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第1章 PLAYER1
海下のトーヴァ ③
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男が連れてきたのは酒場だった。男が扉を押して中に入ると女性がその姿を確認して微笑みかける。
「アルさん、こんばんは。今日はお食事? テーブルなら空いてるけど・・・」
彼はどうやらここの常連らしい。
「いや、今日は密談でね。二階に個室をとってある。旦那に頼んでおいたから先客ももうきているはずだ」
アルと呼ばれた男が冗談めかして言った。
「悪巧みばっかりしちゃダメですよ」
女性が軽口で返す。
「そいつは無理さ。悪巧みこそ俺の仕事だ」
女性と別れて男は酒場を奥へと進む。店は吹き抜けになっていて、入ってすぐに2階があることが見て取れた。迷わず右手の階段に向かい登る。ユウキもそれを追いかける。
「しかし、Prayerなんてもんが本当にいたなんてな」
階段の手すりに手をかけながら男が話しかける。
「ここを訪ねてきたのは俺が初めてなのか?」
「俺が合うのは初めてだ。じいさんがまだガキだった時に、じいさんの師匠を訪ねてきた奴がいたって聞いてる。つまり大昔ってこった。じいさんからこの仕事を引き継いだ時に、協力者としての役割も引き継いだが、俺はそんなやついるのか半信半疑だっだね正直」
階段を登り終えた男は二階の奥へと進むと、一番奥の部屋の扉に手をかける。
「まあ、これも巡り合わせってやつかね。滅多に会えるもんじゃないと聞いていたが、俺の代になって、しかも2人も同時に現れるなんて」
2人?男の独り言にも近い言葉を不思議に思ったが、尋ねるまでもなくその答えは扉の向こうで座っていた。
促されるように入った部屋には大きなテーブルが一つあった。その両サイドには椅子が三脚ずつ並んでいる。そしてそのうちの一脚に少女が腰を下ろしていたのだ。
赤い髪をしていた。顔にはそばかすがある。大きな灰色がかった目が、ユウキの姿を捉えた。
「昨日、俺のとこを訪ねてきてね。今日ここで待ち合わせていたんだが、君の噂が飛び込んできたからついでに連れてきたんだ。2人は知り合いだったり?」
ユウキと少女の双方はその質問にどう答えればいいか詰まった。
今のカイの姿をした容姿を見て、ユウキをユウキであると特定できる人間はいないだろう。その逆もまた然りであった。Prayerと言っても、他の教会所属ということもある。むしろ、ユウキの知っているPrayerなど片手で数えるまでもない。
「ビザンティオン正教会のNo.7705、ユウキ・タッキナルディーです」
ユウキは自身の識別コードとともに名乗る。
「あっ、」
少女は小さく声をあげた後返事を返す。
「えっと、ビザンティオン正教会、No.7702、サトリ・トダーロです」
「ああ、あの娘だ」と思い至った。サーの授業を熱心に聞く、黒髪の少女の後ろ姿が浮かんだ。話したいことはいくつかあったが男の手前もあり2人の会話はそこで止まる。
「まあ、なんにせよ。2人もPrayerに会えた俺は幸運って事かね。俺の名前はアルだ。アル・アダムス」
ユウキとサトリの会話をどう解釈したのかはわからないが、アルはそう言ってサトリの向かいの席に腰を下ろすと、ユウキにも座るように促した。
「とりあえずなんか飲むかい? この場所を密談に使わせてもらう以上、旦那の売り上げにも貢献しないとな」
アルは持ち前の軽い調子で提案する。
ぐーっ。隣から音がなった。右をみれば少女が顔を真っ赤にしてうつむいている。
「まずは食いもんか。それも悪くねえ。昨日、定期船がきたから大陸のうまい食料も仕入れてあるはずだ。適当に頼んでこよう」
アルはそういうと席を立って一階でいくつか注文をしてくると再び席について話を切り出した。
「最初に言っとかなきゃならんのは、あんた達は運が悪いって事だな」
相変わらず、真剣味にかけるトーンだ。
「ここは、あんた達Prayerに至れり尽くせりのサポートをしてくれる教会の庇護下にある街じゃない。確かにこの街にも信者はいるだろうが、組織だった活動をしているとこはない。俺みたいな、個人的協力者1人をあてにしなきゃならないのがお前さん達の現状だ」
「この街に他に協力者は?」
ユウキは尋ねる。
「さあな? 少なくとも俺は知らされていない」
「えっと、アダムスさんはなんで私達に協力してくれるんですか?」
