109 / 125
第五章 正義の在処
脱出せよ!
しおりを挟む
朦々と立ち上る土埃が、壁のようにそそり立ち、その奥にあるものを覆い隠していた。海風が土埃の壁を少しずつ陸側へと押し流していこうとしていた。
突然、土埃の一部が破裂するようになり、その中から何かが出てくるのが見えた。
「逃げなきゃ……! あの鳥が出て……」
ガンドがそう言いかけたとき、土埃の方から咽せる声が聞こえた。
「ぶぇっ! げぇぇっほげっほげほ! まともに吸ってしまった……」
それは苦しそうに咳き込みながら、草原を浮きながら三人の方へと向かってきた。
「バラルさんだ!!」
ガンドが声を上げた。
「アニキを背負ってる!!」
スネイルは大声を上げた。
「ジャッシュ!?」
マーシャが馬を進めようとしたその時、今度は土埃の中にいた巨大な鳥が動き始めた。
「バラルさん! 後ろ! 鳥が!!」
ガンドは慌てて叫ぶ。
「わ、わか……げほっげほっ……分かっておるわい! ゲートを開くからすぐに入れ!」
バラルはできる限りの大声を上げてから、速度を上げた。バラルの後ろからは、巨大な鳥が大きな羽をばたつかせながら、走って追いつこうとしている。もうバラルまで、二百メートルほどに近づいてきていた。
「ガンド、ジャシードを頼むぞ! ゲートが開いたらすぐ飛び込め!」
三人と合流したバラルは、ガンドにジャシードを託すと、地面を杖で叩いて振り上げた。
ゲートが開かれ、即座に全員が飛び込む。
「よし、いるな!」
バラルは全員がいることを確認すると、ゲートに杖を振って消滅させた。
岬の上のゲートは巨大な鳥が到達する直前で消滅し、巨大な鳥は、その場所に再び土埃の壁を作った。
「ふぁぁぁぁ……た、助かったぁぁぁ……」
ガンドは馬上でジャシードを抱えながら、大きな大きな溜息をついた。
「ジャッシュ!」
マーシャはとにかく、ジャシードの事が気になっていた。ガンドからジャシードを受け取ると、その重みで蹌踉《よろ》めきながら、ジャシードの下敷きになるように地面に倒れ込んだ。
「はうっ、あいたた……苦し……」
マーシャは泣き顔でそう言いながらも、満足げにしている。
「アニキ!」
馬を飛び降り、ジャシードの傍に駆け寄るスネイルは、ジャシードをマーシャの上からどかして寝かせた。
「とにかく治療しないと」
ガンドは早速、ジャシードに治癒魔法をかけ始めた。もうこれも何度目だろうか。ガンドも、生命力を失った人間の取り扱いに慣れてきた。
「荷を切り離してしまったから、アニキの下に敷くものもないや……ところでおっちゃん、ここどこ?」
「ここは、わしが拵えた洞穴《ほらあな》だ。崖の中腹にある。フォラーグルを避けるためだったが、早速見つかっているとは思わなかったわい……」
バラルは粉塵を吸ってしまったのがようやく落ち着いて、呼吸を整えている。
「さっきのでっかい鳥は、やっぱりフォラーグルなんだな」
「それで、下りて行っていたのね」
ようやく気持ちが落ち着いてきたマーシャが、溜息交じりに言った。
「騒がしいから上がってきてみれば、ジャシードが喰われそうになっていた。わしは咄嗟に風の魔法で、ジャシードを上空に吹っ飛ばして受け止めたのだ。危ないところだった。わしも土埃で咽せ死ぬかと思ったわい」
「ありがとう、バラルさん」
「なあに、仲間だろう? それに、ここで将来有望なジャシードを失うわけにはいかん。ヒートヘイズの冒険には、まだまだ、興味があるんでな」
バラルはニッと笑顔を見せた。
「そして今回のことで、一つ学んだことがある」
「おっちゃんでも、まだ学ぶことあんの?」
スネイルは意外だと言わんばかりだ。
「何を言う、当たり前だろうが!」
パイプに火を入れながら、バラルは不機嫌そうにしている。
「そうじゃなくてさ、何でも知ってると思ってたぞ」
「そうねぇ、スネイルが言いたいことも分かるわ」
「買い被るでない。人間は、日々学び、日々成長できる。そう言うものだ」
