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第四章 バルジェリア皇国編
反抗の奴隷の夢
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偉くうるさい音が聞こえる。いや声か、何の騒ぎだ? そんな事を考えながら体を起こす。
「ん?」
そうして馬車の方に目を向ける。そしたら恐竜がすげえこっち追いかけてきてる。
「起きたかあんたぁ。お互いとんでもねえ馬車に乗り合わせちまったな。」
目の前にいる黒髪で三つ編みの男がそう言った。そうだ、主が旅行に行く時、馬車に乗って行きたいって言ったから予約して馬車に乗ろうとしたとき、この男が乗せてくれと頼んできたんだ。
「俺の主人はどこ行ったんだ?」
「主人って...あぁ。あの綺麗なお姉さんの事か?」
「綺麗...そうだな。」
主の顔を思い浮かべながら頷く。そうしたらそいつ馬車の運転席を指差す。
「だったら、今運転してるよ。」
「は? 運転手は?」
「プテラに捕まれてそんまま喰われた。」
「助けなかったのかよ。」
「無理無理。気づいた頃には喰われてる最中だった。手遅れってやつだよ。」
金を払わなくて得したのか、死んでしまったことに嘆くべきなのか。
「どうしたんだよ?」
俺はため息を吐きながら立ち上がり恐竜の方に歩く。
「このまま逃げてもいずれ追いつかれるだろうが。助かっても馬車が壊れりゃ足が無くなる。このアホ共をぶっとばしゃ良いだけだ。」
「そりゃそうだが。お前そんな勝手許されるのか? 後で大目玉くらうぞ。」
その言葉に俺は奴の方を見て、適当な言葉を言う。
「大事な大事なご主人様の為を想って戦うことの何が悪いんです?」
「心こもってねえなぁ...。...よし、俺も付き合うぜ。」
そいつはそう言って、短剣2本取り出して両方とも逆手に持つ。
「何でだよ?」
「暇だからだよ。あんた名前は? 俺はクローヴン・ドーン。」
「フレア・アステラ。」
「じゃあフレアだな。よろ。俺のことはクローヴンって呼んでくれていいからな。」
「訊いてねえよ。」
俺の返答にクローヴンは笑いながら馬車から出ようとしてやがる。
「1人だったら動かなかったくせにやけに喋るじゃねえかよ?」
「1人だったら死ぬかもしれないだろ? 俺にはやることがあるんだ。そんなホイホイ命かけられねえよ。」
「のくせ暇だから戦うのか? 訳わかんねえな。」
俺は拳の熱を上げる。
「主!! 今から目の前のアホ共をぶっ飛ばす!!」
「え!?」
何か驚いた声が聞こえたがまぁ無視だ。クローヴンは一足先に馬車から飛び降りてる。俺もそれに続いて飛び降りて着地する瞬間に足から炎を出す。
「おぉ!?」
勢いよく一番でけえアホの恐竜の頭を掴んで、そのまま後ろの地面に叩きつける。その瞬間に掴んだ手の平を爆破させる。
「とんでもねえ...。何で奴隷やってんだ? いや...奴隷でよかったのか。」
「聞こえてんぞ。てめぇ。」
綺麗に吹っ飛んだ恐竜の頭を横目にクローヴンに話しかけたらプテラがクローヴンに向かって行った。
「悪い悪い! つい!」
「...。」
短剣でやる芸当じゃねえ...。そんなこと思ってたらまた角の生えた恐竜が突進してくる。俺はその角を両手で掴んで、へし折り頭突きで吹っ飛ばす。
「おぉ~戦い方派手だね。」
「お前のそれ、短剣でやる芸当じゃねえだろ。」
「まぁまぁ極めたらこんなもんよ。」
俺の言葉をクローヴンは軽く流して馬車に戻る。
「主!! あんたは馬車の客席に乗ってろ。後は俺が運転するから。」
「疲れてたんじゃないの?」
「あんたより疲れてねえよ。」
主の言葉に俺はそう返して、手綱を持つ。主が客席に乗ったのを見たら馬車を走らせる。そしたら目の前に急に霧が現れ、そこを真っ直ぐ抜けると、目的地があった。
「ん?」
「やっと着いたねぇ~。」
「ほんとっすよ。トラブルありすぎ。」
俺が首を傾げると、何事もなかったように主とクローヴンが話してる。
「トラブルありすぎ...? すぐ着いたろ?」
違和感がありながらも、そのまま目的地に入っていき、馬車の事情を話した後に、入国した。途中でクローヴンが先に入ると思っていたが、そのまま奴はついてくることになった。何で?
