【無才】のウェポンスミスは諦めない! 〜才能の欠片もないと工房をクビにされ捲った私が〝夢〟〝復讐〟〝助力〟を経て、武器職人の頂点に至るまで〜

るっち

文字の大きさ
39 / 40

第20話 延々と……

しおりを挟む

「……そう。後継者争いでそこまでの事態に……事情は把握したけど相当に深刻な状況ね……」

 ティナちゃんの御家事情を知り、想像以上に重い話のためか表情を曇らせるイリアさん。頼られている立場を理解し、敢えて敬語を取り払った模様。

「そっ、それでっ、チカラにはなってあげられるんですか!?」

 居ても立っても居られなくなった私がそう言いながら食卓越しに身を乗り出すと、少し驚いた様子でこちらに視線を向けたイリアさんは一言「……そうね。少しだけ考えさせて頂戴……」と困惑した口調で返し、憂いを帯びた儚げな表情を浮かべる。

 そのか弱い乙女のような仕草を見せられた私は思わずドキッとしてしまい、口を開けたままそれ以上は何も言えなくなった。
 特にあの長いまつ毛での流し目はズルい。儚さの中に妖艶さが見え隠れしててなんかこう、なんかこう……とにかくエロい!


 それにしても誤算だったよ……まさか考慮時間を求められるなんてさ……

 優しいこの人ならきっと快諾してくれるはず! そんな謎の自信と安心感を抱いてたけど、それはどうやら楽観的すぎたみたい。
 そもそも私自身で言ってたはずなのにね。「助力を得られるか分からないよ?」って。
 それにさ、もし仮に心の病に罹らず動けたとしても(真偽を碌に確かめもせず切り捨てた)王家なんかと関わりたくないだろうし。

 イリアさんは、私の母と同じ36歳のシングルマザー。
 夕陽せきようの如く情熱を帯びた橙色の髪、つい目を惹かれるくらい明るく爽やかな檸檬色の毛先、エルフ由来の吸い込まれそうなほど美しい翡翠色の瞳、誰もが羨む端麗すぎる顔立ちを兼ね備えた真に素敵な女性。
 ひたすら綺麗で優しくて慈愛に満ちてて……けれど、ひたすら厳しい人。

 ティナちゃんの御家事情を聞き、決死の説得を受けてもなお、同情や憐れむ様子はあれど了承まではしなかったし、報酬としてこの工房の修繕費や病気の薬代の他に、再び働けるようになるまでの生活費や生活物資の贈与を提案されても眉ひとつ動かさなかったもの。

 本当は喉から手が出るほど欲しいはずなのに、本当は猫の手程度でもチカラになってあげたいはずなのに、それでも断るしかないよね? だって、大事な我が子を危険に晒すことはできないもの。

 そう、この人は自分に厳しく他人に優しい。
 だから自身よりレオの身を案じてるのがよく分かる。他の人には分からなくても私には分かるよ。
 だって、アナタは今でも私の憧れであり私の目標、そして今では私の大切な家族でもあるのだから。自称だけど……


「……ふぅ、待たせてしまったわね……」

 ひと息吹いて申し訳なさそうにするイリアさん。やっぱりこの人は他人に優しい……ううん、優しすぎる。
 だから裏切られる。だから陥れられる。だから復讐できない。だから……それが少し、腹立たしい。

「……それで、助力の件だけど──」

「──えっ? もう?」

「……? いけなかったかしら?」

「いっ、いえっ、とんでもない! どっ、どうぞ続けてください!」

 しっ、しまったぁぁぁっ!! 腹が立ってつい言い返しちゃったよ!
 てか考慮時間が短すぎるとかズルい! てっきりもっと掛かるかと思ってたのにまさかすぐに答えを出しちゃうなんて!
 あとちょっと油断してたら「短っ!!」ってツッコミ入れてたかも!
 これが原因で断られたとティナちゃんに勘違いされたら死ねる! だけどきっと断られる! まさに万事休す! じゃんかよぉぉぉ~っ!!


「──というわけだから、ルゥちゃんよろしくね?」

「……へ?」

「お姉ちゃん頑張ってね!」

「……へ?」

「お姉様、ご助力感謝いたします」

「……へ?」

「オナラは?」

「……へ? って何言わせんの馬鹿っ!」

《各々爆笑》


 フェルムの馬鹿はともかく、会心のツッコミがウケたのは素直に嬉しい。何より、また和やかな雰囲気に戻せたことがすっごく嬉しい。ただ……どゆこと?

