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第三章 新たなる旅立ち
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「まず始めに言っておくが、ゲートの魔法は、まだ世に知られてはいけない。結界を全ての街に張り巡らせるまではな。結界は各街に展開する必要がある。結界の魔法は、完成まであと二週間は掛かると言うことだ。そこから結界の魔法を全ての街へ展開するには、どんなに急いでも更にひと月か、あるいはふた月ぐらいは掛かるだろう。その展開が終わったら、まずはアントベア商会の事業として、ゲートによる旅行業を展開する」
「何というか、さすがというか……」
ガンドは、マーシャルの商魂逞しさに感心していた。
「その後の展開もあるが、今はそれを伝える必要は無いだろう。重要なのは任務をこなしながらも、秘密を守ることだ。ゲートは軍事利用も可能にする、強力な魔法になる。くれぐれも、第三者のいる場所で話すことのないように」
マーシャルは強く念をおした。
「わかりました」
ジャシードは力強く肯いた。
「では、必要なものを」
「こちらの紙に書いてあるものが必要です」
マーシャルに促され、ヘンラーは紙を取り出す。
「何にも書いてない」
紙を覗き込んだスネイルが言った。
確かに紙は真っ白で、何も書かれていないように見える。紙を受け取ったジャシードも、光にかざしてみたり、角度を変えてみたりしてみたものの、何も見えなかった。
「その紙は、魔法で処理されています」
ヘンラーは紙に向かって、『切り開く道こそ輝かしい』と言った。すると、紙に文字がすうっと浮かび上がってきた。
「かっこいい!」
スネイルは現象に興奮している。
「文字を消すときは、どうするの?」
マーシャが言った。
「何もせずとも、文字は少ししたら消えます。しかし、急に消したい場合は、『白紙』と言えば……」
「あ、消えた。凄いわね、これ」
マーシャも素直に驚いている。
「『切り開く道こそ輝かしい』……お、出た」
オーリスも楽しそうにしている。
「で、中身は何なの? ほら、遊んでないで」
皆が楽しそうにしているので、ジャシードも楽しい気分になってきたが、ここはしっかり仕切ることにした。
「マナの欠片が十個……可能なら二十個と、黒鉱石を袋にいっぱい?」
ジャシードが言うと、ヘンラーはしっかりした造りの布袋を差し出した。
「なるほど、これに一杯入るように持って来ればいいんですね。あとは……グランナイトの骨……? あ、文字が消えた」
ジャシードは、『グランナイト』という、見慣れない言葉に引っかかった。
「ヘンラー、お前なんて物を取りに行かせるんだ……」
「しかし現在のところ、それ以外に使えそうな物がないのです。なかなか手に入らない物なので、この際、取りに行っていただければ」
ヘンラーは、自分を睨み付けているバラルの視線を、見ないようにして答えた。
「グランナイトって何なの?」
「それは、いわゆるスケルトンと言う奴だ。全身骨でできている怪物で、何も喰わずとも延々と生き存えることができる。グランナイトというのは、スケルトンの中でもとびきり強い奴の事を言う。スケルトンというのは、ゴーレムなどと同じで、魔法的な力で動いている。だがスケルトンはゴーレムと違って、その骨には魔法的な力が残存していることがある。そう言うわけで、魔法の触媒としても使われることがあるのだが……グランナイトそのものがなかなか見つからない上に、強いから滅多に手に入らない素材だ」
バラルは、身を乗り出してきているスネイルに説明した。
「お、お化けは嫌よ……」
マーシャはスケルトンと聞いて、腰が退けている様子だ。
「マーシャはお留守番?」
「え、やだ、い、いくわよ」
「無理しなくてもいいよ?」
「ジャッシュが守ってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんみんなを守るよ」
「あ……うん。ちゃんと守ってくれるなら行くわ」
「当たり前のことだからね」
「そ、そうよね」
ジャシードとマーシャは、微妙に噛み合わない会話をしていた。
「ところで、そのデスナイトと言うのは、どこに行けば見つけられるのですか?」
オーリスは、微妙に噛み合わない二人から目を離して、ヘンラーに質問した。
「可能性が高いのは、ヴァーランでしょうね」
