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第1章 PLAYER1
誰もが通る道、初めて通る道 ①
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歩くたびに床板が軋む。階段を登り数歩歩いたところで彼は歩を止めた。扉の前で呼吸を整えてから、遠慮がちにノックする。
「ユウキ、少し話をしないか」
ベンは板を隔てた向こうにいるはずのユウキに優しく声をかける。
「・・・」
衣擦れの音だけが聞こえて、返事は帰ってこない。3人となってしまった彼らがトーヴァに帰ってきてすでに二週間が経とうとしていた。ベンはもう長いことユウキの顔を見ていない。
「おい! いつまでそうしてるつもりだ。でてこい!」
口調が少し荒くなる。ここに来たのは何度目だろうか。なんの反応もないのはもどかしかった。
「あんたと話すことなんて何もねえよ!」
室内からユウキの声が飛んでくる。ベンはそれを聞くと、軽くため息をついた。とりあえず生きてはいる様だ。それならば良しとしよう。ベンは諦めて踵を返した。
******
暗い路地から、行き慣れた店の中へと足を踏み入れる。
「一人か?」
店の店主ギリアンが尋ねる。
「ああ」
ベンは短く言葉を返した。今日二層に潜って持ってきた品を広げた。数も質も、ここ最近では最低の出来だ。
「しけてるな。あの頃に逆戻りだ」
ギリアンが静かに言った。ユウキは言わずもがな、イッポリートも少し気持ちを整理する時間が欲しいとの事でこのところいつも一人だ。
「一人で稼げるのなんざ飲み代ぐらいだからな」
肩をすくめて軽い口調で応じる。
「案外、上手くいってるなと思ってたんだがな」
ベンが再びチームを組んだのは意外なことだったが、それを嬉しくも思っていた。こうやって、また一人で発掘品を持ってくる彼を見るのは残念だ。
「あの小僧は大丈夫か?」
ユウキのことだろう。
「さあな、とりあえず生きてはいたさ。初めて仲間を失ったんだ。すぐにはとは行かないだろう」
「誰もが通る道か・・・」
探窟家は仲間を失う経験をして一人前。そんな言葉さえある。彼らにとって死とはそれほどありふれたものであった。
「誰もが乗り越えられる道ではないがな」
中には当然ショックから立ち直れない者もいる。ベンにしたって一度はアリスターに救われ、二度目はサトリ達がきっかけになってくれたから今がある。
「ちげえねぇ。仲間を失って、二度と洞窟に戻れなくなっちまって、しまいにゃ古物商なんてやってる臆病者もいるくらいだ」
それはギリアン自身のことなのだろう。
「・・・死神だとよ」
ベンからポツリと漏れたのは、あの日ユウキに言われた言葉だ。
「懐かしいな。お前がここにきた頃はまさに死神って感じだったぜ」
ギリアンはベンの言葉を笑い飛ばす。
「今回の件で思っちまったよ。アリスターと出会ってマシな人間になったつもりでいたけど、俺はやっぱり死神なのかもな」
弱音が漏れた。ユウキに言われるまでもなく、彼自身心が何処かで思っていたことだ。
「許してやれよ。あの小僧も心から言ったわけじゃないさ。どうしようもなく当たり散らさずにはいられない時がある。誰かを責めずにはいられなかったのさ」
「わかってるよ。俺にも覚えがあるさ。あいつだけは、サトリの最後の姿を見てない。気を失って、目が覚めて、仲間が一人いなくなったと初めて知らされる。そういうのが一番答えるんだ」
自分が向かい合った死より、思いがけず突然訪れる別れの方が案外と辛い。もし自分がその場に居ればどうにかなったんじゃないか、そんなことばかり考えてしまう。それはその場に居合わせて力が及ばなかったと後悔するより後を引いてまとわりつくのだ。
「経験者は語るだな」
ギリアンはあえて明るく振る舞った。
「大丈夫か?」
彼の口から先程と同じ問いが聞こえた。
「さあな。あいつ次第だろう」
ベンは答える。だがその答えはギリアンの問いとはズレていた。
「そうじゃねえ。お前だよ。お前は大丈夫か」
どことなく覇気がないことぐらいすぐにわかる。ガキの頃から知っている。長い付き合いになったものだ。初めてここを訪れたときはすぐにくたばっちまうと思っていたのにとギリアンはベンの表情を見つめながら思った。この時ギリアンが彼に抱いた感情はあるいは父親が子供に抱くそれと似ていたかもしれない。
彼の言葉にベンは少し沈黙した。
「本当言うとさ。俺はいつもただ怖くて逃げたんじゃないかと思う時がある。仕方なかった、他の仲間のためだって理由をつけてテメーの弱さを正当化してるんじゃないかって。あの時も、今回ももし俺があそこで背を向けなければ、アリスターやサトリ達と生きて帰って来れたんじゃないかって。俺はやっぱり、仲間を見捨てる死神なのかもしれない」
最大限の注意を払っていたつもりだった。アリスターの様にできると思っていた。だが結局蓋を開けてみればこのザマだ。ユウキに言われるまでもない。俺は俺自身で、自分が死神なんじゃないかと疑っている。
「なあ、ギリアン。俺は死神か?」
死人とともに帰ってきては笑っている不気味なガキについた二つ名が、ギリアンはぴったりだと思っていた時期もある。だが、今目の前で仲間の死を悼み、自責の念に押しつぶされろうな彼を誰が死神と呼べるだろうか。
「そんな風に後悔しているお前は死神なんかじゃねぇさ」
かつての仲間たちが、アリスター隊のみんなが、ユウキが、サトリが、イッポリートがベンを死神にはしなかった。だがら、ギリアンは見たまま、感じたままを素直に伝える。ベンはブサイクに笑って、短く「ありがとよ」と返事をした。
