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歪み
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「それで、村人とは何の関係が?」
堤を作る許可を得るために城に来て料理三昧。それで魔物が死ぬのならば、村人たちからは喜ばれそうなのだが。
「ラキティスは魔物を退ける力が元からある。いれば魔物は遠ざかる。けれど、料理や体液は別で、魔物を近寄らせる。ラキティスが魔物を呼べば、近付くこともある」
ラキティスが認識すれば魔物が近付くとなると、確かに自分が小鳥ちゃんたちを認識すれば、近くを寄るようになってきた。
そして、料理や体液は別となると、
「餌付けしてたら、近寄ってくるってこと?」
「そうだ。村に戻って、今までは遠巻きにしていた魔物たちが、村へ近付くことを恐れなくなった」
それって、野生動物に餌あげて、その味しめて人を襲う、熊とかの性質な気がする。
そうなると、例えば人の味を覚えた熊は、人しか襲わないとか。
「村人を、襲ったってこと?」
「村に魔物が出るようになって、村人がラキティスを家に閉じ込めるようになった」
「そっちか…」
つまり村人はラキティスの特異体質を知っていて、彼女が留守にすることを不満に思ったのだろう。ラキティスが村から離れれば魔物が近付いてくる。その頻度が増えた。
実際は、餌付けをしてからは魔物が近付く理由がラキティスにあったのに、ラキティスがいないせいで、魔物が近付くようになったと勘違いしたのだ。
ラキティスは家に閉じ込められて、外に出ることを許されなくなった。しかし、それが却って魔物を寄せ付けることになるとは知らず。
「俺が行った時には村は火に包まれて、セルフィーユが助けに行った後だった」
村人が魔物と戦ったのか、村は焼けて廃村になった。だから骨組みだけの焦げた家が放置されていたのだ。
後味悪い、不幸な事故となってしまった。
「ラキティスはそれからセルフィーユの城にいたが、よく湖が見える花畑で村の方向を眺めていた。それからしばらくして、病になって死んだ」
マルヴィラはそのまま黙りこくる。
魔物のせいで村人は死んでしまった。ラキティスはショックだっただろう。セルフィーユに保護されたとは言え、一人残ったのだから、彼女の胸中は複雑だったはずだ。
村人のために堤を作る許可を、有力者の下にわざわざ頼みに行くほどの女性だ。村は大切だったに違いない。
ラキティスが死んだ後、セルフィーユは城に閉じ籠ったまま、ほとんど姿を見せなくなったそうだ。マルヴィラも城に留まることはせず、別の場所で生きていた。
ただ、遠くを見て離れないラキティスを、セルフィーユはいつも後ろから眺めていたと言う。
ため息しか出ない。
「この絵は、その時のラキティスさんなんだね」
小鳥たちが後ろでぴっぴ鳴いている。城にいる数少ない魔物たち。ラキティスの料理を口にしてほとんどいなくなってしまったが、残っている魔物もいる。
念の為、私も付けしないようにしないと。
絵をぼんやり眺めて、やはり哀しい絵だなと思いつつ、ならば何故セルフィーユは魔物が死ぬことを放置したのだろうと考え直す。
「喧騒が嫌だったから城を建てたんでしょ。静かな山の上。魔物がセルフィーユの強さに挑んだり、人がセルフィーユの力を欲しがったりで、鬱陶しいから。もうめんどくさーい。って投げ出したくなって」
いやー、分かるよ。鬱陶しかったら、必殺ちゃぶ台返しするよね。それから落ち着く場所でゆっくりのんびり。温泉でも行きたいなあ。
けれどそこでラキティスが現れる。魔物に餌をあげる彼女を横目に、セルフィーユは何を考えていたのだろう。
「分かっててやらせてたら、心無い」
さすが魔王と言うところか?けれど、それは何のために?
