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知りたくなかった
第2話
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「どうしてだろうな。日葵の期待を裏切りたくなかったのかもな」
「期待?」
日葵は自分でその言葉発してみて、昔の壮一は日葵にとってヒーローだったことを思い出した。
いつもなんでも完璧で、余裕があって。その陰に努力や苦労があったことなど想像もしていなかった。
いつも後ろをくっついて、『すごいすごい』と頼りっぱなしだった。
「ごめんなさい」
そんな自分に、日葵は言葉が零れ落ちた。
「どうして日葵があやまるんだよ」
壮一があまりにも穏やかに言葉を発したことで、日葵もホッとして言葉を続けた。
「だって、昔の私って迷惑かけてばっかりだったでしょ。なんでも頼ってばかりで。それが無理をさせてた……」
壮一の思っていることなど一ミリも考えることなく、自分の気持ちを押し付けてばっかりだったように思った。
「それは違う」
壮一は少し考えるような表情を見せ、日葵は言葉の続きを待った。
「日葵の前では、完ぺきでありたいかったから。だからいい訳にもならないけど、あの時、何も言わずにアメリカへ行ったのかもしれない。すまなかった」
日葵は何をどう答えて、どう反応すればいいのかわからなかった。
(このあいだはどうして謝ったのかあれほど気になっていたのに……)
聞いてしまったことを、なぜか後悔する自分を感じた。
今までの苛立ちも、苦しみも、恨み言も、言葉にすることが出来なかった。
完璧でいるために私から離れた?
その意味を日葵は考えていた。
しばらく無言の時間がすきたが、すぐに仕事の話になり気づけば会場へと着いていた。
「すぐに合流して準備をしよう」
壮一の言葉に、日葵もトランクから荷物を抱えると会場へと入った。
最大級のイベントはもう始まっており、会場はすごい熱気にあふれていた。
プレスリリースまではまだ日があるが、今回色々なところからの問い合わせもあり、急遽ブースをだすことになったらしい。
「清水チーフ!」
名古屋支社からもたくさんのスタッフが慌ただしく対応しており、壮一をみてそのスタッフたちがホッとしたのが日葵にも分かった。
「お疲れ様」
壮一はいつもの余裕の笑みを浮かべ、スタッフに指示を出している。
そんな様子を少しの間足を止めてみていた日葵は、「長谷川!」その声で我に返ると持ってきたグッズの見本やノベルティの搬入を始めた。
「うわ、それかわいい」
すでにブースにいたカップルが日葵の手元の人形を見て声を上げる。
「本当ですか? 嬉しい」
冒険する主人公と一緒に旅する妖精のキャラクターだ。
「すごく発売楽しみにしてるんです」
そんな声に日葵も嬉しくなった。
ブースの設置も終わり、スタッフに接客をまかせた壮一たちは、他の会社の重役や海外のVIPの挨拶をしているようだった。
日葵もホッと一息ついたところで、壮一の声が聞こえた。
「長谷川」
その声に日葵は壮一の視線を向けた。
何人もの外国人に説明をしているようで、少し困った顔をしている壮一に、日葵は小走りでその場へと向かった。
「はい」
「悪い、イタリア語だ。頼む」
ニコニコとしたいかにもラテン系のその男性は、パンフレットを見ていた。
日葵は頷くと、男性に説明を始めた。
とても興味を持ってくれていて、たくさんの説明を聞いてくるその人は、イタリアのゲーム会社の関係者のようだった。
「ヒマリ、ひまわり?ありがとう」
最後に日本語でそう言ったその人に、日葵はクスリと笑みを漏らした。
「ヒマリです」
「ヒマリ、キュートね。Ci vediamo di nuovo(また会いましょう)」
そう言うと、その男性は日葵の頬にキスをした。
日葵は頬に手を当てつつも、笑顔でその人を見送った。
「また検討してくださるそうですよ」
日葵はホッとして壮一をみると、特に表情のなく日葵を見ていた。
