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マルヴィラ
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「ここにいたやつらの生き残りだろう。城に入ってくるな。あそこに入っていいのはお前みたいな人間じゃない」
男はそう言うと人の手をゴミでも捨てるように振り払おうとし、ばさりと羽を動かした。
しかし、投げ捨てようとしたはずなのに、にゅっと顔を人の鼻先まで近付けた。
「え、な、なに!?」
セルフィーユのように口付けでもするかのように顔を近付けられて、凛花は後ずさろうとするが、男は無遠慮に、吐息がかかるほど近寄ってくる。
「お前、ラキティス?」
「え?ち、違います」
「違くない。まさか、本当に見付けたのか」
慟哭が開かんばかりに男は目を見開いて、放り投げようとした凛花をふわりと抱き上げた。体重を感じさせない動きにどう対応していいかわからない。凛花の腰に男の腕が巻き付き、今度は凛花が男に覆い被さりそうになる。
「ちょ、あの、別人です。私は凛花。ラキティスさんじゃありません」
「名前なんて問題ではない。ああ、まさか、本当に見付けるとは思わなかった。通りで、城の空気が開けたわけだ」
「ひらける??」
意味がわからないが、とにかく離して欲しい。男に抱きかかえられながら、凛花は男の肩を押したがびくともしない。端正でありながら色気を感じる顔に近付きすぎて、男の吐息が当たる。
居心地が悪くて仕方ないのに、男の口端がゆっくりと上がるのを見て、凛花はセルフィーユと同じ、獰猛な獣のような雰囲気を肌に感じた。
「んっ」
突如、入り込んだ生暖かいものが凛花の口内を蹂躙した。
「は、んんっ」
ぬるりと絡んだ舌が凛花のそれと重なる。息もできないほど突然で、熱い舌が凛花に押し付けられる。押さえられた頭と背中にある腕は身動きすら封じて、凛花は男の舌を受け入れるしかなかった。
「んん、はあ」
絡まった舌がとかれて唾液が滴り落ちる。それをぺろりと舐められて、ぞくりと寒気を感じた。抱き上げられていた身体がとさりと柔らかな何かにおろされて、凛花は背中に冷たい指先が這うのに気付いた。
今さっき自分は焼け焦げた木組みの家々と、自分の腰近くまで草が生えた寂しい廃村のような場所にいたはずなのに、倒れ込んだら今度は背景が一色の場所にいたのだ。
驚きに声を上げようとすると、男の熱い口付けが凛花の口を塞ぐ。
「ま、んん、待って」
「待てないな。お前を本当に連れてくるなんて思いもしなかった。ラキティス。セルフィーユの想い人」
ごくりと喉が鳴った。男の声は低く深みを増した声で、暗い瞳は凛花を飲み込むほど闇に近い。熱い口付けを交わしながら、人を呪い殺しそうな私怨を孕んでいる。
濡羽色の髪が凛花の頬に触れた。目の前は真っ暗なのに、周囲は白の布が垂れ下がる、真昼のように明るい清廉な場所。ふかふかの地面は居心地のいいベッドのようで、寝転がっただけで簡単に眠りについてしまいそうなのに、男の姿だけが闇に包まれている。
押し倒された身体についと指先がなぞった。逃げられないように背中はがっちりと力強い腕が巻かれている。片方の指が無防備な突起に触れると、布越しに摘んだ。
「あ、やめ」
男はもう一方の突起に吸い付いてくる。布ごと食みながら、時にかじった。
「ラキティス。もうセルフィーユに抱かれたか?これだけの時を経て探したのならば、もう抱いたのだろうな。執念にもほどがある」
「やめてくださいっ」
「なぜ?あれほど肌を合わせたのに?セルフィーユが突けば、お前は俺のものを咥えたのに?」
ちょっと待って。色気のある声で形のいい唇を舌でなぞりながら、話す内容がえぐい。
男は混乱する凛花などそっちのけで、布を濡らしながらスカートの中を手で弄った。
「待って、待って。無理。二人なんて無理!」
「口だけはそう言って、攻められれば逃げることのないお前だ。この身体でも俺を受け入れるんだろう?」
言って、男は凛花の抵抗など気にもせず、凛花の両足を広げた。ぱくりと布越しに噛み付いたが、それを咥えて引き摺り下ろす。
「ちょ、ま、待って、待って、待って!」
そもそもこの人誰ですか。しかも、どう言うこと?魔王がいれば魔物?で、しかも二人一緒にとか、ラキティスさん、何をしているの!?