 脳内で愚痴り喚き捲っている間に話が進んでいたため展開が全く分からず、それでも知り得たことといえばイリアさんの助力を得られたという大変喜ばしい成果。
 ティナちゃんたちの歓喜する姿を見れば一目瞭然だし、イリアさんの表情に穏やかさが戻っている様子からも容易に察しがつく。
 だがそれ以外の情報は皆無。それも一番の問題は〝私が何をよろしくされたのか〟ってこと。
 もし今「どゆこと?」なんて口にしたら、みんなから白い目で見られるのは必至。それだけは絶対に避けたい。なので……


「ねぇねぇプラータ、さっき私って何をよろしくされたの?」

 一歩後ろに引いて喜んでいるプラータにド直球を投げ込んでみた。

「はぁ……見て分かんない? 今喜んでるとこなんだけど。てかそれ、自分のことなのに聞いてなかったってこと? あり得なくない?」

「ゔっ……そ、それについては面目次第もございません……でもね、こんなことプラータにしか頼めないの……だからお願い!」

「──ッ!! はぁ……しょうがない。面倒だけど教えてあげる」

「ありがとぉ~! 先に欲しいもの教えて? お礼にプレゼントしてあげる!」

「じゃあ話しかけないでほしい」

「おいこらてめぇ」


 ……という素晴らしいやり取りを経て、あの時に聞き損じた情報を見事に入手。
 といっても、口頭だと面倒だからってメモ書きにして渡されたけど。

「ま、まぁいいや……んじゃ早速──」

「──ダメ。今ここで見たら俺が書いたってバレちゃう。見るなら後にするか別のとこで見て」

「あっ、ごめ──」

「──だって、二人の秘密にしたいし」

「──ッ!! それって……」

 見つめ合う私とプラータ。甘い雰囲気が漂い始める。
 だがそんな未知の雰囲気に動揺した私は「おっ、お花摘んできま~す」とその場から逃げ出しつつトイレへ駆け込み、勢いよくスライド式の鍵を閉め、高鳴る鼓動を鎮めようと大きく深呼吸を──

 ──ゔえぇぇぇっ!! そ、そうだここトイレだった……ゔうぅ、気持ち悪いよぉ……

 不本意すぎるが結果的に鼓動は鎮まったため、落ち着いて見れるよう便座に腰掛けて「ふぅぅ……」と少し長めに息を吹き、気持ちを切り替えてからメモに目を通した。

「うわぁ、プラータめっちゃ可愛い字書くじゃん……ってそれより早く読まなきゃ! え、えーっとなになに……」

 戻りが遅いとウ◯チだと思われちゃう! なんて焦りながらもマジマジと上から下へ読み進める。

 どうやらイリアさんが助力に応じたのは本当だが、それには条件ないし制限があるようだ。それも五ヶ条。


【一、陽花姫は直接的な関わりを持たず】

 理由は病気のこともあるが、何よりレオの安全を最優先に考えたからだ。
 もしイリアさんが表立って動いてしまうとレオが標的となる恐れがあるから当然の配慮といえる。


【二、工房を拠点とするのはOK。衣食住は勿論、仮宿として冒険者ギルドに登録するのもアリ】

 この条件はイリアさんが直接的に関わっているわけではないからセーフということだろう。う~ん、グレー判定……


【三、説得時に提案されたものは成功報酬とする】

 要はティナちゃんが家督という名の〝女王〟になったらという話か。
 この条件は完全にティナちゃんたちを想って用意されたものだと容易に分かる。
 確かに後継者争いに勝つには山ほどの資金や物資が必要になると考えられるしベストな判断だ。


【四、直接的に関わる者はルゥのみとする。但し、危険と判断した場合は即刻手を引くこと】

「──!? なっ、何コレっ!? 私一人でティナちゃんたちを助けろってこと!? そんなの無理無理っ、絶対無理っ! しかも危険ってことは激ヤバ案件ってことでしょ!? それこそ余計無理に決まって──」

 この時、不意に目にしてしまう。すぐ下に書かれた文字を。
 そして、その意味を知った私はメモ紙を強く握り締め、静かに身を震わせた。


【五、我が娘ルゥの成すべきことを全力で支えること。〝ルゥちゃん頑張れ~!〟】

 ……

 ……

 ……

 ……イリアさん……

 ……

 ……

 ……

 ……私、頑張ります……アナタのために……

 心の奥底から込み上げる万感の思いが叫びとして溢れ出ぬよう、重ねた両手で必死に口を押さえて咽び泣いた。あの人を想って延々と、延々と……──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

処理中です...