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第1章 PLAYER1
海下のトーヴァ ②
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遠くで何かサイレンのような音が鳴ったのをユウキは意識の外で聞いた。しかしまだベッドから体を起こす気にはなれなかった。音は街に拡散するようにあちこちで鳴り出す。最初の音と違って金属を打ち鳴らすような音や、トランペットを服鳴らすような音、雑多な音が町中からしだした。やがて彼の泊まる宿にも音が行き着くと安眠を諦め体を起こす。
窓から外を覗く。昨晩眠りについたときとなんら変わらない夜がそこに広がっている。ガラスに自分の顔が映る。いや、自分と言っていいのだろうか。正確にはアバターの顔だ。肌は浅黒い、地黒というよりよく日に焼けている。髪は黒くウェーブがかかっていて目は緑色。
カイ・カニンガムというらしい。この体の持つ記憶から読み取れた彼の名前だ。歳は昨日の男が言っていたように17~8に見える。正確にはわからない。カイ自身が自身の正確な年齢を知らないのかもしれない。彼の身の上を考えればありうる話だ。
昨日の出来事の後、ユウキはアバターから記憶を引き出そうと試みた。アバターの持つ知識や記憶がユウキのものとして存在するのは確かだ。だがどうやら自在に引き出せるというものでもないようである。
そもそもアバターのしてきた経験をユウキ自身はしていないのだから、思い出すということができないのかもしれない。その行為は記憶の山の中から何を探せばいいかわからない探し物をする様なものなのだろう。最も昨日の船であったように、きっかけがあれば思い出せるかもしれないが。
拡散する音とともに、街に明かりが灯っていく。そこになって空腹であることに気が付いた。宿屋の主人に朝食分もお代を払っていたことを思い出す。ドアを開けると階下から流れてくる匂いに引きずられるように部屋を後にした。
******
「おはよう、目覚めはどうだい?」
階下に降りると恰幅のいい女性から声が飛んできた。昨晩は会わなかったがこの宿の女将さんだろう。
「ひどいもんですね。なんです、あの騒がしい音は?」
適当な席に腰を下ろす。
「あはははは、よそもんは大体驚くね。あれは朝の時報だよ」
話す片手間、おかみさんが朝食を運んでくる。パンと、あとシチューのようなものが順々にテーブルに並んだ。
「それにしたってあんな街全体でならなくっても」
「ここはいつも夜みたいなもんだからね。油断するとすぐ生活のリズムが狂っちまう。だから、サイレンで目覚めた人が隣の人のために何かしら音を鳴らして、それで目覚めた人がまた隣の人を起こす。そうやってみんなで朝だよーって起こし合うのさ。ま、この街の伝統みたいなもんだね。私もあんた達のために鳴らしてやっただろ?」
そういうと、女将さんはおもむろに鍋とお玉を手に取るとそれを打ち鳴らす。金属と金属が触れ合ってけたたましい音になった。確かにユウキがさっき聞いいた音はこれだ。
「この街には、しばらくいるつもりなんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、早いとこ慣れないとね」
おかみさんはそう言い残すと、階下に降りてきた別の客のテーブルの方に行ってしまった。パンは固かったが、シチューはまあまあ美味かった。
******
街はどこまで歩いても夜のように暗かった。それを補うようにあちこちを街灯や人工の光が照らしている。ランプのような照明器具の光は橙色で暖かに感じるが、炎のような揺らめきはなく、その仕組みはよくわからない。光が照らしきれない街の端々には浮浪者やガラの悪そうな人間が集まっていて、確かに治安は悪そうだった。
街並みや文明のレベルは現実世界の19世紀ごろのようにも感じる。最もそう言った時代に対する考察は参考程度にしかならないとサーは言っていた。人の夢がごちゃまぜであるように、神々しき者共の見る夢であるこの世界もまた彼らの生きていた時代の記憶に根ざした混沌とした場所であるらしい。
「寒いな」と思った。宿を出たときはもっと暖かかった。一日中日に照らされないわりに凍えるほど寒くないのは海流のおかげだと船の男か言っていたのを思い出す。潮の流れが変わって肌寒くなるのがこのまちの夕暮れだとも言っていた。
宿を出てから随分と時間がたっていたようだ。セーブポイントを探すために一日かけて教会や「協力者」らしき人物を探して見たが徒労に終わったらしい。ユウキは宿に戻ろうと、足を180度回転させる。転換したユウキを男が意味ありげな表情でそのきさきを遮るように立っていた。
「なんかようか?」
少し威圧的な声が出た。あまりガラのいい街ではない、気を抜くべきではないと思ったのだ。男の歳は20代前半ぐらいだろうか、背はユウキより少し低く細身だ。
「教会を探してるんだって?」
ユウキの警戒心を知ってか、無視してか男は柔和な声で言った。
「なぜそれを?」
質問に質問で返す。
「見つからなかっただろう?現実主義者だらけのこの街には神様に祈ろうなんて殊勝な奴はいないからね」
「どうして俺が教会を探していると知っている?」
もう一度同じ質問をする。
「狭い街さ、神様に助けを求める変わり者がいた日には俺の耳にすぐ飛び込んで来る。俺はこの耳の速さを商売にしてるだ」
男はようやく問いに答えた。
「俺が教会を探しているとしてどうする?」
次の問いに男は肩をすくめて見せる。
「そうツンケンしなさんな。別に怪しい・・・、いや怪しいかもしれんが別に君に悪さをしようていうわけじゃない。むしろ朗報を届けにきたのさ」
「それはどうゆう・・・」