バラルは煙を吐きながら言う。比較的優しい海風が、パイプの煙を何処かへ運んでいく。
「で、何を学んだの」
スネイルは、その先を聞きたくて仕方が無い様子だ。
「うむ。ゲートを使った冒険は、ある安全な場所を見つけたら、そこを記録石に記録し、ゲートで連れて行く。そこからは、怪物たちを掃討しながら進んでいくしかないと思っていた。何故なら怪物たちは、知っているとおり、掃討したら一日ほどで元通りになるからだ。掃討しながら進んで記録して、一旦街に戻り、記録したところへ戻る……これでは翌日ゲートを開くと、出た先で怪物たちに囲まれたり、怪物たちをゲートで呼び寄せることになってしまう」
「それよりは、野営しながら前に進んだ方がいいわね」
「そうだ。だが今はどうだ。上にフォラーグルはいたが、ここは平和そのものだ」
バラルはパイプを吸いながら、腕を広げて自前の洞穴を見やる。
「そうか! ここに記録して、街に帰れる!」
「……かも知れん。まだ確定したわけではない、これは仮説に過ぎん。今後ここが本当に安全かは、丸一日以上経過して、ここに怪物がいなければ、の話だ。だが今はジャシードのために、一旦帰るべきだろう」
バラルはパイプを岩に打ち付け、灰を地面に落として踏みつけた。
「ここがダメでも、岬の上は怪物が居なかったから、そこからでもいいんじゃない?」
「岬の上はダメだ。あそこに何も居なかったのは、フォラーグルが喰ったからだ」
「あ……そう言うことだったのね……」
「だからこそ、この洞穴に価値がある、と言うことになる……。ガンド、ジャシードの具合はどうだ?」
「全力を出しても、何故かジャッシュはいつも落ち着いているよ。一日かそこらで目覚めるんじゃないかな」
「相変わらず、底知れぬ生命力だな……。よし、ならばここに記録して帰ろう。レムリスの方がいいか?」
「そうね……。買い物だけ、アーマナクルですればいいし!」
ジャシードが問題ないと分かり、マーシャは俄然元気を取り戻した。
「次は少し量を抑えようね……マーシャ」
ガンドは呆れた様子で、舌を出して笑みを見せるマーシャに溜息をついた。
◆◆
ガンドの見立て通り、ジャシードは翌日の朝には目覚めた。もちろん、治療術士たちが交代でジャシードを世話したからに他ならないが、それでも異常なまでの回復力と言わざるを得ない。
昼前まで、調整のために治癒魔法を受けたジャシードは、治療術士たちに礼を言って、色を付けて費用を支払った。
「毎回無茶して……もう今回こそはダメかと思ったわ」
「あはは……ごめん、マーシャ。でもおれ一人だったから、バラルさんも助けられたんだし、結果としては良かったよな」
「まっっったく、懲りないんだから! 心配する方の身にもなってもらいたいものだわ!」
「うん、ごめんよ」
そんなやりとりをしながら二人は家に帰り、家族と仲間の歓迎を受けた。
「アニキお帰り!」
「ジャッシュ、もういいのかい?」
「ああ、何も問題ないよ。心配かけたね。今回もありがとうガンド」
「僕は自分の役割を全うできて満足だよ」
そう言うガンドに、ジャシードは微笑み、頷いた。
「おう、ジャシード、聞いたぞ。まぁた無茶したんだってなぁ! ガキの頃から無茶していやがったが、一端《いっぱし》の大人になっても、まぁだ無茶しているなんてな!」
非番のセグムは既にフォリスと飲んでいたようで、息子の背中をバンバン叩きながら、とても楽しそうにしている。
「全く、どこのセグムよ……。ねぇマーシャ」
「親子揃ってこれだもの。ねぇソルンおばさん」
そんな事を言っている二人も、世話の焼けるパートナーに世話するのは、嫌いではない様子だった。
「これからも、マーシャを頼んだぞ。私がマーシャを冒険者にしたままなのは、君がいるからだ。身体を張って仲間を守る君にしか、娘は任せられないからな」
フォリスは既にほろ酔いだが、精一杯真面目に言った。本心は娘が冒険者なのは、気が気でないのだが、自分の言葉では娘を止められない。それが分かっているフォリスには、ジャシードの存在を言い訳にするのが最大限の譲歩だ。