「お前はお前で何で俺達と行動するんだよ。」
「俺の予定はもうちょっと先だからな。それまで、この国を改めて目に焼き付けておくのさ。」
「改めて? 昔来たことあんのか?」
周りの景色に夢中になっている主を横目に、俺はクローヴンと話す。その中で感じた違和感に首を傾げると、クローヴンも首を傾げて答える。
「ん? 俺この国出身だぜ? 馬車で話したろ。ねぇ。」
クローヴンが主に同意を求めるように訊くと、主は頷いた後
「でも返事なかったから運転中でよく聞こえなかったんじゃない?」
と答えると、クローヴンは納得した様に何度も頷いて、この国で一番高い塔を指差す。
「生まれは違うが、俺はここユーフォリアで育ったんだ。そしてあの雲を刺すほど高い塔がこの国のシンボル。あの塔のおかげでどんな人間でもこのユーフォリアに来れるようになったんだ。」
「それって大丈夫なのか?」
「もちろん。この国にもある程度の戦力は存在する。でも、俺が生まれてくるちょっと前に国家戦力を失ったから滅茶苦茶安心できる国かと言われると自信ねえな。」
「大丈夫じゃねえじゃねえか。何がもちろんだ。」
自信満々の声色からどんどん自信が無くなっていき、最終的には開き直った答え方をしたこいつに、少し呆れた。
「フレア!! 着いたよ温! 泉!! 街!!!」
そんなこんなしてると、思いの外早く温泉街に到着した。主のテンションは少しうるせえが。そうしてクローヴンも当たり前のように温泉街に行く。
「温泉入ってから飯食おうぜ。」
「何でお前ついてくること前提なの?」
「まぁいいじゃん昨日の敵は今日の友っていうし。」
「一度も敵対してないし、友っていうほど距離感近くねえんだよ。」
ツッコミを入れる俺を尻目に2人は楽しそうに温泉街に入っていく。マジでクローヴン旅行中ずっと一緒なのか? なんて思いながら温泉街の温泉に浸かり、途中で主がのぼせて助けてもらった人にお礼を言ったり少し散々だったがまぁ楽しかった。
「いやぁ、ファーラさんがのぼせた時はどうなるかと思いましたけど。意外と大丈夫でしたね。」
「ほんとごめんなさい。久々に人に迷惑かけたわぁ~。」
相変わらずクローヴンはずっとついてくる。だがまぁ、主と仲良さそうだからいいかと放っておいた。それか5日くらい俺達はユーフォリアに滞在した。その間もクローヴンと一緒だったが、その中で俺もクローヴンとよく話すようになり、2人で主の世話もするようになった。
「クローヴンうち来ない?」
「こっちでのやることをきっちり終わらせたら、雇ってもらっても構わないっすよ。」
「そのやることっていつ終わるの?」
「多分明日の夕方くらいには終わるかな。」
「じゃあよるまで待ってるから終わったら来てね。来なかったら断られたで次の旅行で会いに来るから。」
「おっ? マジすか! その約束忘れないでくださいねぇ~。」
クロ―ヴンも主もすげえ仲良くなったなと思いつつ今日は初めて3人で同室で飯を食った。その後、また霧が目の前に現れて俺を飲み込んだ。そうしたら次の光景は深夜の廊下でクローヴンが立って何か言っているところだった。
「1人で何やってんだ?」
俺がそう話しかけると、クローヴンは廊下の椅子に腰掛けて隣に座るように手ぶりしてきた。
「喋れよ。」
俺がそう言いながら腰掛けると、クローヴンは椅子に座ったまま壁をじっと見つめて話しだした。
「俺さ、とある学校の生徒なんだけどさ。明日卒業でさ。その為に試験があるんだよ。」
「卒業試験。筆記か?」
「それもある。筆記と実技。筆記は今までの技術や使い方の応用のまとめとそれを口頭で話す試験。実技はそれらを使った戦い。」
「戦い? クローヴンお前どんな学校に。」
「学校の詳細は言わない。」
俺の質問をクローヴンは遮る。
「じゃあ何で唐突にお前の学校の話を持ち出してきたんだよ。」
「ワンチャン明日で終わりだろ? 次いつ会えるかもわからねえからとりあえず俺のことを少し話したのさ。あと、明日そんな夜まで待つ必要ねえよ。夕方の遅くても16時には終わる。」
クローヴンはそう言いながら立ち上がって、自室に戻る直前で俺の方を見る。
「フレア。お前にとっての大事なものって何だ?」
「主。」
「...そうか。いやなに、昔の恩師にな大事なものがある生き物は強いぞなんて言われたからさ。訊いてみただけだ。」
「何だ? あいつ。」
いつもと卒業試験の前日だからか、様子が違うクローヴンの相手をした後、早朝にクローヴンとは別れ、初めて2人でユーフォリアを回った。そうしているとあっという間に時間は過ぎてもう15時40分になった。
「あと20分私が待ってるから馬車の予約お願い。」
「任せろ。」
そうやって馬車の予約手続きを済ませて、馬車の用意が完了。それまででもう16時になった。
「...。」
「...。」
クローヴンは来なかった。
「行きますか。」
「いや、夜まで待つ。」
「そう言うと思ってたんで馬車が来る時間は8時にしてましたよ。」
「ナイス!!!」
俺の予想通りごねた主の言うことを予測して馬車の予約を取った。そうして、17時、18時、19時、20時と時間が経っていく中で、クローヴンは姿を見せなかった。
「行きましょう。流石にこれ以上は待てないっす。」
「...そっかぁ~。残念だな。雇いたかった。」
「奴隷として?」
「意地悪だなぁ~。対等な関係としてだよ!」
俺の背中を叩きながら馬車に乗り、そのまま何のトラブルに巻き込まれることなくバルジェリア皇国に到着した。
「行く時より帰る時の方が何かスムーズだったね。」
「あんなの珍しいだろうからな。」
俺からするとあの1回しかトラブルらしいトラブルが起こっていないから行きも帰りもそう変わってないように感じるがまぁ合わせておこう。そうして馬車がユーフォリアに帰るところを見届けてバルジェリア皇国の門を通る瞬間にまた霧が俺を包み込んだ。うぜぇ。だが今度は見慣れた屋敷のキッチンルーム。
「ん?」
「フレア。5年ぶりにユーフォリアに行くよ。」
「は? 5年?」
その言葉に首を傾げながら主の方を見ると、すげえ気合の入った服を着てる。
「どうしたのフレア?」
「え?」
そうだ。あの後、悔しかった主と一緒に服を買って。次会うなら5年後。なんて意味の分からねえこと言われてやっと5年経ったから今日久々にユーフォリアにまた旅行に行くことになったんだ。何で忘れてたんだ?