今度はサトリが尋ねる。
「先代のじいさんから情報屋の看板と一緒に引き継いだからってだけだよ。それ以上もそれ以下でもない。じいさんはじいさんでそのまた先代から受け継いだって話だ。俺にしてみれば、『協力者』であり続ける限り一定の報酬が約束されているし、実際にあんた達みたいなのが現れれば命をかけない範囲で協力はするさ。そのぐらいには美味しい仕事だ」
「報酬ね。あんたに報酬を支払っている奴がいるなら直接そいつらに聞いた方が話が早そうだが」
この男を信頼するべきかまだ腹をくくれていない。
「残念だが俺は誰がこの金を払っているか知らない。報酬は毎回、四老会を伝って俺の元に振り込まれる。あんた達教会が地下に地上にどれだけのネットワークを築いているのかは知らないが、金の流れを辿っても街の外のアルビシオン国教会まで何にも行きあたらないだろうぜ。つまりあんた達がこのトーヴァの街で頼れるのは俺だけって事だ」
アルビシオン王国はこの地下都市トーヴァを抱える島国だ。
「まあいい、で? あなたは俺たちにどう協力してくれるんだ?」
「残念ながらできる事は少ない。強いて言えば、この街で生きるすべを教えてやることぐらいはできるが」
「そんな」「なっ、」
あっさりといってのけたアルにユウキとサトリの双方から声が上がる。
「悪く思うなよ。俺ができるのは命をかけない範囲での協力だ。あんた達Prayerの目的は、アルビシオン海底トンネルを抜けて、ガリアにあるサン・カレー聖堂まで行くことだと聞いてるが?」
サン・カレー聖堂はユウキ達のいた世界にも存在する。サン・カレー聖堂は七大教会の一つガリア純教会を構成する寺院の一つで、確かにそこならばセーブポイントとして機能するだけの神体結晶を有しているはずだ。
「何か問題が?」
「問題も何も大有りよ。今、このアルビシオン島の端にあるトーヴァの街と大陸のカレーの街をつなぐ海底トンネルは塞がっちまってるのさ。学者達はこの海底遺跡が間違いなく二つの街をつなぐトンネルだったと主張するが、未だ誰もそれを確かめたものはいない。いくつものチームがこの海底トンネルの踏破を目指してはいるけどね」
それからアルは何も知らないユウキ達にこの街についてポツポツと語ってくれた。
三百年ほど前、アルビシオン島の南端に地下深くに遺跡が見つかったそうだ。次に遺跡の中で色々な価値のあるものが発見された。細かい細工と宝石を散りばめた宝飾品、歴史的価値なある陶器、磁器、書物にその他日用品。中には現代の技術をはるかに超えたオーパーツ呼ばれる工芸品もあり、果ては鉱物資源や燃料資源まで出てきた。
遺跡の噂を聞きつけて島中から一攫千金を狙った人間がごまんと集まってきた。探窟家と呼ばれた彼らはやがて一つの街を作る。それが地下都市トーヴァの始まりだ。
探窟家たちが遺跡の奥へ奥へ進むにつれ、洞窟の全貌は明らかになっていった。洞窟はほぼ直線的にできていて、アルビシオン東南端のこの街から、ガリアのカレーへと一直線に伸びている。学者達は、この巨大建造物を古代人の作ったトーヴァとカレーを結ぶトンネルだと結論づけた。カレー側にも同様の洞窟を見つけると推論は現実味を帯びる。
探窟家達の中にトンネルを抜けてカレーを目指そうというものが現れた。彼らはアルビシオン海底トンネルを奥へ奥へと進み、一層、二層、三層とルートを開拓していった。だが、その探窟も四層で止まる。四層への入口が見つかって100年、未だ五層にたどり着いたものはいない。最近では、学者達の推論は間違っていたのではないかという声や、トンネルは完成せずカレーには到達していないのではないかという声も上がっているらしい。
「えと、えと。つまりアルビシオン海底トンネルを抜けてカレーに行くのは無理って事なんですよね。じゃあ、一旦アルビシオン島の他の街に行って海路でルターを目指しちゃダメなんですか?」
サトリが質問する。
「それに、別にサン・ルターにこだわる必要はない。それこそアルビシオン国教会とやらが、セーブ可能なだけの神体結晶を擁していれば島を出る必要すらないからな」
今度はユウキが意見を述べる。
「それはできない。・・・最も俺はなぜそれができないのかは知らないがね」
「どういう事ですか?」
アルの意味深な発言にサトリが返す。
「『存在限界』だそうだ。俺にはなんのことだかわからん。だが、Prayer達がアルビシオン海底トンネルを抜ける以外の道を考えているなら、そう伝えろと言われている」
