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29友情萌芽(ゆうじょうほうが)
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午後には作業が一段落し、宿屋で休息していると、
深夜になって再びハヤテが飛び込んできた。
「アレクスさん! 氷狼の群れが出ました!」
肩で息をしながらも、必死に言葉をつなぐ。
「数が……多いんです! 狩人だけじゃ、止められません!」
氷狼――牙に凍結属性を帯び、かすり傷でも凍傷を負う厄介な相手だ。
とはいえ、 霧獣を倒した俺たちにとっては、十分対処できるレベル。
◇
現場へ駆けつけると、月明かりの下で白い影が無数に跳ね回っていた。
「三十……いや、それ以上か」
氷狼たちの遠吠えと、狩人たちの怒号があちこちで入り乱れている。
村の手前で、必死の攻防が続いていた。
「行くぞ!」
俺たちはすぐさま参戦。
エリオットが支援魔法を展開する。
「《 中域力向上》」
「《 中域攻撃力向上》」
「あと、ええっと……《 中域速度向上》!」
――連続詠唱。
サラマンダー戦から、すっかりジルドを真似したがるようになった。
ほんと、影響を受けやすい奴だ。
青白い光が一帯に広がり、
俺たちと周囲の狩人たちの身体能力が一気に底上げされる。
オルフィナが高熱の火球を撃ち込み、
アヤメの矢が次々と氷狼の弱点を撃ち抜く。
弾かれた氷狼がよろめいた瞬間、俺は地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。
氷狼の懐へ滑り込み、急所へ剣を突き通す。
「まだまだぁっ!」
アヤメのすぐ横で、ハヤテも懸命に弓を引いていた。
矢筋はまだ荒いが、必死さだけは一人前だ。
――良いところを見せたいのだろう。
やがて、氷狼の群れは多くの死体を残して森の奥へ退散していった。
冷たい夜風だけが残り、不気味な静けさが戻ってくる。
◇
翌朝。
薄曇りの空の下、今度は氷狼の処理作業が始まった。
村の男たちが次々と狼を運び、皮を剥ぎ、肉と骨を分けていく。
昨日に引き続き、俺とアヤメもその輪に加わった。
そのアヤメの隣で、ハヤテはまたちらちらと横顔を盗み見ている。
昨日より視線が長い。
昼になり、女房たちとオルフィナたちが炊き出しを配り歩く。
温かい肉団子のスープと焼きたての黒パンが、冷えた身体に染みわたる。
ひとしきり昼食を終え、休憩していると――
またしても、ハヤテが走ってきた。
「ア、アヤメ! これ……食べてくれ! これも村の名物なんだ!」
差し出されたのは、焼きりんごの蜂蜜バター包み。
外はカリッと、中はとろりと甘い匂いが漂ってくる。
「わあ……ありがとう!」
アヤメが目を輝かせると、ハヤテはまた耳まで赤くした。
「やっぱり甘酸っぱいな」
オルフィナがまたつぶやく。
うん? りんごがか?
◇
その夜。
宿の静けさを破って、またしても扉が叩きつけられた。
「アレクスさん!! 今度は……大イノシシの群れが……!」
息を荒げたハヤテが飛び込んできた。
顔は真っ青、だが目には必死の光が宿っている。
「今まで見たことのない数なんです!」
オルフィナが腕を組み、眉を寄せた。
「……たぶん、アレクスが呼んだんだと思う」
◇
現場へ駆けつけると、月明かりの下に影が蠢いていた。
十、二十、三十……いや、もっといる。
大イノシシの群れが地響きを立てながら村へ迫っていた。
しかし、
いまや、俺たちは、イノシシ狩りに関しては、
達人の域に達していると言っても過言ではないだろう。
即座に、エリオットが連続詠唱で魔法障壁を複数展開。
突進してきた大イノシシたちが次々とぶつかり、速度を削がれていく。
オルフィナが火球を繰り出す。
「ふっふっふ……よいぞ野獣ども!