男の頭を押して抵抗しようとしたが、ぐん、と手首を何かに引っ張られた。両手首が宙に取られると、次に両膝が何かに引かれる。力強い何かが自由を奪うのだが、それが何なのかわからない。
まるで、見えない糸にでも絡んだように、身体が動かなくなった。
「大人しくすれば痛くない。セルフィーユが既に味わったのだろう。俺にも、お前の中を味わらせろ。お前を蹂躙しなければ、あいつはいつまでも不自由なままだ」
悲しげに言うくせに、怒りも滲ませた声が混乱しか招かない。そして言葉の意味が理解できなかった。
セルフィーユを慮るような発言をしながら、男は凛花の太ももに食いついた。力加減のない吸い付きは痛みを伴い、つい声を上げる。そうして、ゆっくりと布を失い露わになった秘所に、そろりと舌を這わせた。
「あ、やあ…」
太ももにはかぶりついたくせに、そろりと這う舌は優しく、くちくちと中を探る力が柔らかい。無理にこじ開けるわけではなく、ゆっくりと開くのを待っているかのようだ。
それが逆に感じてしまう。深くに舌を伸ばすのではなく、のろのろと嬲られればどうやっても触れられた箇所に熱を持つ。じんわりと濡れてくるのが分かって、羞恥に身体をばたつかせた。
「動くな。手首が切れるぞ」
言われた時にはもう遅い、糸のように手首に何かが食い込んだ。じわりと傷んで血が滲む。
一体何に手足を固定されているのか、食い込んだ線はとても細く、見えない糸が絡んでいるようだ。小さな痛みを伴いながら、けれど熱を持つ舌が入り込む。
「あっ。やだ、そこっ」
「ここがいいんだろう。分かっている」
何が分かるのか。男は指を押し付け秘所を広げた。凛花の花弁が濡れて滴り落ちそうになる。それを男は舌ですくうと、押し戻すように中に這わせた。
「やあっ。あんっ。駄目っ」
先程の口付けのように、舌がくちくちと中を絡めとる。広がり始めた道が舌を受け入れて、蜜を蕩け出し始めた。
受け入れたくないのに身体が感じてしまう。逃げようと身体を捩れば手首や内膝に痛みが走った。
どうやっても逃げられない。蜘蛛の巣にはまった小さな虫のように、餌を前にした大きな蜘蛛を相手にしているようだ。目の前にいる翼のある大きな獣は、その分身を立ち上げて、凛花の前に立ちはだかっていた。
「お前のせいで、セルフィーユはおかしくなってしまった。ひと時に現を抜かすだけならまだしも、いつまでもお前を探し求めて、昔の冷厳たる姿は今はどこにもない。お前など、セルフィーユによがらず、他からの蹂躙を受けていればいいんだ。セルフィーユは我らの王であり、我が友でもあったのに、人間の女になど気を奪われて、堕落してしまった」
怒りのこもった言葉は重いはずなのに、どう聞いても女に溺れて仕事が出来なくなった昔はできた上司みたいに聞こえて、正直人のせいにするなと言いたくなるんだが。
「それで、その女を襲う時点で、あんたもどうかしてると思うんだけど!?」
人の身体を固定して動けなくして、それを犯そうとする神経の方が余程おかしいだろう。だったら無理にでもその上司を止めたらどうなのか。
手足が動けば頭に蹴りを入れてやりたい。理不尽に力づくで犯される理由はない。
そもそも人違いだと言うのに。
「言いたいことがあるなら、本人に言え!」
膝が動かなければ足首を動かせばいい。捻った右足をかかと落としのように背中に打ち付けてやると、失敗したかな、男が衝撃で人の上にのしかかった。
意外にしっかりヒットしてしまった。その代わりに男の顔をまじまじ見つめる羽目になった。
セルフィーユに比べずとも整った顔立ちで、陶器のような美しい肌が羨ましいほどだ。後ろからのかかと落としに一瞬驚愕した顔を見せ、目を丸くしてても美人である。
「いいからどきなさいよ。人違いだって言ってるでしょ。大声出すわよ、この変態。束縛してやろうなんて、クズ中のクズよ。どけ!」
「…口が悪いな。罵詈雑言すぎないか?」
「いきなりおかしなところ連れられて大人しくなんてしてられるか。どいもこいつも、人の言葉聞きなさいよ。大体、あんた誰よ!」
「…マルヴィラ」
静かに口にして、マルヴィラは口を閉じた。まじまじとこちらを見てくるが、鼻がくっつくのでやめてもらいたい。
「いいから、どきなさいよ。腕痛いんですけど!」