「そうか」
素っ気ない言い方に、日葵は小さく心の中でため息を付くと、すぐさま他の人と話を始めた。
「期待?」
日葵は自分でその言葉発してみて、昔の壮一は日葵にとってヒーローだったことを思い出した。
いつもなんでも完璧で、余裕があって。その陰に努力や苦労があったことなど想像もしていなかった。
いつも後ろをくっついて、『すごいすごい』と頼りっぱなしだった。
「ごめんなさい」
そんな自分に、日葵は言葉が零れ落ちた。
「どうして日葵があやまるんだよ」
壮一があまりにも穏やかに言葉を発したことで、日葵もホッとして言葉を続けた。
「だって、昔の私って迷惑かけてばっかりだったでしょ。なんでも頼ってばかりで。それが無理をさせてた……」
壮一の思っていることなど一ミリも考えることなく、自分の気持ちを押し付けてばっかりだったように思った。
「それは違う」
壮一は少し考えるような表情を見せ、日葵は言葉の続きを待った。
「日葵の前では、完ぺきでありたいかったから。だからいい訳にもならないけど、あの時、何も言わずにアメリカへ行ったのかもしれない。すまなかった」
日葵は何をどう答えて、どう反応すればいいのかわからなかった。
(このあいだはどうして謝ったのかあれほど気になっていたのに……)
聞いてしまったことを、なぜか後悔する自分を感じた。
今までの苛立ちも、苦しみも、恨み言も、言葉にすることが出来なかった。
完璧でいるために私から離れた?
その意味を日葵は考えていた。
しばらく無言の時間がすきたが、すぐに仕事の話になり気づけば会場へと着いていた。
「すぐに合流して準備をしよう」
壮一の言葉に、日葵もトランクから荷物を抱えると会場へと入った。
最大級のイベントはもう始まっており、会場はすごい熱気にあふれていた。
プレスリリースまではまだ日があるが、今回色々なところからの問い合わせもあり、急遽ブースをだすことになったらしい。
「清水チーフ!」
名古屋支社からもたくさんのスタッフが慌ただしく対応しており、壮一をみてそのスタッフたちがホッとしたのが日葵にも分かった。
「お疲れ様」
壮一はいつもの余裕の笑みを浮かべ、スタッフに指示を出している。
そんな様子を少しの間足を止めてみていた日葵は、「長谷川!」その声で我に返ると持ってきたグッズの見本やノベルティの搬入を始めた。
「うわ、それかわいい」
すでにブースにいたカップルが日葵の手元の人形を見て声を上げる。
「本当ですか? 嬉しい」
冒険する主人公と一緒に旅する妖精のキャラクターだ。
「すごく発売楽しみにしてるんです」
そんな声に日葵も嬉しくなった。
ブースの設置も終わり、スタッフに接客をまかせた壮一たちは、他の会社の重役や海外のVIPの挨拶をしているようだった。
日葵もホッと一息ついたところで、壮一の声が聞こえた。
「長谷川」
その声に日葵は壮一の視線を向けた。
何人もの外国人に説明をしているようで、少し困った顔をしている壮一に、日葵は小走りでその場へと向かった。
「はい」
「悪い、イタリア語だ。頼む」
ニコニコとしたいかにもラテン系のその男性は、パンフレットを見ていた。
日葵は頷くと、男性に説明を始めた。
とても興味を持ってくれていて、たくさんの説明を聞いてくるその人は、イタリアのゲーム会社の関係者のようだった。
「ヒマリ、ひまわり?ありがとう」
最後に日本語でそう言ったその人に、日葵はクスリと笑みを漏らした。
「ヒマリです」
「ヒマリ、キュートね。Ci vediamo di nuovo(また会いましょう)」
そう言うと、その男性は日葵の頬にキスをした。
日葵は頬に手を当てつつも、笑顔でその人を見送った。
「また検討してくださるそうですよ」
日葵はホッとして壮一をみると、特に表情のなく日葵を見ていた。
「そうか」
素っ気ない言い方に、日葵は小さく心の中でため息を付くと、すぐさま他の人と話を始めた。
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