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第1章 PLAYER1
クズ拾う死神 ①
しおりを挟む「またダメだったか~」
ユウキのため息が通り中に行き渡るような声だった。
「もうこれで、14チーム目ですよね。大きいとこどころか、活動しているとこ全てに断られる勢いですよ」
つられるようにサトリがため息をつく。
あの夜、つまり三日前、アルの助言に従ってユウキ達が起こした行動は二つだ。一つはこの街の牛耳る四つのカルテル、四老会が共同運営する登録所で、探窟家として登録すること。ここで発行されるタグをクビから下げることでユウキたちは探窟家として認められアルビシオン海底トンネルへ踏み入ることが許されるとのことだった。これは、拍子抜けするほど簡単に終わった。問題は二つ目だ。
アルの話では、探窟家というのは大きく二つに分けられるらしい。トンネルの中を探索して金銭的、歴史的価値の高いものを持ち帰ることを目的とした採掘組、トンネルを踏破してカレーへの新しいルートを開拓することを目指す踏破組の二つだ。特に、踏破組の収入はその大部分を各カルテルからの出資に頼っていることもあり、金より名誉の側面が強いらしい。前者をしてリアリスト、後者をしてドリーマーと呼ぶものもいるそうだ。
当然ユウキ達がすべきことはこのドリーマー達のグループのいずれかに入ることだった。
「どこも、話すら聞いてくれねー」
愚痴が溢れる。
「アルさんいってましたもんね。『正直、どこも取り合ってくれないだろけどね。なんたって、踏破組には各カルテルの威信がかかってる。いずれのチームも入れるのは四大カルテルのいずれかの下部組織で採掘組として成果をあげた奴だからね』って」
下手くそなモノマネだ。
「駄目元でもこれだけ話すら聞いてもらえないとはな。心が折れるな」
「ふふふっ」
ユウキの言葉をよそに、サトリはくすくすと笑った。
「なんだよ?」
ユウキはブスッとして尋ねる。
「えっと、あの、でもよかったなって」
「何がさ?」
「私、ずっと不安だったんです。プレイヤーとして選ばれて村から出てきたときも、この世界にアトリシアと言う少女として目覚めた時も」
サトリはそういうとユウキの目を見てもう一度微笑んだ。
「だから、1人じゃなくてよかったなって」
その綺麗な瞳に見つめられてユウキは顔を赤くする。
「もう、夕暮れだしな。酒場に行ってもう一度アルに話を聞くか」
照れを隠すように告げた。気温の低下というこの街の独特の夕暮れのサインが、ユウキとサトリの肌に夜の訪れを告げていた。
******
アル・アダムスを探すのは簡単だ。最初に連れて行かれた酒場「コウモリの穴」を隅から隅まで見渡せば、大概はどこかにいる。
ユウキ達は、カウンターで飲んでいたアルを見つけて声をかける。
「やっぱり、ダメだったよな」
アルは開口一番にそんなことを口走った。
「どこもここも駆け出しを歓迎してる採掘組を紹介してやるからそこから始めなさいって感じで」
サトリが経緯を話す。
「そりゃそうだ、海底トンネルに入るってことは死ぬほど危険なことだ。危険度は奥に行けば行くほど増す。カンと経験の世界で、ベテランだって油断すれば帰ってこれない。そこに素人2人『最深部まで行きたいです』と行ってきた日にはどうなるかわかるだろ?」
「でも、俺たちには悠長に採掘組から出世するだけの時間はない。それに・・・」
「それにいざとなればPSYの力があるってか」
ユウキに先回りするようにアルは言う。
「あんたらPrayerが皆PSYと呼ばれる特別な力を持っていることはじいさんから聞いたよ。だけどな、この街で、あの海底遺跡で生き残るのに必要なのは、強さじゃない強かさだよ。連中は誰よりもそれを知ってる。あんたらの自慢のPSYがどれほどのものかは知らないけど。例えお前達が連中の前でその異才を振りかざして見たところでどこも受け入れてはくれないさ」
アルの言葉にはどこかこの街で生きる埃のようなものがあってユウキにそれ以上返す言葉がなかった。
カランカラン。その時、酒場のドアが開いた。乱暴に開かれたドアから入ってきたのは30代前半の男。背が高く体は筋肉質に引き締まってる。反対に無精髭を生やし酒によった赤ら顔で、ふらふらと歩く姿はだらしない。
「マスター酒をくれ、金ならあるんだ」
男はそういうと、ポケットに突っ込んであった硬貨を無造作にカウンターの上に置いた。
「おいおい、これで何を買うって?ミルクでも飲みたくなったかクズ拾い」