「もちろん、分かっています、フォリスさん。いつでも、おれはマーシャを、仲間を守ります」
「かぁーっ! 言うねぇ! さっすが、今をときめく冒険者よ! わあっははは!」
セグムは息子の真面目な言葉を、自分の酒のつまみにしている。
「アァ!」
ピックがジャシードの肩に止まり、耳たぶを甘噛みしてひと鳴きした。
「なんだい、ピックまでおれを冷やかすのかい?」
「アアァ!」
ピックは頭をジャシードの側頭部にすり寄せた。
「なんて言ってるか分かんないけど、なんだかピックはおれの味方みたいだ」
ジャシードが言うと、ピックはまた耳たぶを甘噛みした。
「アニキ、ピックもヒートヘイズに入れたら?」
「何だよ、急に」
「だって暇そうだから」
「確かに最近、お使いに出してないけど……暇なのかな」
「こいつは食っちゃ寝してるから、連れ出してやったらどうだ。太って飛べなくなるかも知んねぇぞ。わはは!」
やりとりを聞いていたセグムは、冗談交じりにそう言った。
「連れて行くと、ピックも危険にさらすかも知れないし……」
「なんだ、お前カラス一羽守れないのか? 情けない! いやあ情けない!」
セグムがそう言ったところで、ジャシードはセグムの意図を読み込めた。要するにセグムは、厄介払いをしたいと言っているのだ。恐らく世話が面倒になったに違いない。
「ピックはお手紙を届けるのだって、怪物たちを避けて飛んでいるわけだし、連れて行ってあげても良いんじゃない?」
マーシャは、ピックの頭を撫でながら言う。
「せめて、偵察にでも使えると良いんだが、カラスにそんな事ができるわけも無いな」
バラルはパイプの煙を揺らめかせている。
「仕方ないなあ……」
この時、ヒートヘイズにピックが加わることが決まった。
セグム・フォリス家は、ヒートヘイズの面々と、ジャシードの家族たちで大いに盛り上がった。
――そして翌日ヒートヘイズたちは、サファールへの冒険を再開する事にした……ピックと共に。
突然、土埃の一部が破裂するようになり、その中から何かが出てくるのが見えた。
「逃げなきゃ……! あの鳥が出て……」
ガンドがそう言いかけたとき、土埃の方から咽せる声が聞こえた。
「ぶぇっ! げぇぇっほげっほげほ! まともに吸ってしまった……」
それは苦しそうに咳き込みながら、草原を浮きながら三人の方へと向かってきた。
「バラルさんだ!!」
ガンドが声を上げた。
「アニキを背負ってる!!」
スネイルは大声を上げた。
「ジャッシュ!?」
マーシャが馬を進めようとしたその時、今度は土埃の中にいた巨大な鳥が動き始めた。
「バラルさん! 後ろ! 鳥が!!」
ガンドは慌てて叫ぶ。
「わ、わか……げほっげほっ……分かっておるわい! ゲートを開くからすぐに入れ!」
バラルはできる限りの大声を上げてから、速度を上げた。バラルの後ろからは、巨大な鳥が大きな羽をばたつかせながら、走って追いつこうとしている。もうバラルまで、二百メートルほどに近づいてきていた。
「ガンド、ジャシードを頼むぞ! ゲートが開いたらすぐ飛び込め!」
三人と合流したバラルは、ガンドにジャシードを託すと、地面を杖で叩いて振り上げた。
ゲートが開かれ、即座に全員が飛び込む。
「よし、いるな!」
バラルは全員がいることを確認すると、ゲートに杖を振って消滅させた。
岬の上のゲートは巨大な鳥が到達する直前で消滅し、巨大な鳥は、その場所に再び土埃の壁を作った。
「ふぁぁぁぁ……た、助かったぁぁぁ……」
ガンドは馬上でジャシードを抱えながら、大きな大きな溜息をついた。
「ジャッシュ!」
マーシャはとにかく、ジャシードの事が気になっていた。ガンドからジャシードを受け取ると、その重みで蹌踉《よろ》めきながら、ジャシードの下敷きになるように地面に倒れ込んだ。
「はうっ、あいたた……苦し……」
マーシャは泣き顔でそう言いながらも、満足げにしている。
「アニキ!」
