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第1章 PLAYER1
旧神の賛美歌 ①
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その日から三層深淵、四層とベースキャンプを幾度となく往復する日々が始まった。まず急務となったのが呪いに体を慣らす事だ。四層の深淵の呪いはどこよりも強力で、慣れた探窟家といえど一週間も潜り続ければ死が待っていると言われる。呪いに体を慣らす事、そして呪いに晒される空間で過ごせる限界を見極める事が先に進むためには不可欠であった。
同時に、ベンの記憶を頼りに過去にアリスターの隊が辿ったルートを下見した。四層の道は地殻変動や、そこに住む生き物の影響で絶えず変化しているが、二度目の探窟においてユウキ達はついに彼らが辿ったルートへの入り口を発見することに成功した。
難航したのは、ベン達の出くわした化け物、探窟家達の間で闇と通称されるそれの動向を把握する事だ。チームの垣根を超えて共有されるそいつの情報は、ここ一年で二度しかなかった。そんな折に、四層で大型の地龍に襲われ採掘組の一団に所属する二人の探窟家が犠牲になると言うニュースが飛び込んでくる。それを受けて地龍のナワバリやその他の危険生物の生息地を再度マッピングする必要が生まれた。ルーキの多いベン達のチームは、無理をせずその情報を買う事を決め、他のチームがマッピングを終えるまで、三層とトーヴァを行き来して過ごした。
五層を目指すチャンスが巡ってきたのはそれから二週間ほどがたった頃だった。行方不明になっていた踏破組の調査に潜ったチームが、四層東部の深淵で闇の姿を目撃した。不幸なニュースであったが、四層の西部を抜ける予定のユウキ達にとってはまたとないチャンスであった。
すぐに彼らは準備を整えるとベースキャンプへと向かった。その間にも闇は四層の東部にとどまり続けているらしく、ベンは翌日から三日をかけて五層を目指すと言う判断を下したのだった。
******
ベースキャンプのある元神殿の中央を下った先で、このトンネルの守護者と言われる五人の子供達が眠るその結晶体の放つ青白い光を、ユウキはぼんやりと見つめていた。
「眠れませんか?」
声をかけられた。驚きはしなかった。誰かが階段を下ってくる音がしていたからだ。声の主、サトリはユウキのそばまで歩み寄ると、その脇に腰を下ろす。
「サトリもか?」
「ええ。寝付けないでいたら、隣の部屋から誰かが出てくる音がしたのでつけて来ちゃいました」
「いよいよ。明日だな」
「はい。いよいよ明日ですね。何事もなければいいんですけど」
「闇か・・・」
一番気がかりなのはそのことだ。いくら慎重に、その動向を把握しようと勤めても、ベンの話が事実ならあまり意味をなさないかもしれない。
「本当に、旧神なのでしょうか」
神話の時代に彼と人が力を合わせて駆逐したと言われる古き星の支配者達。もし、それが旧神であるのならば、新世界の調和者たる神々しき者どもに刻まれたそれらとの戦いの記憶がその姿をこの世界に投影しているのだろう。とは言へ、天地すらもひっくり返したと呼ばれる神話時代の支配者にしてみれば、闇にまつわる伝説はいささかささやかである気はする。人智を超えた力を持っているのは確かだろうが。
「わからないな。だが、もしそうであるなら。この力に頼る必要が出てくるかもな」
ユウキは自分の座る場所から、二メートルほど先にある小石を手も触れずに持ち上げて見せた。PSYと呼ばれる力は、物体や生き物の精神に直接干渉できる。小石を浮かべて見せるぐらいなら、今のユウキのPSYでも問題ない。だが、・・・
「増幅器なしで、どこまで力を出せるでしょうか」
サトリが不安そうに口に出した。いかにPrayerとしてPSYを扱う才覚に恵まれていようとも、増幅器なしではどのぐらいの力を出せるかわからない。それなしでは力の反動が彼らの肉体や精神にダイレクトにダメージを与えてしまうという問題もある。
