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第1章 PLAYER1
アルビシオン海底トンネル ③
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「じいさーんいるかー」
確実にいるであろう店の主人を探してベンは声を飛ばす。
「なんだ。ベンか」
店の主人ギリアンはカウンターに顔を出した。
「相変わらず誰もいねーな。なんでやって行けてるか不思議なぐらいだ」
開口一番に中傷するのはもはや挨拶みたいなものだ。
「オメーが知らないだけでそれなりに顧客はいるんだよ。四老会と繋がりがないってのはそれはそれで需要があるんだ」
当然ベンもそのぐらいのことはしている。この反論もまたギリアンからの返礼みたいなものだ。
「・・・で、今日は何持ってきた」
「期待してくれ、今日は結構色々手に入ったんだ」
自分のバックパックとユウキとサトリのそれからそれぞれ品物取り出して並べる。ギリアンは黙ってそのうちから一つを手に取ると、慣れた手つきで鑑定作業に入る。
「ずいぶんなこったな。今日はそれなりに深く潜ったのか?」
目は発掘品に向けたまま、世間話を飛ばす。
「まあな、今日は3人だったからな」
ベンは少し照れ臭そうに言った。
「はあー!どう言う風の吹き回しだ」
ギリアンは驚きのあまり座っていたイスを跳ね飛ばしながら立ち上がる。それからベンの抱えてきたバックパックのうちまだ真新しく傷の少ない二つに目を向けた。
「昨日のガキどもか」
ギリアンの問いに、仕草だけでイエスと返事をする。
「久々のチームはどうだったよ」
ギリアンの声にはどこか優しさが馴染んでいる。
「さあな。でもしばらくは、あいつらの世話してやるつもりだよ。危なっかしくって見てられない。まあ、気まぐれがいつまで続くかは保証できねえが」
照れ隠しの気恥かしさをごまかす様な声だ。
「いいんじゃねえか。探窟家は仲間がいないと始まらねえ」
イスを拾い坐り直すギリアンはどこか嬉しそうな顔をしている。
「ほらよ。今日の分だ」
その日ベンが受け取った金額は、昨日ユウキたちのもらった金額のおよそ倍程度だった。
******
トーヴァのいつだって暗い道には等間隔に街灯が並んでいる。街灯は向かってくる少年の後ろに影を描き、通りがかる少女の横に影を伸ばし、そして通り過ぎていく2人の目の前に影を落とす。
「あー、まだ気持ち悪い。もう今日は帰ったら寝るだけだな」
少年、ユウキは気だるげだ。
「私も今日は何も食べる気にはなれません。だいぶ楽にはなってきたんですけどね」
少女、サトリは少年より幾分か顔色がましになっていた。
「でもでも、なんかちょっと嬉しいです」
酔いが収まってきて気持ちも上向いてきた様だ。
「何が?」
まだ気だるげなユウキは力無い声で尋ねる。
「ベンさんが一緒に潜ってくれたおかげで、ずいぶん前に進んでいる気がしませんか?」
サトリの言葉は正しい。ユウキもまた、どこを向けば良いのわからない途方にくれた状態から、一本の道筋が見えてきた気がしていた。
「そうだな」
短くそう答えて。それから沈黙が流れた。沈黙の間に影は三度伸びて縮んでまた伸びる。
「なあ」
沈黙を破ったのはユウキの方だ。
「なんでサトリはPrayerになったんだ?」
横を歩く少女はキョトンとした表情を向ける。それからたっぷり1秒ほど間を開けて、ポツリと語り出す。
「私ずっと勉強がしたかったんです」
彼女の目はどこか遠い場所、きっと彼女の故郷を見ている。
「私は小さな農村の生まれで、でも故郷の小さな教会へ都市からやってきた神父さんがいたんです。彼は村の子供達の為に学校を開いてくれて、私は神父様が教えてくれること一つ一つに夢中になりました」
「普通に進学することは考えなかったのか?」
「考えましたよ。でも、ど田舎出身で半端な教育しか受けていない私を受け入れてくれる学校なんてあるわけじないじゃないですか。お金の問題もあります。勉学を続けるには都市部に出て行くしかないし、一生懸命働いてなんとか家計を支えてくれている両親にそんなこと言えなかった」
サトリという少女の幼少期の姿が何と無くユウキの頭に浮かんで消える。
「だから、あの日。Prayerに選ばれたときは嬉しかった」
彼女は本当に嬉しそうな顔でいう。