「いや、何でもない。行きましょう。」
「...? うん!」
そうして、また同じような馬車に乗り、今度はトラブルなくユーフォリアに到着した。主はルンルンで移動しながら、5年前と同じようにユーフォリアを回った。俺も主と回りながらクローヴンの名前と特徴を言って町の人に尋ねてみた。だが、誰も知らないの一点張りばっかでロクな情報を掴めなかった。
「どう? クローヴン探し。順調?」
「いえ。全く見つかる気配がないっすね。」
「そっかぁ~。今回はそんな長居できないから早めに会いたかったのに。」
「そうっすね。月を追うごとに、あの国の奴隷の扱いも酷くなってきててもう人間扱いされてないんで、懐かしい奴に会いたいって思ったんですが。これじゃ無理そうっすね。」
「ねぇ~。子供が酷いんだっけ?」
「あぁ。一般人は最悪道具ですが、子供は自我を持った玩具扱いだ。遊びで頭を金づちで殴られる光景を何度見た事か。」
そんな話をしてたら、主も俺も気分が悪くなってきた。またクローヴン探しを再開してそれでも無理だったら諦めることにした。そうして、しばらく訊いていると、歓楽街でその名前知ってるという声が上がった。
「詳しく頼む。」
俺がそう言うと、男はクローヴンがよく行ってたところ、名前をよく聞いたところの場所を教えてくれた。そうすると、ユーフォリア内にある少し壁を隔てた頭幸街という場所にどうやらいるかもしれない。俺と主はその頭幸街を国の人に訊きながら、到着した。
「何か雰囲気あるね。」
「そうだな。」
同じ国にあるとは到底思えないほどの暗い雰囲気に気圧されながらも俺達は頭幸街に足を踏み入れる。
「...。」
「...。」
中は明るいが少し暗く、街というだけの建物の数はあるが人気が無い。異常なほどに、そして奥に学校のような建物が見える。あれは学校なのか? それにしては異様すぎる。見た目じゃない漂う雰囲気が、人気はないが気配はする。明るいが暗い。とても同じ国とは思えないが、同じ国であるユーフォリアらしさのようなものも感じる。矛盾のする気持ちがこうも感じるのを目にするのも珍しい。
「学校...。行きましょう。」
俺はそう言って主の手を引いて、学校に向かう。四方八方から見られてる感覚がする。いつから幽霊の都に来たんだ? そんな事を思いながら学校の校庭? に到着した。
「何これ?」
「何だ? これは...。」
目の前に広がる光景は文字の掠れた看板と恐らく校庭だったものだ。だが断言できない。だって...目の前にあるのは校庭みたいな広い砂原じゃなく。大量の墓だからだ。
「あなたも墓参りですか?」
その光景に唖然としてると、白いスーツを着た青髪の男がそう訊いてきた。
「ああ。一応な。」
「そうですか。ではまた。」
「...何だあいつ?」
俺の答えに覇気のない返事をしたあと、男は立ち去った。俺は男が来た方向を見る。しっかりと花が添えられてる。俺はその隣の墓に目を向けた。
「は?」
「どうしたの?」
口からこぼれた声に主は首を傾げながら見てる方向を見る。そうして、ここで事実を知った。あの日、来なかった理由を知った。あいつのクローヴン・ドーンの墓があった。再度掠れた文字を看板をみる。最初に見たとき、何もわからなかったが今ならわかる。
「暗殺教育学校...。廃校時の卒業試験不合格者。総勢...約5000人。」
「5千...!」
「だから詳細を言わなかったのか。お前...。チッ...。」
「フレア?」
俺の舌打ちに主は心配そうに名前を呼ぶ。
「何なんだよ...。またかよ。何だ? 俺には何か呪いでもかかってんのか? 一族を皆殺しだの。暴走した被検体の駆除だの。暴れる奴隷の駆除だの。直接じゃなかったが今度は友人が死んだぞ? 俺の人生死多すぎじゃねえか?」
無性にイライラする。あの日、気になったのに追わなかった俺にも結局消えてムカついてる俺にも無性にムカつく。だが、当たってもしょうがねえ。消えたものは帰ってこねえ。
「クローヴンは見つけた。帰ろうぜ。」
「...待って。」
「ん?」
「何もないけど墓参りしよ。」
「意味あるのか?」
「意味とかじゃない...。自分を納得させるため、受け入れるため、命の分を背負うため、たったそれだけ。でもこれが重要なんだよ。」
「なるほどねぇ。」
その言葉を訊いて俺も一緒に墓参りした。そうやってユーフォリアを後にする。って思ったらまた霧がかる。
「何だよ?」
うんざりしたような感じで言いながら次に目にした光景は無駄に高価そうな服を身に纏った男と主が言い合ってるところだった。
「女の奴隷は王に献上するという決まりができたんだ。いないのならお前の体を差し出せ。」
「なぜです? 私は純粋な四方匡の人間ではありませんが、立場はあなた方とそう変わらないはずです。そんな勝手を今の王が許したのですか?」