「さあな。使わずに済むならそれに越したことはない。もし、この力をフルに使わなければならない様な状況に陥ったなら。しばらくは、動くことさえ困難になるだろうな。力に頼らず切り抜けられるならその方がいい」
そう言いながら、彼は小石に力を込めるのをやめた。石は支えを失い重力にしたがって落下する。今だに、不安そうな表情のサトリにユウキは微笑んで見せた。
「大丈夫さ、例え何かあったとしても、ベンがいる。イッポリートも・・・俺だって」
ユウキは遠慮がちに自分の名前を最後に出した。
「はい、頼りにしてます」
サトリは可愛らしい笑顔で返事をする。ユウキはどこかこそばゆい様な心地だった。
「ところで、なんでここに来たんですか」
サトリが尋ねたのは、ユウキがわざわざこの場所、眠り子達の眠る場所に足を運んだ理由だ。
「ここに来れば、このアバターがまた何か反応するんじゃないかと思って」
もう一度カイが語りかけてくるかもしれない。そう言う期待があったが、ユウキの肉体は何事もなく穏やかに青い光を受け入れ続けた。
「カイさんですっけ?」
「ああ」
「ユウキさんもやっぱり、現実のユウキさんとは少し違っていたりするのでしょうか?」
前にサトリが、話していたことを思い出した。
「思考や、嗜好がアバターからの影響を受けているという話か?」
「はい」
「そうだな、俺は今の自分が本来より粗野な性格をしている気がする。きっとそれは、カイのあまり恵まれてない生い立ちを反映しているんだと思う」
食事の好みや、言葉遣い、自分で気づくことができるのはそのぐらいだが、あるいはカイという存在は無意識化で重大な意思決定にすら影響を与えているのかもしれないと考えないでもなかった。
「やっぱり、ユウキさんもそうなんですね・・・」
彼女の表情は少し沈んで見えた。
「どうかしたのか?」
彼女は少し悩む様な顔をして、そして結局はその胸中を吐露した。
「・・・、今皆さんと仲良くできている自分は本当の自分じゃないのかなって。私が私じゃなかったから、こうして皆さんと、ユウキさんともお友達にはなれなかったんじゃないかって」
かつてこの場所で彼女が語っていた事を思い出した。自分は人付き合いが下手だと彼女は悩んでいた。いつも、一人でいる学院の彼女の姿が浮かんだ。人りで授業を受ける彼女、一人で食事を取っている姿。
「・・・そういえば、なんでいつもうどんヌードルなんだ?」
「へ? う、うどん?」
突然の質問に気の抜けた声が返ってくる。
「学食ではいつもうどんヌードルを食べてただろ? 前から見かけるたび不思議に思ってたんだ」
「あっ、はい。あれならすぐに食べ終われちゃいますし。本当はAランチとかにも挑戦してみたいんですけど、皆さんがお友達と楽しそうに食事している隣で、黙々と食べるのがなんか嫌で・・・」
「なんだそんな理由だったのか。もっとなんかこうこだわりみたいなのがあるんだと思ってた」
ユウキは声をあげて笑った。
「わ、笑わないでくださいよ。こっちにとっては切実な問題なんですぅ」
サトリは拗ねた様な表情をする。
「ごめんごめん。次に学食で見かけたら、聞いてみようと思ってたんだ」
ユウキはサトリに微笑みかける。
「何が言いたいかっていうとさ・・・」
照れ臭そうに頭を掻く。
「この世界に来なくったて、俺はきっとサトリに声をかけたし、そんで今みたいに理由を聞いて、そんなことか笑って、それから・・・友達になったと思うんだ」
本心からきっとそうなっていただろうと思った。
「・・・はい。きっと、そうですね!」
サトリはユウキの言葉を心から喜んだ。それから少し気恥ずかしさから沈黙が生まれる。二人はしばらくその場に座り込んでいたが、明日は早い。少しでも体を休めておくべきだろう。
「戻ろう」
ユウキが腰をあげるとサトリもそれに習う。
「そういえばさ、Sランチって知ってるか?」
「Sランチですか?」
「Aランチを頼んで、食堂のおばちゃんをお姉さんと呼びながら食券を渡せばデザートがおまけで付いてくるんだ。皆んな裏で、Sランチって呼んでる」
「へー、そんなのがあるんですね」
「・・・るよ」
「はい?」
ユウキの声は消え入る様に小さくてサトリは聞き返した。
