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理由
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「ラキティスは願いがあってセルフィーユに近付いた。本気になったのはセルフィーユで、ラキティスがいつからセルフィーユに情を持ったか分からない。ただ彼女は、あの城に留まっていたから、俺がいない間に想い合っていたんだろう」
寂しそうに言ってくれるが、理解に乏しいのは自分だけだろうか。お願いがあってセルフィーユに近付いて、それで身体を渡して? その前はマルヴィラと繋がっていて?
「え、昼ドラなの? どろどろなの? それで一緒にやってたって、もう昼ドラだよね」
「何だそれは?うまいのか?」
まったくうまいものではない。理解し難くて、マルヴィラをとりあえず押しのける。しかし顔のわりにガタイのいい身体をしているマルヴィラはびくともせず、山なりに沿って頂きを食んだ。
「や、待って、待って!」
「今のお前を味わいたい。ラキティスは感じやすかったが、お前はどうだ? 中に入れば声を出すまいと我慢するくせに、すぐに喘いで鳴き続けるのか? 抵抗しようとするくせに、すぐに力を失くしてその身を委ねるのか?」
マルヴィラの囁くような甘い声が耳元で響く。ぞわりと寒気がするのは、この声音が内耳に響いて痺れるように届くからだ。
「わ、わたしは」
ラキティスではない。
同じことしか言えず突っぱねようと両手で押し上げようとしたとき、マルヴィラの身体がふわりと浮いて、後ろに投げ出された。
「いなくなったと思えば、お前ですか。いつ戻っていたんです?」
「セルフィーユ!」
いつの間にか現れていたのはセルフィーユだ。ほっと安堵を胸に抱いて、凛花はすぐに起き上がった。はだけた胸元を押さえると、セルフィーユが飛び付かんばかりに口付けた。
「うむ、むむうっっ。はあっ」
「あなたは、あとでお仕置きですよ。マルヴィラに触れられたところは私が消して差し上げます」
しっかり舌まで入れて激しい口付けをしたくせに、優しい言葉とは裏腹に、静かで冷ややかな声音が寒気を感じさせてくる。
「さて、この大馬鹿者はどうしましょうか。城には戻らぬのではなかったのですか?」
「城の気配がおかしいからだろ。行かなくてもすぐに気付く。浮かれた気配を出したのはお前だろう。まさか、連れ戻すとは思わなかった」
「当然でしょう。探し続けたのです。あなたはあのまま探すことなどせずに身を引いたのですから、そのまま下がればよろしい。凛花。戻りましょう」
座り込んだままのマルヴィラを背に、セルフィーユは凛花の手を取ると、ふっと小さく笑んだ。
そう見えた時には既に背景が変わり、見慣れた当てがわれた部屋に一瞬で辿り着き、マルヴィラの姿はどこにもなかった。
「心配しましたよ、凛花。マルヴィラに触れられたのはどこですか?」
当たり前にベッドに押し倒して、セルフィーユは心配げに顔を覗き込む。
「何を聞かされたのか、顔色が悪い。お風呂に入りましょうか? 身体を温めてゆっくりした方がいいでしょうか?」
正直ゆっくり風呂に浸かり何も考えずにのんびりできたらいいが、情報過多で頭は混乱したままだ。セルフィーユから押し付けられたラキティスへの愛が、結構な歪の中にあることが分かった。だからとりあず、押し倒すのはやめてほしい。
「色々理解できないことがありすぎて。ラキティスさんて、何が望みでこの城に来たの?」
お互い愛し合っていたから、セルフィーユが亡くなったラキティスの身代わりを探していたのかと思っていたが、想像以上に複雑で、理解の範疇外だった。
セルフィーユはじっとこちらを見つめたが、小さく息を吐くと凛花を起き上がらせる。
「そうですね。何から話せばいいでしょうか」
言いながら人を引き摺るように後ろ向きにさせると、背後からきつく抱きしめて頭に口付ける。そしてもう一度、小さくため息を吐いた。
「ラキティスはここから降りた谷の下、小さな村の人間でした」
小さな村。先ほどマルヴィラに連れられた廃村だろう。火事でもあったかのような燃え切った家々。見た感じかなり昔に燃えたようで、木組に草が巻き付き屋根まで達していた。雑草も自分の腰近くまであって道すらない。花壇は栄養があるのかさらに長い雑草が蔓延っていた。