「そうだ。王の決定だ。女の奴隷がいないのならば今すぐに女の奴隷を買って献上するか、自身の体を売れと。月に1回で許してやる。」
「...勝手すぎます。それでは四方匡の人間ですら奴隷になっているではありませんか。第一奴隷商は私に中々奴隷を売ってくれませんでしたよ? これでは私を陥れるための決定にしか...。」
主が意見しようとした瞬間、一番近くにいる男が剣の切っ先を喉元に向ける。
「!?」
「黙れ。これは決定だ。実際貴様は奴隷を密かに助けているという疑いがある。裏切りは四方匡の法では大罪だ。」
「でも、まだ疑いの範疇《はんちゅう》なのでしょう? ではこれは不当です。」
「いいや。王がこの決定を下し、お前の名前を挙げたのだ。不当でも何でもない...。」
「そんな事...。」
「下ろせ...。」
俺は切っ先をずっと向け続けて脅している男を威圧するように命令する。そしたら男は俺が奴隷だとわかるなり、見下したような態度を取る。
「奴隷の分際でこの私に意見するというのか? 身の程を弁えろ!!」
「ルシウス氏。奴隷の教育が成っていないようですね。我々に歯向かうとは。」
「別に我々でも貴様の首輪を爆破することはできるのだぞ?」
「止めてください。私の奴隷です。勝手な真似は...。」
口を挟もうとする主に男は有無を言わさず喉元を刺そうとしたところを止める。
「!」
「その手を放せ奴隷。」
「剣を下ろせっつったんだよ。しっかりと言わねえとわからねえほどの馬鹿なのか? まともに喋れてそんなこともわからねえんだったら母親の子宮から出直してこい。」
「いっ...!? すいません...。この子気が立っちゃってて...。」
主が言葉を発しようとした瞬間に背後から別の男に斬られ、その場に倒れこむ。
「主!!」
「大丈夫...! 昔斬られたことあるし...。」
「奴隷を庇うとは...主人としての自覚が足りないな。奴隷は道具であり玩具だ。命持つものではない。」
「は?」
その言葉で俺の中の何かが切れたような音がした。俺は主の傷口を熱で皮膚を溶かすことで防ぎ止血する。
「ありがと...痛かったけど...。」
主の感謝の言葉が聞こえるが、俺は無視して切った男をジッと見つめる。
「何だ? 奴隷。文句があるのか?」
「主を斬られて文句がねえとでも思ってんのか? それとも、自分らの奴隷を怒ってくれないって自覚してんのか? まぁどっちでもいいや。何だ? 今の王がその決定下したんだってなぁ? 俺は究極この国がどうなろうと知ったこっちゃねえんだよ。主に手を出されたらその元凶も実行した奴も殺す。」
「殺すだと? 貴様何を...。」
切っ先を向けていた男の顔面を掴んでその場で焼き殺した。
「なっ...。」
「あと5人。」
「奴隷の分際で何をしたかわかっているのか!!」
「殺したんだよ。奴隷になる前もそうやって生きてた。この際たかだか6人ぐらい殺そうが、王を殺そうが何も変わらねえんだよ。」
俺はそう言いながら主を斬った男を熱波で跡形もなく溶かす。
「化け物めぇ!!」
俺はそうやって残った4人を次々と殺す。1人は頭を掴んで潰し、1人は胴体をぶち抜き、1人は腹から爆破し、1人は燃やして灰にした。
「フレア...。」
「ゴミみてえな決定を下した王を殺しに行ってきます。」
「冷静になって...。今のこの国の王を殺しても、奴隷は解放されない...。」
俺は主の言葉を聞き終わる前に飛び立ち、王のいる城に突っ込んだ。
「!?」
「てめえか。私利私欲にまみれたクズ野郎は。」
「誰だ貴様!! 騎士を呼べ!! ナイトメアを呼べ!!!」
動揺する王に俺は拳から火を噴射させて勢いよく殴りかかる。
ガンッ
かてえ音がする。明らか殴った音じゃねえ、防がれた音だ。
「あ゛?」
「...。」
俺が睨みながらその相手を見る。
「ナイトメア・クライン。王の決定に背き、この国を地獄に突き落とした張本人...。本物の王は裏切ったのに、偽物の王には守るのか? その忠誠心はどっから来るんだ?」
「貴様には関係ないだろう。国王陛下。別室に避難をお願いします。」
「私に動けというのか!!」
「この男を前にして、守りながら戦うのは無理です。」
ナイトメアにそう言われた王は黙って玉座の間から出ていく。
「邪魔だよ。」
「仕事だ。あれでも守らねばならない。」
ナイトメアの言葉を聞き終わる前に俺は、高熱化した拳で殴りかかる。
「熱拳。」
「斬。」
ナイトメアの剣と俺の拳が激突する度に耳に来る金属音と爆発音が轟く。
「業火掌!!」
「瞬光剣!!」
俺は片方の拳に燃え盛る黄色い炎を溜めて殴りかかり、ナイトメアは凄まじい速さで斬りかかってくる。互いの攻撃がぶつかり合う瞬間...