「そういう話か」
アルのその言葉でユウキは二つのことに合点がいった。
まず第一に『協力者』というのがどういう存在であるかだ。彼らはおそらく教会やユウキ達Prayerについてほとんど何も知らない。彼らは金銭などで教会と協力関係を結び、その見返りとしてPrayer達が現れると彼らに教会の用意した一定の道へと導くように約束させられている。
第二に『協力者』から海底トンネル以外に道筋が示されない点についてだ。アルは『存在限界』といった。この世界は神々しき者共の夢が作り出している。逆に言えば彼らの知らない世界は存在しえない。思えばアルビシオン国教会なんて聞いたことがなかった。おそらく、アルビシオン島にまつわる神々しき者はユウキたちのいる世界ではまだ発掘されていないのだ。つまり、異世界からの訪問者であるユウキ達にとってこのトーヴァの街より北は存在しない世界ということなのだろう。
『協力者』がアルビシオン海底トンネルを抜けてサン・カレー聖堂を目指す他にないといった。現実的にはかなり厳しくともだ。つまり・・・
「サトリ」
ユウキは隣に座る少女に声をかけた。
「これはイベントだ」
サトリは突然名前を呼ばれてびくりと体を震わせる。
「ちょっと、待ってくださいユウキさん。イベントって私たちまだこれが初任務なんですよ」
動揺する赤毛の少女をよそにユウキは言葉を続ける。
「運が悪いなんてもんじゃないな。俺たちが現実世界に帰るにはこのイベントをクリアする他にないんだよ」
「そんな・・・」
サトリの声は悲痛に響いた。
「なんのことだかさっぱりだが話はまとまったのか?」
アルが横から口を挟む。
「アダムスさんだったな」
「ああ、それで俺はあんた達に何をしてやればいいんだ?」
「俺たちはアルビシオンの海底トンネルを抜けてサン・カレー聖堂を目指す。その方法を教えてくれ」
「正気かよ。もう100年も何の進展もないんだぞ」
アルはその言葉を聞いて動揺する。だが彼の決意に満ちた目を見るとやれやれといった風に頭をかいた。
「わかったよ。できる限りの協力はしよう。もちろん命に関わらない範囲でな」
アルはそういうと部屋の外から漂ってくる臭いにニタリと笑った。
「その前にまずは食事のようだ」
アルの言葉と同時に、個室の扉がノックされた。ユウキとサトリの2人はその後アルにこの街での生活の仕方や、トンネルを抜けるための具体的な方法を聞きながら食事をとった。
「アルさん、こんばんは。今日はお食事? テーブルなら空いてるけど・・・」
彼はどうやらここの常連らしい。
「いや、今日は密談でね。二階に個室をとってある。旦那に頼んでおいたから先客ももうきているはずだ」
アルと呼ばれた男が冗談めかして言った。
「悪巧みばっかりしちゃダメですよ」
女性が軽口で返す。
「そいつは無理さ。悪巧みこそ俺の仕事だ」
女性と別れて男は酒場を奥へと進む。店は吹き抜けになっていて、入ってすぐに2階があることが見て取れた。迷わず右手の階段に向かい登る。ユウキもそれを追いかける。
「しかし、Prayerなんてもんが本当にいたなんてな」
階段の手すりに手をかけながら男が話しかける。
「ここを訪ねてきたのは俺が初めてなのか?」
「俺が合うのは初めてだ。じいさんがまだガキだった時に、じいさんの師匠を訪ねてきた奴がいたって聞いてる。つまり大昔ってこった。じいさんからこの仕事を引き継いだ時に、協力者としての役割も引き継いだが、俺はそんなやついるのか半信半疑だっだね正直」
階段を登り終えた男は二階の奥へと進むと、一番奥の部屋の扉に手をかける。
「まあ、これも巡り合わせってやつかね。滅多に会えるもんじゃないと聞いていたが、俺の代になって、しかも2人も同時に現れるなんて」
2人?男の独り言にも近い言葉を不思議に思ったが、尋ねるまでもなくその答えは扉の向こうで座っていた。
促されるように入った部屋には大きなテーブルが一つあった。その両サイドには椅子が三脚ずつ並んでいる。そしてそのうちの一脚に少女が腰を下ろしていたのだ。
赤い髪をしていた。顔にはそばかすがある。大きな灰色がかった目が、ユウキの姿を捉えた。
「昨日、俺のとこを訪ねてきてね。今日ここで待ち合わせていたんだが、君の噂が飛び込んできたからついでに連れてきたんだ。2人は知り合いだったり?」
ユウキと少女の双方はその質問にどう答えればいいか詰まった。