そんな場所にいつ村人が住んでいたのか。人が住んでいる気配などなかった。誰かいれば足元の雑草も少しは踏みならされているだろうが、その様子も全くなかった場所だ。
「私は昔、都に住んでいましたが、多くの戦いに疲れてこちらに城を設けました。私が魔王たる力を持ち、その力を誇示するつもりがなくとも、私の周囲には面倒な者が現れ、静寂を掻き乱すからです」
セルフィーユは淡々と、その状況を説明した。
セルフィーユは力のあるものだった。人ではなく魔物であるが、力を持つと人型になり人と変わらない姿を持てる。人型の魔物は人との生活に混じることは可能だ。そこで短気を起こして人を殺さず、正体を隠し角や羽などの異形を見せなければ、人に気付かれることはない。
セルフィーユも人に混じり生活が行えたが、セルフィーユは魔物にだけが分かる自分の力の強さに邪魔をされてきた。
力があると強さを求める魔物が集まってくる。セルフィーユの力に恐れてもその力に魅了され引き寄せられるもの。その力を打ち負かそうと気炎を上げ猛然と向かってくるもの。
セルフィーユは戦う気がなくとも、魔物はそれを許さない。
それを退ければ次には人が寄ってくる。魔物を倒したことに喜び礼を言うだけならまだいい。媚びを売り力を得たいと近づく者。セルフィーユの美貌に魅了され心奪われる者。様々な理由で近寄ってくる者が多くいた。
人は魔物が近付けば皆恐れるが、いなければ興味を持って近付いてくる。そうなるのはセルフィーユが何事にも興味がなく、人がセルフィーユを攻撃しようとはしない限り、人を傷付けていなかったからだ。
「人は勘違いをする。何もしなければ味方になり得るのだと」
セルフィーユの妖艶な美しさに放心する者は多く、人はセルフィーユを欲しがった。そこには魔物が付いてくる。魔物はセルフィーユの強さに引き寄せられる。
セルフィーユは攻撃されれば反撃をする。人々はそれに歓喜し、更に関係を深めたいと擦り寄ってくる。
その間もセルフィーユは魔物と対峙し、そのため魔物が急速に数を減らしていった。
そこに目を付けた者はセルフィーユを利用しようとするだろう。セルフィーユの存在があれば他国を滅ぼすことくらい可能なのだと考える者もおり、それが周知されれば国同士の戦いになってもおかしくない。
人はセルフィーユを恐れながら、しかしその強さに傅き、セルフィーユの力を求めて人同士の戦いも始まった。
中央の戦い。その戦いで多くの魔物が死に、多くの人々が亡くなった。
「その渦中、私は鬱陶しさに都を去りました。戦いたいのならば好きにすれば良い。人も魔物も何と戦っていたのか。お互いを滅ぼし合ったのですよ。あなたは、そう言うのは嫌がるでしょうが、あの頃の私にとって誰がどう死のうが、全く興味がありませんでした」
セルフィーユの穏やかで慈愛の溢れるような顔からは到底考えられないような言葉に、凛花は言葉を掛けられずにいた。
大きな戦いがあったと言うことも、戦争を知らない凛花にとって想像できないことであったが、国の戦いにも発展したとならば大きな犠牲を伴ったのだろう。
しかしそんなこともどうでも良く、セルフィーユは鬱陶しい小虫たちが周囲にいることが面倒になり、この場所に城を造り静かに過ごすことにした。
人の住まわぬ高地。冬の厳しい場所。
「けれど、いつしか湖の先に村を作った者たちがいました。そこに、ラキティスもいたのです」
中央から逃げてきた者たちが、住処を探して村を作った。村の中には兵士も混じり、魔物や戦火を逃れて安全な地を求めた。
「セルフィーユがいることは、知らなかったんだ?」
「戦いの根源が何だったのか知らぬ者たちがこの城を見ても、権力者が住んでいるくらいにしか思わないでしょう。それに、人からすればここから村は遠い。山を登らねばならないですし、魔物もいる。簡単に来られる場所ではありません。城は村から見えても遠い場所。ここに来ようとは思わない」
「偉い人がいて、目を付けられても困るってかんじか」
「そうですね」
城は高台にあって山の裾野に位置している。それが山の下から少しだけ見えるらしい。そんなところに城があれば偉い人がいると思うだろうし、近付こうとはしないだろう。権力者の土地に入り込んでは、何をされるか分からない。