「!?」
他の騎士共に俺は押さえつけられた。
「離せ。」
「すまねえな。これ仕事なんだよ。」
「...。」
「よくやったぞ貴様ら。」
俺が戦闘できない状態になったと感じた王は自慢気に俺を押さえつけた騎士とナイトメアを褒める。その間、無言で俺を見つめていたナイトメアは王に目を向けて進言する。
「さきほど決めた決まりはやはり取り消すべきです。」
「何を言うか。」
「また彼が襲ってきますよ。」
「ここで殺すのだから襲えるわけなかろう。」
「今の状態の彼を殺せば、恐らくそのまま自爆されこの国丸ごと吹っ飛ぶでしょう。我々だけ全力で逃げても恐らく間に合いません。」
「脅しているのか? 貴様。」
「いえ。しかし、1つ言っておくことがあるとすれば、あなたはあくまで四方匡の王からの命令でここに来たのにも関わらず、私利私欲に溺れた決まり制定したことがバレた場合。ただじゃすまないということです。遠まわしに言って申し訳ありません。」
「ぐっ...。」
ナイトメアはそう言って王を黙らせた後、俺に目を向けて剣を鞘に納める。
「...。今は逃がす。いずれ決着をつけるために...。」
ナイトメアにそう言われた後、また目の前が霧がかる。やっと霧の正体が掴めた。これは俺の夢だ。夢の中で俺が印象に残っている過去が回帰されてる。だがあくまでファーラの奴隷になった後の事ばっかだ。一族の事も、あの実験場の事も、ファーラの奴隷になる前の事もなかった。一体何を表すのか俺には皆目見当もつかねえ。そろそろ霧が晴れる。やけに今回は長かったな。
「...。」
屋敷だ。昏倒させられた後に、ファーラが迎えに来て一緒に帰ってきた直後か。
「フレア。ご飯作ってぇ~。お腹空いちゃって空いちゃって腹ペコよ。」
「主。」
「ん?」
「悪かったな。」
「え?」
この日、ナイトメアに負けた日から、俺は完全に燃え尽きた。奴隷がどんな扱われ方をされていても、その主人が理不尽な態度を取っても、騎士がまともに機能してねえことにもムカつかなくなった。どうでもよくなった。良くも悪くも俺の人生だもんな。他人がどうなろうと知ったこっちゃねえし。どう見られようと関係ねえ。変わる事のねえ国を俺が死に物狂い変える義理はねえ。俺は今の大事なものを守ればいい。それが俺の今のやりたいこと。
夢からの目覚め
フレアは目を覚まし、ベッドから起き上がると部屋を覗くようにチラッとファーラが顔を出していた。
「何だよ?」
「何の夢見てたのぉ~?」
「...さぁな。」
ファーラの問いに少し考えた後に、適当に答え。部屋を後にした。
「ん?」
そうして馬車の方に目を向ける。そしたら恐竜がすげえこっち追いかけてきてる。
「起きたかあんたぁ。お互いとんでもねえ馬車に乗り合わせちまったな。」
目の前にいる黒髪で三つ編みの男がそう言った。そうだ、主が旅行に行く時、馬車に乗って行きたいって言ったから予約して馬車に乗ろうとしたとき、この男が乗せてくれと頼んできたんだ。
「俺の主人はどこ行ったんだ?」
「主人って...あぁ。あの綺麗なお姉さんの事か?」
「綺麗...そうだな。」
主の顔を思い浮かべながら頷く。そうしたらそいつ馬車の運転席を指差す。
「だったら、今運転してるよ。」
「は? 運転手は?」
「プテラに捕まれてそんまま喰われた。」
「助けなかったのかよ。」
「無理無理。気づいた頃には喰われてる最中だった。手遅れってやつだよ。」
金を払わなくて得したのか、死んでしまったことに嘆くべきなのか。
「どうしたんだよ?」
俺はため息を吐きながら立ち上がり恐竜の方に歩く。
「このまま逃げてもいずれ追いつかれるだろうが。助かっても馬車が壊れりゃ足が無くなる。このアホ共をぶっとばしゃ良いだけだ。」
「そりゃそうだが。お前そんな勝手許されるのか? 後で大目玉くらうぞ。」
その言葉に俺は奴の方を見て、適当な言葉を言う。
「大事な大事なご主人様の為を想って戦うことの何が悪いんです?」
「心こもってねえなぁ...。...よし、俺も付き合うぜ。」
そいつはそう言って、短剣2本取り出して両方とも逆手に持つ。
「何でだよ?」
「暇だからだよ。あんた名前は? 俺はクローヴン・ドーン。」
「フレア・アステラ。」
「じゃあフレアだな。よろ。俺のことはクローヴンって呼んでくれていいからな。」
「訊いてねえよ。」
俺の返答にクローヴンは笑いながら馬車から出ようとしてやがる。
「1人だったら動かなかったくせにやけに喋るじゃねえかよ?」
「1人だったら死ぬかもしれないだろ? 俺にはやることがあるんだ。そんなホイホイ命かけられねえよ。」
「のくせ暇だから戦うのか? 訳わかんねえな。」
俺は拳の熱を上げる。
「主!! 今から目の前のアホ共をぶっ飛ばす!!」
「え!?」
何か驚いた声が聞こえたがまぁ無視だ。クローヴンは一足先に馬車から飛び降りてる。俺もそれに続いて飛び降りて着地する瞬間に足から炎を出す。
「おぉ!?」
勢いよく一番でけえアホの恐竜の頭を掴んで、そのまま後ろの地面に叩きつける。その瞬間に掴んだ手の平を爆破させる。
