妖精のような美形魔王は、今日も溺愛してくれます。

嵩矢みこよ

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真実

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「歪んでるよね、それ。セルフィーユは、本当はラキティスさんなんてどうでも良かったんじゃないの?」
「何故そんなことを? 私は彼女を愛していますよ。だからあなたを探したんです」

 セルフィーユが無神経で、ラキティスのためにそんな嫌がらせのような真似をして愛していると簡単に言う男であれば、何も不思議に思わない。
 けれど、ラキティスの特異体質に気付き、それを利用してラキティス自らが動くように示したのだ。無神経ならばそれをラキティスに言うだろう。

 彼女の力を黙って試したかったと言う言葉がしっくりくる。
 異質な彼女の能力がどんなものなのか、確認したかっただけだった。その力によって何が起きるのか。果てはどう生きていたのか。
 ただ、それを見たかっただけのように思える。
 けれど、きっとそれだけではない。

「セルフィーユは、都で何もかも面倒になったんでしょ。向かってくる魔物とか、擦り寄ってくる人間とか」
「ええ。小虫がうるさく、相手をするのも疲れました」
「必要とされているとしても、意味は色々あると思う。でも、セルフィーユに対しては、特別な能力にみんな擦り寄ってきた、が一番の理由だよね」
「それが、何か?」

 魔王として強力だから魔物がやってきた。その力が魅力的で人間が争い始めた。どちらにしてもセルフィーユの人格に対してではなく、その与えられた能力に対してだ。
 ラキティスも同じ。

「ラキティスに自分を重ねたの?」
「何の話です?」
「周りに振り回されるラキティスと、自分を重ねたんじゃないの?」
 セルフィーユの笑みが凍った。
「可哀想なラキティス。だから周りは邪魔でしょう。だったら壊してしまえばいいのにね」
「………何が言いたいんです?」
「彼女の心を代弁したふりをして、自分の憂さを晴らしたかったの?」
 発言した瞬間、周囲が凍りつくように冷えたのを感じた。

「私が、何を…?」
 空が闇にのまれてくる。月は陰り空の色が闇へと変わっていく。空気が冷えて、足元が薄氷に包まれた。
 確信を迫られてぐうの音も出ない。
 この人は、ラキティスを見ていたのではなく、ラキティスの中に自分を見出していた。
 彼女は望みもしないのに、セルフィーユはラキティスに自分を重ねて無関係な者たちに復讐したのだ。

「それで、満足した? 彼女が一人になって。それを、ラキティスさんは、喜んでいたの!?」
「ラキティスは…」
 セルフィーユの声が震えた。
 眉間を寄せて、ふるふると小さく首を振る。
 ラキティスを解放するつもりで、彼女を手に入れたかったわけではないはずだ。そうであったらもう少しまともな判断をするだろう。

 セルフィーユはそれが自分で分かっているから、なかったことにしたい。
 おそらく、きっと、彼女を想ったのは、その後だ。

「やった後で後悔でもしたの? だからラキティスさんを探したの?」
「私は…。ラキティスは…」
 自分が糾弾する話ではないかもしれない。生まれ変わりといっても全てを理解しているわけではない。
 ただ彼女は、セルフィーユの助けに心から安堵していた。

「贖罪のために、ラキティスさんを探したの?」
「何を、そんなことは!」
 セルフィーユは大きく否定する。けれどその動揺が、セルフィーユの本当の心だ。

「もう彼女はいない。死んでしまったんでしょう。私と彼女は別人だよ。今更彼女に謝ろうとしても、もういない」
「ラキティスは、あなたです。だから探した。あなたはラキティスだから」
「私は彼女じゃない。私に謝っても遅いのよ!」

 震える身体が物語っている。
 セルフィーユはずっと後悔しているのだろう。ラキティスを傷付けたことを。傷付けてから彼女を愛していると気付いたのだ。
 しかし、もうラキティスはいない。それが事実だ。
 村が燃え、村人は逃げた。逃げても魔物を避ける術のない村人たちはみんな殺されて喰われただろう。
 そして、ラキティスはセルフィーユに助けられ、城へ戻った。

「ラキティスさんを助けて、城に連れてから、彼女はどうしていたの? いつも湖から村の方向を見ていたんでしょう?」
「…何も。いつも通り食事を作り、笑顔で話し、ベッドを共にしていました」
「それだけ?」
「そうですよ。彼女は何も言わず、ただ私といて、時折村のあった先を見つめるだけ。他には何も」
「どうして、魔物が襲ってきたのか、疑問を口にしたことはなかったの?」
「ええ、何も…」

