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ミカガミシンヤの物語 8
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生まれも平凡、育ちも平凡。
幸せに生きていたと思う。その日までは。
俺が父を殺したと告白したとき、
彼女はたいそう動揺した。
俺が母を殺したとき、
彼女はあなたのせいじゃないと慰めてくれた。
彼女は俺の妹を殺した。
俺は彼女を責められなかった。
それから俺たちで彼女の両親を殺した。
これは殺意じゃない。
断言する。これは食欲のような欲求だ。
その証拠にほら、俺はこんなにも良心の呵責に苦しんでいる。
このまま化け物になりたくはなかった。
俺たちは繭。進化の繭。
でも心は人間だ。
心まで怪物になってしまう前に、俺は自らの幕を下ろす。
青い光が俺を覆う。光は液体となり俺はその中でおぼれる。
最後に液体は固まて二度と開かぬ水晶の檻になる。
彼女にはもう二度と会えないのか。
そう思った。それだけが心残りだった。
***
目が覚めてからしばらく、動機が収まらなかった。
それが夢だとわかって俺はようやく落ち着く。
いつの間にか眠っていたらしい。
ここでの生活ももう、三月になる。
ユウキたちと過ごす時間はもう、日常に変わりつつあった。
月明かりが窓から部屋を照らす。
電気をつけずにその光に照らされるままにした。
窓の側まで歩く。
町明かりが星明かりに打ち勝って夜空を照らす。
ここは平和な街だ。どんな闇が隠れていようとも、
俺はこの安寧の中になら沈んでいられる。
ユウキと、ショウと、リサと、シバ神父と、エリカと、
ごっこ遊びのような日常でもずっと続くならそれでいい。
そんなバカのことを考える自分が可笑しかった。
背後で当然物音がする。
「神様は、いつまでこのぬるま湯で過ごしているつもりなのかな?」
突然声がして飛び上がる。暗闇に紛れるように一つの影があった。
「お前は!この前の…」
子供ぐらいの体格、毛におおわれた体。
赤い瞳。あの夜あったデミと呼ばれる獣人がそこにいた。
「どこから入ってきた?」
「堂々と玄関からさ。一応ベルは鳴らしたよ。ただ返事がなかったんでね。鍵もかかてなかったし」
自分の不用心さを呪う。
「何の用だ?」
この前、こいつがあの人間のような人形、
いや人形のような人間を引きずっていたのを見てしまったからだろうか。
「俺を、殺しに来たのか?」
問いながらも身構える。
デミはそんな俺をみてため息をつく。
「あんたは何か誤解をしてるよ。僕は人殺しなんかじゃない。あんたと違ってね」
俺はその言葉に息をのむ。
「お前…」
「あんたはいつまでそうしてつもりなの?」
獣は俺の反応を無視してもう一度問うた。
「いつまでだっていいだろう?俺のいた世界はもうない。俺を知る人間も誰もいない。俺にはもうここで生きてくしかないんだよ!」
気づけば叫んでいた。
「ここはあんたのいた世界とはまるで違う。所詮出来の良いコピーみたいなもんだ。あんただってうすうす気づいているだろう?」
その言葉には答えたくなかった。
「…どっちでもいいだろう。ここは平和だ」
「平和だとも。籠の中の鳥たちにとって、檻の中は幸せな楽園だという話ならね」
淡々としていてもその言葉には侮蔑が込められている。
「もう帰ってくれ」
睨みつける。赤い目がひるむことはなかった。
むしろ、デミは笑みを浮かべる。
「帰れとはひどい。僕はあんたを助けに来たのに」
バカみたいなことを言ってのける。
「お前に…、何ができるっていうんだ…。俺にはもう行く所も帰る所もない」
力なくベッドに腰掛ける。
「彼女に会わせてあげよう」
突然デミが提案する。思わず顔を上げた。
「それは…」
「もちろん、君が今一番会いたくてたまらない彼女だよ」
不敵な笑みは、悪魔のようだ。
「どこまで知ってる?」
これほどまでに自分の情報が筒抜けであることに、
得体のしれない恐怖を感じた。
こいつは結局なんなんだ?デミとは何なんだ?
本当にユウキたちの言うような社会の底辺で働く、無知で無能な生き物なのか?
「僕は結構物知りなのさ。この耳だからね」
獣人はそう言っフードに隠れた長い耳をピンと立てる
俺は押し黙った。
この生き物を信用していいのだろうか?