「とんでもねえ...。何で奴隷やってんだ? いや...奴隷でよかったのか。」
「聞こえてんぞ。てめぇ。」
綺麗に吹っ飛んだ恐竜の頭を横目にクローヴンに話しかけたらプテラがクローヴンに向かって行った。
「悪い悪い! つい!」
「...。」
短剣でやる芸当じゃねえ...。そんなこと思ってたらまた角の生えた恐竜が突進してくる。俺はその角を両手で掴んで、へし折り頭突きで吹っ飛ばす。
「おぉ~戦い方派手だね。」
「お前のそれ、短剣でやる芸当じゃねえだろ。」
「まぁまぁ極めたらこんなもんよ。」
俺の言葉をクローヴンは軽く流して馬車に戻る。
「主!! あんたは馬車の客席に乗ってろ。後は俺が運転するから。」
「疲れてたんじゃないの?」
「あんたより疲れてねえよ。」
主の言葉に俺はそう返して、手綱を持つ。主が客席に乗ったのを見たら馬車を走らせる。そしたら目の前に急に霧が現れ、そこを真っ直ぐ抜けると、目的地があった。
「ん?」
「やっと着いたねぇ~。」
「ほんとっすよ。トラブルありすぎ。」
俺が首を傾げると、何事もなかったように主とクローヴンが話してる。
「トラブルありすぎ...? すぐ着いたろ?」
違和感がありながらも、そのまま目的地に入っていき、馬車の事情を話した後に、入国した。途中でクローヴンが先に入ると思っていたが、そのまま奴はついてくることになった。何で?
「お前はお前で何で俺達と行動するんだよ。」
「俺の予定はもうちょっと先だからな。それまで、この国を改めて目に焼き付けておくのさ。」
「改めて? 昔来たことあんのか?」
周りの景色に夢中になっている主を横目に、俺はクローヴンと話す。その中で感じた違和感に首を傾げると、クローヴンも首を傾げて答える。
「ん? 俺この国出身だぜ? 馬車で話したろ。ねぇ。」
クローヴンが主に同意を求めるように訊くと、主は頷いた後
「でも返事なかったから運転中でよく聞こえなかったんじゃない?」
と答えると、クローヴンは納得した様に何度も頷いて、この国で一番高い塔を指差す。
「生まれは違うが、俺はここユーフォリアで育ったんだ。そしてあの雲を刺すほど高い塔がこの国のシンボル。あの塔のおかげでどんな人間でもこのユーフォリアに来れるようになったんだ。」
「それって大丈夫なのか?」
「もちろん。この国にもある程度の戦力は存在する。でも、俺が生まれてくるちょっと前に国家戦力を失ったから滅茶苦茶安心できる国かと言われると自信ねえな。」
「大丈夫じゃねえじゃねえか。何がもちろんだ。」
自信満々の声色からどんどん自信が無くなっていき、最終的には開き直った答え方をしたこいつに、少し呆れた。
「フレア!! 着いたよ温! 泉!! 街!!!」
そんなこんなしてると、思いの外早く温泉街に到着した。主のテンションは少しうるせえが。そうしてクローヴンも当たり前のように温泉街に行く。
「温泉入ってから飯食おうぜ。」
「何でお前ついてくること前提なの?」
「まぁいいじゃん昨日の敵は今日の友っていうし。」
「一度も敵対してないし、友っていうほど距離感近くねえんだよ。」
ツッコミを入れる俺を尻目に2人は楽しそうに温泉街に入っていく。マジでクローヴン旅行中ずっと一緒なのか? なんて思いながら温泉街の温泉に浸かり、途中で主がのぼせて助けてもらった人にお礼を言ったり少し散々だったがまぁ楽しかった。
「いやぁ、ファーラさんがのぼせた時はどうなるかと思いましたけど。意外と大丈夫でしたね。」
「ほんとごめんなさい。久々に人に迷惑かけたわぁ~。」
相変わらずクローヴンはずっとついてくる。だがまぁ、主と仲良さそうだからいいかと放っておいた。それか5日くらい俺達はユーフォリアに滞在した。その間もクローヴンと一緒だったが、その中で俺もクローヴンとよく話すようになり、2人で主の世話もするようになった。
「クローヴンうち来ない?」
「こっちでのやることをきっちり終わらせたら、雇ってもらっても構わないっすよ。」
「そのやることっていつ終わるの?」
「多分明日の夕方くらいには終わるかな。」
「じゃあよるまで待ってるから終わったら来てね。来なかったら断られたで次の旅行で会いに来るから。」
「おっ? マジすか! その約束忘れないでくださいねぇ~。」
クロ―ヴンも主もすげえ仲良くなったなと思いつつ今日は初めて3人で同室で飯を食った。その後、また霧が目の前に現れて俺を飲み込んだ。そうしたら次の光景は深夜の廊下でクローヴンが立って何か言っているところだった。
「1人で何やってんだ?」
俺がそう話しかけると、クローヴンは廊下の椅子に腰掛けて隣に座るように手ぶりしてきた。
「喋れよ。」
俺がそう言いながら腰掛けると、クローヴンは椅子に座ったまま壁をじっと見つめて話しだした。
「俺さ、とある学校の生徒なんだけどさ。明日卒業でさ。その為に試験があるんだよ。」
「卒業試験。筆記か?」
「それもある。筆記と実技。筆記は今までの技術や使い方の応用のまとめとそれを口頭で話す試験。実技はそれらを使った戦い。」