「一流の学院に学費免除の無試験で入れて、それでいて生活の一切は教会が負担してくれる。まさに私のために神様がPrayerとしての才能を与えてくれた気がしました」
少女の学院での姿を思い出す。一生懸命にサーの授業に耳を傾けるサトリの姿はいまのアバターの姿とはずいぶんと異なっている。
「今でも、後悔してないか」
ユウキたちの置かれている現状は決して歓迎したいものではない。
「はい。だってPrayerになってなかったらユウキさんにも会えなかったじゃないですか」
彼女はそう言い切った後、なぜか顔を赤く染める。
「え、えっと、後ベンさんにも」
付け加える様にそういった。
「ユ、ユウキさんはなんでPrayerになることを選んだんですか?」
話をそらすかの様にそう尋ねる。
その言葉の先にユウキが思い浮かべたのは、あの部屋で延々と眠り続ける姉の姿だった。
「姉さんがいるんだ」
ポツリと言葉が出る。
「俺も農村の出身なんだ。金色の麦穂がたなびくその間をいつも姉さんの後ろについて走り回ってた。だから、姉さんがPrayerに選ばれて学院に入ることが決まったときも、絶対について行くって決めた」
あの日のことを思い出す。絶対に姉について行くと駄々をこねるユウキ。教会の神父様の困り果てた顔。中央の教会から派遣されてきた審査官の人が、見かねてまだ規定の年齢に達してないユウキにも適性検査をしてくれた。
「自分にもPrayerの適性があるとわかった時、俺も運命だと思ったよ。それから審査官の人が将来俺もPrayerになることを条件に特別に姉と一緒に都市で生活することを許してくれた」
「お姉さんは今どうしているんですか?」
サトリの問いはユウキの思い出を冷たく変える。教会の地下で眠る姉の姿が再び浮かんだ。
「きっと今もこの世界のどこかにいるよ」
サトリの顔を見て、暗い話をする気にはなれなかった。
「そういえば、お姉さんもPrayerだっていってましたもんね。いつかこっちの世界で顔を合わせるかもしれませんね」
彼女は無邪気に笑った。
「ああ、いつか絶対に会って見せるさ」
ユウキは今一度、その事を自分に言い聞かせる。
ユウキの探窟家としての長い一日はこうして幕を下ろした。
確実にいるであろう店の主人を探してベンは声を飛ばす。
「なんだ。ベンか」
店の主人ギリアンはカウンターに顔を出した。
「相変わらず誰もいねーな。なんでやって行けてるか不思議なぐらいだ」
開口一番に中傷するのはもはや挨拶みたいなものだ。
「オメーが知らないだけでそれなりに顧客はいるんだよ。四老会と繋がりがないってのはそれはそれで需要があるんだ」
当然ベンもそのぐらいのことはしている。この反論もまたギリアンからの返礼みたいなものだ。
「・・・で、今日は何持ってきた」
「期待してくれ、今日は結構色々手に入ったんだ」
自分のバックパックとユウキとサトリのそれからそれぞれ品物取り出して並べる。ギリアンは黙ってそのうちから一つを手に取ると、慣れた手つきで鑑定作業に入る。
「ずいぶんなこったな。今日はそれなりに深く潜ったのか?」
目は発掘品に向けたまま、世間話を飛ばす。
「まあな、今日は3人だったからな」
ベンは少し照れ臭そうに言った。
「はあー!どう言う風の吹き回しだ」
ギリアンは驚きのあまり座っていたイスを跳ね飛ばしながら立ち上がる。それからベンの抱えてきたバックパックのうちまだ真新しく傷の少ない二つに目を向けた。
「昨日のガキどもか」
ギリアンの問いに、仕草だけでイエスと返事をする。
「久々のチームはどうだったよ」
ギリアンの声にはどこか優しさが馴染んでいる。
「さあな。でもしばらくは、あいつらの世話してやるつもりだよ。危なっかしくって見てられない。まあ、気まぐれがいつまで続くかは保証できねえが」
照れ隠しの気恥かしさをごまかす様な声だ。
「いいんじゃねえか。探窟家は仲間がいないと始まらねえ」
イスを拾い坐り直すギリアンはどこか嬉しそうな顔をしている。
「ほらよ。今日の分だ」
その日ベンが受け取った金額は、昨日ユウキたちのもらった金額のおよそ倍程度だった。
******
トーヴァのいつだって暗い道には等間隔に街灯が並んでいる。街灯は向かってくる少年の後ろに影を描き、通りがかる少女の横に影を伸ばし、そして通り過ぎていく2人の目の前に影を落とす。
