61 / 61
エピローグ 収穫祭
しおりを挟む
今年も、収穫祭の季節がやってきた。
街は朝からどこか浮き立っていて、屋台の香りが風に乗って流れてくる。
広場では、毎年恒例――冒険者すもう大会が開催される。
私は今年も解説者として、ギルド長の隣に座ることになった。
「いやぁ、今年も人が多いな!」とギルド長は陽気に笑っている。
私はそれに軽く微笑んで返しつつ、ふと思い出した。
――この大会の始まりは、
“私へのデートの誘いの権利”をめぐる争奪戦だった、ということを。
今思えば、呆れてものも言えない理由だ。
けれど、そのおかげで街に毎年の名物が生まれたのだから、
世の中、何がどう転ぶかは分からない。
土俵から、大きなどよめきが上がる。
ギルド最強と名高いパーティの某戦士が、今年も快進撃を見せているようだ。
「さっきの出足払いは、タイミングが絶妙でしたね」
そう解説しながら、胸のどこかが静かに疼く。
この場に――
戦士のように戦う、変わり者の僧侶はもう、いない。
あの最強戦士に対して互角の取り組みを見せた、無鉄砲な戦士もいない。
妹のように可愛らしかったあの子も、
その子がいつも追いかけていた不器用な魔法使いも、もういない。
そして――
相撲がとても弱かったくせに、
不思議な魔道具で、私たちを助けてくれたあのレンジャーも。
……誰一人、もうこの世界には、いない。
大会の歓声を聞きながら、私はそっと目を伏せる。
ときおり彼らのことを思い返す。
思い返すたびに、胸の奥が少しだけあたたかく、そして少しだけ、さみしくなる。
ふと、
彼らが、私を初めての冒険に連れ出してくれた、あの日のことを、
思い出す。
かけがえのない思い出だ。
もう会うことはないのだろう。
そう思うと、胸の奥にかすかな風が吹く。
けれど――
“世界”は、確かに私たちに教えてくれた。
あのレンジャー、マイトが、仲間を無事に元の世界へ連れて帰ったこと。
そして彼らが、元の場所で元気に暮らしていること。
本当に、良かったと思う。
――ただ。
願わくば。
また、どこかで、会うことができたら。
相撲の勝敗を知らせる鐘が鳴り、土俵に歓声が響いた。
私は顔を上げ、解説席へと意識を戻す。
今年の収穫祭も、きっと賑やかになるだろう。
街は朝からどこか浮き立っていて、屋台の香りが風に乗って流れてくる。
広場では、毎年恒例――冒険者すもう大会が開催される。
私は今年も解説者として、ギルド長の隣に座ることになった。
「いやぁ、今年も人が多いな!」とギルド長は陽気に笑っている。
私はそれに軽く微笑んで返しつつ、ふと思い出した。
――この大会の始まりは、
“私へのデートの誘いの権利”をめぐる争奪戦だった、ということを。
今思えば、呆れてものも言えない理由だ。
けれど、そのおかげで街に毎年の名物が生まれたのだから、
世の中、何がどう転ぶかは分からない。
土俵から、大きなどよめきが上がる。
ギルド最強と名高いパーティの某戦士が、今年も快進撃を見せているようだ。
「さっきの出足払いは、タイミングが絶妙でしたね」
そう解説しながら、胸のどこかが静かに疼く。
この場に――
戦士のように戦う、変わり者の僧侶はもう、いない。
あの最強戦士に対して互角の取り組みを見せた、無鉄砲な戦士もいない。
妹のように可愛らしかったあの子も、
その子がいつも追いかけていた不器用な魔法使いも、もういない。
そして――
相撲がとても弱かったくせに、
不思議な魔道具で、私たちを助けてくれたあのレンジャーも。
……誰一人、もうこの世界には、いない。
大会の歓声を聞きながら、私はそっと目を伏せる。
ときおり彼らのことを思い返す。
思い返すたびに、胸の奥が少しだけあたたかく、そして少しだけ、さみしくなる。
ふと、
彼らが、私を初めての冒険に連れ出してくれた、あの日のことを、
思い出す。
かけがえのない思い出だ。
もう会うことはないのだろう。
そう思うと、胸の奥にかすかな風が吹く。
けれど――
“世界”は、確かに私たちに教えてくれた。
あのレンジャー、マイトが、仲間を無事に元の世界へ連れて帰ったこと。
そして彼らが、元の場所で元気に暮らしていること。
本当に、良かったと思う。
――ただ。
願わくば。
また、どこかで、会うことができたら。
相撲の勝敗を知らせる鐘が鳴り、土俵に歓声が響いた。
私は顔を上げ、解説席へと意識を戻す。
今年の収穫祭も、きっと賑やかになるだろう。
33
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結おめでとう
しかし、◯◯在住だったのか旅行中だったのかは微妙に気になる所……
最後まで読んで頂き、感想もいただき、ありがとうございました。
大変励みになりました。
ちなみに、
最終回の、○○在住の件ですが、
小説には、明記していませんでしたが、長期留学していた、っていう裏設定です。
付録 アレク学園
生き残るための嘘……
……はて、対魔物の偽装工作なのか、アホを仲間にしちゃった時用の情報操作なのか……
……ルナって……男か?!
男です。名前が女の子っつぽいですよね。。。