「動くから痛む。無理に動かなければ痛んだりしない。ラキティスより凶暴な性格だな。あいつはもう少し大人しい女だった」
「だから、人違いだって!」
「性格などは同じにはならないだろう。魂が同じだけで育った環境は全く違うのだから」
マルヴィラは覆い被さっていた身体を起こすと、凛花を抱き寄せた。先程引っ張られていた力がなくなり、滲んでいた血が手首から垂れる。
それを、ぺろりと舐めて止めた。
「あれ、痛みが…」
紙で切ったかのような傷口が一瞬にして消え去る。マルヴィラは手首を舐め終えると、膝裏を持ち上げてそこに残った傷も舐めた。ひっくり返されて再び寝転んだ形になったのだが、唖然として言葉も出ない。
マルヴィラがもう一度凛花に覆い被さったからだ。
「え、ちょっと、やめたんじゃないの?」
「拘束しなければいいのだろう?」
「違うよね。それだけの話じゃないよね!」
「そうか?拘束しなければいいと言っていたように聞こえた」
「いや、違うから!」
押し問答しても怯む気はないと、マルヴィラが首元に舌を這わせる。吸い付いてはそこをぺろりと舐めて、首に痕を付けてクスリと笑む。
怒りを滲ませていたのにその雰囲気は消えて、なぜか愛しい者に愛撫するかのように、何度も食んでは舌を這わせ、ナメクジのようにのろのろと鎖骨を辿ると、膨らみの谷間に顔を埋めた。
「ラキティスは気は強いが口は悪くなかったんだがな。お前は随分違うようだ」
「人違いですからね!」
「人違いなどではない。よくも見付けてきたものだ。同じ色と輝き。魂の礎は同じ、ラキティスの光。何にでも隔てなく手を伸ばす、愚かな女。先に手を出したのは俺なのに、お前はセルフィーユも受け入れ、何度も身体を重ねた」
「ちょ、それ、駄目じゃない!?」
も、ってなんだ。も、って。二人とやってたから、もも当然か?え、どうなのそれ?しかも先に関係を持っていたのはマルヴィラだと言う。
ちょっと理解し難い。混乱に眉を傾げていると、なぜかマルヴィラはぷっと吹き出した。
「え、笑うところ?二人とも好きだったからって、二人と?どうなのそれ?」
今現在そのマルヴィラに組み敷かれて言うことではないが、ラキティスは二人に抱かれていたわけである。
それでいいの??
男はそう言うと人の手をゴミでも捨てるように振り払おうとし、ばさりと羽を動かした。
しかし、投げ捨てようとしたはずなのに、にゅっと顔を人の鼻先まで近付けた。
「え、な、なに!?」
セルフィーユのように口付けでもするかのように顔を近付けられて、凛花は後ずさろうとするが、男は無遠慮に、吐息がかかるほど近寄ってくる。
「お前、ラキティス?」
「え?ち、違います」
「違くない。まさか、本当に見付けたのか」
慟哭が開かんばかりに男は目を見開いて、放り投げようとした凛花をふわりと抱き上げた。体重を感じさせない動きにどう対応していいかわからない。凛花の腰に男の腕が巻き付き、今度は凛花が男に覆い被さりそうになる。
「ちょ、あの、別人です。私は凛花。ラキティスさんじゃありません」
「名前なんて問題ではない。ああ、まさか、本当に見付けるとは思わなかった。通りで、城の空気が開けたわけだ」
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意味がわからないが、とにかく離して欲しい。男に抱きかかえられながら、凛花は男の肩を押したがびくともしない。端正でありながら色気を感じる顔に近付きすぎて、男の吐息が当たる。
居心地が悪くて仕方ないのに、男の口端がゆっくりと上がるのを見て、凛花はセルフィーユと同じ、獰猛な獣のような雰囲気を肌に感じた。
「んっ」
突如、入り込んだ生暖かいものが凛花の口内を蹂躙した。
「は、んんっ」
ぬるりと絡んだ舌が凛花のそれと重なる。息もできないほど突然で、熱い舌が凛花に押し付けられる。押さえられた頭と背中にある腕は身動きすら封じて、凛花は男の舌を受け入れるしかなかった。
「んん、はあ」
絡まった舌がとかれて唾液が滴り落ちる。それをぺろりと舐められて、ぞくりと寒気を感じた。抱き上げられていた身体がとさりと柔らかな何かにおろされて、凛花は背中に冷たい指先が這うのに気付いた。
今さっき自分は焼け焦げた木組みの家々と、自分の腰近くまで草が生えた寂しい廃村のような場所にいたはずなのに、倒れ込んだら今度は背景が一色の場所にいたのだ。