馬を飛び降り、ジャシードの傍に駆け寄るスネイルは、ジャシードをマーシャの上からどかして寝かせた。
「とにかく治療しないと」
ガンドは早速、ジャシードに治癒魔法をかけ始めた。もうこれも何度目だろうか。ガンドも、生命力を失った人間の取り扱いに慣れてきた。
「荷を切り離してしまったから、アニキの下に敷くものもないや……ところでおっちゃん、ここどこ?」
「ここは、わしが拵えた洞穴《ほらあな》だ。崖の中腹にある。フォラーグルを避けるためだったが、早速見つかっているとは思わなかったわい……」
バラルは粉塵を吸ってしまったのがようやく落ち着いて、呼吸を整えている。
「さっきのでっかい鳥は、やっぱりフォラーグルなんだな」
「それで、下りて行っていたのね」
ようやく気持ちが落ち着いてきたマーシャが、溜息交じりに言った。
「騒がしいから上がってきてみれば、ジャシードが喰われそうになっていた。わしは咄嗟に風の魔法で、ジャシードを上空に吹っ飛ばして受け止めたのだ。危ないところだった。わしも土埃で咽せ死ぬかと思ったわい」
「ありがとう、バラルさん」
「なあに、仲間だろう? それに、ここで将来有望なジャシードを失うわけにはいかん。ヒートヘイズの冒険には、まだまだ、興味があるんでな」
バラルはニッと笑顔を見せた。
「そして今回のことで、一つ学んだことがある」
「おっちゃんでも、まだ学ぶことあんの?」
スネイルは意外だと言わんばかりだ。
「何を言う、当たり前だろうが!」
パイプに火を入れながら、バラルは不機嫌そうにしている。
「そうじゃなくてさ、何でも知ってると思ってたぞ」
「そうねぇ、スネイルが言いたいことも分かるわ」
「買い被るでない。人間は、日々学び、日々成長できる。そう言うものだ」
バラルは煙を吐きながら言う。比較的優しい海風が、パイプの煙を何処かへ運んでいく。
「で、何を学んだの」
スネイルは、その先を聞きたくて仕方が無い様子だ。
「うむ。ゲートを使った冒険は、ある安全な場所を見つけたら、そこを記録石に記録し、ゲートで連れて行く。そこからは、怪物たちを掃討しながら進んでいくしかないと思っていた。何故なら怪物たちは、知っているとおり、掃討したら一日ほどで元通りになるからだ。掃討しながら進んで記録して、一旦街に戻り、記録したところへ戻る……これでは翌日ゲートを開くと、出た先で怪物たちに囲まれたり、怪物たちをゲートで呼び寄せることになってしまう」
「それよりは、野営しながら前に進んだ方がいいわね」
「そうだ。だが今はどうだ。上にフォラーグルはいたが、ここは平和そのものだ」
バラルはパイプを吸いながら、腕を広げて自前の洞穴を見やる。
「そうか! ここに記録して、街に帰れる!」
「……かも知れん。まだ確定したわけではない、これは仮説に過ぎん。今後ここが本当に安全かは、丸一日以上経過して、ここに怪物がいなければ、の話だ。だが今はジャシードのために、一旦帰るべきだろう」
バラルはパイプを岩に打ち付け、灰を地面に落として踏みつけた。
「ここがダメでも、岬の上は怪物が居なかったから、そこからでもいいんじゃない?」
「岬の上はダメだ。あそこに何も居なかったのは、フォラーグルが喰ったからだ」
「あ……そう言うことだったのね……」
「だからこそ、この洞穴に価値がある、と言うことになる……。ガンド、ジャシードの具合はどうだ?」
「全力を出しても、何故かジャッシュはいつも落ち着いているよ。一日かそこらで目覚めるんじゃないかな」
「相変わらず、底知れぬ生命力だな……。よし、ならばここに記録して帰ろう。レムリスの方がいいか?」
「そうね……。買い物だけ、アーマナクルですればいいし!」
ジャシードが問題ないと分かり、マーシャは俄然元気を取り戻した。
「次は少し量を抑えようね……マーシャ」
ガンドは呆れた様子で、舌を出して笑みを見せるマーシャに溜息をついた。
◆◆
