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20:熱が出た――らしい?
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エット―――今、何時? イヤ、何日?
ぶっ倒れたパーティーの翌日の休日(という名の荷物運びか予備の日)、私は熱を出した――らしい。
「らしい」というのは、私が目を覚ましたのは、日が暮れた後だったからだ。
いつもなら日が明けたくらいの時間帯に目が覚めるよう、体内時計が決まっているはずなんだが……今日は目が覚めたらあたりが暗かった。
何というのだろう……日の出前、だとはどうしても思えなかった。
変な時間に早く起きて眠いのではなく、寝すぎて眠い感じ。
(うん、何時間寝てた?)
が、本日初めて考えた事でした。
少し現実逃避にごろごろしてたら、ふと思い出した。
――そういえば、昔から急に倒れたと思ったら熱出した事が何回かあったなー。
もれなく、熱を出していた間の記憶はなかったのだが。
今回もそれなんだろうか。昨日、何の前触れもなくぶっ倒れたし。
ん? あれ、前触れあったっけ?
………よく覚えてないから、無かった、でいいか。うん。寝ぼけてる頭で考えるのは面倒臭い。
それにしても、
(お腹すいたなー)
よくよく思い返してみれば、昨夜のパーティーでもろくなもの食べて無かったな。
軽食ばっかり。しかも、そこまでの量を食べるほどの時間もなかったはずだ。
そりゃ、お腹も減るよ。丸一日くらい、何も食べてないんだから。
私はのそりと、騎士になる前まで使っていた、スリンヤ宮の自分のベッドから這い出た。
ていうか、丸一日寝てたことになるのか。今日の予定マルゴトすっぽかしたわけか。ヤッバーイ(棒読み)。でも、今更どうにかなるわけでもない――よね。
過ぎたものはどうにもならないし。
私は、現実から目をそらした。
適当に、そこら辺にあった荷物の中から服を取り出して着る。寝ぐせのついた髪は、手櫛で何となく梳かして紐でひとくくりにする。
よし、ご飯食べに行こう。
―――もう22時半すぎだけど、厨房に何か残ってるといいな。
そんな思いを抱きながら、うるさくしないよう注意しながら厨房に向かう。
夜も更けてきたからか、廊下の明かりはそこまでランランと灯されてはれてはおらず、少し薄暗い。
――懐かしいなぁ。
騎士として『緑牙』に就任してから、スリンヤ宮には帰ってきていなかった。
帰らなかった言い訳するわけではないが、まず、就任地から遠い。
めっちゃ遠いっ!! ちょっと休みの日に帰ろうかなー、なんてできない距離。そうなると、帰るにも帰れないと思うのだ。
基本、騎士の休みは一日が基本である。伝言玉があるならまだしも、一日で行ける距離ではないから帰れなかったのである
――決して、私を構いすぎてくる親が煩わしくて、帰らなかったわけではない。そう、決して。
そんな風に、私は誰かに言い訳しながら廊下を歩く。
何も、変わっていなかった。私がこの『家』を出た頃と。
明かりの数、燭台、明かりが灯されたロウソクの種類、渋い赤色の絨毯。何一つ。
懐かしい、と再度思う。ここは、まぎれもなく私が育った場所だった。
何とはなしに、壁に手を這わす。使い込まれて古びてはいるものの、手触りがいい壁布。この落ち着いた黄色が、昔から好きだった。
実家っていいな。もう4年住んだ『緑牙』寮の自室も、もはや自分の家だったが、ここには違った安心感のようなものがある。
ふふっと小さく笑ったところで、私はその気配に気が付いた。
こつり、こつりと密やかに足音がした。ゆっくりと、だが確実にこちらに近づいてくる。
相手は廊下の先にいるようで、暗くて姿が確認できない。
―――背中の毛が逆立つ。気味の悪い、気配……。
覚えのない足音だ。知らない誰かの――。
現ロゥガリヤは、あまり華美を好まない。そのためか、彼らの住まいであるスリンヤ宮は、使用人が少ない。料理人三人と、ターニャとヘルドを含む数人の侍従と侍女だけなはず。
人の顔を覚えるのが苦手な私ですら、さすがにこの全員は覚えている。私が帰らなかった間に、人員が変わっていなければ、の話ではあるが。
「どなたですか……? こんな夜更けに。この宮の使用人ではないでしょう?」
私は、静かに、だがしっかりと問うた。
足音が、止まった。まだ相手の姿は分からない。
「どなたですか、と聞いているのですが」
私は容赦なく訊く。すると、また足音が近づいてきた。
―――今度は、先ほどとは違って性急に。
私は、素早く臨戦態勢に入る。残念ながら剣は部屋に置いてきてしまっていたが、まだ魔術がある。戦える。コソ泥だったら、スリンヤ宮に忍び込んだ事を後悔させてから憲兵に差し出してやる。
――と考えたところで、相手は姿を現した。
「貴方は、確か――ガイナル・バーキニリ……?」
ぶっ倒れたパーティーの翌日の休日(という名の荷物運びか予備の日)、私は熱を出した――らしい。
「らしい」というのは、私が目を覚ましたのは、日が暮れた後だったからだ。
いつもなら日が明けたくらいの時間帯に目が覚めるよう、体内時計が決まっているはずなんだが……今日は目が覚めたらあたりが暗かった。
何というのだろう……日の出前、だとはどうしても思えなかった。
変な時間に早く起きて眠いのではなく、寝すぎて眠い感じ。
(うん、何時間寝てた?)
