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第6話 開花
しおりを挟む「あわ、あわわ、あわわわわ……」
己の尊厳が失われている可能性に気づいた途端、気が動転しすぎてガタガタと震えだす私の身体。
その異様な光景に「どっ、どうされましたか!?」とティナちゃんは驚きつつも、この震えを止めようと精一杯に抱き締めてくれた。
身長差があるので柔らかい感触に包まれたのは下半身だけだったが、それだけでも震えを止めるには充分すぎるほどの喜びと快感を得られ、その多幸感により無敵状態となった私は〝あのこと〟について聞いてみることに。
「……あ、ありがとティナちゃん、震えはもう止まったみたい……と、ところでさ、あのことを聞いてどう思った?」
「……? あのこととはどのことでしょうか?」
「えーっと……お、お漏らしのこと、なんだけど……実はあれ──」
「──あぁ、先程お話しされたジョークのことですね? ふふっ、大変楽しませて頂きました。お陰様でこうして元気になれましたので、改めて感謝の念に堪えません」
「……へ? あ、気づいてたんだ……」
「……?」
よっ……よかったぁぁぁ~っ!! あの時冗談だって言えなかったからさ~! マジ話だと思われてるんじゃないかって不安だったんだよ~! いやマジで~!
……と、脳内で安堵の叫びを上げ捲っている一方、表面上では和かな笑顔を作ってティナちゃんになんでもないアピールを。
それが功を奏したのかこの娘は何も聞かずに優しく笑い返してくれて、その全てを浄化するような笑顔はまるで天使と見紛うほど。
天使の矢ことティナちゃんの笑顔に心を射抜かれた私は、なんとかして彼女に触れられないものかと熟考に熟考を重ねたすえ、今すべきことと今したいことを同時に叶えられる最善の策を導き出す。
「あ、あのさ……また悪漢に襲われると大変だからテっ、手を繋いで歩こっか……」
少しの不安と大きな期待による緊張で鼓動を速めながら左手を差し出すと、笑顔のまま「はい、是非っ」と嬉しそうに手を繋ぐティナちゃん。
その繋いだ手が欲望と汗に塗れているとも知らずに……──
「──ゔっ、何この腐った匂い……それにこの血はまさか、人の──ッ!?」
ティナちゃんと手を繋げたことで上機嫌の私であった……が、先へ進むにつれて段々とスラム街のヤバさを知ることになり、それはどこからともなく漂う悪臭や路上に飛び散っている人血が物語っていた。
そしてこの先はより一層ヤバさが増すと見て、「かなり物騒になってきたけど何があっても私が守ってあげるからね!」と彼女が不安に思わぬよう事前に約束を結び、尚も先へと進む。
「ふふっ……」
緊迫した雰囲気のなか、なんの前触れもなくティナちゃんが笑ったので「……ん? 急にどうしたの? もしかして思い出し笑い? あっ、それとも妄想的なやつ?」と聞いてみたところ、彼女は少しだけ頬を赤らめて笑った理由を口にする。
「えっと……その、もしもルゥ様が私の姉ならばと想像しましたら嬉しさのあまり、つい……」
「そっかぁ、姉かぁ、そりゃあ私が姉だったらぁ……って姉ぇぇぇ~っ!?」
よもや自分が姉妄想の贄にされているとは夢にも思わず、嬉しくも驚きのあまり大声を上げてしまった。
すると、近くの路地裏で寝ていたであろう男たちが私たちの存在に気づくなり集まりだす。
「にぃ、しぃ、ろぉ、七人か……ごめんティナちゃん、私が大声出したばかりに……でも、約束は絶対守るから」
「はい、信じております……ですが、決してご無理だけはなさらないでください……お姉様」
ティナちゃんのお姉様発言を受けて「可愛い妹のために勝ぁぁぁーつ!!」と吼え、気合十分で男たちの前に立つ私。姉ブーストが発動したからには男など恐るるに足らず。
だが奴らは全員武器を持っているうえに襲う気満々。
しかもまともに攻撃を受けたらその時点でアウト。私のみならず彼女まで何をされてしまうのかは想像に難くない。
悪漢の撃退経験はあっても本格的な戦闘経験は皆無だし、無策で突っ込むより相手の出方を見て対応しよう!
