらは、その家族にすら捨てられたからここにいるのだろう? それを、血の繋がりもないお前が家族などと……。戯言も大概にしろ」
ルーベルトの発言に、子供達がビクリと反応する。
全員、身に覚えがあるのだろう。
「……ハーフエルフは忌みモノとして扱われるって話は、知っているよ。でも、望んで捨てた親ばかりでは決してないハズだ」
「……おめでたい男だ。エルフがそんな甘い考えを持つワケがなかろう。そいつらは、邪魔だから捨てられたんだよ」
その言葉と同時に、ルーベルトの姿が掻き消える。
一瞬の間をおいて、俺の背後で床を踏み抜く音が聞こえた。
「ぬっ!?」
足を取られ、体勢を崩すルーベルト。
しかし、俺はその隙に攻撃はせず、イオと合流するため、前に出る。
「イオ、大丈夫か」
「ええ。不覚を取りましたが、致命傷ではありません」
イオの背中を見ると、そこには決して浅くない傷が刻まれていた。
ここには発光石の光があるが、その程度の光ではこの傷は癒えない。
「……イオはアンナを頼む。アイツは、俺が……」
「馬鹿なことを言わないで下さい。トーヤ一人でどうにかできる程、あの男は甘い相手ではありません」
「……わかってるよ。でも、あいつの目的がアンナである以上、攫われるようなことは絶対に避けたい。だから、頼む」
「……トーヤが死んでは、元も子もありませんよ」
「なに、時間稼ぎくらいはしてみせるよ。じゃ、行ってくる」
「トーヤ!」
俺はイオとの会話を一方的に切り上げ、ルーベルトに向き直る。
今の間に攻撃を仕掛けてこなかったのは、先程俺がしかけた落とし穴を警戒したからだろうか?
「……いつの間にこんなモノを掘った?」
「さっき長々と喋っている最中だよ」
「どうやって……、と言いたいところだが、方法はどうでもいいな。それよりも、どうして俺が背後を取るとわかった?」
「スピードに自信がある奴ほど、死角にはいりたがるから、なっ!」
言うと同時に床の一部を砕き、そのまま土ごとルーベルトに向かって蹴り飛ばす。
面での攻撃であれば、かする位はするかと期待したが、当然の如く回避されてしまう。
動きはほとんど見えていない。
……しかし魔力の動きは感じ取れている。
「せいっ!」
死角から繰り出された一撃をレンリの柄で受け、その反動を利用して攻撃をしかける。
しかし、ルーベルトは事も無さげにそれを回避する。そんなやり取りを3回ほど繰り返した。
「……やはりお前も見えていない。あの娘と同様に動きを読んでいるのか? だとすれば、種族による恩恵ではないということか。おい、貴様の種族はなんだ? ただの獣人ではあるまい」
わざわざ攻め手を止めてまで、尋ねてくるルーベルト。
「……ただの獣人には見えないか?」
「見えんな。まさか、人族というワケでもないだろうが……」
「さてね。周りはよく人族なんじゃないかよ言われるけど、俺も実際なんなのかは良くわかっていない」
この魔界に伝わる人族の特徴と、俺の特徴は酷似している。
ただ、完全に一致しているワケでもないため、実際のところ本当に人族なのかは不明である。
「……ふむ。中々に興味深いな。一応確認しておくとよう。お前、俺の下につく気はないか?」
「断る。少なくとも、人の家の娘を攫おうなんてヤツの下に付く気なんてない」
「そうか。では、茶番は終いだ。死ね」
急激に膨らむ殺気。
目の前にしてなお気配の薄かったこの男が、初めて見せた圧倒的存在感。
これは地竜どころではない。それよりもはるかに上の存在の……
「くっ!?」
正面からの一撃を、なんとか剛体で受ける。
しかし反動で吹き飛ぶ先には、既にルーベルトが待ち構えていた。
圧倒的スピードである。
「レンリ!」
このまま突っ込めば、『剛体』で防ぐことはできない。
『剛体』の反発力は、自らぶつかりに行く際には大した効果を発揮しないのである。
だからレンリを展開して防御を試みたのだが……
「フン!」
その防御をあっさりとすり抜け、ルーベルトの膝が俺の背に突き刺さる。
「カハッ……!」
「トーヤ様!」
今度は剛体の反動とは関係なく、物理的な運動エネルギーだけで吹き飛ばされる。
その先にもまた、ルーベルトが構えて待ち構えていた。
(今のでかなりのダメージを受けてしまった……。もうここで仕掛けるしかない!)
ルーベルトは吹き飛ぶ俺に合わせ、手刀を振るう。
(ここだ!)
手刀は『剛体』を抜けるために、当たる直前で速度が緩められる
そこを逆に利用し、当たる直前で手刀をこっちから掴みに行く。
その行動にルーベルトは少し躊躇いを見せたが、冷静に掴まれた腕を引き寄せ、もう一方の手を俺の首に伸ばす。
が、俺の攻撃準備はもう整っていた。
(破震!)
「!?」
闘仙流を立ち上げるうえで、今まで仮としていた発勁(仮)に名を付けた。それが『破震』である
この技の発動条件は、相手の体に直接触れることと、相手の魔力と同調することだ。
触れる位置は、人体の重要器官に近ければ近い程効果が高くなる。
今回は相手の右腕を狙ったため、恐らく致命傷には至らないが……、暫く腕を使い物にならなくすることくらいはできる。
「甘い!」
「なっ!?」
流し込んだ俺の魔力が、ルーベルトの内から吹き上がる魔力により無理やり押し返され、腕が弾かれた。
「……ふん、師弟揃って小賢しい真似をする。だが、仕組みさえわかれば防ぐのは造作もないことだ」
「クッ……、何故……!?」
「俺の魔力に自分の魔力を同調させ、かき乱す技のようだが、甘かったな。同調するのであればもう少し速くなければ意味がない。妨害が間に合うようでは、まだまだ技とは呼べない未完成品だ」
そういうことか……
確かに、ルーベルトの言うように今の魔力同調は確実性を重視するあまりに、少し速度が遅かった。
しかし、まさか技の性質を理解した上で、魔力の流れを押し戻すとは……
「なら、もう一度やるまでだ! 次こそは……っ!?」
決める、と続くハズだった台詞は、突如後頭部を襲った衝撃でかき消されてしまう。
同時に、首根っこを掴まれ、後ろに引き倒された。
「少し頭を冷やしなさい、トーヤ」
イオはそう言って俺の前に出る。
「貴方が冷静にならなくてどうするのです。どんな状況でも冷静に立ち回れる。それこそが貴方の優れた所でしょう?」
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