いや、できようはずがない。
だが、そんなこと関係はなかった。
わずかでも再び彼女に会える可能性があるのなら。
顔を上げる。獣の目がそれを満足そうにとらえる。
「ついておいで」
人間の子供ほどの小さな手が俺に向って差し出される。
「僕が君にこの世界のもう半分を見せてあげよう」
小さな手を握り返す。伝ってくる熱は
この世界で目覚めてから触ったどんなものより、
暖かかった。
幸せに生きていたと思う。その日までは。
俺が父を殺したと告白したとき、
彼女はたいそう動揺した。
俺が母を殺したとき、
彼女はあなたのせいじゃないと慰めてくれた。
彼女は俺の妹を殺した。
俺は彼女を責められなかった。
それから俺たちで彼女の両親を殺した。
これは殺意じゃない。
断言する。これは食欲のような欲求だ。
その証拠にほら、俺はこんなにも良心の呵責に苦しんでいる。
このまま化け物になりたくはなかった。
俺たちは繭。進化の繭。
でも心は人間だ。
心まで怪物になってしまう前に、俺は自らの幕を下ろす。
青い光が俺を覆う。光は液体となり俺はその中でおぼれる。
最後に液体は固まて二度と開かぬ水晶の檻になる。
彼女にはもう二度と会えないのか。
そう思った。それだけが心残りだった。
***
目が覚めてからしばらく、動機が収まらなかった。
それが夢だとわかって俺はようやく落ち着く。
いつの間にか眠っていたらしい。
ここでの生活ももう、三月になる。
ユウキたちと過ごす時間はもう、日常に変わりつつあった。
月明かりが窓から部屋を照らす。
電気をつけずにその光に照らされるままにした。
窓の側まで歩く。
町明かりが星明かりに打ち勝って夜空を照らす。
ここは平和な街だ。どんな闇が隠れていようとも、
俺はこの安寧の中になら沈んでいられる。
ユウキと、ショウと、リサと、シバ神父と、エリカと、
ごっこ遊びのような日常でもずっと続くならそれでいい。
そんなバカのことを考える自分が可笑しかった。
背後で当然物音がする。
「神様は、いつまでこのぬるま湯で過ごしているつもりなのかな?」
突然声がして飛び上がる。暗闇に紛れるように一つの影があった。
「お前は!この前の…」
子供ぐらいの体格、毛におおわれた体。
赤い瞳。あの夜あったデミと呼ばれる獣人がそこにいた。
「どこから入ってきた?」
「堂々と玄関からさ。一応ベルは鳴らしたよ。ただ返事がなかったんでね。鍵もかかてなかったし」
自分の不用心さを呪う。
「何の用だ?」
この前、こいつがあの人間のような人形、
いや人形のような人間を引きずっていたのを見てしまったからだろうか。
「俺を、殺しに来たのか?」
問いながらも身構える。
デミはそんな俺をみてため息をつく。
「あんたは何か誤解をしてるよ。僕は人殺しなんかじゃない。あんたと違ってね」
俺はその言葉に息をのむ。
「お前…」
「あんたはいつまでそうしてつもりなの?」
獣は俺の反応を無視してもう一度問うた。
「いつまでだっていいだろう?俺のいた世界はもうない。俺を知る人間も誰もいない。俺にはもうここで生きてくしかないんだよ!」
気づけば叫んでいた。
「ここはあんたのいた世界とはまるで違う。所詮出来の良いコピーみたいなもんだ。あんただってうすうす気づいているだろう?」
その言葉には答えたくなかった。
「…どっちでもいいだろう。ここは平和だ」
「平和だとも。籠の中の鳥たちにとって、檻の中は幸せな楽園だという話ならね」
淡々としていてもその言葉には侮蔑が込められている。
「もう帰ってくれ」
睨みつける。赤い目がひるむことはなかった。
むしろ、デミは笑みを浮かべる。
「帰れとはひどい。僕はあんたを助けに来たのに」
バカみたいなことを言ってのける。
「お前に…、何ができるっていうんだ…。俺にはもう行く所も帰る所もない」
力なくベッドに腰掛ける。
「彼女に会わせてあげよう」
突然デミが提案する。思わず顔を上げた。
「それは…」
「もちろん、君が今一番会いたくてたまらない彼女だよ」
不敵な笑みは、悪魔のようだ。
「どこまで知ってる?」
これほどまでに自分の情報が筒抜けであることに、
得体のしれない恐怖を感じた。
こいつは結局なんなんだ?デミとは何なんだ?
本当にユウキたちの言うような社会の底辺で働く、無知で無能な生き物なのか?
「僕は結構物知りなのさ。この耳だからね」
獣人はそう言っフードに隠れた長い耳をピンと立てる
俺は押し黙った。
この生き物を信用していいのだろうか?
いや、できようはずがない。
だが、そんなこと関係はなかった。
わずかでも再び彼女に会える可能性があるのなら。
顔を上げる。獣の目がそれを満足そうにとらえる。
「ついておいで」
人間の子供ほどの小さな手が俺に向って差し出される。
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