今のカイの姿をした容姿を見て、ユウキをユウキであると特定できる人間はいないだろう。その逆もまた然りであった。Prayerと言っても、他の教会所属ということもある。むしろ、ユウキの知っているPrayerなど片手で数えるまでもない。
「ビザンティオン正教会のNo.7705、ユウキ・タッキナルディーです」
ユウキは自身の識別コードとともに名乗る。
「あっ、」
少女は小さく声をあげた後返事を返す。
「えっと、ビザンティオン正教会、No.7702、サトリ・トダーロです」
「ああ、あの娘だ」と思い至った。サーの授業を熱心に聞く、黒髪の少女の後ろ姿が浮かんだ。話したいことはいくつかあったが男の手前もあり2人の会話はそこで止まる。
「まあ、なんにせよ。2人もPrayerに会えた俺は幸運って事かね。俺の名前はアルだ。アル・アダムス」
ユウキとサトリの会話をどう解釈したのかはわからないが、アルはそう言ってサトリの向かいの席に腰を下ろすと、ユウキにも座るように促した。
「とりあえずなんか飲むかい? この場所を密談に使わせてもらう以上、旦那の売り上げにも貢献しないとな」
アルは持ち前の軽い調子で提案する。
ぐーっ。隣から音がなった。右をみれば少女が顔を真っ赤にしてうつむいている。
「まずは食いもんか。それも悪くねえ。昨日、定期船がきたから大陸のうまい食料も仕入れてあるはずだ。適当に頼んでこよう」
アルはそういうと席を立って一階でいくつか注文をしてくると再び席について話を切り出した。
「最初に言っとかなきゃならんのは、あんた達は運が悪いって事だな」
相変わらず、真剣味にかけるトーンだ。
「ここは、あんた達Prayerに至れり尽くせりのサポートをしてくれる教会の庇護下にある街じゃない。確かにこの街にも信者はいるだろうが、組織だった活動をしているとこはない。俺みたいな、個人的協力者1人をあてにしなきゃならないのがお前さん達の現状だ」
「この街に他に協力者は?」
ユウキは尋ねる。
「さあな? 少なくとも俺は知らされていない」
「えっと、アダムスさんはなんで私達に協力してくれるんですか?」
今度はサトリが尋ねる。
「先代のじいさんから情報屋の看板と一緒に引き継いだからってだけだよ。それ以上もそれ以下でもない。じいさんはじいさんでそのまた先代から受け継いだって話だ。俺にしてみれば、『協力者』であり続ける限り一定の報酬が約束されているし、実際にあんた達みたいなのが現れれば命をかけない範囲で協力はするさ。そのぐらいには美味しい仕事だ」
「報酬ね。あんたに報酬を支払っている奴がいるなら直接そいつらに聞いた方が話が早そうだが」
この男を信頼するべきかまだ腹をくくれていない。
「残念だが俺は誰がこの金を払っているか知らない。報酬は毎回、四老会を伝って俺の元に振り込まれる。あんた達教会が地下に地上にどれだけのネットワークを築いているのかは知らないが、金の流れを辿っても街の外のアルビシオン国教会まで何にも行きあたらないだろうぜ。つまりあんた達がこのトーヴァの街で頼れるのは俺だけって事だ」
アルビシオン王国はこの地下都市トーヴァを抱える島国だ。
「まあいい、で? あなたは俺たちにどう協力してくれるんだ?」
「残念ながらできる事は少ない。強いて言えば、この街で生きるすべを教えてやることぐらいはできるが」
「そんな」「なっ、」
あっさりといってのけたアルにユウキとサトリの双方から声が上がる。
「悪く思うなよ。俺ができるのは命をかけない範囲での協力だ。あんた達Prayerの目的は、アルビシオン海底トンネルを抜けて、ガリアにあるサン・カレー聖堂まで行くことだと聞いてるが?」
サン・カレー聖堂はユウキ達のいた世界にも存在する。サン・カレー聖堂は七大教会の一つガリア純教会を構成する寺院の一つで、確かにそこならばセーブポイントとして機能するだけの神体結晶を有しているはずだ。
「何か問題が?」
「問題も何も大有りよ。今、このアルビシオン島の端にあるトーヴァの街と大陸のカレーの街をつなぐ海底トンネルは塞がっちまってるのさ。学者達はこの海底遺跡が間違いなく二つの街をつなぐトンネルだったと主張するが、未だ誰もそれを確かめたものはいない。いくつものチームがこの海底トンネルの踏破を目指してはいるけどね」
それからアルは何も知らないユウキ達にこの街についてポツポツと語ってくれた。