「今度、無事に向こうに帰れたらおごるよ」
真っ赤にした顔は背中に遮られてサトリには見えてないはずだ。
「はい!是非」
サトリはユウキの申し出を本当に嬉しそうな表情で受け入れた。
二人が約束を果たすためにも、明日からの三日間は絶対に成功させなければならない。彼らはそれぞれに、決意を新たにしたのであった。
同時に、ベンの記憶を頼りに過去にアリスターの隊が辿ったルートを下見した。四層の道は地殻変動や、そこに住む生き物の影響で絶えず変化しているが、二度目の探窟においてユウキ達はついに彼らが辿ったルートへの入り口を発見することに成功した。
難航したのは、ベン達の出くわした化け物、探窟家達の間で闇と通称されるそれの動向を把握する事だ。チームの垣根を超えて共有されるそいつの情報は、ここ一年で二度しかなかった。そんな折に、四層で大型の地龍に襲われ採掘組の一団に所属する二人の探窟家が犠牲になると言うニュースが飛び込んでくる。それを受けて地龍のナワバリやその他の危険生物の生息地を再度マッピングする必要が生まれた。ルーキの多いベン達のチームは、無理をせずその情報を買う事を決め、他のチームがマッピングを終えるまで、三層とトーヴァを行き来して過ごした。
五層を目指すチャンスが巡ってきたのはそれから二週間ほどがたった頃だった。行方不明になっていた踏破組の調査に潜ったチームが、四層東部の深淵で闇の姿を目撃した。不幸なニュースであったが、四層の西部を抜ける予定のユウキ達にとってはまたとないチャンスであった。
すぐに彼らは準備を整えるとベースキャンプへと向かった。その間にも闇は四層の東部にとどまり続けているらしく、ベンは翌日から三日をかけて五層を目指すと言う判断を下したのだった。
******
ベースキャンプのある元神殿の中央を下った先で、このトンネルの守護者と言われる五人の子供達が眠るその結晶体の放つ青白い光を、ユウキはぼんやりと見つめていた。
「眠れませんか?」
声をかけられた。驚きはしなかった。誰かが階段を下ってくる音がしていたからだ。声の主、サトリはユウキのそばまで歩み寄ると、その脇に腰を下ろす。
「サトリもか?」
「ええ。寝付けないでいたら、隣の部屋から誰かが出てくる音がしたのでつけて来ちゃいました」
「いよいよ。明日だな」
「はい。いよいよ明日ですね。何事もなければいいんですけど」
「闇か・・・」
一番気がかりなのはそのことだ。いくら慎重に、その動向を把握しようと勤めても、ベンの話が事実ならあまり意味をなさないかもしれない。
「本当に、旧神なのでしょうか」
神話の時代に彼と人が力を合わせて駆逐したと言われる古き星の支配者達。もし、それが旧神であるのならば、新世界の調和者たる神々しき者どもに刻まれたそれらとの戦いの記憶がその姿をこの世界に投影しているのだろう。とは言へ、天地すらもひっくり返したと呼ばれる神話時代の支配者にしてみれば、闇にまつわる伝説はいささかささやかである気はする。人智を超えた力を持っているのは確かだろうが。
「わからないな。だが、もしそうであるなら。この力に頼る必要が出てくるかもな」
ユウキは自分の座る場所から、二メートルほど先にある小石を手も触れずに持ち上げて見せた。PSYと呼ばれる力は、物体や生き物の精神に直接干渉できる。小石を浮かべて見せるぐらいなら、今のユウキのPSYでも問題ない。だが、・・・
「増幅器なしで、どこまで力を出せるでしょうか」
サトリが不安そうに口に出した。いかにPrayerとしてPSYを扱う才覚に恵まれていようとも、増幅器なしではどのぐらいの力を出せるかわからない。それなしでは力の反動が彼らの肉体や精神にダイレクトにダメージを与えてしまうという問題もある。
「さあな。使わずに済むならそれに越したことはない。もし、この力をフルに使わなければならない様な状況に陥ったなら。しばらくは、動くことさえ困難になるだろうな。力に頼らず切り抜けられるならその方がいい」
そう言いながら、彼は小石に力を込めるのをやめた。石は支えを失い重力にしたがって落下する。今だに、不安そうな表情のサトリにユウキは微笑んで見せた。