「ラキティスさんの力を試したかった。は、まあ、置いといて。そうなると、ラキティスさんって、セルフィーユにとって試す程度の相手だったんじゃないの?」
それで愛している?随分と表面的な言葉になってしまうわけだが、セルフィーユは根性の限りを費やし、ラキティスの生まれ変わりである自分(本当かはともかく)を見つけ出し、ここに連れた。
長い時を経て、やっとのこと。
そうなると、それはそれで矛盾するわけで。
「よく分からん」
頭を冷やしに部屋へ戻ろう。ベランダに戻り、風に当たりたい。いや、すごく寒いんだけれどね。
もう冬が近付いているからそろそろ雪も降る。綿帽子を被る山も見えた。春先になれば雨が降り、水が流れて村へと被害が出るかもしれない。
ラキティスはセルフィーユにお願いにきた。
「堤を作らせてください」
それを無碍に断り。しかし折れて、それを許した。その頃からずっと、ラキティスは菓子やパンを魔物に与えていた。
そうして城へ訪れる回数も増えて、セルフィーユと親しくなり…。
順に追って、何か分かるわけでもない。空を見上げれば、寒空の中光り輝く物が見える。
「月が、綺麗だなあ」
二つの月が見える。大きな月と小さな月。映画で見るような惑星が目視で見えるみたいだ。空はおかしな色をして瞬いている。ピンクだったり青だったり、オーロラのように揺れて色を変える空。
空は明るいけれど、雲が流れれば月が隠れて、時折雲間から覗いた。
「暗ければ、怖いよ。魔物が、来るから-------」
あっという間に、月が隠れた。
-------周りの森に、魔物がいるんだ。
-------囲まれている!
-------何で、ラキティスがいるのに!
小鳥がピッピ鳴いている。それなのに村人たちが何か騒いでいる。
部屋の中は自由にできて生活はできるけれども、外に出る出入り口も窓も封じられてしまった。
セルフィーユ様のところに行くことができない。
閉じられた場所で、隙間から漏れる光で一日が過ぎるのが分かる。
今は夜で、月明かりが見えたり見えなかったりした。
けれど外から小鳥たちの鳴き声が聞こえる。小鳥たちが月明かりの中、迎えに来たのだろうか。
「魔物だ!!」
「誰か、助けて!!」
騒ぎが近くなってくる。悲鳴が轟く。金属が重なる音。何かが飛ぶ音が耳に届いた。
その中で小鳥たちの鳴き声が混ざる。
どうして、村人たちは騒いでいるのだろう。小鳥たちは私を襲ったりしないのに。
「げほ。なに、煙…?」
家の中に黒煙が入り込んだ。外が燃えているのか、ぱちぱちと爆ぜる音がする。
悲鳴、悲鳴。逃げ惑う人たちの足音。
何が起きているのか。外を見ることができず、出ることもできない。
「ごほっ。や、誰か。出して」
扉を押してもびくともしない。当たり前だ。木で打ち付けられて、出られないようになっている。斧でもなければ、扉を壊すことはできない。
窓も同じ。
けれど、煙が入ってくる。家が燃えているのか、扉の下や窓の隙間から煙が入る。熱を感じて壁から離れた。
「誰か、助けて」
助けを呼んでも応える声はない。むしろ悲鳴が遠ざかっている気がする。叫び声や泣き声が聞こえていたのに、それも聞こえなくなってきた。
みんな火事で逃げてしまったのか。ここに私がいることも忘れて、どこかへ逃げてしまったのか。
喉が痛い。煙で前も見えなくなってきた。息がしにくく、熱さで息苦しい。座り込んで助けを呼んでも、爆ぜる音しか気聞こえなくなってきた。
「れか、誰か、助けて。セルフィーユ様!」
「ラキティス!」
「セルフィーユ、さまっ」
助けに来てくれた。
部屋に現れたセルフィーユはすぐに駆け寄った。
息苦しく平伏していた自分を抱き上げると、セルフィーユは静かに口付ける。
「大丈夫ですよ。これでもう、何も心配することなどない」
そう言って、火の粉舞う中、静かに笑んだ。
「―――――凛花、風邪を引いてしまいますよ」