ガンドの見立て通り、ジャシードは翌日の朝には目覚めた。もちろん、治療術士たちが交代でジャシードを世話したからに他ならないが、それでも異常なまでの回復力と言わざるを得ない。
昼前まで、調整のために治癒魔法を受けたジャシードは、治療術士たちに礼を言って、色を付けて費用を支払った。
「毎回無茶して……もう今回こそはダメかと思ったわ」
「あはは……ごめん、マーシャ。でもおれ一人だったから、バラルさんも助けられたんだし、結果としては良かったよな」
「まっっったく、懲りないんだから! 心配する方の身にもなってもらいたいものだわ!」
「うん、ごめんよ」
そんなやりとりをしながら二人は家に帰り、家族と仲間の歓迎を受けた。
「アニキお帰り!」
「ジャッシュ、もういいのかい?」
「ああ、何も問題ないよ。心配かけたね。今回もありがとうガンド」
「僕は自分の役割を全うできて満足だよ」
そう言うガンドに、ジャシードは微笑み、頷いた。
「おう、ジャシード、聞いたぞ。まぁた無茶したんだってなぁ! ガキの頃から無茶していやがったが、一端《いっぱし》の大人になっても、まぁだ無茶しているなんてな!」
非番のセグムは既にフォリスと飲んでいたようで、息子の背中をバンバン叩きながら、とても楽しそうにしている。
「全く、どこのセグムよ……。ねぇマーシャ」
「親子揃ってこれだもの。ねぇソルンおばさん」
そんな事を言っている二人も、世話の焼けるパートナーに世話するのは、嫌いではない様子だった。
「これからも、マーシャを頼んだぞ。私がマーシャを冒険者にしたままなのは、君がいるからだ。身体を張って仲間を守る君にしか、娘は任せられないからな」
フォリスは既にほろ酔いだが、精一杯真面目に言った。本心は娘が冒険者なのは、気が気でないのだが、自分の言葉では娘を止められない。それが分かっているフォリスには、ジャシードの存在を言い訳にするのが最大限の譲歩だ。
「もちろん、分かっています、フォリスさん。いつでも、おれはマーシャを、仲間を守ります」
「かぁーっ! 言うねぇ! さっすが、今をときめく冒険者よ! わあっははは!」
セグムは息子の真面目な言葉を、自分の酒のつまみにしている。
「アァ!」
ピックがジャシードの肩に止まり、耳たぶを甘噛みしてひと鳴きした。
「なんだい、ピックまでおれを冷やかすのかい?」
「アアァ!」
ピックは頭をジャシードの側頭部にすり寄せた。
「なんて言ってるか分かんないけど、なんだかピックはおれの味方みたいだ」
ジャシードが言うと、ピックはまた耳たぶを甘噛みした。
「アニキ、ピックもヒートヘイズに入れたら?」
「何だよ、急に」
「だって暇そうだから」
「確かに最近、お使いに出してないけど……暇なのかな」
「こいつは食っちゃ寝してるから、連れ出してやったらどうだ。太って飛べなくなるかも知んねぇぞ。わはは!」
やりとりを聞いていたセグムは、冗談交じりにそう言った。
「連れて行くと、ピックも危険にさらすかも知れないし……」
「なんだ、お前カラス一羽守れないのか? 情けない! いやあ情けない!」
セグムがそう言ったところで、ジャシードはセグムの意図を読み込めた。要するにセグムは、厄介払いをしたいと言っているのだ。恐らく世話が面倒になったに違いない。
「ピックはお手紙を届けるのだって、怪物たちを避けて飛んでいるわけだし、連れて行ってあげても良いんじゃない?」
マーシャは、ピックの頭を撫でながら言う。
「せめて、偵察にでも使えると良いんだが、カラスにそんな事ができるわけも無いな」
バラルはパイプの煙を揺らめかせている。
「仕方ないなあ……」
この時、ヒートヘイズにピックが加わることが決まった。
セグム・フォリス家は、ヒートヘイズの面々と、ジャシードの家族たちで大いに盛り上がった。
――そして翌日ヒートヘイズたちは、サファールへの冒険を再開する事にした……ピックと共に。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる