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04破鏡再照(はきょうさいしょう)
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翌日の昼過ぎ、俺たちはウッドレーン村に到着した。
大イノシシを売った後、さっそく村人に最近の来訪者について尋ねて回る。
すると、一人の老人が言った。
「女の魔法使いが村の入り口で倒れておってな。
今は診療所で看病を受けとるよ」
女の魔法使い――その言葉を聞いた瞬間、胸が跳ねた。
(まさか……オルフェナか?)
診療所へ駆け込むと、薬草の匂いが鼻をつく。
奥の部屋のベッドに横たわっていたのは、やはり――オルフェナだった。
「オルフェナ!」
駆け寄る俺を見て、彼女はかすかに目を開き、微笑んだ。
「アレクス……生きていたのか……」
その瞳が潤み、胸が締めつけられた。
オルフェナは敗走の最中、他の仲間とはぐれ、ひとりで森を彷徨ったという。
食料も尽き、体力も底をつき、最後はこのウッドレーン村の手前で力尽きた
――そう語った。
「ほかのメンバーの安否は、わからないんだ……」
その美しい横顔が、静かに曇る。
オルフェナは、
俺たちと同じ〈アレクス勇技総合大学・魔法使い科〉の出身だ。
統合実践で俺とリオとともにパーティを組み、
一気に才能を開花させた。
彼女の放つ魔法は、大胆で、可憐で、研ぎ澄まされていて
――本当に、美しかった。
……そう。告白しよう。
俺は、そんな華やかな彼女に、いつの間にか恋をしていた。
だが、
パーティを組み、共に行動するようになってしばらくして、気づいてしまった。
――オルフェナは、リオのことが好きなんだ。
そして。
俺がリオを追放した理由。
その根本には、そのことへの“嫉妬”があった。
(なんて、小さな男なんだろう)
リオを追放した瞬間にも、胸の奥でうっすら感じていた“自分への失望”。
その感情は、俺の実力のメッキが剥がれていくほどに大きくなっていった。
◇
オルフェナもまた、気づいてしまったのだ。
自分が輝けていたのは、リオの支えあってこそだった――と。
叩きのめされたような表情。
以前のあの自信に満ちた瞳は、もうどこにもなかった。
(オルフェナは……支柱を失ったんだな)
アヤメには席を外してもらい、俺はオルフェナと向き合った。
しばらくの沈黙のあと、彼女はぽつりと言った。
「……わたしは、冒険者を辞めようと思っているんだ。
故郷に帰って、静かに暮らすつもりだ」
その声は落ち着いていた。
けれど、あまりに深い影が落ちていた。
「アレクス、お前も気づいているのだろう?
私たちは……せいぜい、CかDランク程度の実力しかない」
真っ直ぐに見つめられ、言葉を失う。
「自分の“壁”が見えることの恐怖を知るには、遅すぎたと思う」
それは、静かで、残酷な諦めの言葉だった。
オルフェナの言葉を聞きながら、俺はしばらく黙っていた。
彼女の諦めは、ただの弱さではない。
限界を知ってしまった者だけが抱く、深い痛みだ。
それでも――
「オルフェナ。俺がお前を故郷に送ろう。
だから、せめて……あと一人。
俺たちの仲間、エリオットを探すのを手伝ってくれないか?」
気づけば、その言葉が口からこぼれていた。
オルフェナは目を伏せ、弱く首を振る。
「……もう、戦える自信がないんだ。
誰かの役に立てるとも思えない」
「役に立つかどうかじゃない。
俺は、お前に来てほしいんだ」
オルフェナの肩がわずかに揺れた。
迷い、苦しみ――
それでも、彼女の瞳には微かな光が戻りつつあった。
オルフェナは唇をかすかに噛み、しばらく目を閉じ、
そしてゆっくりと頷いた。
「……わかった。行こう」
その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
◇
診療所を出ると、外は薄い夕暮れに染まっていた。
アヤメが待ち構えるように立っており、
俺たちを見るとほっとしたように微笑む。
「アヤメ。……オルフェナも一緒に行くことになった」
「はい。よろしくお願いします、オルフェナ様」
オルフェナはまだ疲れた顔をしていたが、
さっきより少しだけ背筋が伸びていた。
残る仲間は、エリオット――俺たちの僧侶。
――こうして俺たちは、再び三人で歩き始めた。
散り散りになった仲間を探すために。
そして、自分たちの失った“支え”を取り戻すために。
大イノシシを売った後、さっそく村人に最近の来訪者について尋ねて回る。
すると、一人の老人が言った。
「女の魔法使いが村の入り口で倒れておってな。
今は診療所で看病を受けとるよ」
女の魔法使い――その言葉を聞いた瞬間、胸が跳ねた。
(まさか……オルフェナか?)
