SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう

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第37章 受付嬢の決意

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「……おそらく、英雄アレクスはどこかで眠っている。」

 その言葉に、レイナさんの表情がぱっと明るくなった。
 「眠っている」という響きが、
 “死んでいない”という希望の形に変わったのだ。

「じゃあ、生きてるってことだよね……! 
 マイト、探せるんでしょ?」

「やってみるさ。」

 《リンク》は、そこに収めた顔写真があれば、その人物を識別し、
 現在地までを特定してくれる。
 この機能で、俺は今まで何度も仲間を救ってきた。

 ただ――今回は、その肝心の写真がない。

 わかっているのは、名前と、わずかな特徴だけ。

「名前、か……」
 呟きながら、俺は考えを巡らせる。
 名前が分かっているなら、それを情報キーとして扱えばいい。
 そう思った瞬間、ひらめきが走った。

 ――そうだ。WikiPediaに載っているかもしれない。

 この世界では、なぜかインターネット検索が使える。
 Googleサーチも、WikiPediaも、ちゃんと動く。
 この世界の“神”がせっせと情報を整理して公開しているのか、
 それとも、この世界そのものがコードで構成されたシステムで、
 何かの拍子にその一部が“漏れ出ている”のか。

 理由は分からない。だが、確かに存在している。

 WikiPediaは特定の情報を詳しく調べるのに最適だ。
 あらゆる分野の知識が網羅されていて、
 有名な人物なら、だいたい掲載されている。
 俺たち無名の冒険者はさすがに載っていないが――
 “英雄アレクス”ほどの存在なら、きっとあるはずだ。

 俺は《リンク》の検索画面を開き、
 ゆっくりとキーボードを叩いた。

 ――“英雄アレクス”。

 検索。
 画面が一瞬だけ暗転し、すぐに新しいページが表示された。

 ビンゴ。

 見事、WikiPediaの見出しにその名があった。
 “英雄アレクス(ALEX THE BRAVE)”。

 息を呑みながらスクロールする。
 そこには、生まれ故郷や家族の記録、戦いの軌跡が詳しく記されていた。
 そして――「家族」の欄。

 “フィアンセ:レイナ”

 その一文を見た瞬間、胸が熱くなった。
 レイナさんは、やはり彼にとって特別な存在だったのだ。

 ページをさらに下へ。
 エピソードの章には、数々の戦いと伝説が並んでいる。
 ドラゴン退治、盗賊団壊滅、王国防衛……。
 そのどれもが、ひとりの人間の記録とは思えないほど壮絶だった。

 だが、俺が本当に探していたのは、その最後の行だ。

 ――“港町オルビアにて、クラーケンと交戦。
  これを討伐するも、深い傷を負う。”

 ページを見つめたまま、俺は息を止めた。

 みつけた。英雄はここに眠っている――!

「レイナさん、わかりました。
 おそらく、アレクスは――港町オルビアにいる!」

 俺がそう告げると、レイナさんの目が大きく見開かれた。
 その輝きは、まるで長い冬を越えて、初めて春の光を見たようだった。

 俺はすぐに《リンク》を操作し、GoogleMapを開く。
 港町オルビアの位置を検索すると、青いルートが三本、画面に浮かび上がった。

 ● やや平坦な街道ルート :早馬2日 馬車10日 徒歩100日
 ● 山越えの短縮ルート  :早馬1日半 馬車7日 ただし魔物多発
 ● 森林経由の安全ルート :馬車12日 徒歩120日

「……往復で二十日か。結構な距離だな。」
 ルートを眺めながら、思わず呟く。
 さすがに徒歩は論外だ。馬車でも一週間以上。
 さて、どうしたものかと考えていると――

「私も、連れてって。」

 唐突にレイナさんが言った。
 その声は、驚くほど真剣だった。

「えっ? いやいや、それは……危険です。
 平坦な道とはいえ、魔物だって出ますし。」

 俺が止めると、レイナさんは一歩前に出た。
 その瞳は、まっすぐ俺を射抜くようだった。

「それでも、行くわ。もう、待ってるだけなんてできない。
 ……私、攻撃魔法も使えるのよ。ひとつだけだけど。」

 その声音には、迷いがなかった。
 自分にできることが少なくても、行く――
 そう言い切る彼女の姿に、俺は言葉を失った。

「いや、でも仕事はどうするんですか?
 ギルドの受付、休めないでしょう?」
 俺がそう言うと、レイナさんは胸を張って答えた。

「有給休暇を取る!」

「……は?」

 この世界では、有給休暇が、取れるのか!?

 俺は軽く目眩を覚えた。

 それでも、なお説得を試みようとしたが――
 レイナさんは、俺の手をそっと取った。

 その仕草が、驚くほど優しかった。

「お願いだから……。」

 潤んだ瞳で見上げられ、声が震える。
 その瞬間、理屈も防御も、すべて吹き飛んだ。

 これには――勝てない。

「……わかりました。危険な場所ですから、
 俺たちの指示には必ず従ってくださいね。」

 そう言うと、レイナさんはほっと笑顔を見せた。
 それは、
 戦いに挑む冒険者たちの中にあって、ひときわまぶしい光だった。
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