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第1章 始まりの街
第19話 生の実感と初宝箱
しおりを挟む「よしっ、やるか!」
俺は短杖の先端に念を込めた。すると、短杖の先端へ光が集まり出す。どうやらハイビームとは違う種類の光だ。
この光は『黒子の銀鎖』へ付与した『マルチ』と『ホーミング』の魔法を発動させたからだろう。
魔物達はバリアに攻撃を仕掛けているが、バリアはびくともしていない様子。
俺に不安や焦りなどは無い。只々、光が溜まるのを待つだけだ。そう、待つだけ……
「……!! 溜まった!!」
すぐさまバリアを解除し、特殊なビームを発動させた。
「行けぇ! レーザー!」
発射の合図と共に、短杖の先端から幾重にも枝分かれした細い光線が次々と魔物達を貫いていく。
それは手前にいる魔物達だけではなく、隙間を縫うように奥に潜む魔物達にも当たっていた。その無数の輝かしい閃光達を見て、思わず呟く。
「凄い……まるで、地上を翔ける流星群だ……」
魔物の大半は倒せたようだ。
特に手前の方にいた魔物は軒並み倒せたので、すぐに襲われる心配は無いだろう。
生き残った魔物達が俺を目掛けて迫ってくる。そのことを確認した後は、後退しながら再び短杖に念を込めた。
本当はバリア無双をしたかったが、次の発動までにクールタイムが必要のようだ。まるでゲームのようである。
「……」
ひたすら駆けて後退しながらも光が溜まるのを待つ。もう少しで充分に溜まる筈だが……
「まだか……」
まだ充分に溜まってはいない様子。
先程よりも光の集まりが悪く、その分溜まるのも遅くなっていた。
幸いなことに植物系の魔物は移動速度が遅い。もしこれが魔獣系ならば、既に襲われていただろう。そう考えたら背筋がゾッとした。
「……!? なんの音だ!?」
その時突然、バキッ! と背後から何かが砕ける音が聞こえた。
駆けながらも急いで振り返ると、その音の正体が分かる。種が障壁に当たって砕けた時の音だったのだ。
「この種は……アイツらか!?」
魔物達の中にセブンシーズが数匹紛れているのを確認。
どうやらセブンシーズ達が俺を目掛けて種を飛ばしていたようだ。それも今尚、容赦なく攻撃をし続けてきている。
「くそっ、今すぐ仕返しをしてやりたいけど……!」
光はまだ溜まり切っていない。溜まるまでの辛抱だ。
「光が溜まったら真っ先に狙ってやる!」
意外と俺は執念深い。倍返しとまではいかないが、少なくとも3割増しで仕返しをしないと気は済まない。
「やられたらやり返す! 3割増しだ!」
そんな独り芝居をしている内に、光が充分に溜まった。
「……溜まった! これで!」
俺はレーザーを発動する。
枝分かれした細い光線が再び魔物達へ向かって発射された。
見る見る内に魔物達は倒れていく。その最中にも討ち漏らしが無いかを確認する……が、それは杞憂に終わる。
「コイツでラストだ!」
最後の1匹を細い光線が貫くと、その魔物は倒れ込む。これで50数匹いた魔物の群れは全滅。
あっと言う間の出来事ではあったが、終わったかと思うと疲労が一気にきた。
「はぁ、はぁ、終わった……」
途中、死への恐怖で手が震えることもあったがどうにか生き残れた。しかし、今でも半分は生きていることが信じられずに心が落ち着かない。
なので今はその場に留まり、暫くの間『生』の実感を噛み締めながら疲労回復と落ち着きを取り戻すことに……
「……ふぅ、やっと落ち着けた……先へ進むか……」
落ち着きを取り戻し平常に戻ったので、魔物達をストレージへ収納しながら先へ進むことにした。
収納しつつ少し先を見ると、魔物の骸が連なりながら横たわっている。これからのことを考えると正直面倒だ。
「……はぁぁぁ、やっっとここまで来れた……」
時間は掛かったが、魔物の群れがいた広い空間まで戻ってくることができた。勿論、魔物達は全て収納済みだ。
「それにしても広いな……」
辺りをキョロキョロと見渡しながらその空間を調べて見ることにした。こういう開けた場所は何かがある筈だと思ったからだ。
「あるうぇ? おっかしいなぁ……?」
時間を掛けて探したが特に何も無い。宝箱は疎か、罠も仕掛けも無かったのだ。
前世で遊んだゲームでは、こういう場所では何かしらはあるはずなのに……やはりゲームとリアルでは違うということだろうか?
