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片思い
第3話
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肩にかかっていた髪をそっと涼真が触れる。
それだけでもう心臓が爆発寸前なのに、さらに涼真は追い打ちをかける。
「本当に、ちなの髪きれいだよな」
あー、もう限界!!
そう思ったところに、ざわざわとした声が聞こえ涼真は手を止めた。
「あー二人ともお疲れ様です」
甘い女の子らしい声が聞こえ、隣の部署の女の子たちがフロアに入ってきたことが分かり、私は慌ててパソコンを操作するふりをした。
「おっ、ゆきちゃん、さえちゃん、お疲れ。遅いな」
そんな私など気づきもしない涼真は、今来た後輩のゆきちゃん達に笑顔を向けている。
早く心臓落ち着いて……。
私はそんな事を思いつつ、やりかけの仕事をさっと終わらせると、パソコンを閉じた。
その間も、ゆきちゃん達は涼真を誘っているようだった。
たしかに私を誘いに来てくれていたはずだったけど、断らない涼真はきっと彼女たちと行ってしまうだろう。
そう思い、私は小さく息を吐いて、笑顔を作る。
「みんなお先にね」
「あっ、お疲れさまですー」
可愛らしい笑顔がうらやましい。
好きになったばかりの彼女たちぐらいの時だったら、かわいらしく告白でもしてこの関係を変えるチャンスがあったのだろうか?
そんな事を今更思っても、まったく仕方ないのにそんな事が心に浮かんでは、必死にその思いを消す。
「ちな、お疲れなー」
笑顔で手をひらひら振る涼真に、やっぱりなと少しだけ寂しさと、悲しさが広がる。
でもそんな事ももう慣れっこだ。
そのままの笑顔を涼真に見せると、私は足早に会社を後にした。
あーあ。
雪が降りそうな空を見上げ、手袋をした手をこすり合わせる。
そんなときにカバンから聞こえたスマホの音に、一瞬涼真かと急いでディスプレイに目を向けた。
【お母さん】
そんなわけがないのに、少しだけ期待をしてしまったせいで、余計にがっかりしている自分が嫌になる。
手袋をとって、スマホの通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『何よ、その暗い声は』
すぐにわかってしまうお母さんに苦笑しながら、私は言葉を続けた。
「どうしたの?」
『あのね、詩織ちゃんから結婚式の案内状、こっちに届いたわよ。そっちに転送すればいい?それとも返事を出しておこうか?』
このタイミングで、この電話か……。
私はさらに重くなる気持ちから、ため息をついた。
「どうしようかな……」
そう呟いた私に、お母さんも思い出したように思い出したくない事を言い出した。
「ああ、詩織ちゃんて、裕也くんを獲られた子じゃない!まあ、それなのに招待状を送ってくるなんて。行かなくてもいいわよ」
怒ってくれたお母さんに、少し感謝しつつ私もそう思っていた。
詩織は大学の時のゼミが同じだったのだが、きれいだったが、いつも自分が一番でいたいようなところがあり、その当時の彼もあっさりと詩織になびいてしまった。
なぜかゼミの中で、教授に可愛がってもらっていた私を、おもしろく思ってなかったのではないかなと思っていた。
今回も、私の素敵な旦那様を見て。ってところなのだろう。
「ちなみに結婚式いつ?」
『それが、ずっと前に来ていたの気づいてなくて、12月25日みたい』
「クリスマスって……もう1カ月ないじゃない。というかもう今更返信期限も過ぎているし、その招待状を見なかったことにするよ」
私の言葉に、お母さんも「そうしなさい」と語気を強めた。
クリスマスに結婚式なんて詩織らしい……。
そんな事を思いつつ、私はもう一度手袋を手にはめた。
それだけでもう心臓が爆発寸前なのに、さらに涼真は追い打ちをかける。
「本当に、ちなの髪きれいだよな」
あー、もう限界!!
そう思ったところに、ざわざわとした声が聞こえ涼真は手を止めた。
「あー二人ともお疲れ様です」
甘い女の子らしい声が聞こえ、隣の部署の女の子たちがフロアに入ってきたことが分かり、私は慌ててパソコンを操作するふりをした。
「おっ、ゆきちゃん、さえちゃん、お疲れ。遅いな」
そんな私など気づきもしない涼真は、今来た後輩のゆきちゃん達に笑顔を向けている。
早く心臓落ち着いて……。
私はそんな事を思いつつ、やりかけの仕事をさっと終わらせると、パソコンを閉じた。
その間も、ゆきちゃん達は涼真を誘っているようだった。
たしかに私を誘いに来てくれていたはずだったけど、断らない涼真はきっと彼女たちと行ってしまうだろう。
そう思い、私は小さく息を吐いて、笑顔を作る。
「みんなお先にね」
「あっ、お疲れさまですー」
可愛らしい笑顔がうらやましい。
好きになったばかりの彼女たちぐらいの時だったら、かわいらしく告白でもしてこの関係を変えるチャンスがあったのだろうか?
そんな事を今更思っても、まったく仕方ないのにそんな事が心に浮かんでは、必死にその思いを消す。
「ちな、お疲れなー」
笑顔で手をひらひら振る涼真に、やっぱりなと少しだけ寂しさと、悲しさが広がる。
でもそんな事ももう慣れっこだ。
そのままの笑顔を涼真に見せると、私は足早に会社を後にした。
あーあ。
雪が降りそうな空を見上げ、手袋をした手をこすり合わせる。
そんなときにカバンから聞こえたスマホの音に、一瞬涼真かと急いでディスプレイに目を向けた。
【お母さん】
そんなわけがないのに、少しだけ期待をしてしまったせいで、余計にがっかりしている自分が嫌になる。
手袋をとって、スマホの通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『何よ、その暗い声は』
すぐにわかってしまうお母さんに苦笑しながら、私は言葉を続けた。
「どうしたの?」
『あのね、詩織ちゃんから結婚式の案内状、こっちに届いたわよ。そっちに転送すればいい?それとも返事を出しておこうか?』
このタイミングで、この電話か……。
私はさらに重くなる気持ちから、ため息をついた。
「どうしようかな……」
そう呟いた私に、お母さんも思い出したように思い出したくない事を言い出した。
「ああ、詩織ちゃんて、裕也くんを獲られた子じゃない!まあ、それなのに招待状を送ってくるなんて。行かなくてもいいわよ」
怒ってくれたお母さんに、少し感謝しつつ私もそう思っていた。
詩織は大学の時のゼミが同じだったのだが、きれいだったが、いつも自分が一番でいたいようなところがあり、その当時の彼もあっさりと詩織になびいてしまった。
なぜかゼミの中で、教授に可愛がってもらっていた私を、おもしろく思ってなかったのではないかなと思っていた。
今回も、私の素敵な旦那様を見て。ってところなのだろう。
「ちなみに結婚式いつ?」
『それが、ずっと前に来ていたの気づいてなくて、12月25日みたい』
「クリスマスって……もう1カ月ないじゃない。というかもう今更返信期限も過ぎているし、その招待状を見なかったことにするよ」
私の言葉に、お母さんも「そうしなさい」と語気を強めた。
クリスマスに結婚式なんて詩織らしい……。
そんな事を思いつつ、私はもう一度手袋を手にはめた。
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