小指の約束

すもも

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カチカチカチカチ
ざあざあざあざあ

時計の音と、雨の音がやけに煩い。

時計を見ると22:00を示していた。涼子はまだ帰って来ない。道草でも食っているのか、それとも、あの女が関係しているのか。ありえない考えだったが剛はそれを否定することはできなくなっていた。剛は立ち上がると玄関へと駆けていく、ドアを開いたところでひらりと隙間に挟まっていた紙がおちたことに気づいた。レシートだ。近くのスーパーのレシート。ステーキ肉、ステーキのたれ、じゃがいも、にんじん、…などが並んでいるただのレシート、今日買い物に行った涼子のものであることはすぐに気づいた。それを裏返しにして目を見開く。涼子の字だ。

「私と一緒に暮らすことで剛君がなんらかのストレスになっているのだとおもいます、しばらく距離をおきましょう?」

違う、涼子のせいじゃない、剛は玄関を開けてエレベーターを降りて外に出る、雨が降っている。剛の肩を雨が濡らしていく、視線を彷徨わせても涼子の姿は見えない。

当然だ、あれから何時間か経過したと思っている。涼子のせいじゃない、それを伝えたいのに、スマートフォンは自分で砕いてしまった。誰のせいだ、あの女だ、あの女がすべて悪いのだ。恐怖が怒りに変わってきた、けれどぶつけるべき相手はこの世にはいない、いない、いないのか、本当に?生きていることを否定してきたが、指輪が戻ってくることといい、電話といい、やっぱり彼女は生きているんじゃないか。剛はいてもたってもいられなくなり、スコップと車の鍵だけつかむとあの林へと向かった。

雨は強く振っていてワイパーを懸命に動かしても前が見づらいほどだった。あの日と同じように車を停めぬかるんだ地面を踏みしめる、気持ち悪いがこれは必要なことなのだ。林の中を回ってそれらしき場所に目星をつけてみたがあの日はとにかく必死で場所など覚えているはずもなく。

この辺りだったと掘り起こしてみてもただ土をいたずらに掘っただけに終わる。なにを馬鹿なことをやっているのだろうと自傷的な笑みまで漏れてきた。たしかに目の前で死んで死体をこの手で埋めた女をまた掘り起こそうなんて。しかももしかしたら生きているかもしれないなんて。

「はは、あははは」

たまらず笑い声が漏れた、自分がどうにかなってしまったのではないかとただひたすら笑い続けた。もし誰かが通りがかったらあまりにも異様な光景に恐怖で凍りつくだろう。それでも剛は掘り進めた、まだ笑い声は続く。

ああ、雨がわずらわしい。
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