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26凍風の旅は仲間と共に
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冬の冷気は、森そのものが牙をむいているかのようだった。
俺たちは港町オリビアを目指し、凍てつく森林の中を黙々と進んでいた。
冬の移動には、いくつか心得がある。
まず――装備だ。
冬の森は、寒さ・湿気・体力消耗……あらゆるものが冒険者の命を奪いにくる。
厚手の防寒外套や防水加工のブーツは、生きて帰るための最低限の備えだ。
俺たちは各々、グレイムの街で整えた冬装備を身に着けている。
さらに、
断熱性の高い寝袋と冬仕様のテントは欠かせない。
夏のように、焚き火のそばでゴロ寝するわけにはいかない。
地面の冷気は、そのまま体力を奪っていく。
そして――食料。
冬の森は獲物が少ない。
現地調達はほぼ運任せになるため、保存食を多めに持ち歩く必要がある。
吹雪、積雪、凍結……冬の森が隠し持つ危険も数え切れない。
自然と荷物は増えたが、エリオットの《初級荷重緩和》のおかげで、
その負担はかなり楽になっていた。
◇
静かな森を進んでいると、アヤメが横に並んだ。
「アレクス様。
先日の……サラマンダーとジルド様の戦いですが、
通常は、どのように戦うものなのでしょうか?」
「ああ……あれか。」
ジルドは“力でねじ伏せた”に近かったが、
あれはSランクの化け物だからできた芸当だ。
普通なら、あんな戦い方はまずしない。
俺はアレクス勇技総合大学の講義を思い出しながら答える。
「まずな、ドラゴン種は――鎧をまとった魔獣だと思っていい。
少々の攻撃魔法は効かない。だから魔法使いと僧侶は援護に徹する。」
「なるほど……攻撃より補助なのですね。」
「それに、皮膚が堅い。
ただの斬撃は通らない。物理も“牽制程度”の効果しかない。
だから時間をかけて、じらしながら、動きを読む。
そして――」
俺は軽く指を立てた。
「目や口腔内みたいに、防御の薄い急所に一撃必殺を叩き込む。
これがセオリーだ。」
アヤメは目を丸くし、小さく息を呑んだ。
「……聞けば聞くほど、気が遠くなりそうです。」
そう言うと、アヤメはふっと真剣な顔になった。
冷たい冬の森を進みながら、その横顔はいつになく凛として見えた。
◇
冬の夜の森は、静かだ。
吐く息は白く、焚き火の赤がそのたびにふわりと揺れる。
気温はすでに零度近いが、
エリオットが張ってくれた《遮風結界》のおかげで、
風の冷たさが直接肌を刺すことはない。
結界の内側は、まるで薄い布に守られているかのように、ほんのり暖かかった。
夕食は――今日も“大トカゲの 燻し肉”だ。
サラマンダー討伐の後、素材回収のついでに数体持ち帰り、
それをアヤメが見事な手際で大量の干物に加工してくれたのだ。
「うぅ、無理だ。」
最初の頃、オルフィナは泣きながら食べていた。
そんなやりとりも、今は昔。
「……鶏肉に似てて、うまい。」
今では、すっかり好物になっている。
◇
食後、アヤメがひとり、膝の上で短剣の刃を拭いていた。
焚き火の光が、彼女の指先と短剣の灰銀色の刃を淡く照らす。
「アレクス様。
この短剣……スズナ先輩が餞別としてくださったのです」
アヤメはそう言うと、どこか照れくさそうに笑った。
その仕草は、まるで宝物を見せる子どものようでもあった。
刃渡り二十センチほどの細身の短剣。
刃は黒鉄に夜光石を練り込んだ“灰銀色”で、
光の角度によって存在がふっと薄く消えるように見える。
「スズナ先輩は……こう言っていました。」
アヤメは短剣をそっと撫でながら続ける。
「『レンジャーは音を立てずに動くことが何より大事。
この短剣は、私が初めて静かに獲物を仕留めた時の相棒なんだ』と。」
揺れる焚き火がアヤメの横顔を照らし、誇らしげな影がふっと揺れた。
俺は焚き火越しに声をかける。
「気に入ってるんだな」
アヤメはこくりと頷き、短剣を両手で持ち直した。
「……はい。初めて触った時、
“すごく手になじむ”って思ったんです」
冬の夜気の中、アヤメの言葉は静かに、けれど確かに響いた。
短剣《薄影》。
それは彼女にとって、ただの武器ではない。
レンジャーとしての誇りを見つめ直す“灯火”のようなものなのだろう。
焚き火がぱちりと弾けた。
それに合わせるように、アヤメは短剣をそっと鞘へ戻す。
