荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう

文字の大きさ
28 / 46

28白熊破撃(はくゆうはげき)

しおりを挟む
 ハヤテからひととおり村を案内してもらい、
 日が落ちる頃には、吐く息が白く凍りそうな寒さになっていた。

 俺たちは宿屋へ戻り、そのまま夜間待機となった。

 食堂の灯りが落ち、薪ストーブのパチパチという音だけが響く。
 テーブルを囲むのは俺、アヤメ、オルフィナ、エリオット。

「さて……狼については、よく知っている通りだが――」

 少し緊張していた空気がゆるみ、俺は椅子にもたれながら口を開いた。

「熊、特にスノーベアの攻略について話しておこう。
 アヤメ、覚えておくといい」

 アヤメは姿勢を正し、真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。



 俺は、大学の講義を思い出しながら、説明を続けた。

「まず 近づけないこと。突進を受けたら終わりだ。
 外側に散開して、魔法や弓で注意をそらすのが基本だな。」

「次に弱点。脚の関節・胸の合わせ目・ 鼻梁びりょう・眼。
 このあたりは毛皮が薄い。アヤメの矢なら通る。」

「……覚えました!」

「戦い方は、たった三つに集約される。
 崩す → 怯ませる → 急所へ一撃。」

 アヤメが真剣にうなずく。

「魔法は基本“牽制”だ。派手さより、動きを止めることを優先する。」

 最後に三本指を立てる。

「そして――やっちゃいけないのはこの三つ。
 正面に立つな、背後に回るな、攻撃後に突っ立つな」

「……全部、死につながるんですね。」

「そういうことだ。油断した瞬間が、一番危ない。」



 そうこうしているうちに、宿の扉が勢いよく開いた。

「アレクスさん――スノーベアが、出ました!!」

 息を切らし、顔を真っ青にしたハヤテが駆け込んでくる。

 村の外。
 かがり火が風に揺れ、その赤い光の先に――“それ”はいた。

 化け物級の巨体。
 全身を覆う白毛が炎を反射し、まるで山が動いたようだった。

 こちらを向き、低い唸り声で威嚇していた。
 今にも飛びかかってきそうだ。

 一瞬、足がすくむほどの威圧感。

「あれは……ちょっと、むりだぞ」
「に、にげるか……?」

 狩人たちは完全に腰が引けている。

「Sランクの旦那……お願いします!」

 村人たちの期待が、ずしりと重くのしかかった。

 スノーベア――
 普通ならCランクでなんとか倒せる強敵。

 その場に立つハヤテの顔は真っ青だったが、
 それでも、ぎゅっと拳を握りしめて言った。

「アレクスさん……! 俺も、加勢します……!」

 恐怖に震えながらも、必死に前を向こうとするその瞳。
 その奥にある“憧れ”の色は、確かだった。



「先ほどの作戦通りでよろしいのですね、アレクス様」

 アヤメがスノーベアを睨みつけたまま、静かに言う。
 その横顔は落ち着き払っている――この状況でも動じていない。

「ああ。みな、手順通りにやるぞ!」

 俺の号令とともに、スノーベアがのっしのっしと前へ踏み出した。
 地面が震え、胸の奥まで響くほどの重圧。

 戦闘が始まる。



「えい、えい、えいっ!」

 オルフィナが火球を連打し、左右から牽制する。

 しかし――

「グオオオォォッ!!」

 スノーベアが怒号のような 咆哮ほうこうとともに、オルフィナへ突進した。

「まずいっ!」

 エリオットが即座に魔法障壁を張る。
 巨体が衝突し、轟音が響いた。

 だが――壁がきしむ。

「ひっ……!」

 怯んだオルフィナへ、俺は床を蹴り、影のように飛び込んだ。
 抱え上げ、そのまま一気に距離を取る。

 直後、障壁が粉々に砕け散った。



 その一瞬の隙に――ハヤテが動いた。

「うおおおっ!!」

 側面から放った矢がスノーベアの肩に命中。
 だが急所には届かない。

「まだまだだ!!」

 スノーベアが怒り狂い、ハヤテへ突進。

 ハヤテの顔が青ざめきり、足が固まる。

「ひ……ひっ……!」

「ハヤテ、下がれ!!」

 エリオットが再び障壁を張るが、もって数秒。



 その時だった。

 ――ひゅっ。

 一本の矢が、ハヤテの耳元をかすめて飛んだ。
 そのまま、スノーベアの鼻梁へ正確に突き刺さる。

「グオォォッ!!」

 巨体がのけぞった瞬間――

 ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ。

 次々と放たれた矢が、
 胸の合わせ目、右目、左目へと寸分違わず突き刺さる。

 完全に動きが止まった。

「今だ!!」

 俺は地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。
 迷いなく剣を構え、そのまま首元へ深く突き込む。

 確かな手応え。
 スノーベアの巨体が崩れ落ちた。



 震える足で、ハヤテがゆっくりと後ろを振り返る。

 そこには――

 かがり火の光を受けながら、
 弓を引き絞った姿勢のまま立つアヤメがいた。

 その瞳は紅く光り、昼間とはまるで別人。
 冬の闇よりも深い静けさを湛えたその表情には、わずかな迷いもない。

 ――そこにいたのは、ひとりの“戦士”だった。



 翌日は早朝から、村の狩人総出でスノーベアの解体作業が行われた。
 あれほどの巨体では運搬など到底無理で、仕留めたその場での作業になる。

 狩人たちに混じって、俺とアヤメも手伝った。
 ハヤテはというと、アヤメの隣で作業しながら、ちらちらと彼女を見ている。

 昨晩の戦いで、アヤメの実力を完全に理解したのだろう。
 興味は、すっかり俺からアヤメへ移ったようだった。

 昼になると、村の女房たちが炊き出しをしてくれた。
 温かい汁物の匂いが広場いっぱいに広がり、
 オルフィナとエリオットも給仕を手伝って忙しそうに動き回っていた。

 昼食を終え、木陰でひと息ついていると、
 ハヤテが何かを抱えて走ってきた。

「ア、アヤメ! これ……食べてくれ。村の名物なんだ」

 差し出されたのは、蜂蜜をたっぷりかけた焼き団子。

「いいの?」
「ああ……その、昨日は……失礼なこと言った。撤回する。お前は強い」

 慣れない謝罪に、ハヤテの声が震えている。

 アヤメはにこっと笑って答えた。

「そんな、たいしたことないよ。でも……ありがとう」

 その笑顔を受けた瞬間、ハヤテは耳まで真っ赤に染まり、
「あ、あのっ……皆さんもどうぞ……!」
 と慌てたように俺たちにも団子を配り始めた。

 照れ屋さんだな……

 団子を頬張っていると、オルフィナがぽつりと言った。
「なんか甘酸っぱいな」

 なに? だんごがか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

処理中です...