竜王様は封印されてから1000年後に叩き起こされました。

カリノア

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いつの時代も姉は強い

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 何故、ルキシエンスがその行事に参加することになったのか。 

  

 ことの始まりは、7日前に遡る――。 

 

  

 その日、ルキシエンスは、昨日はついつい興が乗って、夜明けくらいまで研究に没頭していた。 

 夜明け間近になってようやく限界が来て、気を失うようにして寝たのだが、一時間もしないうちにこの非道な姉――セレイディアの執務室に呼び出されたのだった。 

 もちろんのこと、彼の機嫌がいいはずはない。 

 ルキシエンスはいつにもまして無愛想な顔と声を、敬愛する姉に向けた。 

 姉はまだ早朝だというのに、うっすらとした優雅な笑みをその麗しい顔に浮かべ、くつろいだ様子で談話室のソファーに腰を下ろしている。 

「機嫌が悪いようだな?」 

「一時間くらい前まではすこぶる良かったんですけどね?」 

 この程度のかわいい皮肉は、彼の姉にはそよ風程度にもならない。セレイディアは、ゆったりと微笑んだままだ。 

 その様子に、ルキシエンスはますます眉の間の渓谷を深めた。眠い。 

「まあまあ、そう怒らないでくれ。私が理由もなくこんな朝っぱらから起きているはずないだろう?」 

「知りませんよ、そんなこと」 

 本当、さっさと用件を言ってほしい。そして早くベッドに戻りたい。 

「ツレナイな。ルースは最近、私に冷たい」 

「20にもなった弟に何を求めてるんです?」 

「なぁに、昔はあんなに可愛かったのに、と懐かしんでいるだけだよ」 

 呆れた口調のルキシエンスと対照に、セレイディアはますます笑みを深める。彼の姉は、感情を隠すのがすこぶる上手かった。 

 それが少々気に入らなくて、ルキシエンスはささやかな反撃を試みた。 

「甘やかしてほしいんだったら、義兄上にでもお願いしてくださいよ」 

「いつもしてもらっているから、心配はいらない」 

 さらっと惚気けられた。セレイディアは夫――ナヴァルグース・ギルヴァートにベタボレなのである。 

 セレイディアは、先程までの妖しい微笑みをだらしなく緩め、可憐に頬を染めて続けた。 

「ヴァルは世界一いや宇宙一カッコイイし頼りになるし優しいし甘やかしてくれるし―――控えめに言って最の高で、作ってくれるお茶も料理も宮廷料理人なんて目じゃないほど美味しいし、剣を振るう姿はまさに剣神―――だが今はそれを言うときではない」 

 最後の一言のときは、我に返ったのか顔が引き締まっていた。ちなみに、ここまで言い切るのにワンブレスである。 

 姉の惚気をありがたく拝聴して「散々惚気けた後で何言ってるんだ」とルキシエンスはツッコミたいのをぐっと堪える。代わりに、胡乱気な視線を向けてしまったのは仕方ない。 

 だが、こんな状況に陥ったのは、自分が突かなくてもいいところをつついてしまったからだと思いだして、やっぱり寝不足は思考力が低下するな、と口をへの字に歪めたのだった。 

「それで? 姉上。俺に何の用なんですか?」 

「ああ、そうだった。お前、前に我らが祖ルルスインカの偉業に興味があるって言っていたよな?」 

 雲行きが怪しくなってきた。 

 セレイディアがこういう物言いをするときは、だいたい面倒事を押し付けられる前兆だということを、ルキシエンスは長年の付き合いで身にしみて知っていた。 

「………ええ、そんな事を言っていた時期もありましたね。今はそうでもないですけど」 

「そうだったよな。それでだな、近々、『あれ』の予定日があるんだが」 

 何がそうだったよな、なのか甚だ疑問である。 

「あれ、ですか?」 

「そうだ。50年に、一度の、あれだ」 

 セレイディアは、ゆっくり噛み砕き囁くように繰り返す。 

 姉の言う『あれ』の意味を完全に察してしまって、またしても、自分は突かなくていいところを突いてしまったようだと、ルキシエンスは遠い目をする。 

 寝不足の頭脳は、いらないところで冴えているらしい。 

 

 

「ルキシエンス・ギルヴァート、これはギルヴァート家当主のしての言葉だ。ギルヴァート家の使命を果たしてきてくれ」 

 

 

 しかし、彼のその唇は、本人の意志に関わらずにんまりと弧を描いていた。 

 
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