「『協力者』を探してるんだろう?」
驚くユウキの態度に満足したのか男は意味ありげに笑った。
「ここじゃあ何だろう?」
そう言うと腕を振ってついてこいと合図を送ると、男はユウキに背を向けて歩きだしたのだった。
窓から外を覗く。昨晩眠りについたときとなんら変わらない夜がそこに広がっている。ガラスに自分の顔が映る。いや、自分と言っていいのだろうか。正確にはアバターの顔だ。肌は浅黒い、地黒というよりよく日に焼けている。髪は黒くウェーブがかかっていて目は緑色。
カイ・カニンガムというらしい。この体の持つ記憶から読み取れた彼の名前だ。歳は昨日の男が言っていたように17~8に見える。正確にはわからない。カイ自身が自身の正確な年齢を知らないのかもしれない。彼の身の上を考えればありうる話だ。
昨日の出来事の後、ユウキはアバターから記憶を引き出そうと試みた。アバターの持つ知識や記憶がユウキのものとして存在するのは確かだ。だがどうやら自在に引き出せるというものでもないようである。
そもそもアバターのしてきた経験をユウキ自身はしていないのだから、思い出すということができないのかもしれない。その行為は記憶の山の中から何を探せばいいかわからない探し物をする様なものなのだろう。最も昨日の船であったように、きっかけがあれば思い出せるかもしれないが。
拡散する音とともに、街に明かりが灯っていく。そこになって空腹であることに気が付いた。宿屋の主人に朝食分もお代を払っていたことを思い出す。ドアを開けると階下から流れてくる匂いに引きずられるように部屋を後にした。
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「おはよう、目覚めはどうだい?」
階下に降りると恰幅のいい女性から声が飛んできた。昨晩は会わなかったがこの宿の女将さんだろう。
「ひどいもんですね。なんです、あの騒がしい音は?」
適当な席に腰を下ろす。
「あはははは、よそもんは大体驚くね。あれは朝の時報だよ」
話す片手間、おかみさんが朝食を運んでくる。パンと、あとシチューのようなものが順々にテーブルに並んだ。
「それにしたってあんな街全体でならなくっても」
「ここはいつも夜みたいなもんだからね。油断するとすぐ生活のリズムが狂っちまう。だから、サイレンで目覚めた人が隣の人のために何かしら音を鳴らして、それで目覚めた人がまた隣の人を起こす。そうやってみんなで朝だよーって起こし合うのさ。ま、この街の伝統みたいなもんだね。私もあんた達のために鳴らしてやっただろ?」
そういうと、女将さんはおもむろに鍋とお玉を手に取るとそれを打ち鳴らす。金属と金属が触れ合ってけたたましい音になった。確かにユウキがさっき聞いいた音はこれだ。
「この街には、しばらくいるつもりなんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、早いとこ慣れないとね」
おかみさんはそう言い残すと、階下に降りてきた別の客のテーブルの方に行ってしまった。パンは固かったが、シチューはまあまあ美味かった。
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街はどこまで歩いても夜のように暗かった。それを補うようにあちこちを街灯や人工の光が照らしている。ランプのような照明器具の光は橙色で暖かに感じるが、炎のような揺らめきはなく、その仕組みはよくわからない。光が照らしきれない街の端々には浮浪者やガラの悪そうな人間が集まっていて、確かに治安は悪そうだった。
街並みや文明のレベルは現実世界の19世紀ごろのようにも感じる。最もそう言った時代に対する考察は参考程度にしかならないとサーは言っていた。人の夢がごちゃまぜであるように、神々しき者共の見る夢であるこの世界もまた彼らの生きていた時代の記憶に根ざした混沌とした場所であるらしい。
「寒いな」と思った。宿を出たときはもっと暖かかった。一日中日に照らされないわりに凍えるほど寒くないのは海流のおかげだと船の男か言っていたのを思い出す。潮の流れが変わって肌寒くなるのがこのまちの夕暮れだとも言っていた。
宿を出てから随分と時間がたっていたようだ。セーブポイントを探すために一日かけて教会や「協力者」らしき人物を探して見たが徒労に終わったらしい。ユウキは宿に戻ろうと、足を180度回転させる。転換したユウキを男が意味ありげな表情でそのきさきを遮るように立っていた。
「なんかようか?」
少し威圧的な声が出た。あまりガラのいい街ではない、気を抜くべきではないと思ったのだ。男の歳は20代前半ぐらいだろうか、背はユウキより少し低く細身だ。
「教会を探してるんだって?」
ユウキの警戒心を知ってか、無視してか男は柔和な声で言った。
「なぜそれを?」
質問に質問で返す。
「見つからなかっただろう?現実主義者だらけのこの街には神様に祈ろうなんて殊勝な奴はいないからね」
「どうして俺が教会を探していると知っている?」
もう一度同じ質問をする。
「狭い街さ、神様に助けを求める変わり者がいた日には俺の耳にすぐ飛び込んで来る。俺はこの耳の速さを商売にしてるだ」
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「俺が教会を探しているとしてどうする?」
次の問いに男は肩をすくめて見せる。
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驚くユウキの態度に満足したのか男は意味ありげに笑った。
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