「あー、まだ気持ち悪い。もう今日は帰ったら寝るだけだな」
少年、ユウキは気だるげだ。
「私も今日は何も食べる気にはなれません。だいぶ楽にはなってきたんですけどね」
少女、サトリは少年より幾分か顔色がましになっていた。
「でもでも、なんかちょっと嬉しいです」
酔いが収まってきて気持ちも上向いてきた様だ。
「何が?」
まだ気だるげなユウキは力無い声で尋ねる。
「ベンさんが一緒に潜ってくれたおかげで、ずいぶん前に進んでいる気がしませんか?」
サトリの言葉は正しい。ユウキもまた、どこを向けば良いのわからない途方にくれた状態から、一本の道筋が見えてきた気がしていた。
「そうだな」
短くそう答えて。それから沈黙が流れた。沈黙の間に影は三度伸びて縮んでまた伸びる。
「なあ」
沈黙を破ったのはユウキの方だ。
「なんでサトリはPrayerになったんだ?」
横を歩く少女はキョトンとした表情を向ける。それからたっぷり1秒ほど間を開けて、ポツリと語り出す。
「私ずっと勉強がしたかったんです」
彼女の目はどこか遠い場所、きっと彼女の故郷を見ている。
「私は小さな農村の生まれで、でも故郷の小さな教会へ都市からやってきた神父さんがいたんです。彼は村の子供達の為に学校を開いてくれて、私は神父様が教えてくれること一つ一つに夢中になりました」
「普通に進学することは考えなかったのか?」
「考えましたよ。でも、ど田舎出身で半端な教育しか受けていない私を受け入れてくれる学校なんてあるわけじないじゃないですか。お金の問題もあります。勉学を続けるには都市部に出て行くしかないし、一生懸命働いてなんとか家計を支えてくれている両親にそんなこと言えなかった」
サトリという少女の幼少期の姿が何と無くユウキの頭に浮かんで消える。
「だから、あの日。Prayerに選ばれたときは嬉しかった」
彼女は本当に嬉しそうな顔でいう。
「一流の学院に学費免除の無試験で入れて、それでいて生活の一切は教会が負担してくれる。まさに私のために神様がPrayerとしての才能を与えてくれた気がしました」
少女の学院での姿を思い出す。一生懸命にサーの授業に耳を傾けるサトリの姿はいまのアバターの姿とはずいぶんと異なっている。
「今でも、後悔してないか」
ユウキたちの置かれている現状は決して歓迎したいものではない。
「はい。だってPrayerになってなかったらユウキさんにも会えなかったじゃないですか」
彼女はそう言い切った後、なぜか顔を赤く染める。
「え、えっと、後ベンさんにも」
付け加える様にそういった。
「ユ、ユウキさんはなんでPrayerになることを選んだんですか?」
話をそらすかの様にそう尋ねる。
その言葉の先にユウキが思い浮かべたのは、あの部屋で延々と眠り続ける姉の姿だった。
「姉さんがいるんだ」
ポツリと言葉が出る。
「俺も農村の出身なんだ。金色の麦穂がたなびくその間をいつも姉さんの後ろについて走り回ってた。だから、姉さんがPrayerに選ばれて学院に入ることが決まったときも、絶対について行くって決めた」
あの日のことを思い出す。絶対に姉について行くと駄々をこねるユウキ。教会の神父様の困り果てた顔。中央の教会から派遣されてきた審査官の人が、見かねてまだ規定の年齢に達してないユウキにも適性検査をしてくれた。
「自分にもPrayerの適性があるとわかった時、俺も運命だと思ったよ。それから審査官の人が将来俺もPrayerになることを条件に特別に姉と一緒に都市で生活することを許してくれた」
「お姉さんは今どうしているんですか?」
サトリの問いはユウキの思い出を冷たく変える。教会の地下で眠る姉の姿が再び浮かんだ。
「きっと今もこの世界のどこかにいるよ」
サトリの顔を見て、暗い話をする気にはなれなかった。
「そういえば、お姉さんもPrayerだっていってましたもんね。いつかこっちの世界で顔を合わせるかもしれませんね」
彼女は無邪気に笑った。
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ユウキは今一度、その事を自分に言い聞かせる。
ユウキの探窟家としての長い一日はこうして幕を下ろした。
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