戦火から逃れてきたのに、好き好んでトラブルになりそうな城へは誰も行こうとしないのだ。
「けれど、そこにラキティスが現れたのです。湖に堤を造っても良いかと、許可を得に」
「堤?」
「そこの湖から流れる川が、ラキティスの住む村の近くを流れている。小さな川ですが、雨が降ると溢れて洪水になるんです。落差があるので、普段流れない支流ができ、よく村に流れていたとか」
「湖は城の持ち物だと思って、支流ができないように堤を作りたいってわざわざ言いにきたんだ?」
国がまともに働いていないのならば、自分たちで作るしかなかったのだ。
「春先に大雨が降ると谷の下は洪水に見舞われる。湖から溢れた水が流れて、村に被害が出る。そのためには湖に堤を作り、川の水が溢れないようにする。好きに行えばいいでしょう。けれど、そこは城から見える湖で、景色が変わってしまうからと、わざわざ私に尋ねに来たんですよ」
有力者がいると思えば許可を得に行くしかないと思うのだが、しかしセルフィーユはそれについて驚きを持ったらしい。
「魔王と言っても私は静かな場所でゆっくりしたかった。戦いに疲れて造った城ですから、邪魔が入れば何とでもします。しかし村人などはこちらに来なかったので気にもしていませんでした。ラキティスが来て村人がいたことを確認したくらいです。私にとって魔物も人も同じで、私の邪魔をしなければどの気配も同じですから」
テリトリーを犯さなければ興味も持たない。セルフィーユはラキティスが現れて初めて人が近くに住んでいたことを認識したようだが、それよりもラキティスが一人で現れたことに驚いたそうだ。
セルフィーユが戦いの喧騒に嫌気が差して辺境へ身を寄せていても魔物はついてくる。戦いを求める魔物ではなく、セルフィーユの力に畏敬の念を持つような魔物だ。
追っかけみたいなものだろうか。しかし、それでも魔物なので、戦いを恐れて逃げてくるような人間が、魔物がうろついているセルフィーユのお膝元にわざわざ危険を顧みず訪れることはないはずだと、セルフィーユは思っていたらしい。
「魔物って、そんなにうろうろしてるの? この前、湖に行った時にも何もいなかったけど」
確かにこの城には不思議な小鳥はいるが、魔物と言う恐ろしいものは見たことないし、外にもその気配はない。
セルフィーユは、ふっと微笑んだ。
「そう思っているのは、あなただけですよ」
「私だけ?」
寂しそうに言ってくれるが、理解に乏しいのは自分だけだろうか。お願いがあってセルフィーユに近付いて、それで身体を渡して? その前はマルヴィラと繋がっていて?
「え、昼ドラなの? どろどろなの? それで一緒にやってたって、もう昼ドラだよね」
「何だそれは?うまいのか?」
まったくうまいものではない。理解し難くて、マルヴィラをとりあえず押しのける。しかし顔のわりにガタイのいい身体をしているマルヴィラはびくともせず、山なりに沿って頂きを食んだ。
「や、待って、待って!」
「今のお前を味わいたい。ラキティスは感じやすかったが、お前はどうだ? 中に入れば声を出すまいと我慢するくせに、すぐに喘いで鳴き続けるのか? 抵抗しようとするくせに、すぐに力を失くしてその身を委ねるのか?」
マルヴィラの囁くような甘い声が耳元で響く。ぞわりと寒気がするのは、この声音が内耳に響いて痺れるように届くからだ。
「わ、わたしは」
ラキティスではない。
同じことしか言えず突っぱねようと両手で押し上げようとしたとき、マルヴィラの身体がふわりと浮いて、後ろに投げ出された。
「いなくなったと思えば、お前ですか。いつ戻っていたんです?」
「セルフィーユ!」
いつの間にか現れていたのはセルフィーユだ。ほっと安堵を胸に抱いて、凛花はすぐに起き上がった。はだけた胸元を押さえると、セルフィーユが飛び付かんばかりに口付けた。
「うむ、むむうっっ。はあっ」
「あなたは、あとでお仕置きですよ。マルヴィラに触れられたところは私が消して差し上げます」
しっかり舌まで入れて激しい口付けをしたくせに、優しい言葉とは裏腹に、静かで冷ややかな声音が寒気を感じさせてくる。
「さて、この大馬鹿者はどうしましょうか。城には戻らぬのではなかったのですか?」
「城の気配がおかしいからだろ。行かなくてもすぐに気付く。浮かれた気配を出したのはお前だろう。まさか、連れ戻すとは思わなかった」