「大丈夫さ、例え何かあったとしても、ベンがいる。イッポリートも・・・俺だって」
ユウキは遠慮がちに自分の名前を最後に出した。
「はい、頼りにしてます」
サトリは可愛らしい笑顔で返事をする。ユウキはどこかこそばゆい様な心地だった。
「ところで、なんでここに来たんですか」
サトリが尋ねたのは、ユウキがわざわざこの場所、眠り子達の眠る場所に足を運んだ理由だ。
「ここに来れば、このアバターがまた何か反応するんじゃないかと思って」
もう一度カイが語りかけてくるかもしれない。そう言う期待があったが、ユウキの肉体は何事もなく穏やかに青い光を受け入れ続けた。
「カイさんですっけ?」
「ああ」
「ユウキさんもやっぱり、現実のユウキさんとは少し違っていたりするのでしょうか?」
前にサトリが、話していたことを思い出した。
「思考や、嗜好がアバターからの影響を受けているという話か?」
「はい」
「そうだな、俺は今の自分が本来より粗野な性格をしている気がする。きっとそれは、カイのあまり恵まれてない生い立ちを反映しているんだと思う」
食事の好みや、言葉遣い、自分で気づくことができるのはそのぐらいだが、あるいはカイという存在は無意識化で重大な意思決定にすら影響を与えているのかもしれないと考えないでもなかった。
「やっぱり、ユウキさんもそうなんですね・・・」
彼女の表情は少し沈んで見えた。
「どうかしたのか?」
彼女は少し悩む様な顔をして、そして結局はその胸中を吐露した。
「・・・、今皆さんと仲良くできている自分は本当の自分じゃないのかなって。私が私じゃなかったから、こうして皆さんと、ユウキさんともお友達にはなれなかったんじゃないかって」
かつてこの場所で彼女が語っていた事を思い出した。自分は人付き合いが下手だと彼女は悩んでいた。いつも、一人でいる学院の彼女の姿が浮かんだ。人りで授業を受ける彼女、一人で食事を取っている姿。
「・・・そういえば、なんでいつもうどんヌードルなんだ?」
「へ? う、うどん?」
突然の質問に気の抜けた声が返ってくる。
「学食ではいつもうどんヌードルを食べてただろ? 前から見かけるたび不思議に思ってたんだ」
「あっ、はい。あれならすぐに食べ終われちゃいますし。本当はAランチとかにも挑戦してみたいんですけど、皆さんがお友達と楽しそうに食事している隣で、黙々と食べるのがなんか嫌で・・・」
「なんだそんな理由だったのか。もっとなんかこうこだわりみたいなのがあるんだと思ってた」
ユウキは声をあげて笑った。
「わ、笑わないでくださいよ。こっちにとっては切実な問題なんですぅ」
サトリは拗ねた様な表情をする。
「ごめんごめん。次に学食で見かけたら、聞いてみようと思ってたんだ」
ユウキはサトリに微笑みかける。
「何が言いたいかっていうとさ・・・」
照れ臭そうに頭を掻く。
「この世界に来なくったて、俺はきっとサトリに声をかけたし、そんで今みたいに理由を聞いて、そんなことか笑って、それから・・・友達になったと思うんだ」
本心からきっとそうなっていただろうと思った。
「・・・はい。きっと、そうですね!」
サトリはユウキの言葉を心から喜んだ。それから少し気恥ずかしさから沈黙が生まれる。二人はしばらくその場に座り込んでいたが、明日は早い。少しでも体を休めておくべきだろう。
「戻ろう」
ユウキが腰をあげるとサトリもそれに習う。
「そういえばさ、Sランチって知ってるか?」
「Sランチですか?」
「Aランチを頼んで、食堂のおばちゃんをお姉さんと呼びながら食券を渡せばデザートがおまけで付いてくるんだ。皆んな裏で、Sランチって呼んでる」
「へー、そんなのがあるんですね」
「・・・るよ」
「はい?」
ユウキの声は消え入る様に小さくてサトリは聞き返した。
「今度、無事に向こうに帰れたらおごるよ」
真っ赤にした顔は背中に遮られてサトリには見えてないはずだ。
「はい!是非」
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