「ヴァーラン?」
「はい。ヴァーランというのは、メンダーグロウの近くにある、遙か昔に鉱物採取のために掘られた洞窟です。しかし、掘った穴が事故で半分ほど埋まり、その下敷きになった人々の亡骸に魔法的な力が働いて動いているとか。本当かどうかは分かりませんがね」
「洞窟……か……」
オーリスは顎に手を当てた。
「洞窟、楽しそう! アニキ、洞窟に行くんだよね」
「行かないと、デスナイトは見つけられなさそうだし、行くしかないだろうね」
ジャシードは、無駄にわくわくしているスネイルに言った。
「どのみち、黒鉱石はヴァーランで産出される鉱物だ。行かない訳にもいかん」とバラル。
「そうしたら、一旦メンダーグロウを目指して、メンダーグロウからヴァーランに行くのが良さそうだね。後で地図を見て、どんな感じか確かめよう」
「うむ、それがいいだろうな」
ジャシードの提案にバラルが頷いた。
「ではこの仕事、お願いすることにしよう。重ねて言うが、くれぐれも秘密は漏らさないように」
「そこのところは、大丈夫。ね、みんな」
マーシャルの心配を受けて、ジャシードは周囲を見渡した。全員しっかりと頷いている。
「では、話はこれまで。よろしく頼んだぞ」
「はい、マーシャルさん」
マーシャルとヘンラーは、大広間から出て行った。
「バラルさんは、ヘンラーさんと知り合いなんだね」
「ああ。奴も数少ない、風の魔法で飛行可能な魔法使いだからな」
「へえ、そうなんだ。ゲートの魔法と言い、ヘンラーさんもすごい魔法使いなんだね」
「魔法の研究が奴の仕事だからな……実は飛行魔法を最初に編み出したのはヘンラーだ。だが、高度な技術を必要とする飛行魔法は、全く一般化できなかった。そもそも風の魔法の習得が難しく、それを連続して自分の周囲に、適切なチカラで発生させ続けなければならない。これができる魔法使いは多くない。自慢のようになってしまっているが、実際そうだ」
「そんな魔法も使いこなしてしまう。さすがバラルさん、だね」
ジャシードはバラルを尊敬しているが、その思いが強くなるのを感じた。
「あとはマナの欠片だね。僕は一つ持っているから、残り九個、できれば十九個か……。どうやって集めたらいいんだろう。今まで見つけたマナの欠片は、怪物を倒したオマケみたいなものだったし」
ジャシードは、色々思い出しつつ、答えに辿り着くために声を出した。
「マナの欠片は、強力な怪物がその体内に保持していることが多い、と言われている。必ずではないがな」
バラルが知見を引っ張り出してきた。
「ああ……そうか。そう言えば、サベナ湖にいた、すごい大きなサーペントも持っていたし、ウーリスー半島の大きなサンドワームも持っていたね。そうすると、デスナイトも持っているのかも?」
「可能性は無くも無いな。だが、仮に持っていたとしても、それだけではきっと足りないだろう」
「強そうな怪物を探しに行かないといけないのかもね。それはちょっと大変そうだなあ……あれ、そう言えば、オンテミオンさんは、ケルウィムに受け取りに行っていたような……?」
「確かにそうだ。しかしそれをわしらが取ってしまったら、いざオンテミオンが必要なときに困るかも知れんぞ。まあわしは、ハンフォードが困るだけなら、どうでも良いが」
バラルは、意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「それは、宝石誘導の研究を邪魔する事になるから、やらないことにしよう」
「そいつは、残念」
バラルは、意地の悪い笑みを崩さずに言った。
「誰か冒険者に聞いてみたら良いのではないかな」
ガンドがお腹をグウと鳴らしながら言った。
「誰か冒険者って、誰に? どこに行けば会えるのかしら。宿屋かしら」
マーシャはガンドの腹の音を気にしない様子で言った。日常の風景をいちいち指摘したりはしない。
「……スノウブリーズ?」
マーシャは思いついたままを口に出すも、何となく腑に落ちないものを感じているようだ。
「彼らに聞いたところで、メリザスの強い怪物を言うだけではないのか?」
「それに、変に聞いて、何か勘ぐられたら嫌じゃないか?」
バラルの疑問に続いて、オーリスが不安を口にする。
「じゃあ、衛兵さんなら、そう言う情報に詳しかったりしないのかしら?」
「そうだね、マーシャ。エルウィンの衛兵さんたちに聞いて分からなかったら、砦の衛兵さんたちに聞いてみてもいいかも知れない」