そう考えつつツールポーチに手を入れ、何か適した武器はないかと探そうとしたその矢先、先頭の男Aを皮切りに次々と奴らが襲い掛かってきた。
「うわわっ!? なんか武器なんか武器っ……コレだ!」
空間拡張済みツールポーチから取り出したもの……それは、棍。
幼い頃、父から護身術とともに手解きを受けていた最初の得物。
当時は全く気が進まなかったが、それでも自衛のためにと持たされた不殺にして万能の武器だ。
剣や槍と違って比較的軽いから女の私でも……ほらこのとおり、簡単に振り抜けるから男を倒すことも。まさに万能。
今倒した男Aは短剣を持っていたが明らかにリーチが違う。それも万能と云われる所以の一つ。
他にも後方へと回り込もうとする男Bに対し、相対せずとも後ろを突けば……はい、万能故に最小限の動きで二人目も撃破。
いつもならランニング後に棍を握るのだが今日はそれができなかった。
なので、今がその鍛錬のときだと思っていつもどおり気負わず冷静に一人ずつ倒していくつもりだ。
相手が警戒して足を止めた瞬間に突く。倒された仲間の方に視線を向けた隙を突く。怒りで狭まった視界の外から不意を突く。これで残すはあと二人。
よしっ、このままいけば勝てる! そう判断して口角を上げた次の瞬間、先程倒したはずの男Eが私の右足に抱きつき、それによりどうにか男Eは倒したものの体勢が崩れてしまい、その隙を突かれて男Fに押し倒される羽目に。しかし、そんなことよりも……
「きゃあぁぁぁーっ!!」
男Gが私を無視してティナちゃんに襲い掛かったのだ。
このスラム街には似つかわしくないその煌びやかな姿を見れば誰もが貴族の娘だと理解するだろう。事実、そのとおりだ。
礼儀作法は教われど闘う術など教わっていない彼女は、抵抗する間もなく黄ばんだ下着を嗅がせられて即気絶。
肩に担がれたかと思えば見る見る距離が開いていき、マズい! 早く助けなきゃ! と焦った私は卑猥な表情で上に跨る男Fをすぐさま棍で殴り倒し、自慢の脚力で追いかけることに。
「待てぇぇぇーっ!! 妹を返せぇぇぇーっ!!」
棍を片手に鬼の形相で路上を駆け抜ける私。悪路で走りづらいがそんなの関係ない。
その後は自慢の脚力で一気に距離を縮ませる……が、あと少しで追いつかんとしたその時、予期せぬ突起により躓いてしまう。
速度が出ていた分派手に転び、折角縮めた距離が再び開いていく様子をうつ伏せのまま眺めることしかできず、視界を涙で滲ませ、咄嗟に叫ぶ。
「待って! 私はどうなってもいいからその娘だけは返して!」
無駄な叫びであることは分かっていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。
そしてやはり無駄な叫びで終わると、偶然視界に入った棍に向けてふと呟く。「キミが、ソンゴクウの武器だったらよかったのに……」と。
するとその刹那、棍から眩いほどの光が放たれ、頭の中には謎の知識が流れ込んできた。
【潜在スキル『偉人の銘』が開花した】
【無銘の棍が『ゴクウの棍』に進化した】
【ゴクウの棍:攻『+300%』・耐『+300%』・能力『伸縮』】
【詳細:異世界の偉人『孫悟空』が愛用していた棍の魂を宿すことで進化を遂げた元無銘の棍】
【伸縮:武器を自在に伸縮できる。但し、伸縮限度アリ】
「……偉人の銘……ゴクウの棍……能力……?」
急に謎の知識を得て戸惑うなか、幼い頃に妄想し捲った〝もしも偉人の武器が使えるとしたら〟を不意に思い出し、透かさず暗記した台詞を叫ぶことで妄想が現実のものとなる。
「伸びろ如意棒──ッ!!」
男Gの足を狙って台詞を叫ぶと『ゴクウの棍』は凄まじい速さで伸びていき、瞬く間に開いた距離を無にして貫く勢いで右膝裏に直撃。
膝から崩れ、豪快に倒れる男G。
その手から解き放たれたティナちゃんは宙を舞い、再び舞い降りた場所はなんと男Gの背中の上。
全くの偶然とはいえ、あの可愛らしいお尻でトドメを刺す光景に「あははっ!」と思わず笑ってしまった……が、その一方で着地の衝撃によって目を覚ました彼女は何故かすぐに股を押さえだし……──
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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