わが烈火の炎に焼かれ、チャーシューになるがよい!!」
中二向上を述べる余裕すらある。
火球に押され、大イノシシたちは、次々と足を止めた。
「アヤメ、行くぞ!」
「はいっ!」
俺は足止めされた大イノシシの急所へ正確に剣を突き、
アヤメはその横から、矢を次々と射込み、とどめを重ねていく。
彼女の動きは、
冷静で、無駄がなく、そして鋭い。
その姿に――
ハヤテは、完全に見惚れていた。
◇
数十分後。
大群は、多くの屍を残し、完全に退散していった。
残された狩人たちは、しばらく呆然と戦場を眺めていたが――
やがて誰かがぽつりとつぶやいた。
「……やっぱり、Sランクってのは化け物だな」
「いや、すげぇ……ほんとにすげぇ……!」
尊敬と畏怖が入り混じった眼差しが、俺たちに向けられる。
◇
翌朝。
まだ太陽が地平線の上に少し顔を出したばかりだというのに、
村の狩人たちはすでに動き始めていた。
今度は、大イノシシの処理である。
毛皮、肉、骨、牙
――使えるところは余すところなく利用するのが狩人の流儀だ。
もちろん、俺とアヤメもその輪に加わった。
「イノシシスレイヤーの旦那!」
作業場に入った途端、そんな声が飛んできた。
「……だれだ、その通り名を広めたのは!!」
アヤメの横には、今日も当然のようにハヤテが陣取っていた。
昨日よりさらに距離が近い気がする。
アヤメが手を動かすたび、ちら、ちら。
横顔を見る時間が、明らかに増えている。
……いや、見る時間どころか、今は完全に手が止まっている。
昼頃になると、女房たちとオルフィナたちによる炊き出しが始まった。
湯気を立てる温かいスープと、香ばしく焼かれた黒パン。
働いたあとの身体に、じんわり沁み渡る。
食べ終えて、木陰で少し休んでいると――
来た。
「ア、アヤメ! これ……食べてくれ!」
今日もハヤテが何かを抱えてやってきた。
差し出したのは、素朴な香りのどんぐり粉の森クッキー(甘栗入り)。
「わぁ……! ハヤテ、ありがとう!」
アヤメの顔が、ぱっと明るくなる。
その瞬間、ハヤテの表情はまたしても真っ赤に染まった。
「あのさ……」
「なあに?」
「いや……なんでもない!」
勢いよく頭を下げ、そそくさと立ち去ってしまった。
◇
その夜は、何事もなく静かに更けていった。
翌日の夜も同じだった。
久しぶりに村に訪れた平穏に、狩人たちの顔には少し安堵の色が戻っていた。
そして迎えた翌朝。
俺たちは篝村を発つことにした。
◇
村の出口には、狩人たちがずらりと並んで見送りに来てくれていた。
笑顔で手を振る者、深く頭を下げる者、
昨晩の戦いを思い出して興奮気味に語り合う者までいる。
その中に――ハヤテの姿もあった。
アヤメが通り過ぎようとした、その瞬間。
「ア、アヤメ!」
ハヤテが思い切ったように声を上げた。
アヤメが振り返り、小首をかしげる。
「?」
ハヤテは拳をぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしながら言った。
「おれ……おれの目標は、アヤメ、お前だ!
いつか、お前と肩を並べて戦えるくらい……強くなる!
そしたら……そしたら、また一緒に戦ってほしい!!」
声が震えていた。
けれど、目は真っすぐだった。
一生懸命に絞り出した言葉だというのが伝わってくる。
アヤメは、一瞬だけ驚いた顔をしたが――
すぐに、太陽みたいな笑顔を向けた。
「うん。ありがとう。楽しみにしているよ」
その笑顔を見た途端、ハヤテはぽかんと口を開け……
次の瞬間、泣きそうで、それでも嬉しそうな表情になった。
「……っ! が、がんばる!!」
そして大きく手を振った。
「季節がいい時にも来てくれ! 本当に、また来てくれよ!」
「うん、またねー!」
アヤメが手を振り返すと、
ハヤテはますます赤くなりながら、必死に腕をぶんぶん振っていた。
◇
その様子を少し離れた場所から眺めながら、
「……うかうかしてられないぞ? アレクス」
オルフィナが横目で俺を見ながら言った。
「……?