 小さな揺らぎ。ほんの僅かだったが、セルフィーユは声音を震わした。
 問われなかった。一度として。どうして、魔物が村を襲ったのか。
 ラキティスは気付かなかったのか。知らなくとも何があったのか疑問に持たず?
 それとも…。

 セルフィーユの後悔は涙と共に溢れた。
 その涙を、ラキティスは望んでいたのではないだろうか。




「ラキティスさんはずっとここから村を見ていたんだろうな」
 雪が降り始めた頃、ぼんやりと湖から村の方向を眺めた。ここから村が見えることはない。堤もどこにあるのか分からなかった。
 ただ花が咲いていたであろう草が萎れて雪に埋もれていくのが見れるだけ。湖に輝きはなく深く沈む闇のような色をしているだけ。

「マルヴィラ。ラキティスさんてその後どうしたの?」
「病になった。それで部屋にいた。セルフィーユはずっと側にいた。ラキティスが何で村人を心配したか理解できない。利用されてただけだ」
「でも育ててもらってたんでしょう。そこには感謝してたんじゃない?」
「さあね。今となっちゃ、分からねえよ」
「誰でも、一人では生きていけないよ。誰にも頼ることなく一人で生きていくなんて、よほど強くなくちゃ、無理でしょう」
「そうか? 人間は弱いな?」
「だから、セルフィーユもラキティスさんを探したんでしょ」

 愛した人を死なせてしまった。それを認めたくなかったとしても、探さざるを得なかった。
「気持ちなんて、自分でもわからないものかもしれないけど」
 ラキティスもセルフィーユも、失ったものが大きかったのかもしれない。
 それでも、もう終わったことだ。





「就職先どうしようかなあ。アパートの支払いは滞ってないから、督促状は来てないよね」
 卵を混ぜて泡立てる。作れると言っても一般的な料理くらいしか作れない。朝から甘いものは食べたくないが、今日はなぜかとびっきり甘いものが食べたかった。

「凛花…?」
 セルフィーユが遠慮げに声を掛けてくる。キッチンに入るか入らないかで足を止め、こちらに視線を伸ばして問いかけてきた。
 大人しめの雰囲気。少しばかりおどおどした気配。

 ラキティスが見ていたセルフィーユは優しげで穏やかな割に、王たる上に立つ者のクールさがあったのだが、自分が見ているセルフィーユは別人のようだ。
 心境の変化? 時間の経過による性格の変化?
 さあ、分からないけれど、今のセルフィーユは凛花が何をしているのか、気になって仕方がない。

「何か作りたくなって。食べる? 毒にはならないんでしょ?」
「良いんですか?」
 ぱあっと笑顔になるその表情は、素な気がするのだが、どっちが本物なのか、謎である。
 だが、自分が知っているセルフィーユはこちらだ。

「味は保証しない」
 簡単なパンケーキと城にあった紅茶。どこから手に入れているのか、新鮮なフルーツもあった。それを飾って生クリームで飾る。
「いただきます」
 甘いものが好きとも嫌いとも聞いていないが、食べると言ったのだから食べるだろう。セルフィーユは上品にフォークとナイフを使い、一切れのパンケーキを苺と一緒に口にする。

「ああ、あなたの料理ですね」
 パンケーキごときにそんな味の違いが出るのか分からないが、セルフィーユがそう言うのならそうなのだろう。
 口にしながら、どこか寂しげな顔をする。
 寂しい人。彼はずっと後悔し続けているのだ。

「セルフィーユっていつも何をしているの?」
「城の中を歩き回ったり、湖を眺めたり」
 ニートか? 仕事してるって言ってなかったか?
「何故です?」
「家に帰ろうと思って」
「え!?」
 セルフィーユは大仰な音を立てて立ち上がった。

「何もないのに一緒にいても仕方ないよ。私は家に帰って、仕事して生きていくから、セルフィーユはやりたいこと探して」
「凛花、わたしは…」
「もういいでしょ。自分を許してあげて」

 いつ亡くなったかもわからない昔の話。長い時間セルフィーユは哀しんできたのだろう。ラキティスはもういない。
 だが、自分には働いて生活する場所がある。そして、それはラキティスのように村人に干渉を受けるわけではない。
 自分はラキティスではない。もう昔のことは忘れていい。罪悪感を持ち続けるには長過ぎたのだ。
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