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第1章 PLAYER1
白銀の鬣、栗毛色の毛並み ②
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「なんかこういうのワクワクしますよね」
サトリは能天気に作業を進めていた。
「遊びじゃないんだぜ。先に進みたいなら、こう言うこともキチンと経験しておく必要がある」
テキパキとテントを張りながら言うのはベンだ。ユウキたちはアルビシオントンネル内で野営を試みていた。
「二層のこんな浅いとこでしなくてもよかったんじゃないか? ここからなら急げばトーヴァに帰れちまうぜ」
もう恒例となりつつあるユウキのもっと先に進もうぜアピールだ。
「練習ということだろう。危険の多い深い階層に潜る前に、浅い階層でできることを増やしておこうと言うことだと思うぞ」
「・・・えっと」
ベンに投げかけたはずの言葉をイッポリートに拾われて、ユウキの言葉は勢いを失う。イッポリートがチームに入ってすでに8日ほど経過していたが、ユウキはデミであるイッポリートという存在とどう接すればいいか未だにわからないでいる。
「イッポリートさん、今日は一緒に寝ましょうね」
対するサトリは明るく彼女に接していた。同性の仲間ができて嬉しいという気持ちもあるだろうが、どこかギクシャクとするユウキとイッポリートの関係を過敏に感じ取ったがゆえに明るく振舞っていると言う感じだ。
ベンも同じことを感じている様で、二人の方に、特にユウキに何か言いたげな視線を投げかけたが、結局彼はその言葉を飲み込んで別の話を始めた。
「今日野営をするのは、イッポリートの言う通り深い階層に潜る練習だ」
「じゃあ」
その言葉に反応したのはユウキだ。
「ああ」
ベンは3人を見渡し深く頷く。
「そろそろ三層を目指そうと思う」
3人はそれぞれに喜びを表情に出した。サトリと目を合わせ、そして視線がイッポリートとぶつかる。彼の表情は一瞬で固まり、反射的に目をそらした。すぐにユウキの中に気まずさが生まれて、いまの自分の反応にため息をつく。横目でもう一度イッポリートの方を流し見るが、彼女の赤い目からは感情を読み取れなかった。
「・・・まあ、とにかくだ。その前にお前たちには三層に潜るにあったて三つのことを頭に入れておいて欲しい」
ベンは話を進める。
「一つ目は洞窟特有の生き物たちだ。三層こそまさに彼らの巣だ。俺はその都度その生物に対する知識をしっかり持っておくことが大事だと教えてきたが、三層ではそれが通用しないこともある。三層には未知の生き物も多いし、既知のものもより強かで研ぎ澄まされた武器を持っている」
「うげ・・・」
今まで洞窟であった気持ち悪い生き物たちを思い浮かべると変な声が漏れた。
「未知の相手に出会った時、火やナイフで脅して追い払うか、はたまた息を潜めてやり過ごすか。そう言う判断一つ一つが命を分ける。まっ、感と経験が頼りになるところだ。そこはお前たちに期待していないがな」
「頼りにしておるぞリーダー」
栗毛色の毛並みがベンに微笑む。
「二つ目は『洞窟酔い』だ」
ベンは彼女に肩で返事をしながら続ける。
「洞窟酔いは深層に潜れば潜るほど、強くなる。二層から持って帰ったおみやげは、めまいや吐き気、疲労感ぐらいのもんだったろうが、三層にまで潜るとそんなもんじゃない。三層でも場所によってその影響力はまちまちだがな。もしホットスポットのような場所に準備もなく飛び込んだら突然ブラックアウトしちまうこともある。何が蠢いているかわからない三層で小一時間気絶してるなんて背筋が凍るだろ?」
冗談めかして言うが、笑えない話だ。
「あれが、もっと強くなるのか。勘弁して欲しいな・・・」
うんざりとした顔をしたのはイッポリートだ。彼女はユウキよりさらに洞窟酔いに弱いらしく、潜り出して3日目までゲーゲーと吐いていた。その普段の凛とした姿からは想像もつかない弱りっぷりを思い出して、ユウキは一人笑った。
