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ミカガミシンヤの物語 5
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寝覚めは最悪だった。昨日あんなものを見たのだ。
壊れた人形の表情が、まるで人間のそれに見えて頭から離れない。
あの、毛むくじゃらの生き物はなんだろうか?
人語を解し、人のように二本の足で地に立つそれは獣人と表現するのがしっくりときた。ここは本当に俺のいた世界のなれの果てなのか?
そんな疑問すら沸いた。
TVをつける。シバ神父が用意してくれた家はたいそうな豪邸で、
俺は完全に持て余していた。
リビング以外に5部屋もあるが、
俺は一番小さいこの部屋を選んで、ほとんどの時間をここで過ごしている。
このテレビもリビングにあったものを運び込んでいた。
TVをつけてニュースを見る。
探すのはもちろん昨日のあれだ。
チャンネルを回すとそれっぽい見出しに目が留まる。
連続殺人八件目。
警察、未だ犯人の見当もつかず。
事件現場とされる場所。
そして被害者とされる人間の顔写真。
どちらも見覚えがあるものだった。
いや、そこじゃない。俺はある事実に気が付き背筋が凍る。
『被害者』?人なのか?あれはやっぱり人なのか?
あの獣人の言葉がよみがえる。
『これは人間だよ。正しくは、この街で人間とされているもの』
あれはやっぱり人なのか?
同時に思う。今まであってきた人間にも、あれと同じ人間がいたのだろうか?
つまり、まるで機械仕掛けの人形のような…。
ハッと有ることに気づいて空間に情報デバイスを立ち上げる。
ユウキに習った通りに順を追って操作すると無事に電話が立ち上がる。
俺は迷わずコールボタンを押した。
「はい、もしもし」
電話に出た少年の声を聴いて俺はつばを飲み込んだ。
「ユウキか?」
「はい、そうですけど。何か用事ですか?」
「敬語」
「?」
「敬語はやめろ。友達だろ」
「あっと、何か用?」
彼は律義に言い直す。
「確かめたいことがあるんだ。この街の人間の中には機械みたいな体でできてるやつがいたりするのか?」
「?話の意味が」
ユウキの反応をみるに、彼はそれを認識していないらしい。
あのへんな生き物に担がれた?
そんな風にも考える。だが、何の為に?
「ユウキ、変な話かもしれないが答えてほしいんだ」
そこで一度言葉を切る。少しためらってそれでも言葉にした。
「君は前に君たちには感情がないって言ったよね。それはもしかして、君たちの体は機械でできているってことなのか?」
「……」
答えを待つ少しの沈黙がやけに長く感じる。
それから電話越しにユウキがクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「何を言うかと思えば、僕たちの体はちゃんと有機物でできてるよ」
俺は安堵の息をつく。
「変なこと聞いて悪かった。また後でな」
それだけ言って、電話を切った。
獣人は『この街の全部がそうってわけじゃない』とも言っていた。
ユウキの言葉を信じるなら少なくとも、彼はそうじゃない。
じゃあ、ユウキの妹は?シバ神父、リサはどうだろう?
俺は?
背筋が凍って考えるのを拒絶する。
だが、確かめないわけにはいけない。
この突拍子のない事実を見過ごして平穏に暮らすことなどできようもない。
気がくるって狂気に押しつぶされる前に、
俺はナイフを探して手に取る。
その刃を自分の指に押し当てると、血が滲みだした。
その光景に安堵する。俺はそうじゃない。
安堵と共に漠然とした疑問がわく。
この街はなんなんだ?本当に俺たちの世界の延長線上にあるのか?
これまで普通すぎるぐらいに普通に見えたこの街が、
いびつな人工物にさえ見えた。
壊れた人形の表情が、まるで人間のそれに見えて頭から離れない。
あの、毛むくじゃらの生き物はなんだろうか?
人語を解し、人のように二本の足で地に立つそれは獣人と表現するのがしっくりときた。ここは本当に俺のいた世界のなれの果てなのか?
そんな疑問すら沸いた。
TVをつける。シバ神父が用意してくれた家はたいそうな豪邸で、
俺は完全に持て余していた。
リビング以外に5部屋もあるが、
俺は一番小さいこの部屋を選んで、ほとんどの時間をここで過ごしている。
このテレビもリビングにあったものを運び込んでいた。
TVをつけてニュースを見る。
探すのはもちろん昨日のあれだ。
チャンネルを回すとそれっぽい見出しに目が留まる。
連続殺人八件目。
警察、未だ犯人の見当もつかず。
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そして被害者とされる人間の顔写真。
どちらも見覚えがあるものだった。
いや、そこじゃない。俺はある事実に気が付き背筋が凍る。
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あの獣人の言葉がよみがえる。
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あれはやっぱり人なのか?
同時に思う。今まであってきた人間にも、あれと同じ人間がいたのだろうか?
つまり、まるで機械仕掛けの人形のような…。
ハッと有ることに気づいて空間に情報デバイスを立ち上げる。
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俺は迷わずコールボタンを押した。
「はい、もしもし」
電話に出た少年の声を聴いて俺はつばを飲み込んだ。
「ユウキか?」
「はい、そうですけど。何か用事ですか?」
「敬語」
「?」
「敬語はやめろ。友達だろ」
「あっと、何か用?」
彼は律義に言い直す。
「確かめたいことがあるんだ。この街の人間の中には機械みたいな体でできてるやつがいたりするのか?」
「?話の意味が」
ユウキの反応をみるに、彼はそれを認識していないらしい。
あのへんな生き物に担がれた?
そんな風にも考える。だが、何の為に?
「ユウキ、変な話かもしれないが答えてほしいんだ」
そこで一度言葉を切る。少しためらってそれでも言葉にした。
「君は前に君たちには感情がないって言ったよね。それはもしかして、君たちの体は機械でできているってことなのか?」
「……」
答えを待つ少しの沈黙がやけに長く感じる。
それから電話越しにユウキがクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「何を言うかと思えば、僕たちの体はちゃんと有機物でできてるよ」
俺は安堵の息をつく。
「変なこと聞いて悪かった。また後でな」
それだけ言って、電話を切った。
獣人は『この街の全部がそうってわけじゃない』とも言っていた。
ユウキの言葉を信じるなら少なくとも、彼はそうじゃない。
じゃあ、ユウキの妹は?シバ神父、リサはどうだろう?
俺は?
背筋が凍って考えるのを拒絶する。
だが、確かめないわけにはいけない。
この突拍子のない事実を見過ごして平穏に暮らすことなどできようもない。
気がくるって狂気に押しつぶされる前に、
俺はナイフを探して手に取る。
その刃を自分の指に押し当てると、血が滲みだした。
その光景に安堵する。俺はそうじゃない。
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