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第100話 自信
しおりを挟む「くっ、このままじゃ……」
良策が考えつかず焦りを感じ始める。
その焦りはこのままではギンが負けてしまうからでもあるが、何よりこの後に支援せねばならない南門と東門のことも見据えているからだ。
そして、時間が経てば経つほど全てが不利になることを理解しているからでもあった。
だがそんな焦るなか、握り締めている左拳を優しく包み込むように両手を添えられる。
「大丈夫です……私ちゃんは信じてるです……」
俺の左拳を両手で優しく包み込んだのはムツコであった。
驚きながらもムツコの方を振り向くと、互いの目と目が合う。
ムツコの瞳には一切の迷いがなく、言葉通りに俺を信じていることが分かる。
出会って間もないのに何故信じられるのだろうか? ムツコに対して特段何かしたわけでもないのに。
でも今までに人から信じられることなんて片手で数えられるほどしか無かったからとても嬉しい。
しかも、心の奥底から何かが沸々と湧き上がるのが感じ取れる。その何かとは……自信だ。
ニカナを手に入れてから体験したことが自信に繋がっていて、それを信じてくれる人がいて、それが更なる自信へと繋がっている。あとはこの自信を形にするだけだ。
ムツコの瞳を見つめながら自信を高めていると、不思議そうにムツコが口を開いた。
「……あれ? よく見ると……」
……ん? 俺の顔に何か付いている……? 確かに戦場を駆け回りながら魔物達を殲滅しているので、汚れや返り血が付着していてもなんらおかしくはない。汚れ防止として清潔魔法の付与をしているわけでもないし……
「瞳が……いえ、なんでもないです! それより今は魔物をどうにかしなきゃです!」
アヌビシオの方へ振り向き「むむむ……!」と策を考え始めるムツコ。
俺としては話の続きが気になるところだが、ムツコの言うことは正しい。なので、早くアヌビシオを倒して話の続きを聞くとしよう。
「何か……そういえば、さっき何かを感じたんだよな……」
先程、清潔魔法の付与を考えた時に何かを感じたのだ。それがきっと糸口に繋がるハズ……そう直感した。
「……!! そうだ! 付与だ!」
「ひぇっ!?」
急に声を上げたので隣にいるムツコが吃驚してしまったようだ……すまない。
けれど、これでどうにかなるかもしれない! あとは上手くいってくれれば!
「破邪の光よ、力を授けん! エンチャントホーリー!」
ギンの動きを先読みし、そこへ向けて付与魔法を唱える。
付与魔法ならばどちらに当てても直接的なダメージはないのでリスクを抑えられるのだ。
すると、付与魔法はギン……ではなく、アヌビシオに当たってしまった。
「あっ! 付与魔法が魔物に!?」
ムツコは慌てて声を上げた。
何故なら付与魔法は対象の強化に使われる魔法であるため、これではアヌビシオが強化されてしまうと考えたからだ。しかし、実はそれこそが真の狙いである。
「ギャァァァーッ!?」
突然アヌビシオは苦痛の表情を浮かべて悲鳴を上げた。
それは全身が青白色の光に覆われ、纏っていた漆黒が靄となって身体から離散し始めたからだろう。つまりは弱体化したのだ。
強化されるはずが逆に弱体化したアヌビシオ。これならギンの攻撃もきっと効くハズ。そして……
「ギン、今だっ!!」
好機を掴むべく、大声で叫んだのであった……
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