「洞窟酔いは場合によっては吐血したり、障害が残ることもあるし、四層以降では死にいたる可能性もある恐ろしいものだと言うのは覚えておけ」
「それって、もう『酔い』とかそんなもんじゃありませんね」
サトリの声だ。
「ああ『洞窟酔い』が『洞窟の呪い』なんて呼ばれるようになったのも、三層に人が踏み入り出してからだよ。まあ、心配しすぎる必要はない。少しずつ体を慣らしていけば耐えられないものじゃないと言うのもわかってる。そのための、こいつだしな」
ベンは貼り終わったテントを叩いた。
「そいつがどう関係するんだ?」
「三つ目に知っておいて欲しいこと、それはビバークの知識だ」
ユウキの問いに答える。
「三層以降を探索するには野営の知識は必要不可欠だ。三層に潜る探窟家は基本的に二、三日を洞窟で過ごす。三層はトーヴァにある入り口から距離があると言うのもあるが、呪いの影響もある。一気に、『呪い』の濃度の違う空間を行き来すればいかにベテランの探窟家といえど体が持たないからな」
ベンはイッポリートの肩を叩く。この一週間、彼は意識的にイッポリートとコミュニケーションを取っている様に思えた。
「野営地の選びかた。テントの張り方。そもそもテントを張るべきかどうか。寒さのしのぎ方に、火の扱い、三層に行く前に覚えてもらうことはごまんとあるから覚悟しろよ」
ベンもベンなりに、イッポリートをチームに受け入れようとしている。ユウキだけが今だに彼女と言う存在に向き合えないでいた。
******
その日、初めての野営をするユウキたちの真上を洞窟ホタルの群れが通り過ぎていった。洞窟蛍ひとつひとつの個体はナメクジの様な見た目をしていると言う。だが群れでがゆっくりと通り過ぎていく彼らを遠方から見つめれば洞窟に現れた満点の星空になった。ベンがこの日この場所を初めての野営地に選んだのは、きっとこの光景を3人に見せたかったからだろう。
ユウキの隣で、天井に見とれるデミの姿が目に入る。白銀の鬣に栗毛色の毛並み。異種族から見てもその姿は美しいと思った。それから思い出す。学院のドームで出会った小さくて薄汚れた、彼女とは全く異なるデミの姿を。デミとはなんなのだろうか。小さな関心がユウキの中に芽生えた瞬間であった。
サトリは能天気に作業を進めていた。
「遊びじゃないんだぜ。先に進みたいなら、こう言うこともキチンと経験しておく必要がある」
テキパキとテントを張りながら言うのはベンだ。ユウキたちはアルビシオントンネル内で野営を試みていた。
「二層のこんな浅いとこでしなくてもよかったんじゃないか? ここからなら急げばトーヴァに帰れちまうぜ」
もう恒例となりつつあるユウキのもっと先に進もうぜアピールだ。
「練習ということだろう。危険の多い深い階層に潜る前に、浅い階層でできることを増やしておこうと言うことだと思うぞ」
「・・・えっと」
ベンに投げかけたはずの言葉をイッポリートに拾われて、ユウキの言葉は勢いを失う。イッポリートがチームに入ってすでに8日ほど経過していたが、ユウキはデミであるイッポリートという存在とどう接すればいいか未だにわからないでいる。
「イッポリートさん、今日は一緒に寝ましょうね」
対するサトリは明るく彼女に接していた。同性の仲間ができて嬉しいという気持ちもあるだろうが、どこかギクシャクとするユウキとイッポリートの関係を過敏に感じ取ったがゆえに明るく振舞っていると言う感じだ。
ベンも同じことを感じている様で、二人の方に、特にユウキに何か言いたげな視線を投げかけたが、結局彼はその言葉を飲み込んで別の話を始めた。
「今日野営をするのは、イッポリートの言う通り深い階層に潜る練習だ」
「じゃあ」
その言葉に反応したのはユウキだ。
「ああ」
ベンは3人を見渡し深く頷く。
「そろそろ三層を目指そうと思う」
3人はそれぞれに喜びを表情に出した。サトリと目を合わせ、そして視線がイッポリートとぶつかる。彼の表情は一瞬で固まり、反射的に目をそらした。すぐにユウキの中に気まずさが生まれて、いまの自分の反応にため息をつく。横目でもう一度イッポリートの方を流し見るが、彼女の赤い目からは感情を読み取れなかった。