「戦い? クローヴンお前どんな学校に。」
「学校の詳細は言わない。」
俺の質問をクローヴンは遮る。
「じゃあ何で唐突にお前の学校の話を持ち出してきたんだよ。」
「ワンチャン明日で終わりだろ? 次いつ会えるかもわからねえからとりあえず俺のことを少し話したのさ。あと、明日そんな夜まで待つ必要ねえよ。夕方の遅くても16時には終わる。」
クローヴンはそう言いながら立ち上がって、自室に戻る直前で俺の方を見る。
「フレア。お前にとっての大事なものって何だ?」
「主。」
「...そうか。いやなに、昔の恩師にな大事なものがある生き物は強いぞなんて言われたからさ。訊いてみただけだ。」
「何だ? あいつ。」
いつもと卒業試験の前日だからか、様子が違うクローヴンの相手をした後、早朝にクローヴンとは別れ、初めて2人でユーフォリアを回った。そうしているとあっという間に時間は過ぎてもう15時40分になった。
「あと20分私が待ってるから馬車の予約お願い。」
「任せろ。」
そうやって馬車の予約手続きを済ませて、馬車の用意が完了。それまででもう16時になった。
「...。」
「...。」
クローヴンは来なかった。
「行きますか。」
「いや、夜まで待つ。」
「そう言うと思ってたんで馬車が来る時間は8時にしてましたよ。」
「ナイス!!!」
俺の予想通りごねた主の言うことを予測して馬車の予約を取った。そうして、17時、18時、19時、20時と時間が経っていく中で、クローヴンは姿を見せなかった。
「行きましょう。流石にこれ以上は待てないっす。」
「...そっかぁ~。残念だな。雇いたかった。」
「奴隷として?」
「意地悪だなぁ~。対等な関係としてだよ!」
俺の背中を叩きながら馬車に乗り、そのまま何のトラブルに巻き込まれることなくバルジェリア皇国に到着した。
「行く時より帰る時の方が何かスムーズだったね。」
「あんなの珍しいだろうからな。」
俺からするとあの1回しかトラブルらしいトラブルが起こっていないから行きも帰りもそう変わってないように感じるがまぁ合わせておこう。そうして馬車がユーフォリアに帰るところを見届けてバルジェリア皇国の門を通る瞬間にまた霧が俺を包み込んだ。うぜぇ。だが今度は見慣れた屋敷のキッチンルーム。
「ん?」
「フレア。5年ぶりにユーフォリアに行くよ。」
「は? 5年?」
その言葉に首を傾げながら主の方を見ると、すげえ気合の入った服を着てる。
「どうしたのフレア?」
「え?」
そうだ。あの後、悔しかった主と一緒に服を買って。次会うなら5年後。なんて意味の分からねえこと言われてやっと5年経ったから今日久々にユーフォリアにまた旅行に行くことになったんだ。何で忘れてたんだ?
「いや、何でもない。行きましょう。」
「...? うん!」
そうして、また同じような馬車に乗り、今度はトラブルなくユーフォリアに到着した。主はルンルンで移動しながら、5年前と同じようにユーフォリアを回った。俺も主と回りながらクローヴンの名前と特徴を言って町の人に尋ねてみた。だが、誰も知らないの一点張りばっかでロクな情報を掴めなかった。
「どう? クローヴン探し。順調?」
「いえ。全く見つかる気配がないっすね。」
「そっかぁ~。今回はそんな長居できないから早めに会いたかったのに。」
「そうっすね。月を追うごとに、あの国の奴隷の扱いも酷くなってきててもう人間扱いされてないんで、懐かしい奴に会いたいって思ったんですが。これじゃ無理そうっすね。」
「ねぇ~。子供が酷いんだっけ?」
「あぁ。一般人は最悪道具ですが、子供は自我を持った玩具扱いだ。遊びで頭を金づちで殴られる光景を何度見た事か。」
そんな話をしてたら、主も俺も気分が悪くなってきた。またクローヴン探しを再開してそれでも無理だったら諦めることにした。そうして、しばらく訊いていると、歓楽街でその名前知ってるという声が上がった。
「詳しく頼む。」
俺がそう言うと、男はクローヴンがよく行ってたところ、名前をよく聞いたところの場所を教えてくれた。そうすると、ユーフォリア内にある少し壁を隔てた頭幸街という場所にどうやらいるかもしれない。俺と主はその頭幸街を国の人に訊きながら、到着した。
「何か雰囲気あるね。」
「そうだな。」
同じ国にあるとは到底思えないほどの暗い雰囲気に気圧されながらも俺達は頭幸街に足を踏み入れる。
「...。」
「...。」
中は明るいが少し暗く、街というだけの建物の数はあるが人気が無い。異常なほどに、そして奥に学校のような建物が見える。あれは学校なのか? それにしては異様すぎる。見た目じゃない漂う雰囲気が、人気はないが気配はする。明るいが暗い。とても同じ国とは思えないが、同じ国であるユーフォリアらしさのようなものも感じる。矛盾のする気持ちがこうも感じるのを目にするのも珍しい。
「学校...。行きましょう。」
俺はそう言って主の手を引いて、学校に向かう。四方八方から見られてる感覚がする。いつから幽霊の都に来たんだ? そんな事を思いながら学校の校庭? に到着した。