「そっちの方が詳しそうね」
「実際は、聞いてみないとわからないけど」
ジャシードとマーシャは、二人に流れる独特の雰囲気を出している。彼らは自然すぎて気づいていないが、二人の会話と距離感には、仄かに温かいものが流れているのが感じられる。
「では、まずは聞き込みにしよう。わしは砦を回ってくるから、お前達はエルウィンの衛兵を回ってくれば良い。レムランド砦とレンドール砦を回ってくるから、二日後に戻る」
バラルは、そう言いながら杖を手に取り立ち上がった。
「わかった。砦はバラルさんに任せるよ。気を付けて」
「うむ。わしも何だか、冒険者らしい気分になってきたぞ」
バラルはニヤリとした笑みを残して、部屋を出て行った。
「楽しそうね、バラルさん」
マーシャはバラルの後ろ姿を見送り、少し目を細める。
「そうだね。バラルさんは、ずっと冒険者らしい事ができる、自分が良いと思える仲間を探していたのかも知れない。……さあ、僕たちも手分けして調べよう。エルウィンは広いよ!」
◆
ジャシードたちは、ジャシードとマーシャ、ガンドとスネイル、オーリスは一人で、それぞれ別々の方向へと調査に出かけた。
ジャシードたちの担当は、門の辺り一帯から北の方面だ。エルウィンには、街の中心部に城があるため、城の南東角から門へ線を引っ張った場所から北側が、彼らの調査する場所に決まった。
「いい天気ねえ。お散歩日和だと思わない?」
マーシャは何だか、とてもご機嫌のように見え、謎の鼻歌を歌いながらジャシードの前を歩いていた。
「お散歩に来ているわけじゃないんだけどね」
「ジャッシュ、何事も楽しくやるのがいいのよ」
「まあそうなんだけどさ」
「なら、ジャッシュも楽しみなさいよ」
マーシャはジャシードに接近して、鼻先を人差し指で突っついた。
「楽しめと言われて、どう楽しんだらいいのやら……」
ジャシードは、両手を頭の後ろで組んで、空を見上げてみた。
建物がたくさんあるエルウィンの空は、少し狭く見える。ほんわかと雲が浮かんで、空に変化を与えていた。
「ちょっと! いつの間にか止まらないでよ。私だけ一人で鼻歌を歌って進んでいる変な人になってたじゃないの!」
マーシャがジャシードの胸の辺りを叩いて、文句を言ってきた。
「あ、ごめんごめん。マーシャの髪型かわいいね」
「え!? あ、そう!? えへへへへ」
マーシャは、ちょっと赤くなっていた。
「あはは。何となく、楽しくなってきたよ。門に行こうか」
「うん!」
マーシャはまた、鼻歌を歌って歩き出した。たまに、隣にある顔をチラッと見たりしながら……。
◆◆
バラルは、庭に出ると杖を振って飛び上がった。このところ、毎日に退屈しなくなった。普通なら飛んで移動するところを、敢えて徒歩で移動するのは新鮮だった。
それに、パーティーにかわいらしいマーシャがいるだけでも、明るい雰囲気になる。正直なところ、ジャシードは羨ましいが、彼らを邪魔するつもりはない。明るい雰囲気の中に居られるのは満足だった。
エルウィンの街並みが小さくなっていく様子を眺めながら、バラルは北東へ進路を取った。レンドール砦へは、レンドール山を東から回り込んで行く必要がある。
レンドール山は今日も、中腹から雲に包まれている。雲の中を眺めると、雷が雲を渡っていくのが見える。あの雲を通り抜けようとすれば、あっという間に黒焦げになるに違いない。
レンドール山を斜面に沿って飛んでいく。レンドール山には木が殆ど生えていないため、高度を下げて速度を感じる飛び方ができる。バラルはこの飛び方が気に入っていた。斜面に渦巻く風を切り、迫り来る岩の数々を避けて抜けていく。
バラルは、少しぐらい無茶をする方が楽しいと感じる性格の持ち主だった。この魔法を作り出したのはヘンラーだが、最高に使いこなしているのは自分に違いない、とバラルは確信していた。
あっという間にバラルは、レンドール山の東側へと抜けてきた。あと半分程度の距離で、レンドール砦に到着する。
「ん……?」
バラルは、視界の端っこに光を捉えた。光は凄まじい速度で自分の方に迫ってきているのが分かった。
「な……攻撃だと……!?」
バラルは敢えて蛇行し、光が追跡してくるのを確認した。光はバラルが飛ぶ速度より速く迫ってきており、回避できそうになかった。
「おのれ、撃ち落としてくれる」
バラルは独り言ちながら身体を斜めにし、杖の先に炎を作り上げると、追跡してくる光へ向けて放った。
