ぜんぶのませて

八陣はち

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αのミルクとΩの恋心

約束

『来週の金曜日、会えますか?』

 吉井は慣れた手つきでスマートフォンにメッセージを打ち込み、送信ボタンを押した。
 月曜の昼時。二限目の講義が終わり他の学生が教室を出て行く中、吉井は席に座ったまま羽鳥に予定を伺うメッセージを送った。

 羽鳥と出会って初めて身体を重ねてから、もうすぐ三カ月が経つ。
 大体月に一回のペースで、吉井は羽鳥の家を訪れていた。先ほど送ったメッセージに良い返事を貰えれば、晴れて三回目の約束を取り付けられたことになる。

 吉井の胸は甘い期待に高鳴った。

『大丈夫だよ。空けておくね』

 既読になった後すぐに返ってきたメッセージに、吉井は思わず頬を緩め、ガッツポーズをした。

『ありがとうございます!』

 顔文字付きで返信して、一息つく。
 これで無事に三度目の約束を取り付けられた。
 二度、羽鳥の家を訪れて、身体を重ねて。吉井はすっかり羽鳥の虜になっていた。

「また飲みたいんです、羽鳥さんのミルク。他の人に飲ませたくない。全部、俺に飲ませてくれませんか」

 勢いとはいえあんなことを言ってしまって、身体目当てだと思われているかもしれないが、それでももう二回、羽鳥は吉井を迎え入れてくれた。

 嫌われてはいないと、そう思いたい。
 羽鳥のフェロモンとミルクの甘い匂いに包まれ、低く柔らかな声が身体中に染み渡ると、身体の奥から熱が広がっていく。
 会うまでぐるぐると悩んでいたことなど跡形もなく消し飛んで、羽鳥のことしか考えられなくなった。

 甘いミルクを啜り、逞しい猛りで深々と貫かれて、Ωの吉井の身体は歓喜した。
 フェロモンのせいもあるかもしれないが、一緒にいると堪らなくなる幸せな気持ちになる。
 吉井は会う度に羽鳥への気持ちが大きくなっていくのを感じていた。
 歳も離れているし、羽鳥は社会人なので大学生の自分なんてまともに相手にされないだろうと思っていた。最初にセックスした時は吉井がねだったからで、その後も、吉井のわがままに付き合ってくれているのだと思っていた。
 何より、最初の夜に言った言葉を、あれでよかったのかとずっと考えていた。
 都合のいいΩだと思われても仕方ない。
 今はただ、嫌われずに羽鳥との関係が続けられればそれでよかった。
 運命の番なんてもの、ある訳がない。
 どうせ自分は平凡な人の中の平凡なΩで、羽鳥が運命のαで、結ばれてめでたしめでたしなんて、そんな風に上手くいく訳がない。羽鳥のつがいにはもっとお似合いのかわいいΩが選ばれるんだろう。そんなことばかり考えていた。
 別れるたびに湧いてくるそんな思いも、会えば溶けてどこかに消えてしまう。

『楽しみにしてるね』

 羽鳥からのメッセージが届いた。社交辞令だとしても構わなかった。
 早く会いたい。
 吉井はスマートフォンの画面をしばらく見つめた後、踵を返して教室を出ていった。その足取りは軽やかで、響く足音もどこか楽しげだった。
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