HisStoria

なめこ玉子

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第1章 PLAYER1

アルビシオン海底トンネル ①

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 アルビシオン海底トンネル、あるいはアルビシオン海底遺跡と称される洞窟の入り口は、直径30mほどの円が4分の1ほど地面に沈んだような形をしている。

 幹線かんせんと呼ばれる洞窟のメインストリートは常にこの均一な大きさを保ちながら、カレーに向かってほぼ一直線に伸びている。カレー側からもトーヴァに向かって最短で同じ内径の地下洞窟が伸びていることが、海底遺跡がアルビシオン島とカレーを結すんでいるとする論拠の一つだ。また、その一様で無駄のない構成が歴史学者をしてトンネルを人工物と言わしめていた。

 現在では、かつて探窟家マイナーを自称する無頼漢たちの命を無制限に吸い続けたその大口の前にゲートが築かれ、四大カルテルのいずれかから派遣された警備員が資格を持たない盗掘者たちを門前で閉め出している。

 入り口を通るのは人ばかりでは無い。大穴からはかつて四大カルテルが競うように引いた複数の線路が飛び出しており、そのうえをトロッコがせわしなく行き来する。乗っているのは各カルテルの縄張りで採掘された貴金属や、「ロタサンゴ」と呼ばれる燃料になる鉱物資源が主だった。

「こないですねー」
 ゲート前の岩に腰掛けながら、サトリが退屈そうに呟いた。

「まさか、あの男すっぽかしやがったか!?」
 朝方にできていたゲート通過を待つ探窟家たちの行列は今はもう無い。行き来するのはすでに、おそらく洞窟の中を職場としないであろう人間ばかりになっていた。

「あっ!あれじゃ無いですかね」
 街の方からやってくる小さな人影を見つけたサトリが叫ぶ。人影は次第に大きくなりベンになった。

「おいあんた自分で時間を指定しておいて遅刻とはどういうことだよ」
 小言の一つも言わずにはいられない。

「すまんすまん、二日酔いで気分が悪くって・・・」
 ベンは申し訳なさそうに頭を掻く。

「でもあれだ。俺が指定したのは朝ってだけだ。別に早朝とは言ってない。何なら正午のサイレンがなるまでは、俺は遅刻しないと言っておこう」
 苦しい言い訳を付け足した。

「まあ、何でもいいけどさ。そのなりで大丈夫なのか?」
 おそらく二日酔いのために頭を抱えているベンの様子を見てユウキは不安になった。

「大丈夫大丈夫。今日は、二層の浅いところにしかいかないつもりだ。それにいつものことだ、こういうのは歩いていればそのうち治る」
 なにはともあれ3人は警備員にタグをみせゲートを潜った。

「おい、乗せてってくれ」
 ゲートをベンがくぐるとすぐに空になって戻るトロッコに乗る男に向かって頼む。

 体格のいい鉱山夫らしき男は、ジェスチャーで乗れと答え。ユウキたちは明らかに人のために設計されていないその乗り物に乗っかる。

「てゆうか、これのせてくれるんですね」
 サトリが感心して呟く。

「四老会なんて出来る前はどのカルテルも自分とこの所属じゃなきゃ絶対乗せなかったが、今じゃあ人の多い時間でも無い限り頼めば乗せてくれるよ。どうせ往路は空なんだからな」
 ベンが説明する。

「どこまで行くんだ」

「一層の終わりまでだ。つくまで時間があるし、それまでこのトンネルの基本的ことを教えてやるよ」
 そういうとベンは海底トンネルについて話し始めた。

 海底トンネルは主に5つの層からなっているらしい。元は一本の巨大な管だったと思われるトンネルの幹線だが、現在では落盤や浸水、様々な理由で大きく5つに隔てられているからだ。各層は内径30メートルの大穴である幹線と、それを取り巻く様にして無数に広がる大小様々な側幹そくかんからなっている。

「第一層は居住区だったと思われる場所が多い。カレーに向かって一直線に伸びる幹線と違って、ここの側幹は上下左右に立体的な蜘蛛の巣のように伸びてんだ。この区画からは生活用品と思われるツボや皿、たまに宝飾品と思われるものが出土する」

 遺跡区画とも言われる一層には考古学的価値のあるものが多い。ただし、この層の側幹を作った人間は幹線が掘られてから一千年ほどのちにこの地に定住したと見られていて、奥の階層に比べれば出土品の技術的完成度は低い。

「第二層にも居住区と思しきところはあるが、一層に比べ理路整然としている。ここの側幹はおそらく、幹線トンネルとともに作られたと言われている」

 だが二層で最も多いのは鉱物資源だ。しかしその豊富な鉱物資源の鉱床はほぼ全てと言っていいほど大手カルテルによって抑えてられている。ユウキたちのようなフリーの探窟家マイナーがここで狙うなら、少ない居住区に存在する工芸品らしい。

「今日狙うのはこのへんだな。二層以降の工芸品には、驚くべきことに、現在のテクノロジーすら超えたものもが多く存在する。きっと俺たちの知らない高度な文明があったんだろうさ。ここの出土品を参考にして実用化された工業製品も多いくらいだ。『場違いな工芸品オーパーツ』なんて呼ばれてる。今まで見つかってない新種のオーパーツなんて見つかった日にはいくらになるかわからないぜ」
 ベンは目を輝かせて語った。

「最も、場違いな工芸品オーパーツを探すなら三層が一番いいがな。今回二層を選んだのは比較的安全だからだ。二層もだいぶ探索が進んでいて、未知の危険は少ない。その分、たいして珍しいもんはないけどな」

 ベンがそこまで話したところでトロッコが大きく揺れて止まった。どうやら一層の最深部についたらしい。

「ついたみたいだな。まあ、三層以降についてはおいおい話そう。とりあえず二層だ。ついてこい」
 ベンは2人を促すと歩き出した。
 
 振り返ると3人が乗ってきたトロッコには早速、鉱物が積まれ始めていた。ベンの話し通りなら二層から持ってきたものなのだろう。

「一層と、二層の間は落盤によって塞がってるんだ。正しくは幹線が分断されているから、ここまでが一層でこの先が二層なんだがな。二層の幹線には二層でまたトロッコが走っているが、この区間だけは鉱山夫たちも人力で鉱物を運ぶしかない」
 ベンの言う通り、一輪車を押してせわしなく行き来する男たちの姿があちこちにあった。

****** 

 二層へと通じるルートは現在8つが利用できる。上下に登って降りる道、舗装された道、狭くて暗い道、一つ一つが異なる性格を持っている。ベンはその中から一つのルートを選んだ。

 幹線と違って側幹は四角い切り口をしていた。広がることもなく狭まることもなく、同じ幅で延々と続く道はこのルートが人工的に作られたものだと主張していた。

「どこまで行くんだ? 二層に行くって話だけど」
 もう、側幹に入ってそれなりに歩いているはずだ。

「もうここも二層っちゃ、二層だけどな。今日はこのまま直接この層の別の側幹に入ろうと思う。どうせ幹線から近いところは大体とり尽くされてるしな」

 それからさらに歩くと道が二股に別れた。一つは明らかに今いる道と同じ舗装されたもので道なりだ、もう一方は坑道のような粗野なもので横から無理に穴をあけられたような不恰好な入り口をしている。

「こっちだ」
 ベンは迷わず粗野な道の方を示す。

「こ、こっちですか。なんかボロいですけど」
 サトリがたじろぐ。

「昔の坑道だ。もう使われてないけどな。ここを通れば古居住区にショートカットできる。ちょっとばかし複雑だからちゃんとついてこいよ」

 踏み入れた先は今までとは別の世界だ。まず狭い。人1人がなんとか通れるぐらいの道が続く。壁面はむき出しの岩盤で、落盤を防ぐために木の柱と板であちこちが支えられている。その木材も劣化していてボロボロのものが多かった。