追跡してくる光は炎を避けたが、バラルは炎を操作して光へ再度突撃させようとした。
その時、追跡してくる光から、光の輪が放たれた。バラルは避けようとしたが、光の輪はぐんぐん大きくなり、バラルを飲み込んでいった。
「何というか、さすがというか……」
ガンドは、マーシャルの商魂逞しさに感心していた。
「その後の展開もあるが、今はそれを伝える必要は無いだろう。重要なのは任務をこなしながらも、秘密を守ることだ。ゲートは軍事利用も可能にする、強力な魔法になる。くれぐれも、第三者のいる場所で話すことのないように」
マーシャルは強く念をおした。
「わかりました」
ジャシードは力強く肯いた。
「では、必要なものを」
「こちらの紙に書いてあるものが必要です」
マーシャルに促され、ヘンラーは紙を取り出す。
「何にも書いてない」
紙を覗き込んだスネイルが言った。
確かに紙は真っ白で、何も書かれていないように見える。紙を受け取ったジャシードも、光にかざしてみたり、角度を変えてみたりしてみたものの、何も見えなかった。
「その紙は、魔法で処理されています」
ヘンラーは紙に向かって、『切り開く道こそ輝かしい』と言った。すると、紙に文字がすうっと浮かび上がってきた。
「かっこいい!」
スネイルは現象に興奮している。
「文字を消すときは、どうするの?」
マーシャが言った。
「何もせずとも、文字は少ししたら消えます。しかし、急に消したい場合は、『白紙』と言えば……」
「あ、消えた。凄いわね、これ」
マーシャも素直に驚いている。
「『切り開く道こそ輝かしい』……お、出た」
オーリスも楽しそうにしている。
「で、中身は何なの? ほら、遊んでないで」
皆が楽しそうにしているので、ジャシードも楽しい気分になってきたが、ここはしっかり仕切ることにした。
「マナの欠片が十個……可能なら二十個と、黒鉱石を袋にいっぱい?」
ジャシードが言うと、ヘンラーはしっかりした造りの布袋を差し出した。
「なるほど、これに一杯入るように持って来ればいいんですね。あとは……グランナイトの骨……? あ、文字が消えた」
ジャシードは、『グランナイト』という、見慣れない言葉に引っかかった。
「ヘンラー、お前なんて物を取りに行かせるんだ……」
「しかし現在のところ、それ以外に使えそうな物がないのです。なかなか手に入らない物なので、この際、取りに行っていただければ」
ヘンラーは、自分を睨み付けているバラルの視線を、見ないようにして答えた。
「グランナイトって何なの?」
「それは、いわゆるスケルトンと言う奴だ。全身骨でできている怪物で、何も喰わずとも延々と生き存えることができる。グランナイトというのは、スケルトンの中でもとびきり強い奴の事を言う。スケルトンというのは、ゴーレムなどと同じで、魔法的な力で動いている。だがスケルトンはゴーレムと違って、その骨には魔法的な力が残存していることがある。そう言うわけで、魔法の触媒としても使われることがあるのだが……グランナイトそのものがなかなか見つからない上に、強いから滅多に手に入らない素材だ」
バラルは、身を乗り出してきているスネイルに説明した。
「お、お化けは嫌よ……」
マーシャはスケルトンと聞いて、腰が退けている様子だ。
「マーシャはお留守番?」
「え、やだ、い、いくわよ」
「無理しなくてもいいよ?」
「ジャッシュが守ってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんみんなを守るよ」
「あ……うん。ちゃんと守ってくれるなら行くわ」
「当たり前のことだからね」
「そ、そうよね」
ジャシードとマーシャは、微妙に噛み合わない会話をしていた。
「ところで、そのデスナイトと言うのは、どこに行けば見つけられるのですか?」
オーリスは、微妙に噛み合わない二人から目を離して、ヘンラーに質問した。
「可能性が高いのは、ヴァーランでしょうね」
「ヴァーラン?」
「はい。ヴァーランというのは、メンダーグロウの近くにある、遙か昔に鉱物採取のために掘られた洞窟です。しかし、掘った穴が事故で半分ほど埋まり、その下敷きになった人々の亡骸に魔法的な力が働いて動いているとか。本当かどうかは分かりませんがね」
「洞窟……か……」
オーリスは顎に手を当てた。
「洞窟、楽しそう! アニキ、洞窟に行くんだよね」
「行かないと、デスナイトは見つけられなさそうだし、行くしかないだろうね」