オリビアまではまだ遠い。
だが――この夜の静けさは、不思議と心強かった。
俺たちは港町オリビアを目指し、凍てつく森林の中を黙々と進んでいた。
冬の移動には、いくつか心得がある。
まず――装備だ。
冬の森は、寒さ・湿気・体力消耗……あらゆるものが冒険者の命を奪いにくる。
厚手の防寒外套や防水加工のブーツは、生きて帰るための最低限の備えだ。
俺たちは各々、グレイムの街で整えた冬装備を身に着けている。
さらに、
断熱性の高い寝袋と冬仕様のテントは欠かせない。
夏のように、焚き火のそばでゴロ寝するわけにはいかない。
地面の冷気は、そのまま体力を奪っていく。
そして――食料。
冬の森は獲物が少ない。
現地調達はほぼ運任せになるため、保存食を多めに持ち歩く必要がある。
吹雪、積雪、凍結……冬の森が隠し持つ危険も数え切れない。
自然と荷物は増えたが、エリオットの《初級荷重緩和》のおかげで、
その負担はかなり楽になっていた。
◇
静かな森を進んでいると、アヤメが横に並んだ。
「アレクス様。
先日の……サラマンダーとジルド様の戦いですが、
通常は、どのように戦うものなのでしょうか?」
「ああ……あれか。」
ジルドは“力でねじ伏せた”に近かったが、
あれはSランクの化け物だからできた芸当だ。
普通なら、あんな戦い方はまずしない。
俺はアレクス勇技総合大学の講義を思い出しながら答える。
「まずな、ドラゴン種は――鎧をまとった魔獣だと思っていい。
少々の攻撃魔法は効かない。だから魔法使いと僧侶は援護に徹する。」
「なるほど……攻撃より補助なのですね。」
「それに、皮膚が堅い。
ただの斬撃は通らない。物理も“牽制程度”の効果しかない。
だから時間をかけて、じらしながら、動きを読む。
そして――」
俺は軽く指を立てた。
「目や口腔内みたいに、防御の薄い急所に一撃必殺を叩き込む。
これがセオリーだ。」
アヤメは目を丸くし、小さく息を呑んだ。
「……聞けば聞くほど、気が遠くなりそうです。」
そう言うと、アヤメはふっと真剣な顔になった。
冷たい冬の森を進みながら、その横顔はいつになく凛として見えた。
◇
冬の夜の森は、静かだ。
吐く息は白く、焚き火の赤がそのたびにふわりと揺れる。
気温はすでに零度近いが、
エリオットが張ってくれた《遮風結界》のおかげで、
風の冷たさが直接肌を刺すことはない。
結界の内側は、まるで薄い布に守られているかのように、ほんのり暖かかった。
夕食は――今日も“大トカゲの 燻し肉”だ。
サラマンダー討伐の後、素材回収のついでに数体持ち帰り、
それをアヤメが見事な手際で大量の干物に加工してくれたのだ。
「うぅ、無理だ。」
最初の頃、オルフィナは泣きながら食べていた。
そんなやりとりも、今は昔。
「……鶏肉に似てて、うまい。」
今では、すっかり好物になっている。
◇
食後、アヤメがひとり、膝の上で短剣の刃を拭いていた。
焚き火の光が、彼女の指先と短剣の灰銀色の刃を淡く照らす。
「アレクス様。
この短剣……スズナ先輩が餞別としてくださったのです」
アヤメはそう言うと、どこか照れくさそうに笑った。
その仕草は、まるで宝物を見せる子どものようでもあった。
刃渡り二十センチほどの細身の短剣。
刃は黒鉄に夜光石を練り込んだ“灰銀色”で、
光の角度によって存在がふっと薄く消えるように見える。
「スズナ先輩は……こう言っていました。」
アヤメは短剣をそっと撫でながら続ける。
「『レンジャーは音を立てずに動くことが何より大事。
この短剣は、私が初めて静かに獲物を仕留めた時の相棒なんだ』と。」
揺れる焚き火がアヤメの横顔を照らし、誇らしげな影がふっと揺れた。
俺は焚き火越しに声をかける。
「気に入ってるんだな」
アヤメはこくりと頷き、短剣を両手で持ち直した。
「……はい。初めて触った時、
“すごく手になじむ”って思ったんです」
冬の夜気の中、アヤメの言葉は静かに、けれど確かに響いた。
短剣《薄影》。
それは彼女にとって、ただの武器ではない。
レンジャーとしての誇りを見つめ直す“灯火”のようなものなのだろう。
焚き火がぱちりと弾けた。
それに合わせるように、アヤメは短剣をそっと鞘へ戻す。
オリビアまではまだ遠い。
だが――この夜の静けさは、不思議と心強かった。
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