 坑道の中は確かに複雑だった。いくつもの分かれ道がやってくるが、ベンは迷わずに進む。

「何か聞こえませんんか?」
 坑道に入って十五分ほどが立っていた。

「え?気のせいじゃないか」
 サトリの言葉に耳をすませてみる

「・・・・・・・ケ・・・」

「ほらまた」
 小さくて不明瞭だが確かに人の声のような音が響いてくる。

「・・・テ・・、タス・・・」

「なんだ?」
 ユウキも音を捕まえようと耳をすませる。

「・・・タス・・・ケ・・テ・・・」
 相変わらず不明瞭だが確かに人の声のような気がする。しかも、これは救援を求める声ではないか。ユウキはサトリと目を見合わせた。

「助けてって言ってる!どっちからだ?」

「え、えっと、多分左です」
 分岐する坑道の左側をサトリが指差す。

「・・・よし、左にっ」

「付き合うな付き合うな、あんな声無視しとけ」
 左に行こうとするユウキたちをベンの声が止めた。

「でも、人が・・・」

「人じゃねえよ」
 そう短く言い放つ。

「あら、ソラミミビルっていう生きもんだ。人の声によく似た声でなく。よく聞いてみろ、カタコトで赤ん坊より下手くそな声だろ?」

「・・・ケテ・・・」
 ベンはそういうがユウキ達にはもう人の声にしか聞こえない。

「・・・はあ~、わかったよ」
 本当に助けを求める人だったらという思いがユウキとサトリの足をその場に釘づけにしてしまったのを見てベンはため息をつく。

「実際に見た方が早い。自分の目で確かめてみろ。俺が先頭を歩くから、ゆっくりとついてこい。俺より前には出るなよ」

 右の道に踏み出していた足を一旦引っ込めると、ベンは左に舵を切る。それからライトでしっかりと辺りを照らしながら何かを気にする様に慎重に足を進める。

 もともと坑道だった道だ。細くて暗くてうねっていて、見通しが悪い。その中をベンは一歩一歩確かめるように歩いた。

「ここか」
 声が十分に大きくなったところで足を止める。同時に手でユウキたちを制止させた。

「よく見てみろ」
 今度は手招きをする。ユウキが歩み寄るとベンは足元を照らした。

「道が・・・・」
 ベンの照らす先には道がない。底の見えない闇が代わりに先に広がっている。この暗くてうねった道を声に向かって闇雲に歩けば落ちていただろう。

「タスケテ。タスケテ」
 声は暗闇から不気味に流れてきた。ベンはおもむろに足元にあった石を拾うと闇に向かって放り投げた。延々と谷底に向かって落ちていくと思われた石が、僅か1~2メートル下ったところで空中に止まった。よく見れば穴には生き物の骨のようなものが石と同じ様に浮遊している。

「キケケケケケ」
 タスケテと叫んでいたはずの声が突然笑い声のような奇声に変わる。人の声じゃないのに人に似ているそれはたまらなく不気味だ。

 ベンが空中で止まった石の方を照らすと、そこに現れたのはブヨブヨとしたヒルのような体から四肢が生えた人と同じぐらいの大きさの化け物だ。目はないが、口のような器官があり、石のところまでやってくるとその口で丸呑みにする。

「何?あれ・・・」
 サトリの声は怯えていた。

「ソラミミビルさ。本当にヒルの仲間かはわからんがそう呼ばれてる。石が空中で止まったのはそこに奴の巣があるからさ。見えない糸がこの大穴中に張り巡らせてある。その巣にお得意の声で、獲物を呼び寄せるのさ。洞窟ネズミにオオコウモリ、いつの間にか人の声まで覚えやがった」

 ソラミミビルは飲み込んだ石を咀嚼するような仕草を見せたが、それが自らが求めた獲物でないとわかるとポロりと吐き出した。それからユウキ達の喋る声を聞きつけたらしく、その声帯をこちらに向けて「タスケテ、タスケテ」と誘うように震わせた。

「どうする?」
 そのあまりの異様にユウキは腰にあったナイフを抜く。ナイフを構えるスムーズな動きはアバターであるカイ譲りだ。

「どうもしねえよ」
 ナイフをしまうように目で促す。

「あいつは絶対に自分の巣から離れない。だがあいつの糸は強靭だ。成人男性でもやすやすと絡め取る。あそこに入れば間違いなく死ぬ」

「でも・・・」
 駆除しておかないと、次の誰かが犠牲になるのではと思った。

「安心しろ、この辺にあるソラミミビルの主な巣は探窟家マイナーの間で共有されてる。何も知らずにあの中に突っ込んでいく様な馬鹿は、何処のカルテルにも入ろうとしない粋がったルーキーさ」
 ベンはユウキ達をからかった。

「いいかユウキ、覚えときな。俺たちはこの洞窟に最も不向きな生き物だ。何百年、何千年とかけて洞窟に適応してきた生き物に、お天道様に照られてきた人間が敵うわけねえ。俺たちに必要なのはなあ・・・、あの化けもんを退治する力じゃなくて、あの巣に飛び込まない知識なんだよ」

 その言葉には、この洞窟の中で十数年生計を立ててきた男の説得力がこもっていた。

「・・・覚えとくよ」
 ナイフを下ろして仕舞う。

「わかりゃ良いのよ。先を急ぐぞ。まだまだ知らなきゃいけない知識はごまんとあるんだからな。ルーキーども」
 ベテランはルーキーたちに明るく告げると、先陣を切ってきた道を引き返し始めた。
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