ジャシードは、無駄にわくわくしているスネイルに言った。
「どのみち、黒鉱石はヴァーランで産出される鉱物だ。行かない訳にもいかん」とバラル。
「そうしたら、一旦メンダーグロウを目指して、メンダーグロウからヴァーランに行くのが良さそうだね。後で地図を見て、どんな感じか確かめよう」
「うむ、それがいいだろうな」
ジャシードの提案にバラルが頷いた。
「ではこの仕事、お願いすることにしよう。重ねて言うが、くれぐれも秘密は漏らさないように」
「そこのところは、大丈夫。ね、みんな」
マーシャルの心配を受けて、ジャシードは周囲を見渡した。全員しっかりと頷いている。
「では、話はこれまで。よろしく頼んだぞ」
「はい、マーシャルさん」
マーシャルとヘンラーは、大広間から出て行った。
「バラルさんは、ヘンラーさんと知り合いなんだね」
「ああ。奴も数少ない、風の魔法で飛行可能な魔法使いだからな」
「へえ、そうなんだ。ゲートの魔法と言い、ヘンラーさんもすごい魔法使いなんだね」
「魔法の研究が奴の仕事だからな……実は飛行魔法を最初に編み出したのはヘンラーだ。だが、高度な技術を必要とする飛行魔法は、全く一般化できなかった。そもそも風の魔法の習得が難しく、それを連続して自分の周囲に、適切なチカラで発生させ続けなければならない。これができる魔法使いは多くない。自慢のようになってしまっているが、実際そうだ」
「そんな魔法も使いこなしてしまう。さすがバラルさん、だね」
ジャシードはバラルを尊敬しているが、その思いが強くなるのを感じた。
「あとはマナの欠片だね。僕は一つ持っているから、残り九個、できれば十九個か……。どうやって集めたらいいんだろう。今まで見つけたマナの欠片は、怪物を倒したオマケみたいなものだったし」
ジャシードは、色々思い出しつつ、答えに辿り着くために声を出した。
「マナの欠片は、強力な怪物がその体内に保持していることが多い、と言われている。必ずではないがな」
バラルが知見を引っ張り出してきた。
「ああ……そうか。そう言えば、サベナ湖にいた、すごい大きなサーペントも持っていたし、ウーリスー半島の大きなサンドワームも持っていたね。そうすると、デスナイトも持っているのかも?」
「可能性は無くも無いな。だが、仮に持っていたとしても、それだけではきっと足りないだろう」
「強そうな怪物を探しに行かないといけないのかもね。それはちょっと大変そうだなあ……あれ、そう言えば、オンテミオンさんは、ケルウィムに受け取りに行っていたような……?」
「確かにそうだ。しかしそれをわしらが取ってしまったら、いざオンテミオンが必要なときに困るかも知れんぞ。まあわしは、ハンフォードが困るだけなら、どうでも良いが」
バラルは、意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「それは、宝石誘導の研究を邪魔する事になるから、やらないことにしよう」
「そいつは、残念」
バラルは、意地の悪い笑みを崩さずに言った。
「誰か冒険者に聞いてみたら良いのではないかな」
ガンドがお腹をグウと鳴らしながら言った。
「誰か冒険者って、誰に? どこに行けば会えるのかしら。宿屋かしら」
マーシャはガンドの腹の音を気にしない様子で言った。日常の風景をいちいち指摘したりはしない。
「……スノウブリーズ?」
マーシャは思いついたままを口に出すも、何となく腑に落ちないものを感じているようだ。
「彼らに聞いたところで、メリザスの強い怪物を言うだけではないのか?」
「それに、変に聞いて、何か勘ぐられたら嫌じゃないか?」
バラルの疑問に続いて、オーリスが不安を口にする。
「じゃあ、衛兵さんなら、そう言う情報に詳しかったりしないのかしら?」
「そうだね、マーシャ。エルウィンの衛兵さんたちに聞いて分からなかったら、砦の衛兵さんたちに聞いてみてもいいかも知れない」
「そっちの方が詳しそうね」
「実際は、聞いてみないとわからないけど」
ジャシードとマーシャは、二人に流れる独特の雰囲気を出している。彼らは自然すぎて気づいていないが、二人の会話と距離感には、仄かに温かいものが流れているのが感じられる。
「では、まずは聞き込みにしよう。わしは砦を回ってくるから、お前達はエルウィンの衛兵を回ってくれば良い。レムランド砦とレンドール砦を回ってくるから、二日後に戻る」