驚きに声を上げようとすると、男の熱い口付けが凛花の口を塞ぐ。
「ま、んん、待って」
「待てないな。お前を本当に連れてくるなんて思いもしなかった。ラキティス。セルフィーユの想い人」
ごくりと喉が鳴った。男の声は低く深みを増した声で、暗い瞳は凛花を飲み込むほど闇に近い。熱い口付けを交わしながら、人を呪い殺しそうな私怨を孕んでいる。
濡羽色の髪が凛花の頬に触れた。目の前は真っ暗なのに、周囲は白の布が垂れ下がる、真昼のように明るい清廉な場所。ふかふかの地面は居心地のいいベッドのようで、寝転がっただけで簡単に眠りについてしまいそうなのに、男の姿だけが闇に包まれている。
押し倒された身体についと指先がなぞった。逃げられないように背中はがっちりと力強い腕が巻かれている。片方の指が無防備な突起に触れると、布越しに摘んだ。
「あ、やめ」
男はもう一方の突起に吸い付いてくる。布ごと食みながら、時にかじった。
「ラキティス。もうセルフィーユに抱かれたか?これだけの時を経て探したのならば、もう抱いたのだろうな。執念にもほどがある」
「やめてくださいっ」
「なぜ?あれほど肌を合わせたのに?セルフィーユが突けば、お前は俺のものを咥えたのに?」
ちょっと待って。色気のある声で形のいい唇を舌でなぞりながら、話す内容がえぐい。
男は混乱する凛花などそっちのけで、布を濡らしながらスカートの中を手で弄った。
「待って、待って。無理。二人なんて無理!」
「口だけはそう言って、攻められれば逃げることのないお前だ。この身体でも俺を受け入れるんだろう?」
言って、男は凛花の抵抗など気にもせず、凛花の両足を広げた。ぱくりと布越しに噛み付いたが、それを咥えて引き摺り下ろす。
「ちょ、ま、待って、待って、待って!」
そもそもこの人誰ですか。しかも、どう言うこと?魔王がいれば魔物?で、しかも二人一緒にとか、ラキティスさん、何をしているの!?
男の頭を押して抵抗しようとしたが、ぐん、と手首を何かに引っ張られた。両手首が宙に取られると、次に両膝が何かに引かれる。力強い何かが自由を奪うのだが、それが何なのかわからない。
まるで、見えない糸にでも絡んだように、身体が動かなくなった。
「大人しくすれば痛くない。セルフィーユが既に味わったのだろう。俺にも、お前の中を味わらせろ。お前を蹂躙しなければ、あいつはいつまでも不自由なままだ」
悲しげに言うくせに、怒りも滲ませた声が混乱しか招かない。そして言葉の意味が理解できなかった。
セルフィーユを慮るような発言をしながら、男は凛花の太ももに食いついた。力加減のない吸い付きは痛みを伴い、つい声を上げる。そうして、ゆっくりと布を失い露わになった秘所に、そろりと舌を這わせた。
「あ、やあ…」
太ももにはかぶりついたくせに、そろりと這う舌は優しく、くちくちと中を探る力が柔らかい。無理にこじ開けるわけではなく、ゆっくりと開くのを待っているかのようだ。
それが逆に感じてしまう。深くに舌を伸ばすのではなく、のろのろと嬲られればどうやっても触れられた箇所に熱を持つ。じんわりと濡れてくるのが分かって、羞恥に身体をばたつかせた。
「動くな。手首が切れるぞ」
言われた時にはもう遅い、糸のように手首に何かが食い込んだ。じわりと傷んで血が滲む。
一体何に手足を固定されているのか、食い込んだ線はとても細く、見えない糸が絡んでいるようだ。小さな痛みを伴いながら、けれど熱を持つ舌が入り込む。
「あっ。やだ、そこっ」
「ここがいいんだろう。分かっている」
何が分かるのか。男は指を押し付け秘所を広げた。凛花の花弁が濡れて滴り落ちそうになる。それを男は舌ですくうと、押し戻すように中に這わせた。
「やあっ。あんっ。駄目っ」
先程の口付けのように、舌がくちくちと中を絡めとる。広がり始めた道が舌を受け入れて、蜜を蕩け出し始めた。
受け入れたくないのに身体が感じてしまう。逃げようと身体を捩れば手首や内膝に痛みが走った。
どうやっても逃げられない。蜘蛛の巣にはまった小さな虫のように、餌を前にした大きな蜘蛛を相手にしているようだ。目の前にいる翼のある大きな獣は、その分身を立ち上げて、凛花の前に立ちはだかっていた。