診療所へ駆け込むと、薬草の匂いが鼻をつく。
奥の部屋のベッドに横たわっていたのは、やはり――オルフェナだった。
「オルフェナ!」
駆け寄る俺を見て、彼女はかすかに目を開き、微笑んだ。
「アレクス……生きていたのか……」
その瞳が潤み、胸が締めつけられた。
オルフェナは敗走の最中、他の仲間とはぐれ、ひとりで森を彷徨ったという。
食料も尽き、体力も底をつき、最後はこのウッドレーン村の手前で力尽きた
――そう語った。
「ほかのメンバーの安否は、わからないんだ……」
その美しい横顔が、静かに曇る。
オルフェナは、
俺たちと同じ〈アレクス勇技総合大学・魔法使い科〉の出身だ。
統合実践で俺とリオとともにパーティを組み、
一気に才能を開花させた。
彼女の放つ魔法は、大胆で、可憐で、研ぎ澄まされていて
――本当に、美しかった。
……そう。告白しよう。
俺は、そんな華やかな彼女に、いつの間にか恋をしていた。
だが、
パーティを組み、共に行動するようになってしばらくして、気づいてしまった。
――オルフェナは、リオのことが好きなんだ。
そして。
俺がリオを追放した理由。
その根本には、そのことへの“嫉妬”があった。
(なんて、小さな男なんだろう)
リオを追放した瞬間にも、胸の奥でうっすら感じていた“自分への失望”。
その感情は、俺の実力のメッキが剥がれていくほどに大きくなっていった。
◇
オルフェナもまた、気づいてしまったのだ。
自分が輝けていたのは、リオの支えあってこそだった――と。
叩きのめされたような表情。
以前のあの自信に満ちた瞳は、もうどこにもなかった。
(オルフェナは……支柱を失ったんだな)
アヤメには席を外してもらい、俺はオルフェナと向き合った。
しばらくの沈黙のあと、彼女はぽつりと言った。
「……わたしは、冒険者を辞めようと思っているんだ。
故郷に帰って、静かに暮らすつもりだ」
その声は落ち着いていた。
けれど、あまりに深い影が落ちていた。
「アレクス、お前も気づいているのだろう?
私たちは……せいぜい、CかDランク程度の実力しかない」
真っ直ぐに見つめられ、言葉を失う。
「自分の“壁”が見えることの恐怖を知るには、遅すぎたと思う」
それは、静かで、残酷な諦めの言葉だった。
オルフェナの言葉を聞きながら、俺はしばらく黙っていた。
彼女の諦めは、ただの弱さではない。
限界を知ってしまった者だけが抱く、深い痛みだ。
それでも――
「オルフェナ。俺がお前を故郷に送ろう。
だから、せめて……あと一人。
俺たちの仲間、エリオットを探すのを手伝ってくれないか?」
気づけば、その言葉が口からこぼれていた。
オルフェナは目を伏せ、弱く首を振る。
「……もう、戦える自信がないんだ。
誰かの役に立てるとも思えない」
「役に立つかどうかじゃない。
俺は、お前に来てほしいんだ」
オルフェナの肩がわずかに揺れた。
迷い、苦しみ――
それでも、彼女の瞳には微かな光が戻りつつあった。
オルフェナは唇をかすかに噛み、しばらく目を閉じ、
そしてゆっくりと頷いた。
「……わかった。行こう」
その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
◇
診療所を出ると、外は薄い夕暮れに染まっていた。
アヤメが待ち構えるように立っており、
俺たちを見るとほっとしたように微笑む。
「アヤメ。……オルフェナも一緒に行くことになった」
「はい。よろしくお願いします、オルフェナ様」
オルフェナはまだ疲れた顔をしていたが、
さっきより少しだけ背筋が伸びていた。
残る仲間は、エリオット――俺たちの僧侶。
――こうして俺たちは、再び三人で歩き始めた。
散り散りになった仲間を探すために。
そして、自分たちの失った“支え”を取り戻すために。
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