バラルは、そう言いながら杖を手に取り立ち上がった。
「わかった。砦はバラルさんに任せるよ。気を付けて」
「うむ。わしも何だか、冒険者らしい気分になってきたぞ」
バラルはニヤリとした笑みを残して、部屋を出て行った。
「楽しそうね、バラルさん」
マーシャはバラルの後ろ姿を見送り、少し目を細める。
「そうだね。バラルさんは、ずっと冒険者らしい事ができる、自分が良いと思える仲間を探していたのかも知れない。……さあ、僕たちも手分けして調べよう。エルウィンは広いよ!」
◆
ジャシードたちは、ジャシードとマーシャ、ガンドとスネイル、オーリスは一人で、それぞれ別々の方向へと調査に出かけた。
ジャシードたちの担当は、門の辺り一帯から北の方面だ。エルウィンには、街の中心部に城があるため、城の南東角から門へ線を引っ張った場所から北側が、彼らの調査する場所に決まった。
「いい天気ねえ。お散歩日和だと思わない?」
マーシャは何だか、とてもご機嫌のように見え、謎の鼻歌を歌いながらジャシードの前を歩いていた。
「お散歩に来ているわけじゃないんだけどね」
「ジャッシュ、何事も楽しくやるのがいいのよ」
「まあそうなんだけどさ」
「なら、ジャッシュも楽しみなさいよ」
マーシャはジャシードに接近して、鼻先を人差し指で突っついた。
「楽しめと言われて、どう楽しんだらいいのやら……」
ジャシードは、両手を頭の後ろで組んで、空を見上げてみた。
建物がたくさんあるエルウィンの空は、少し狭く見える。ほんわかと雲が浮かんで、空に変化を与えていた。
「ちょっと! いつの間にか止まらないでよ。私だけ一人で鼻歌を歌って進んでいる変な人になってたじゃないの!」
マーシャがジャシードの胸の辺りを叩いて、文句を言ってきた。
「あ、ごめんごめん。マーシャの髪型かわいいね」
「え!? あ、そう!? えへへへへ」
マーシャは、ちょっと赤くなっていた。
「あはは。何となく、楽しくなってきたよ。門に行こうか」
「うん!」
マーシャはまた、鼻歌を歌って歩き出した。たまに、隣にある顔をチラッと見たりしながら……。
◆◆
バラルは、庭に出ると杖を振って飛び上がった。このところ、毎日に退屈しなくなった。普通なら飛んで移動するところを、敢えて徒歩で移動するのは新鮮だった。
それに、パーティーにかわいらしいマーシャがいるだけでも、明るい雰囲気になる。正直なところ、ジャシードは羨ましいが、彼らを邪魔するつもりはない。明るい雰囲気の中に居られるのは満足だった。
エルウィンの街並みが小さくなっていく様子を眺めながら、バラルは北東へ進路を取った。レンドール砦へは、レンドール山を東から回り込んで行く必要がある。
レンドール山は今日も、中腹から雲に包まれている。雲の中を眺めると、雷が雲を渡っていくのが見える。あの雲を通り抜けようとすれば、あっという間に黒焦げになるに違いない。
レンドール山を斜面に沿って飛んでいく。レンドール山には木が殆ど生えていないため、高度を下げて速度を感じる飛び方ができる。バラルはこの飛び方が気に入っていた。斜面に渦巻く風を切り、迫り来る岩の数々を避けて抜けていく。
バラルは、少しぐらい無茶をする方が楽しいと感じる性格の持ち主だった。この魔法を作り出したのはヘンラーだが、最高に使いこなしているのは自分に違いない、とバラルは確信していた。
あっという間にバラルは、レンドール山の東側へと抜けてきた。あと半分程度の距離で、レンドール砦に到着する。
「ん……?」
バラルは、視界の端っこに光を捉えた。光は凄まじい速度で自分の方に迫ってきているのが分かった。
「な……攻撃だと……!?」
バラルは敢えて蛇行し、光が追跡してくるのを確認した。光はバラルが飛ぶ速度より速く迫ってきており、回避できそうになかった。
「おのれ、撃ち落としてくれる」
バラルは独り言ちながら身体を斜めにし、杖の先に炎を作り上げると、追跡してくる光へ向けて放った。
追跡してくる光は炎を避けたが、バラルは炎を操作して光へ再度突撃させようとした。
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⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
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