小指の約束

すもも

文字の大きさ
3 / 9

02

しおりを挟む
雨の音が容赦なく地面を叩き付けている。剛は公園の屋根の下で人を待っていた。スマートフォンのデジタル時計は深夜の1:10を指している。どうしても決着させなくてはならない話があった。けれどこんな夜中でなくてもよかったのではないかと冷静な思考も存在していたが今更止めたなどとは言い出せない。

ぱしゃりと雨音に別の音が混じった。

音の方向を見ると女が傘を差してこちらに向かってきた。ゆっくりとたしかな足取りで。何処かでみた光景だ、たしかにこれをどこかで見ている。剛はぼんやりと女を見つめて、

「―っ」

声にならない悲鳴が盛れた、体が硬直して動かない。知っている、たしかにこの光景を知っている。女が口を開く。ざりざりとノイズが混じった声。

「どうして私を殺したの?」

女の言葉に喉が引きつる、声を出したいのに声が出ない。俺じゃない、お前が勝手に死んだのだ。

「どうして私を殺したたの?」

ざざっと女の姿が消えたかと思えば、それは近くまで迫っていた。声にならない悲鳴をあげて剛は布団から起き上がった、ここが何処なのかわからずに暗闇のなか目をしばたかせて、何かを見つけるために頭を動かす。ようやくスタンドライトを見つけると明かりをともす。心臓がばくばくと響いて落ち着かない、灯りをつけても落ち着かず視線を彷徨わせて、隣に眠っている涼子を見とめてようやくここが自分の部屋だということを認識する。

「大丈夫?」

いつの間にか眠っていたらしい、涼子は剛を責めることなく心配そうにこちらを伺った。

「気持ち悪い、洗面所行ってくる」

付き添おうとする涼子の申し出を断りふらふらする足取りで洗面所へと向かった。蛇口をひねって水が落ちる、その冷たさが心地よかった。顔を洗って、蛇口を閉めて近くにかかっているタオルを手繰り寄せ顔を拭く。顔を洗ったら少しすっきりしたかもしれない。ふうと一息ついて顔を上げる。暗がりの鏡の中に黒髪の女が写っていた。悲鳴をあげてたたらを踏み尻餅をつく。

「何やってるの?ほんとに大丈夫?」

ぱちりと電気をつけられてそこに居たのは涼子だと気づく。心臓に悪い。

「涼子…やっぱ髪切れよ」

今までも何度かその長い黒髪を見て、あの女を思い出したことがあったが今はその比じゃない。何故か現れたあのピンキーリング。それが剛の心を必要以上に乱していた。

「だーかーらー願掛けしてるんだってば!心配して来てあげたのに」

頬を膨らませてしまった。折角の同居生活初日なのに彼女の機嫌を損ねてばかりだ。けれど涼子のお陰で気持ちは落ち着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

唯一魂の侵蝕

白猫斎
ホラー
大学三年、夏。退屈を埋めるための些細な悪ふざけ。 閉鎖された「幽霊マンション」へ足を踏み入れた五人を待っていたのは、光さえも物質として削り取る漆黒の闇だった。 闇を抜け、日常へ帰還したはずの瀬良結希を待っていたのは、決定的な違和感。 事故で失った十五歳の妹、結奈。遺影の中で静止していたはずの彼女が、そこでは「生きた質量」として、温かな吐息を漏らしていた。 喜びに沸く周囲。だが結希だけは気づく。この世界に魂は一つしかない。 私たちがここへ来たのなら、元からいた「私」はどこへ消えたのか。 五感に突き刺さるようなリアリズムで描かれる、実存を賭けた「上書き」の記録。 ※生成AI(Gemini)をプロット検討、文章校正などの補助に使用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...