どうやら、お金が足りなかったらしくマスターは硬貨を男に突き返す。言葉は辛辣だがどこか情がある物言いだ。彼はここの常連であるらしい。
「おっかしなー、さっきまでは足りてたんだけどよ」
男は酒で回らない舌で嘆いだ。
「まだ、あいつがいたか」
その酔っ払いを見て、アルは思い出したように言った。
「ユウキ、サトリ。ついてこい、駄目元だけど俺にも、もうあいつぐらいしかあてがない」
アルはそういうと男の方へ歩み寄った、ユウキとサトリもそれを追いかける。
「よお、ベン。一杯奢るぜ」
アルはそう言って陽気に声をかける。
ベンと呼ばれた酔っ払いはこちらに視線をよこしアルの姿を確認すると怪訝な顔をした。
「なんだ、あんたかアル。確かに酒は欲しいいが、お前の酒は怖くて飲みたくねえな。裏があるに決まってる」
「話を聞くだけでいいさ。その先はあんた次第だ」
アルはそう言ってベンと呼ばれた男に微笑んだ。
「聞いただろマスター?ミルクじゃなくて酒をくれ。金はこいつが払うとよ」
ベンはマスターから麦酒を受け取ると一気にあおる。
「クー、うまいね。やっぱりこれよ」
そういうと一旦グラスをカウンターにおいてアルの方に向き直った。
「で? 話ってのは?」
低くて酒に焼けた声だ。
「あんた昔あのアリスター・ピットマンのチームにいたって話だろ?」
その言葉に顔が曇る。
「ああ。そうだが。それで」
ぶっきらぼうな物言いは、もう触れるなと言わんばかりだ。
「やあなに、あんたにまだ昔の情熱があるか聞きたかったのさ。後ろにいる2人がトンネルを抜けてカレーまで行く方法を探してる。そこであんたに手伝ってもらえればと思ってね」
アルの言葉で、ベンはその後ろにいるユウキとサトリに目を向けた。
「まだ、ガキじゃねえか」
小さくそう吐き捨てる。
「確かにガキで経験もないが、腕っ節だけは確かだぜ。こいつらを無事にカレーまで送り届ければ報酬だってがっぽりさ。だいたい、あんたがアリスター・ピットマンのチームに入ったときもこんぐらいの年だったって聞いてる。この街で生きていくのに必要なのは年齢より、度胸だろ?」
アルは有る事無い事なんでも言ってまくし立てた。ベンはもう一度ユウキとサトリに目をやる。それから、麦酒を一気に飲み干す。
「なあアル、自惚れたガキに出来ないもんは出来ないと現実を教えてやる。それが大人の務めだろ」
それは事実上のNOだ。
「いや、ガキはガキだがこいつらはただのガキじゃあ・・・」
「二杯目を買う金はねえし今日はもう帰るさ」
引き下がるアルを無視してベンは立ち上がると、来た時よりも幾分かしっかりした足取りで酒場を出て行く。
「えっと、今の人は?」
サトリがおずおずとアルに尋ねる。
「ベン・ベラ。昔、アリスター・ピットマンという男がつくった踏破組のチームにいた男さ。カレーに一番近いチームとまで呼ばれたんだけどな。十年前のある日、探窟から帰ってきのはあの男だけだった」
「それってつまり・・・」
「全滅したのさ。あいつのチームはあいつを残してな。それからあいつは情熱を失っちまった。今じゃあ、浅い階層で少しでも金になりそうなもんを拾って来てはその金で酒を飲むだけの男だ。『クズ拾い』なんてあだ名までついてる。とはいえ昔は一流の探窟家だったんだ。はぐれもん同士、もしかしたらお前たちとチームを組んでくれるかもと思ったんだがな」
アルはそれ以上なにも言わなかった。ユウキとサトリは酒場を後にして、宿へと戻ることにした。
******
「でもこまっちゃいまいしたね。これからどうしましょう?」
帰る道すがらサトリは空に向かってぼやく。
「・・・しかたない、行ってみるか」
ため息とともに、ユウキは突然切り出した。
「どこにですか?」
サトリがキョトンとした顔をする。
「海底トンネル。とりあえずこれがあれば入れることには入れるんだろ」
首から下げたタグを手にとる。登録所でもらったものだ。
「私たちだけでですか?」
「一層なら大して危なくないって言ってたからな。それにこちらでの生活費の問題もある」
現実的な問題も解決しなければならない。なんたってユウキには裕福とは正反対の生活をしていたと思われるカイの持っていた旅費しかない。サトリに関しても大差ないはずだ。
「うう~、そうでした。こちらにまだいるつもりなら。お金の問題もどうにかしないと」
「じゃあ、決まりってことで」
明日の予定が決まった瞬間だった。
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