「・・・まあ、とにかくだ。その前にお前たちには三層に潜るにあったて三つのことを頭に入れておいて欲しい」
ベンは話を進める。
「一つ目は洞窟特有の生き物たちだ。三層こそまさに彼らの巣だ。俺はその都度その生物に対する知識をしっかり持っておくことが大事だと教えてきたが、三層ではそれが通用しないこともある。三層には未知の生き物も多いし、既知のものもより強かで研ぎ澄まされた武器を持っている」
「うげ・・・」
今まで洞窟であった気持ち悪い生き物たちを思い浮かべると変な声が漏れた。
「未知の相手に出会った時、火やナイフで脅して追い払うか、はたまた息を潜めてやり過ごすか。そう言う判断一つ一つが命を分ける。まっ、感と経験が頼りになるところだ。そこはお前たちに期待していないがな」
「頼りにしておるぞリーダー」
栗毛色の毛並みがベンに微笑む。
「二つ目は『洞窟酔い』だ」
ベンは彼女に肩で返事をしながら続ける。
「洞窟酔いは深層に潜れば潜るほど、強くなる。二層から持って帰ったおみやげは、めまいや吐き気、疲労感ぐらいのもんだったろうが、三層にまで潜るとそんなもんじゃない。三層でも場所によってその影響力はまちまちだがな。もしホットスポットのような場所に準備もなく飛び込んだら突然ブラックアウトしちまうこともある。何が蠢いているかわからない三層で小一時間気絶してるなんて背筋が凍るだろ?」
冗談めかして言うが、笑えない話だ。
「あれが、もっと強くなるのか。勘弁して欲しいな・・・」
うんざりとした顔をしたのはイッポリートだ。彼女はユウキよりさらに洞窟酔いに弱いらしく、潜り出して3日目までゲーゲーと吐いていた。その普段の凛とした姿からは想像もつかない弱りっぷりを思い出して、ユウキは一人笑った。
「洞窟酔いは場合によっては吐血したり、障害が残ることもあるし、四層以降では死にいたる可能性もある恐ろしいものだと言うのは覚えておけ」
「それって、もう『酔い』とかそんなもんじゃありませんね」
サトリの声だ。
「ああ『洞窟酔い』が『洞窟の呪い』なんて呼ばれるようになったのも、三層に人が踏み入り出してからだよ。まあ、心配しすぎる必要はない。少しずつ体を慣らしていけば耐えられないものじゃないと言うのもわかってる。そのための、こいつだしな」
ベンは貼り終わったテントを叩いた。
「そいつがどう関係するんだ?」
「三つ目に知っておいて欲しいこと、それはビバークの知識だ」
ユウキの問いに答える。
「三層以降を探索するには野営の知識は必要不可欠だ。三層に潜る探窟家は基本的に二、三日を洞窟で過ごす。三層はトーヴァにある入り口から距離があると言うのもあるが、呪いの影響もある。一気に、『呪い』の濃度の違う空間を行き来すればいかにベテランの探窟家といえど体が持たないからな」
ベンはイッポリートの肩を叩く。この一週間、彼は意識的にイッポリートとコミュニケーションを取っている様に思えた。
「野営地の選びかた。テントの張り方。そもそもテントを張るべきかどうか。寒さのしのぎ方に、火の扱い、三層に行く前に覚えてもらうことはごまんとあるから覚悟しろよ」
ベンもベンなりに、イッポリートをチームに受け入れようとしている。ユウキだけが今だに彼女と言う存在に向き合えないでいた。
******
その日、初めての野営をするユウキたちの真上を洞窟ホタルの群れが通り過ぎていった。洞窟蛍ひとつひとつの個体はナメクジの様な見た目をしていると言う。だが群れでがゆっくりと通り過ぎていく彼らを遠方から見つめれば洞窟に現れた満点の星空になった。ベンがこの日この場所を初めての野営地に選んだのは、きっとこの光景を3人に見せたかったからだろう。
ユウキの隣で、天井に見とれるデミの姿が目に入る。白銀の鬣に栗毛色の毛並み。異種族から見てもその姿は美しいと思った。それから思い出す。学院のドームで出会った小さくて薄汚れた、彼女とは全く異なるデミの姿を。デミとはなんなのだろうか。小さな関心がユウキの中に芽生えた瞬間であった。
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