「お前のせいで、セルフィーユはおかしくなってしまった。ひと時に現を抜かすだけならまだしも、いつまでもお前を探し求めて、昔の冷厳たる姿は今はどこにもない。お前など、セルフィーユによがらず、他からの蹂躙を受けていればいいんだ。セルフィーユは我らの王であり、我が友でもあったのに、人間の女になど気を奪われて、堕落してしまった」
怒りのこもった言葉は重いはずなのに、どう聞いても女に溺れて仕事が出来なくなった昔はできた上司みたいに聞こえて、正直人のせいにするなと言いたくなるんだが。
「それで、その女を襲う時点で、あんたもどうかしてると思うんだけど!?」
人の身体を固定して動けなくして、それを犯そうとする神経の方が余程おかしいだろう。だったら無理にでもその上司を止めたらどうなのか。
手足が動けば頭に蹴りを入れてやりたい。理不尽に力づくで犯される理由はない。
そもそも人違いだと言うのに。
「言いたいことがあるなら、本人に言え!」
膝が動かなければ足首を動かせばいい。捻った右足をかかと落としのように背中に打ち付けてやると、失敗したかな、男が衝撃で人の上にのしかかった。
意外にしっかりヒットしてしまった。その代わりに男の顔をまじまじ見つめる羽目になった。
セルフィーユに比べずとも整った顔立ちで、陶器のような美しい肌が羨ましいほどだ。後ろからのかかと落としに一瞬驚愕した顔を見せ、目を丸くしてても美人である。
「いいからどきなさいよ。人違いだって言ってるでしょ。大声出すわよ、この変態。束縛してやろうなんて、クズ中のクズよ。どけ!」
「…口が悪いな。罵詈雑言すぎないか?」
「いきなりおかしなところ連れられて大人しくなんてしてられるか。どいもこいつも、人の言葉聞きなさいよ。大体、あんた誰よ!」
「…マルヴィラ」
静かに口にして、マルヴィラは口を閉じた。まじまじとこちらを見てくるが、鼻がくっつくのでやめてもらいたい。
「いいから、どきなさいよ。腕痛いんですけど!」
「動くから痛む。無理に動かなければ痛んだりしない。ラキティスより凶暴な性格だな。あいつはもう少し大人しい女だった」
「だから、人違いだって!」
「性格などは同じにはならないだろう。魂が同じだけで育った環境は全く違うのだから」
マルヴィラは覆い被さっていた身体を起こすと、凛花を抱き寄せた。先程引っ張られていた力がなくなり、滲んでいた血が手首から垂れる。
それを、ぺろりと舐めて止めた。
「あれ、痛みが…」
紙で切ったかのような傷口が一瞬にして消え去る。マルヴィラは手首を舐め終えると、膝裏を持ち上げてそこに残った傷も舐めた。ひっくり返されて再び寝転んだ形になったのだが、唖然として言葉も出ない。
マルヴィラがもう一度凛花に覆い被さったからだ。
「え、ちょっと、やめたんじゃないの?」
「拘束しなければいいのだろう?」
「違うよね。それだけの話じゃないよね!」
「そうか?拘束しなければいいと言っていたように聞こえた」
「いや、違うから!」
押し問答しても怯む気はないと、マルヴィラが首元に舌を這わせる。吸い付いてはそこをぺろりと舐めて、首に痕を付けてクスリと笑む。
怒りを滲ませていたのにその雰囲気は消えて、なぜか愛しい者に愛撫するかのように、何度も食んでは舌を這わせ、ナメクジのようにのろのろと鎖骨を辿ると、膨らみの谷間に顔を埋めた。
「ラキティスは気は強いが口は悪くなかったんだがな。お前は随分違うようだ」
「人違いですからね!」
「人違いなどではない。よくも見付けてきたものだ。同じ色と輝き。魂の礎は同じ、ラキティスの光。何にでも隔てなく手を伸ばす、愚かな女。先に手を出したのは俺なのに、お前はセルフィーユも受け入れ、何度も身体を重ねた」
「ちょ、それ、駄目じゃない!?」
も、ってなんだ。も、って。二人とやってたから、もも当然か?え、どうなのそれ?しかも先に関係を持っていたのはマルヴィラだと言う。
ちょっと理解し難い。混乱に眉を傾げていると、なぜかマルヴィラはぷっと吹き出した。
「え、笑うところ?二人とも好きだったからって、二人と?どうなのそれ?」
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それでいいの??
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