後ろから届く声にびくりと肩が揺れた。セルフィーユがいつの間にか部屋にいる。外に出ていた凛花へと、ゆっくり近付いて、扉を封じるように足を止めた。
「セルフィーユ…」
「部屋にお入りなさい。夜の風は身体に良くない」
緩やかな微笑み。けれどそれがひどく歪に見えるのは何故なのか。じりり、と後ずさる。ベランダの柵にぶつかって、それを止めた。
「どうしました?いらっしゃい。外は寒いですからね」
違和感があった。
どこからの違和感だろうか。
セルフィーユは動かない凛花に眇めた目を向ける。静かな笑みがいやに恐ろしい。柔らかな笑みではない、冷えた笑み。
「村は、燃えたんでしょう?」
「ええ、そうですね。魔物が襲い、村人が魔物に火を放ちました。闇雲に打ち続けて、家に燃え移ってしまった」
抑揚のない、感情の見えない声音。ただ、淡々と、セルフィーユは口にする。
「火焔が舞い、あと少しでラキティスも巻き込まれるところでした。村は燃え尽きてしまった」
「ラキティスさんが魔物に餌をあげたら、魔物が近付くって知ってたんでしょ。それなのに、どうして、魔物が近付く前に、村人から監禁されたラキティスさんを、もっと早く、助けにいかなかったの?」
セルフィーユは笑みを消した。冷眼がこちらへ届く。
どこから分かっていたのか。
「わざと、放置して、村人が何をするかも、想定してたんじゃない?」
「ラキティスは、気付きませんでしたけれど」
セルフィーユは間も取らず返答した。分かっていて、行ったのだと。
ぞわりと肌が泡立った。
「何で?ラキティスさんは村人のために堤を作ろうとしたんでしょう?村人たちが生きていけるように、セルフィーユにお願いをしに行ったんじゃないの?」
「彼女がそう思うのと、村人たちの思惑は違うでしょう」
セルフィーユは当然のように言い放つ。
ラキティスに依存する村人たちが、邪魔だったと。
彼女を道具のように扱ったことが許せないのか?いや、その前にラキティスは魔物に餌をやった。その行為を放置した時点で、セルフィーユがラキティスを道具として扱っているんじゃないか?
「彼女のためみたいに聞こえるけど、全然そんな感じじゃなくない?」
「何故です?ラキティスにとって村人は邪魔な存在でしょう。優しい言葉を掛けながら、村から出ないように繋いでいたんです。村人の一員として唆し」
それが、セルフィーユの行ったことと何が違うのか。
ラキティスを憂いるならば、他にも方法があっただろう。発端はラキティスで、彼女が行ったことに対して村人が動いた結果が、村の焼失になっている。
しかも彼女はそれが分かっていなかった。
それを、彼女のために放置したと言うのか?
堤を作る許可を得るために城に来て料理三昧。それで魔物が死ぬのならば、村人たちからは喜ばれそうなのだが。
「ラキティスは魔物を退ける力が元からある。いれば魔物は遠ざかる。けれど、料理や体液は別で、魔物を近寄らせる。ラキティスが魔物を呼べば、近付くこともある」
ラキティスが認識すれば魔物が近付くとなると、確かに自分が小鳥ちゃんたちを認識すれば、近くを寄るようになってきた。
そして、料理や体液は別となると、
「餌付けしてたら、近寄ってくるってこと?」
「そうだ。村に戻って、今までは遠巻きにしていた魔物たちが、村へ近付くことを恐れなくなった」
それって、野生動物に餌あげて、その味しめて人を襲う、熊とかの性質な気がする。
そうなると、例えば人の味を覚えた熊は、人しか襲わないとか。
「村人を、襲ったってこと?」
「村に魔物が出るようになって、村人がラキティスを家に閉じ込めるようになった」
「そっちか…」
つまり村人はラキティスの特異体質を知っていて、彼女が留守にすることを不満に思ったのだろう。ラキティスが村から離れれば魔物が近付いてくる。その頻度が増えた。
実際は、餌付けをしてからは魔物が近付く理由がラキティスにあったのに、ラキティスがいないせいで、魔物が近付くようになったと勘違いしたのだ。