「当然でしょう。探し続けたのです。あなたはあのまま探すことなどせずに身を引いたのですから、そのまま下がればよろしい。凛花。戻りましょう」
座り込んだままのマルヴィラを背に、セルフィーユは凛花の手を取ると、ふっと小さく笑んだ。
そう見えた時には既に背景が変わり、見慣れた当てがわれた部屋に一瞬で辿り着き、マルヴィラの姿はどこにもなかった。
「心配しましたよ、凛花。マルヴィラに触れられたのはどこですか?」
当たり前にベッドに押し倒して、セルフィーユは心配げに顔を覗き込む。
「何を聞かされたのか、顔色が悪い。お風呂に入りましょうか? 身体を温めてゆっくりした方がいいでしょうか?」
正直ゆっくり風呂に浸かり何も考えずにのんびりできたらいいが、情報過多で頭は混乱したままだ。セルフィーユから押し付けられたラキティスへの愛が、結構な歪の中にあることが分かった。だからとりあず、押し倒すのはやめてほしい。
「色々理解できないことがありすぎて。ラキティスさんて、何が望みでこの城に来たの?」
お互い愛し合っていたから、セルフィーユが亡くなったラキティスの身代わりを探していたのかと思っていたが、想像以上に複雑で、理解の範疇外だった。
セルフィーユはじっとこちらを見つめたが、小さく息を吐くと凛花を起き上がらせる。
「そうですね。何から話せばいいでしょうか」
言いながら人を引き摺るように後ろ向きにさせると、背後からきつく抱きしめて頭に口付ける。そしてもう一度、小さくため息を吐いた。
「ラキティスはここから降りた谷の下、小さな村の人間でした」
小さな村。先ほどマルヴィラに連れられた廃村だろう。火事でもあったかのような燃え切った家々。見た感じかなり昔に燃えたようで、木組に草が巻き付き屋根まで達していた。雑草も自分の腰近くまであって道すらない。花壇は栄養があるのかさらに長い雑草が蔓延っていた。
そんな場所にいつ村人が住んでいたのか。人が住んでいる気配などなかった。誰かいれば足元の雑草も少しは踏みならされているだろうが、その様子も全くなかった場所だ。
「私は昔、都に住んでいましたが、多くの戦いに疲れてこちらに城を設けました。私が魔王たる力を持ち、その力を誇示するつもりがなくとも、私の周囲には面倒な者が現れ、静寂を掻き乱すからです」
セルフィーユは淡々と、その状況を説明した。
セルフィーユは力のあるものだった。人ではなく魔物であるが、力を持つと人型になり人と変わらない姿を持てる。人型の魔物は人との生活に混じることは可能だ。そこで短気を起こして人を殺さず、正体を隠し角や羽などの異形を見せなければ、人に気付かれることはない。
セルフィーユも人に混じり生活が行えたが、セルフィーユは魔物にだけが分かる自分の力の強さに邪魔をされてきた。
力があると強さを求める魔物が集まってくる。セルフィーユの力に恐れてもその力に魅了され引き寄せられるもの。その力を打ち負かそうと気炎を上げ猛然と向かってくるもの。
セルフィーユは戦う気がなくとも、魔物はそれを許さない。
それを退ければ次には人が寄ってくる。魔物を倒したことに喜び礼を言うだけならまだいい。媚びを売り力を得たいと近づく者。セルフィーユの美貌に魅了され心奪われる者。様々な理由で近寄ってくる者が多くいた。
人は魔物が近付けば皆恐れるが、いなければ興味を持って近付いてくる。そうなるのはセルフィーユが何事にも興味がなく、人がセルフィーユを攻撃しようとはしない限り、人を傷付けていなかったからだ。
「人は勘違いをする。何もしなければ味方になり得るのだと」
セルフィーユの妖艶な美しさに放心する者は多く、人はセルフィーユを欲しがった。そこには魔物が付いてくる。魔物はセルフィーユの強さに引き寄せられる。
セルフィーユは攻撃されれば反撃をする。人々はそれに歓喜し、更に関係を深めたいと擦り寄ってくる。
その間もセルフィーユは魔物と対峙し、そのため魔物が急速に数を減らしていった。
そこに目を付けた者はセルフィーユを利用しようとするだろう。セルフィーユの存在があれば他国を滅ぼすことくらい可能なのだと考える者もおり、それが周知されれば国同士の戦いになってもおかしくない。
人はセルフィーユを恐れながら、しかしその強さに傅き、セルフィーユの力を求めて人同士の戦いも始まった。
