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第123話 烈火を瞳に宿す者
しおりを挟む「ねぇ……本当にキュロスなの……?」
フラフラと何かに取り憑かれたように、こちらへ歩み寄るセリーヌ。その時の彼女は歓喜と困惑、安堵と気不味さを混ぜ合わせたような、なんとも複雑な表情を見せていた。
「セリーヌ……なっ!? キキョウ!」
セリーヌとの合流間近、急に動きを見せる九尾の狐。
9本ある尻尾の内1本が赤く輝き出すと、宙に描かれた魔法陣から火炎が放出され、警戒を解いたセリーヌを襲う。
「キュロス……私、貴方ともう一度ーー」
セリーヌが何かを言い掛けている最中、彼女のいたであろう場所が火の海と化し、急いで助けようと駆けるロランではあったが燃え盛る火炎によって近づけず、火の海の前で膝から崩れ落ちる。
一方、離れた場所にいたミカゲもセリーヌが燃やされたことに絶望し、佇んだまま戦意喪失。
「ま、まさかあの剣姫が……!? くそっ、このままじゃ全滅しちまう! どうにか戦況を立て直さねぇと!」
クアトロは動揺しつつも一気に傾いた戦況を立て直すため、九尾の狐から一旦距離を取って策を練ることにし、それを理解した3人の仲間も動揺しながらも距離を取ってクアトロの指示を待つことに。
そんななか、唯一シリウスだけが九尾の狐に攻撃を仕掛ける。
途中参戦による連携不足? セリーヌを失った怒り? 副団長のロランを守るため? 理由は分からずとも、とにかく九尾の狐がいる所まで一直線に駆け抜けていき、5mほど手前で固有スキルを発動。
「此奴は私が倒す! 固有スキル、古代剣技!」
シリウスの全身が金色に輝き出すと、警戒した九尾の狐は右前脚を振り上げて攻撃体勢に入り、巨躯とは思えない速さで爪斬撃を繰り出す。
「どちらが速いか勝負! 紫電一閃!」
九尾の狐による爪斬撃が地を裂く寸前、シリウスは物凄い速さで奴の左前脚を斬り付けながら真横を通過して背後を取り、そのまま流れるような動きで次の攻撃に移る。
「相当に硬い様子……ならば、これならどうだ! 百花繚乱!」
高速の斬撃を無数に放ち、九尾の狐に少しずつだが着実にダメージを与えていく。だがそれでも、傷は付けた先から癒えていき、奴を倒す決定打には遠く及ばず。
「くっ、これほど斬っても倒れんとは……然すれば、全身全霊で斬り伏せるほか術はない! この一刀によって! ゆくぞ、一刀両断!」
天高く跳んだ後、落下する勢いに合わせて見上げる九尾の狐の額から胴体までを一気に斬り裂いた。しかし……
「……はぁはぁ、最早この技でも届かんとは……後は頼むぞ、ロラン……」
固有スキルの反動で動けずにいたシリウスは、ロランに街の命運を託した直後、九尾の狐が放った土魔法によって突き飛ばされ、何度も地を跳ねてから仰向けで倒れる。
大剣は折れ、鎧は失敗した飴細工のように拉げ、全身の骨は雑に砕かれて瀕死の状態に。
それでもシリウスは右手を天に翳して親指を立てる。〝ロラン、お前ならできる〟と……
「……だっ、団長ぉぉぉーっ!!」
シリウスの右手が力無く落ちた瞬間、ロランの感情は悲しみから怒りへと変化し、ゆらりと立ち上がっては涙を流しながら九尾の狐に向かっていく。
その足取りはゆっくりとだがしっかりと地を踏み締めており、とても軽薄な男とは思えないほどの烈火を瞳の奥に宿す。
そして、静かに憤怒するロランに対し、クアトロは一縷の望みを見出していた……
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