ラキティスは家に閉じ込められて、外に出ることを許されなくなった。しかし、それが却って魔物を寄せ付けることになるとは知らず。
「俺が行った時には村は火に包まれて、セルフィーユが助けに行った後だった」
村人が魔物と戦ったのか、村は焼けて廃村になった。だから骨組みだけの焦げた家が放置されていたのだ。
後味悪い、不幸な事故となってしまった。
「ラキティスはそれからセルフィーユの城にいたが、よく湖が見える花畑で村の方向を眺めていた。それからしばらくして、病になって死んだ」
マルヴィラはそのまま黙りこくる。
魔物のせいで村人は死んでしまった。ラキティスはショックだっただろう。セルフィーユに保護されたとは言え、一人残ったのだから、彼女の胸中は複雑だったはずだ。
村人のために堤を作る許可を、有力者の下にわざわざ頼みに行くほどの女性だ。村は大切だったに違いない。
ラキティスが死んだ後、セルフィーユは城に閉じ籠ったまま、ほとんど姿を見せなくなったそうだ。マルヴィラも城に留まることはせず、別の場所で生きていた。
ただ、遠くを見て離れないラキティスを、セルフィーユはいつも後ろから眺めていたと言う。
ため息しか出ない。
「この絵は、その時のラキティスさんなんだね」
小鳥たちが後ろでぴっぴ鳴いている。城にいる数少ない魔物たち。ラキティスの料理を口にしてほとんどいなくなってしまったが、残っている魔物もいる。
念の為、私も付けしないようにしないと。
絵をぼんやり眺めて、やはり哀しい絵だなと思いつつ、ならば何故セルフィーユは魔物が死ぬことを放置したのだろうと考え直す。
「喧騒が嫌だったから城を建てたんでしょ。静かな山の上。魔物がセルフィーユの強さに挑んだり、人がセルフィーユの力を欲しがったりで、鬱陶しいから。もうめんどくさーい。って投げ出したくなって」
いやー、分かるよ。鬱陶しかったら、必殺ちゃぶ台返しするよね。それから落ち着く場所でゆっくりのんびり。温泉でも行きたいなあ。
けれどそこでラキティスが現れる。魔物に餌をあげる彼女を横目に、セルフィーユは何を考えていたのだろう。
「分かっててやらせてたら、心無い」
さすが魔王と言うところか?けれど、それは何のために?
「ラキティスさんの力を試したかった。は、まあ、置いといて。そうなると、ラキティスさんって、セルフィーユにとって試す程度の相手だったんじゃないの?」
それで愛している?随分と表面的な言葉になってしまうわけだが、セルフィーユは根性の限りを費やし、ラキティスの生まれ変わりである自分(本当かはともかく)を見つけ出し、ここに連れた。
長い時を経て、やっとのこと。
そうなると、それはそれで矛盾するわけで。
「よく分からん」
頭を冷やしに部屋へ戻ろう。ベランダに戻り、風に当たりたい。いや、すごく寒いんだけれどね。
もう冬が近付いているからそろそろ雪も降る。綿帽子を被る山も見えた。春先になれば雨が降り、水が流れて村へと被害が出るかもしれない。
ラキティスはセルフィーユにお願いにきた。
「堤を作らせてください」
それを無碍に断り。しかし折れて、それを許した。その頃からずっと、ラキティスは菓子やパンを魔物に与えていた。
そうして城へ訪れる回数も増えて、セルフィーユと親しくなり…。
順に追って、何か分かるわけでもない。空を見上げれば、寒空の中光り輝く物が見える。
「月が、綺麗だなあ」
二つの月が見える。大きな月と小さな月。映画で見るような惑星が目視で見えるみたいだ。空はおかしな色をして瞬いている。ピンクだったり青だったり、オーロラのように揺れて色を変える空。
空は明るいけれど、雲が流れれば月が隠れて、時折雲間から覗いた。
「暗ければ、怖いよ。魔物が、来るから-------」
あっという間に、月が隠れた。
-------周りの森に、魔物がいるんだ。
-------囲まれている!
-------何で、ラキティスがいるのに!