中央の戦い。その戦いで多くの魔物が死に、多くの人々が亡くなった。
「その渦中、私は鬱陶しさに都を去りました。戦いたいのならば好きにすれば良い。人も魔物も何と戦っていたのか。お互いを滅ぼし合ったのですよ。あなたは、そう言うのは嫌がるでしょうが、あの頃の私にとって誰がどう死のうが、全く興味がありませんでした」
セルフィーユの穏やかで慈愛の溢れるような顔からは到底考えられないような言葉に、凛花は言葉を掛けられずにいた。
大きな戦いがあったと言うことも、戦争を知らない凛花にとって想像できないことであったが、国の戦いにも発展したとならば大きな犠牲を伴ったのだろう。
しかしそんなこともどうでも良く、セルフィーユは鬱陶しい小虫たちが周囲にいることが面倒になり、この場所に城を造り静かに過ごすことにした。
人の住まわぬ高地。冬の厳しい場所。
「けれど、いつしか湖の先に村を作った者たちがいました。そこに、ラキティスもいたのです」
中央から逃げてきた者たちが、住処を探して村を作った。村の中には兵士も混じり、魔物や戦火を逃れて安全な地を求めた。
「セルフィーユがいることは、知らなかったんだ?」
「戦いの根源が何だったのか知らぬ者たちがこの城を見ても、権力者が住んでいるくらいにしか思わないでしょう。それに、人からすればここから村は遠い。山を登らねばならないですし、魔物もいる。簡単に来られる場所ではありません。城は村から見えても遠い場所。ここに来ようとは思わない」
「偉い人がいて、目を付けられても困るってかんじか」
「そうですね」
城は高台にあって山の裾野に位置している。それが山の下から少しだけ見えるらしい。そんなところに城があれば偉い人がいると思うだろうし、近付こうとはしないだろう。権力者の土地に入り込んでは、何をされるか分からない。
戦火から逃れてきたのに、好き好んでトラブルになりそうな城へは誰も行こうとしないのだ。
「けれど、そこにラキティスが現れたのです。湖に堤を造っても良いかと、許可を得に」
「堤?」
「そこの湖から流れる川が、ラキティスの住む村の近くを流れている。小さな川ですが、雨が降ると溢れて洪水になるんです。落差があるので、普段流れない支流ができ、よく村に流れていたとか」
「湖は城の持ち物だと思って、支流ができないように堤を作りたいってわざわざ言いにきたんだ?」
国がまともに働いていないのならば、自分たちで作るしかなかったのだ。
「春先に大雨が降ると谷の下は洪水に見舞われる。湖から溢れた水が流れて、村に被害が出る。そのためには湖に堤を作り、川の水が溢れないようにする。好きに行えばいいでしょう。けれど、そこは城から見える湖で、景色が変わってしまうからと、わざわざ私に尋ねに来たんですよ」
有力者がいると思えば許可を得に行くしかないと思うのだが、しかしセルフィーユはそれについて驚きを持ったらしい。
「魔王と言っても私は静かな場所でゆっくりしたかった。戦いに疲れて造った城ですから、邪魔が入れば何とでもします。しかし村人などはこちらに来なかったので気にもしていませんでした。ラキティスが来て村人がいたことを確認したくらいです。私にとって魔物も人も同じで、私の邪魔をしなければどの気配も同じですから」
テリトリーを犯さなければ興味も持たない。セルフィーユはラキティスが現れて初めて人が近くに住んでいたことを認識したようだが、それよりもラキティスが一人で現れたことに驚いたそうだ。
セルフィーユが戦いの喧騒に嫌気が差して辺境へ身を寄せていても魔物はついてくる。戦いを求める魔物ではなく、セルフィーユの力に畏敬の念を持つような魔物だ。
追っかけみたいなものだろうか。しかし、それでも魔物なので、戦いを恐れて逃げてくるような人間が、魔物がうろついているセルフィーユのお膝元にわざわざ危険を顧みず訪れることはないはずだと、セルフィーユは思っていたらしい。
「魔物って、そんなにうろうろしてるの? この前、湖に行った時にも何もいなかったけど」
確かにこの城には不思議な小鳥はいるが、魔物と言う恐ろしいものは見たことないし、外にもその気配はない。
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