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第10章 氷の間とルベイの町
第204話 もう一つの氷の間①(side エバンズ団長)
しおりを挟むフェリズ山脈・氷の間前――
東の魔女ダリアが死に、その遺体を西の魔女コレットと北の魔女ナリシア、南の魔女ダレーシアンが魔法で潔め、【埋葬の儀】を行なった。魔女が亡くなった際に行う儀式を、我々にも見届けて欲しいとダレーシアンが言った。
それは、本当にもう、ダリアがこの世に居ないという事を証明することにもなるのだと、彼女は言った。
万が一、またどこかに依代があるとなれば、この儀式は途中で魔法が発動しなくなるのだと。儀式を最後まで執り行えたら、本当にもうこの世には存在しない証なのだそうだ。
その儀式は、今まで一度も見た事のない、聞いた事もない魔術ではじまり、とても不思議なものだった。
無事に儀式が終わると、ヒューバートさんが口を開いた。
「私は王都へ戻る。バイルンゼルが、どこまで攻めて来ているか気掛かりだ。今回の争いには地底に棲む者も居るだろうからな」
ヒューバートさんの言葉に、俺は「地底に棲む者?」と、初めて聞く名を口にする。
「八百年前の争いで、疫病を流行らせた者達だ。ダリアが引き連れていたのだ。この度の争いはダリアが関係しているため、恐らく奴等も居るだろ」
「それは間違いないだろう。皇帝の側に居た者も、地底に棲む者であると、私は睨んでいるからな。ヒューバート殿、私も一緒にガブレリア王国へ向かおう。皇太子も居る事だ。助けに行かなくてはな」
ヒューバートさんは頷いた。
「私も一緒に向かいます」
そう声を上げたのは、コレットだった。
「疫病が蔓延するかも知れないのですよね? ならば、私が何かお役に立てるかも知れません」
「しかし、向かう先は戦場だぞ?」
ヒューバートさんが驚きながら言う。
「はい、承知しております。ですが、私は魔女です。そう足手纏いには、なりません」
「しかし……」
「ヒューバート殿、コレットはもう立派な正式な魔女だ。自分の身は自分で守れるだけの力はある。心配せずとも大丈夫だ」
ダレーシアンがそう言うと、ヒューバートさんは困惑した様に顔を顰めた。だが、決断したのだろう「わかった」と一言、頷いた。
「エバンズ、お前も来い」
ヒューバートさんが俺を見て言う。俺は「しかし、」と抱きかかえているアリスを見下ろした。
「アリスはしばらく、ここに居た方が良いだろう。ガブレリアへ連れて行くには、ここよりも危険すぎる。アレックスはレオンと共にアリスの側に付いていろ。ナリシア殿、娘と息子を頼めるだろうか」
ヒューバートさんがナリシアへ向くと、「承知した」と快諾した。
「そういう事だ。エバンズ、お前はフィンレイ騎士団の団長として、私と共に来い」
俺は一度強く目を閉じてから、ヒューバートさんを真っ直ぐに見つめ「はい」と強く返した。
アリスをアレックスに託すと、俺はヒューバートさんと共に神獣様の背中に乗ってガブレリア王国へと飛び立った。
***
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