「非常に残念だけど時間が勿体無いし、もう行くかぁ……」
探索を断念し、先へ進むことに決めた。
この広い空間から先は再び狭い一本道となっているようで、警戒しながらも早速その道へと足を踏み入れる。
「……うん? 分かれ道?」
狭い一本道を少し進むと、左右へ分かれるT字路となった。どちらに進むかで思案する。
「うーん……左だ!」
根拠は無い。ただ単に自分が左利きだからだ。
そんなくだらない理由ではあったが、言葉通りに左へ進み出した。
「……」
ほんの少し先へ進むと、すぐに行き止まりとなった。そして無言となる俺。
それは意気込んで進んだのに何も無かったからである。
「はぁ……」
溜め息を吐きながらも、念の為に周囲を調べて見た。すると……
「……!? なんだ!?」
何かの仕掛けを発見。
行き止まりなはずの壁を叩くと、奥から空洞音が聞こえる。
「よ~し、壊そう!」
隠し通路を見事に発見できてご機嫌な俺。
少し後ろへ下がり、ビームを発動した……が、どうやら通常のビームではダメらしい。
「こうなったら、アレで行くか!」
意気揚々と更に後ろへ下がり、アレことハイビームを発動した。すると轟音と共に壁には穴が空き、ソコから次々と壁が崩れ出す。
「よっしゃ! これで通れそうだ!」
崩れた壁の瓦礫を踏み越えていくと、そこには1つの宝箱が置いてあるではないか。
「うおぉぉぉーっ!!」
異世界に来て初めての宝箱に大興奮してしまう。そして興奮しながらも恐る恐る宝箱を開けた……すると、中には1本の木の枝が入っていた。
「……へ? き、木の枝……?」
物凄くガッカリ……それはもう絶望に近いほどに。だがそれでも何かを感じ取ったので木の枝を手に取りスキャンしてみた。
【精霊樹の枝・☆4・精霊達が宿る大樹の枝】
「うおぉぉぉぉぉーっ!?」
宝箱を見つけた時よりももっと大興奮する俺。
まさか星4の素材を手に入れられるとは思っても見なかったからだ。しかも、この世界に精霊が存在するということがこれで証明されたわけなのだから興奮するなという方が無理な話だろう。
「YES! YES!」
俺は大興奮の余り、イエスマンになってしまった……
「……はっ!? は、恥ず……」
暫くして平静に戻り、思い出したかのように赤面する……が、その恥ずかしさと共にある物に目が向き、そのある物にスキャンを試みる。
【玉鋼の宝箱・☆3・玉鋼製の頑丈な宝箱】
「えっ……マジ!?」
どうやらマジなようだ。まさか、星4に次いで星3の素材まで手に入れられるなんて……
最早、興奮よりも驚きの方が勝り、その中でも鉄製ではなく玉鋼製の宝箱だった事実に最も驚かされた。
驚きながらも精霊樹の枝と玉鋼製の宝箱をストレージへ収納し、その驚いた表情のまま振り返って一度来た道まで戻り始める。
表情筋が固まって治らない……どうやら驚きすぎて戻らなくなった様子。しかし、歩きながら両手で顔をほぐしているとすぐに表情は元に戻った。
「よしっ、次はこっちだな!」
T字路だった道まで戻り、次はそのまま直進をすることにした。要は反対方向へ向かったということ。
「……ん? なんだアレ?」
反対方向の道へ少し進むと奥の方に何かが見えてきた。先が暗くて見づらいが、その何かの確認へと赴く。すると……
「……!! かっ、階段だ!」
その何かとは下の階へ降りる階段であり、そのまま躊躇なく下の階へと降り始める。
期待や好奇心が勝っているため不安はほぼ無いうえに現在進行形でワクワクが押し寄せてきていた。
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ほんの少しの不安と大きすぎる期待を胸に抱き、俺は下の階へと降りていく……
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