小鳥がピッピ鳴いている。それなのに村人たちが何か騒いでいる。
部屋の中は自由にできて生活はできるけれども、外に出る出入り口も窓も封じられてしまった。
セルフィーユ様のところに行くことができない。
閉じられた場所で、隙間から漏れる光で一日が過ぎるのが分かる。
今は夜で、月明かりが見えたり見えなかったりした。
けれど外から小鳥たちの鳴き声が聞こえる。小鳥たちが月明かりの中、迎えに来たのだろうか。
「魔物だ!!」
「誰か、助けて!!」
騒ぎが近くなってくる。悲鳴が轟く。金属が重なる音。何かが飛ぶ音が耳に届いた。
その中で小鳥たちの鳴き声が混ざる。
どうして、村人たちは騒いでいるのだろう。小鳥たちは私を襲ったりしないのに。
「げほ。なに、煙…?」
家の中に黒煙が入り込んだ。外が燃えているのか、ぱちぱちと爆ぜる音がする。
悲鳴、悲鳴。逃げ惑う人たちの足音。
何が起きているのか。外を見ることができず、出ることもできない。
「ごほっ。や、誰か。出して」
扉を押してもびくともしない。当たり前だ。木で打ち付けられて、出られないようになっている。斧でもなければ、扉を壊すことはできない。
窓も同じ。
けれど、煙が入ってくる。家が燃えているのか、扉の下や窓の隙間から煙が入る。熱を感じて壁から離れた。
「誰か、助けて」
助けを呼んでも応える声はない。むしろ悲鳴が遠ざかっている気がする。叫び声や泣き声が聞こえていたのに、それも聞こえなくなってきた。
みんな火事で逃げてしまったのか。ここに私がいることも忘れて、どこかへ逃げてしまったのか。
喉が痛い。煙で前も見えなくなってきた。息がしにくく、熱さで息苦しい。座り込んで助けを呼んでも、爆ぜる音しか気聞こえなくなってきた。
「れか、誰か、助けて。セルフィーユ様!」
「ラキティス!」
「セルフィーユ、さまっ」
助けに来てくれた。
部屋に現れたセルフィーユはすぐに駆け寄った。
息苦しく平伏していた自分を抱き上げると、セルフィーユは静かに口付ける。
「大丈夫ですよ。これでもう、何も心配することなどない」
そう言って、火の粉舞う中、静かに笑んだ。
「―――――凛花、風邪を引いてしまいますよ」
後ろから届く声にびくりと肩が揺れた。セルフィーユがいつの間にか部屋にいる。外に出ていた凛花へと、ゆっくり近付いて、扉を封じるように足を止めた。
「セルフィーユ…」
「部屋にお入りなさい。夜の風は身体に良くない」
緩やかな微笑み。けれどそれがひどく歪に見えるのは何故なのか。じりり、と後ずさる。ベランダの柵にぶつかって、それを止めた。
「どうしました?いらっしゃい。外は寒いですからね」
違和感があった。
どこからの違和感だろうか。
セルフィーユは動かない凛花に眇めた目を向ける。静かな笑みがいやに恐ろしい。柔らかな笑みではない、冷えた笑み。
「村は、燃えたんでしょう?」
「ええ、そうですね。魔物が襲い、村人が魔物に火を放ちました。闇雲に打ち続けて、家に燃え移ってしまった」
抑揚のない、感情の見えない声音。ただ、淡々と、セルフィーユは口にする。
「火焔が舞い、あと少しでラキティスも巻き込まれるところでした。村は燃え尽きてしまった」
「ラキティスさんが魔物に餌をあげたら、魔物が近付くって知ってたんでしょ。それなのに、どうして、魔物が近付く前に、村人から監禁されたラキティスさんを、もっと早く、助けにいかなかったの?」
セルフィーユは笑みを消した。冷眼がこちらへ届く。
どこから分かっていたのか。
「わざと、放置して、村人が何をするかも、想定してたんじゃない?」
「ラキティスは、気付きませんでしたけれど」
セルフィーユは間も取らず返答した。分かっていて、行ったのだと。
ぞわりと肌が泡立った。
「何で?ラキティスさんは村人のために堤を作ろうとしたんでしょう?村人たちが生きていけるように、セルフィーユにお願いをしに行ったんじゃないの?」
「彼女がそう思うのと、村人たちの思惑は違うでしょう」
セルフィーユは当然のように言い放つ。
ラキティスに依存する村人たちが、邪魔だったと。
彼女を道具のように扱ったことが許せないのか?いや、その前にラキティスは魔物に餌をやった。その行為を放置した時点で、セルフィーユがラキティスを道具として扱っているんじゃないか?
「彼女のためみたいに聞こえるけど、全然そんな感じじゃなくない?」
「何故です?ラキティスにとって村人は邪魔な存在でしょう。優しい言葉を掛けながら、村から出ないように繋いでいたんです。村人の一員として唆し」
それが、セルフィーユの行ったことと何が違うのか。
ラキティスを憂いるならば、他にも方法があっただろう。発端はラキティスで、彼女が行ったことに対して村人が動いた結果が、村の焼失になっている。
しかも彼女はそれが分かっていなかった。
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