ああ、若い者に追い抜かれないよう、精進するよ」
「いや、そうじゃなくて……」
オルフィナは額を押さえた。
「……やっぱり、お前は、だめだ!!」
なぜか強めにダメ出しされた。
その隣で、
アヤメは最後に村へ向かってもう一度手を振っていた。
まだまだ冬の気配は濃い。
吐く息は白く、森の奥には静寂が広がっている。
俺たちは肩の雪を払いながら、再び旅路へと歩き出した。
深夜になって再びハヤテが飛び込んできた。
「アレクスさん! 氷狼の群れが出ました!」
肩で息をしながらも、必死に言葉をつなぐ。
「数が……多いんです! 狩人だけじゃ、止められません!」
氷狼――牙に凍結属性を帯び、かすり傷でも凍傷を負う厄介な相手だ。
とはいえ、 霧獣を倒した俺たちにとっては、十分対処できるレベル。
◇
現場へ駆けつけると、月明かりの下で白い影が無数に跳ね回っていた。
「三十……いや、それ以上か」
氷狼たちの遠吠えと、狩人たちの怒号があちこちで入り乱れている。
村の手前で、必死の攻防が続いていた。
「行くぞ!」
俺たちはすぐさま参戦。
エリオットが支援魔法を展開する。
「《 中域力向上》」
「《 中域攻撃力向上》」
「あと、ええっと……《 中域速度向上》!」
――連続詠唱。
サラマンダー戦から、すっかりジルドを真似したがるようになった。
ほんと、影響を受けやすい奴だ。
青白い光が一帯に広がり、
俺たちと周囲の狩人たちの身体能力が一気に底上げされる。
オルフィナが高熱の火球を撃ち込み、
アヤメの矢が次々と氷狼の弱点を撃ち抜く。
弾かれた氷狼がよろめいた瞬間、俺は地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。
氷狼の懐へ滑り込み、急所へ剣を突き通す。
「まだまだぁっ!」
アヤメのすぐ横で、ハヤテも懸命に弓を引いていた。
矢筋はまだ荒いが、必死さだけは一人前だ。
――良いところを見せたいのだろう。
やがて、氷狼の群れは多くの死体を残して森の奥へ退散していった。
冷たい夜風だけが残り、不気味な静けさが戻ってくる。
◇
翌朝。
薄曇りの空の下、今度は氷狼の処理作業が始まった。
村の男たちが次々と狼を運び、皮を剥ぎ、肉と骨を分けていく。
昨日に引き続き、俺とアヤメもその輪に加わった。
そのアヤメの隣で、ハヤテはまたちらちらと横顔を盗み見ている。
昨日より視線が長い。
昼になり、女房たちとオルフィナたちが炊き出しを配り歩く。
温かい肉団子のスープと焼きたての黒パンが、冷えた身体に染みわたる。
ひとしきり昼食を終え、休憩していると――
またしても、ハヤテが走ってきた。
「ア、アヤメ! これ……食べてくれ! これも村の名物なんだ!」
差し出されたのは、焼きりんごの蜂蜜バター包み。
外はカリッと、中はとろりと甘い匂いが漂ってくる。
「わあ……ありがとう!」
アヤメが目を輝かせると、ハヤテはまた耳まで赤くした。
「やっぱり甘酸っぱいな」
オルフィナがまたつぶやく。
うん? りんごがか?
◇
その夜。
宿の静けさを破って、またしても扉が叩きつけられた。
「アレクスさん!! 今度は……大イノシシの群れが……!」
息を荒げたハヤテが飛び込んできた。
顔は真っ青、だが目には必死の光が宿っている。
「今まで見たことのない数なんです!」
オルフィナが腕を組み、眉を寄せた。
「……たぶん、アレクスが呼んだんだと思う」
◇
現場へ駆けつけると、月明かりの下に影が蠢いていた。
十、二十、三十……いや、もっといる。
大イノシシの群れが地響きを立てながら村へ迫っていた。
しかし、
いまや、俺たちは、イノシシ狩りに関しては、
達人の域に達していると言っても過言ではないだろう。
即座に、エリオットが連続詠唱で魔法障壁を複数展開。
突進してきた大イノシシたちが次々とぶつかり、速度を削がれていく。
オルフィナが火球を繰り出す。
「ふっふっふ……よいぞ野獣ども!