三百年ほど前、アルビシオン島の南端に地下深くに遺跡が見つかったそうだ。次に遺跡の中で色々な価値のあるものが発見された。細かい細工と宝石を散りばめた宝飾品、歴史的価値なある陶器、磁器、書物にその他日用品。中には現代の技術をはるかに超えたオーパーツ呼ばれる工芸品もあり、果ては鉱物資源や燃料資源まで出てきた。
遺跡の噂を聞きつけて島中から一攫千金を狙った人間がごまんと集まってきた。探窟家と呼ばれた彼らはやがて一つの街を作る。それが地下都市トーヴァの始まりだ。
探窟家たちが遺跡の奥へ奥へ進むにつれ、洞窟の全貌は明らかになっていった。洞窟はほぼ直線的にできていて、アルビシオン東南端のこの街から、ガリアのカレーへと一直線に伸びている。学者達は、この巨大建造物を古代人の作ったトーヴァとカレーを結ぶトンネルだと結論づけた。カレー側にも同様の洞窟を見つけると推論は現実味を帯びる。
探窟家達の中にトンネルを抜けてカレーを目指そうというものが現れた。彼らはアルビシオン海底トンネルを奥へ奥へと進み、一層、二層、三層とルートを開拓していった。だが、その探窟も四層で止まる。四層への入口が見つかって100年、未だ五層にたどり着いたものはいない。最近では、学者達の推論は間違っていたのではないかという声や、トンネルは完成せずカレーには到達していないのではないかという声も上がっているらしい。
「えと、えと。つまりアルビシオン海底トンネルを抜けてカレーに行くのは無理って事なんですよね。じゃあ、一旦アルビシオン島の他の街に行って海路でルターを目指しちゃダメなんですか?」
サトリが質問する。
「それに、別にサン・ルターにこだわる必要はない。それこそアルビシオン国教会とやらが、セーブ可能なだけの神体結晶を擁していれば島を出る必要すらないからな」
今度はユウキが意見を述べる。
「それはできない。・・・最も俺はなぜそれができないのかは知らないがね」
「どういう事ですか?」
アルの意味深な発言にサトリが返す。
「『存在限界』だそうだ。俺にはなんのことだかわからん。だが、Prayer達がアルビシオン海底トンネルを抜ける以外の道を考えているなら、そう伝えろと言われている」
「そういう話か」
アルのその言葉でユウキは二つのことに合点がいった。
まず第一に『協力者』というのがどういう存在であるかだ。彼らはおそらく教会やユウキ達Prayerについてほとんど何も知らない。彼らは金銭などで教会と協力関係を結び、その見返りとしてPrayer達が現れると彼らに教会の用意した一定の道へと導くように約束させられている。
第二に『協力者』から海底トンネル以外に道筋が示されない点についてだ。アルは『存在限界』といった。この世界は神々しき者共の夢が作り出している。逆に言えば彼らの知らない世界は存在しえない。思えばアルビシオン国教会なんて聞いたことがなかった。おそらく、アルビシオン島にまつわる神々しき者はユウキたちのいる世界ではまだ発掘されていないのだ。つまり、異世界からの訪問者であるユウキ達にとってこのトーヴァの街より北は存在しない世界ということなのだろう。
『協力者』がアルビシオン海底トンネルを抜けてサン・カレー聖堂を目指す他にないといった。現実的にはかなり厳しくともだ。つまり・・・
「サトリ」
ユウキは隣に座る少女に声をかけた。
「これはイベントだ」
サトリは突然名前を呼ばれてびくりと体を震わせる。
「ちょっと、待ってくださいユウキさん。イベントって私たちまだこれが初任務なんですよ」
動揺する赤毛の少女をよそにユウキは言葉を続ける。
「運が悪いなんてもんじゃないな。俺たちが現実世界に帰るにはこのイベントをクリアする他にないんだよ」
「そんな・・・」
サトリの声は悲痛に響いた。
「なんのことだかさっぱりだが話はまとまったのか?」
アルが横から口を挟む。
「アダムスさんだったな」
「ああ、それで俺はあんた達に何をしてやればいいんだ?」
「俺たちはアルビシオンの海底トンネルを抜けてサン・カレー聖堂を目指す。その方法を教えてくれ」
「正気かよ。もう100年も何の進展もないんだぞ」
アルはその言葉を聞いて動揺する。だが彼の決意に満ちた目を見るとやれやれといった風に頭をかいた。
「わかったよ。できる限りの協力はしよう。もちろん命に関わらない範囲でな」
アルはそういうと部屋の外から漂ってくる臭いにニタリと笑った。
「その前にまずは食事のようだ」
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