「ユウキ、少し話をしないか」
ベンは板を隔てた向こうにいるはずのユウキに優しく声をかける。
「・・・」
衣擦れの音だけが聞こえて、返事は帰ってこない。3人となってしまった彼らがトーヴァに帰ってきてすでに二週間が経とうとしていた。ベンはもう長いことユウキの顔を見ていない。
「おい! いつまでそうしてるつもりだ。でてこい!」
口調が少し荒くなる。ここに来たのは何度目だろうか。なんの反応もないのはもどかしかった。
「あんたと話すことなんて何もねえよ!」
室内からユウキの声が飛んでくる。ベンはそれを聞くと、軽くため息をついた。とりあえず生きてはいる様だ。それならば良しとしよう。ベンは諦めて踵を返した。
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暗い路地から、行き慣れた店の中へと足を踏み入れる。
「一人か?」
店の店主ギリアンが尋ねる。
「ああ」
ベンは短く言葉を返した。今日二層に潜って持ってきた品を広げた。数も質も、ここ最近では最低の出来だ。
「しけてるな。あの頃に逆戻りだ」
ギリアンが静かに言った。ユウキは言わずもがな、イッポリートも少し気持ちを整理する時間が欲しいとの事でこのところいつも一人だ。
「一人で稼げるのなんざ飲み代ぐらいだからな」
肩をすくめて軽い口調で応じる。
「案外、上手くいってるなと思ってたんだがな」
ベンが再びチームを組んだのは意外なことだったが、それを嬉しくも思っていた。こうやって、また一人で発掘品を持ってくる彼を見るのは残念だ。
「あの小僧は大丈夫か?」
ユウキのことだろう。
「さあな、とりあえず生きてはいたさ。初めて仲間を失ったんだ。すぐにはとは行かないだろう」
「誰もが通る道か・・・」
探窟家は仲間を失う経験をして一人前。そんな言葉さえある。彼らにとって死とはそれほどありふれたものであった。
「誰もが乗り越えられる道ではないがな」
中には当然ショックから立ち直れない者もいる。ベンにしたって一度はアリスターに救われ、二度目はサトリ達がきっかけになってくれたから今がある。
「ちげえねぇ。仲間を失って、二度と洞窟に戻れなくなっちまって、しまいにゃ古物商なんてやってる臆病者もいるくらいだ」
それはギリアン自身のことなのだろう。
「・・・死神だとよ」
ベンからポツリと漏れたのは、あの日ユウキに言われた言葉だ。
「懐かしいな。お前がここにきた頃はまさに死神って感じだったぜ」
ギリアンはベンの言葉を笑い飛ばす。
「今回の件で思っちまったよ。アリスターと出会ってマシな人間になったつもりでいたけど、俺はやっぱり死神なのかもな」
弱音が漏れた。ユウキに言われるまでもなく、彼自身心が何処かで思っていたことだ。
「許してやれよ。あの小僧も心から言ったわけじゃないさ。どうしようもなく当たり散らさずにはいられない時がある。誰かを責めずにはいられなかったのさ」
「わかってるよ。俺にも覚えがあるさ。あいつだけは、サトリの最後の姿を見てない。気を失って、目が覚めて、仲間が一人いなくなったと初めて知らされる。そういうのが一番答えるんだ」
自分が向かい合った死より、思いがけず突然訪れる別れの方が案外と辛い。もし自分がその場に居ればどうにかなったんじゃないか、そんなことばかり考えてしまう。それはその場に居合わせて力が及ばなかったと後悔するより後を引いてまとわりつくのだ。
「経験者は語るだな」
ギリアンはあえて明るく振る舞った。
「大丈夫か?」
彼の口から先程と同じ問いが聞こえた。
「さあな。あいつ次第だろう」
ベンは答える。だがその答えはギリアンの問いとはズレていた。
「そうじゃねえ。お前だよ。お前は大丈夫か」
どことなく覇気がないことぐらいすぐにわかる。ガキの頃から知っている。長い付き合いになったものだ。初めてここを訪れたときはすぐにくたばっちまうと思っていたのにとギリアンはベンの表情を見つめながら思った。この時ギリアンが彼に抱いた感情はあるいは父親が子供に抱くそれと似ていたかもしれない。
彼の言葉にベンは少し沈黙した。
「本当言うとさ。俺はいつもただ怖くて逃げたんじゃないかと思う時がある。仕方なかった、他の仲間のためだって理由をつけてテメーの弱さを正当化してるんじゃないかって。あの時も、今回ももし俺があそこで背を向けなければ、アリスターやサトリ達と生きて帰って来れたんじゃないかって。俺はやっぱり、仲間を見捨てる死神なのかもしれない」
最大限の注意を払っていたつもりだった。アリスターの様にできると思っていた。だが結局蓋を開けてみればこのザマだ。ユウキに言われるまでもない。俺は俺自身で、自分が死神なんじゃないかと疑っている。
「なあ、ギリアン。俺は死神か?」
死人とともに帰ってきては笑っている不気味なガキについた二つ名が、ギリアンはぴったりだと思っていた時期もある。だが、今目の前で仲間の死を悼み、自責の念に押しつぶされろうな彼を誰が死神と呼べるだろうか。
「そんな風に後悔しているお前は死神なんかじゃねぇさ」
かつての仲間たちが、アリスター隊のみんなが、ユウキが、サトリが、イッポリートがベンを死神にはしなかった。だがら、ギリアンは見たまま、感じたままを素直に伝える。ベンはブサイクに笑って、短く「ありがとよ」と返事をした。
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