が、本日初めて考えた事でした。
少し現実逃避にごろごろしてたら、ふと思い出した。
――そういえば、昔から急に倒れたと思ったら熱出した事が何回かあったなー。
もれなく、熱を出していた間の記憶はなかったのだが。
今回もそれなんだろうか。昨日、何の前触れもなくぶっ倒れたし。
ん? あれ、前触れあったっけ?
………よく覚えてないから、無かった、でいいか。うん。寝ぼけてる頭で考えるのは面倒臭い。
それにしても、
(お腹すいたなー)
よくよく思い返してみれば、昨夜のパーティーでもろくなもの食べて無かったな。
軽食ばっかり。しかも、そこまでの量を食べるほどの時間もなかったはずだ。
そりゃ、お腹も減るよ。丸一日くらい、何も食べてないんだから。
私はのそりと、騎士になる前まで使っていた、スリンヤ宮の自分のベッドから這い出た。
ていうか、丸一日寝てたことになるのか。今日の予定マルゴトすっぽかしたわけか。ヤッバーイ(棒読み)。でも、今更どうにかなるわけでもない――よね。
過ぎたものはどうにもならないし。
私は、現実から目をそらした。
適当に、そこら辺にあった荷物の中から服を取り出して着る。寝ぐせのついた髪は、手櫛で何となく梳かして紐でひとくくりにする。
よし、ご飯食べに行こう。
―――もう22時半すぎだけど、厨房に何か残ってるといいな。
そんな思いを抱きながら、うるさくしないよう注意しながら厨房に向かう。
夜も更けてきたからか、廊下の明かりはそこまでランランと灯されてはれてはおらず、少し薄暗い。
――懐かしいなぁ。
騎士として『緑牙』に就任してから、スリンヤ宮には帰ってきていなかった。
帰らなかった言い訳するわけではないが、まず、就任地から遠い。
めっちゃ遠いっ!! ちょっと休みの日に帰ろうかなー、なんてできない距離。そうなると、帰るにも帰れないと思うのだ。
基本、騎士の休みは一日が基本である。伝言玉があるならまだしも、一日で行ける距離ではないから帰れなかったのである
――決して、私を構いすぎてくる親が煩わしくて、帰らなかったわけではない。そう、決して。
そんな風に、私は誰かに言い訳しながら廊下を歩く。
何も、変わっていなかった。私がこの『家』を出た頃と。
明かりの数、燭台、明かりが灯されたロウソクの種類、渋い赤色の絨毯。何一つ。
懐かしい、と再度思う。ここは、まぎれもなく私が育った場所だった。
何とはなしに、壁に手を這わす。使い込まれて古びてはいるものの、手触りがいい壁布。この落ち着いた黄色が、昔から好きだった。
実家っていいな。もう4年住んだ『緑牙』寮の自室も、もはや自分の家だったが、ここには違った安心感のようなものがある。
ふふっと小さく笑ったところで、私はその気配に気が付いた。
こつり、こつりと密やかに足音がした。ゆっくりと、だが確実にこちらに近づいてくる。
相手は廊下の先にいるようで、暗くて姿が確認できない。
―――背中の毛が逆立つ。気味の悪い、気配……。
覚えのない足音だ。知らない誰かの――。
現ロゥガリヤは、あまり華美を好まない。そのためか、彼らの住まいであるスリンヤ宮は、使用人が少ない。料理人三人と、ターニャとヘルドを含む数人の侍従と侍女だけなはず。
人の顔を覚えるのが苦手な私ですら、さすがにこの全員は覚えている。私が帰らなかった間に、人員が変わっていなければ、の話ではあるが。
「どなたですか……? こんな夜更けに。この宮の使用人ではないでしょう?」
私は、静かに、だがしっかりと問うた。
足音が、止まった。まだ相手の姿は分からない。
「どなたですか、と聞いているのですが」
私は容赦なく訊く。すると、また足音が近づいてきた。
―――今度は、先ほどとは違って性急に。
私は、素早く臨戦態勢に入る。残念ながら剣は部屋に置いてきてしまっていたが、まだ魔術がある。戦える。コソ泥だったら、スリンヤ宮に忍び込んだ事を後悔させてから憲兵に差し出してやる。
――と考えたところで、相手は姿を現した。
「貴方は、確か――ガイナル・バーキニリ……?」
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