わが烈火の炎に焼かれ、チャーシューになるがよい!!」
中二向上を述べる余裕すらある。
火球に押され、大イノシシたちは、次々と足を止めた。
「アヤメ、行くぞ!」
「はいっ!」
俺は足止めされた大イノシシの急所へ正確に剣を突き、
アヤメはその横から、矢を次々と射込み、とどめを重ねていく。
彼女の動きは、
冷静で、無駄がなく、そして鋭い。
その姿に――
ハヤテは、完全に見惚れていた。
◇
数十分後。
大群は、多くの屍を残し、完全に退散していった。
残された狩人たちは、しばらく呆然と戦場を眺めていたが――
やがて誰かがぽつりとつぶやいた。
「……やっぱり、Sランクってのは化け物だな」
「いや、すげぇ……ほんとにすげぇ……!」
尊敬と畏怖が入り混じった眼差しが、俺たちに向けられる。
◇
翌朝。
まだ太陽が地平線の上に少し顔を出したばかりだというのに、
村の狩人たちはすでに動き始めていた。
今度は、大イノシシの処理である。
毛皮、肉、骨、牙
――使えるところは余すところなく利用するのが狩人の流儀だ。
もちろん、俺とアヤメもその輪に加わった。
「イノシシスレイヤーの旦那!」
作業場に入った途端、そんな声が飛んできた。
「……だれだ、その通り名を広めたのは!!」
アヤメの横には、今日も当然のようにハヤテが陣取っていた。
昨日よりさらに距離が近い気がする。
アヤメが手を動かすたび、ちら、ちら。
横顔を見る時間が、明らかに増えている。
……いや、見る時間どころか、今は完全に手が止まっている。
昼頃になると、女房たちとオルフィナたちによる炊き出しが始まった。
湯気を立てる温かいスープと、香ばしく焼かれた黒パン。
働いたあとの身体に、じんわり沁み渡る。
食べ終えて、木陰で少し休んでいると――
来た。
「ア、アヤメ! これ……食べてくれ!」
今日もハヤテが何かを抱えてやってきた。
差し出したのは、素朴な香りのどんぐり粉の森クッキー(甘栗入り)。
「わぁ……! ハヤテ、ありがとう!」
アヤメの顔が、ぱっと明るくなる。
その瞬間、ハヤテの表情はまたしても真っ赤に染まった。
「あのさ……」
「なあに?」
「いや……なんでもない!」
勢いよく頭を下げ、そそくさと立ち去ってしまった。
◇
その夜は、何事もなく静かに更けていった。
翌日の夜も同じだった。
久しぶりに村に訪れた平穏に、狩人たちの顔には少し安堵の色が戻っていた。
そして迎えた翌朝。
俺たちは篝村を発つことにした。
◇
村の出口には、狩人たちがずらりと並んで見送りに来てくれていた。
笑顔で手を振る者、深く頭を下げる者、
昨晩の戦いを思い出して興奮気味に語り合う者までいる。
その中に――ハヤテの姿もあった。
アヤメが通り過ぎようとした、その瞬間。
「ア、アヤメ!」
ハヤテが思い切ったように声を上げた。
アヤメが振り返り、小首をかしげる。
「?」
ハヤテは拳をぎゅっと握りしめ、顔を真っ赤にしながら言った。
「おれ……おれの目標は、アヤメ、お前だ!
いつか、お前と肩を並べて戦えるくらい……強くなる!
そしたら……そしたら、また一緒に戦ってほしい!!」
声が震えていた。
けれど、目は真っすぐだった。
一生懸命に絞り出した言葉だというのが伝わってくる。
アヤメは、一瞬だけ驚いた顔をしたが――
すぐに、太陽みたいな笑顔を向けた。
「うん。ありがとう。楽しみにしているよ」
その笑顔を見た途端、ハヤテはぽかんと口を開け……
次の瞬間、泣きそうで、それでも嬉しそうな表情になった。
「……っ! が、がんばる!!」
そして大きく手を振った。
「季節がいい時にも来てくれ! 本当に、また来てくれよ!」
「うん、またねー!」
アヤメが手を振り返すと、
ハヤテはますます赤くなりながら、必死に腕をぶんぶん振っていた。
◇
その様子を少し離れた場所から眺めながら、
「……うかうかしてられないぞ? アレクス」
オルフィナが横目で俺を見ながら言った。
「……?
ああ、若い者に追い抜かれないよう、精進するよ」
「いや、そうじゃなくて……」
オルフィナは額を押さえた。
「……やっぱり、お前は、だめだ!!」
なぜか強めにダメ出しされた。
その隣で、
アヤメは最後に村へ向かってもう一度手を振っていた。
まだまだ冬の気配は濃い。
吐く息は白く、森の奥には静寂が広がっている。
俺たちは肩の雪を払いながら、再び旅路へと歩き出した。
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