「何これ?」
「何だ? これは...。」
目の前に広がる光景は文字の掠れた看板と恐らく校庭だったものだ。だが断言できない。だって...目の前にあるのは校庭みたいな広い砂原じゃなく。大量の墓だからだ。
「あなたも墓参りですか?」
その光景に唖然としてると、白いスーツを着た青髪の男がそう訊いてきた。
「ああ。一応な。」
「そうですか。ではまた。」
「...何だあいつ?」
俺の答えに覇気のない返事をしたあと、男は立ち去った。俺は男が来た方向を見る。しっかりと花が添えられてる。俺はその隣の墓に目を向けた。
「は?」
「どうしたの?」
口からこぼれた声に主は首を傾げながら見てる方向を見る。そうして、ここで事実を知った。あの日、来なかった理由を知った。あいつのクローヴン・ドーンの墓があった。再度掠れた文字を看板をみる。最初に見たとき、何もわからなかったが今ならわかる。
「暗殺教育学校...。廃校時の卒業試験不合格者。総勢...約5000人。」
「5千...!」
「だから詳細を言わなかったのか。お前...。チッ...。」
「フレア?」
俺の舌打ちに主は心配そうに名前を呼ぶ。
「何なんだよ...。またかよ。何だ? 俺には何か呪いでもかかってんのか? 一族を皆殺しだの。暴走した被検体の駆除だの。暴れる奴隷の駆除だの。直接じゃなかったが今度は友人が死んだぞ? 俺の人生死多すぎじゃねえか?」
無性にイライラする。あの日、気になったのに追わなかった俺にも結局消えてムカついてる俺にも無性にムカつく。だが、当たってもしょうがねえ。消えたものは帰ってこねえ。
「クローヴンは見つけた。帰ろうぜ。」
「...待って。」
「ん?」
「何もないけど墓参りしよ。」
「意味あるのか?」
「意味とかじゃない...。自分を納得させるため、受け入れるため、命の分を背負うため、たったそれだけ。でもこれが重要なんだよ。」
「なるほどねぇ。」
その言葉を訊いて俺も一緒に墓参りした。そうやってユーフォリアを後にする。って思ったらまた霧がかる。
「何だよ?」
うんざりしたような感じで言いながら次に目にした光景は無駄に高価そうな服を身に纏った男と主が言い合ってるところだった。
「女の奴隷は王に献上するという決まりができたんだ。いないのならお前の体を差し出せ。」
「なぜです? 私は純粋な四方匡の人間ではありませんが、立場はあなた方とそう変わらないはずです。そんな勝手を今の王が許したのですか?」
「そうだ。王の決定だ。女の奴隷がいないのならば今すぐに女の奴隷を買って献上するか、自身の体を売れと。月に1回で許してやる。」
「...勝手すぎます。それでは四方匡の人間ですら奴隷になっているではありませんか。第一奴隷商は私に中々奴隷を売ってくれませんでしたよ? これでは私を陥れるための決定にしか...。」
主が意見しようとした瞬間、一番近くにいる男が剣の切っ先を喉元に向ける。
「!?」
「黙れ。これは決定だ。実際貴様は奴隷を密かに助けているという疑いがある。裏切りは四方匡の法では大罪だ。」
「でも、まだ疑いの範疇《はんちゅう》なのでしょう? ではこれは不当です。」
「いいや。王がこの決定を下し、お前の名前を挙げたのだ。不当でも何でもない...。」
「そんな事...。」
「下ろせ...。」
俺は切っ先をずっと向け続けて脅している男を威圧するように命令する。そしたら男は俺が奴隷だとわかるなり、見下したような態度を取る。
「奴隷の分際でこの私に意見するというのか? 身の程を弁えろ!!」
「ルシウス氏。奴隷の教育が成っていないようですね。我々に歯向かうとは。」
「別に我々でも貴様の首輪を爆破することはできるのだぞ?」
「止めてください。私の奴隷です。勝手な真似は...。」
口を挟もうとする主に男は有無を言わさず喉元を刺そうとしたところを止める。
「!」
「その手を放せ奴隷。」
「剣を下ろせっつったんだよ。しっかりと言わねえとわからねえほどの馬鹿なのか? まともに喋れてそんなこともわからねえんだったら母親の子宮から出直してこい。」
「いっ...!? すいません...。この子気が立っちゃってて...。」
主が言葉を発しようとした瞬間に背後から別の男に斬られ、その場に倒れこむ。
「主!!」
「大丈夫...! 昔斬られたことあるし...。」
「奴隷を庇うとは...主人としての自覚が足りないな。奴隷は道具であり玩具だ。命持つものではない。」
「は?」
その言葉で俺の中の何かが切れたような音がした。俺は主の傷口を熱で皮膚を溶かすことで防ぎ止血する。
「ありがと...痛かったけど...。」
主の感謝の言葉が聞こえるが、俺は無視して切った男をジッと見つめる。
「何だ? 奴隷。文句があるのか?」
「主を斬られて文句がねえとでも思ってんのか? それとも、自分らの奴隷を怒ってくれないって自覚してんのか? まぁどっちでもいいや。何だ? 今の王がその決定下したんだってなぁ? 俺は究極この国がどうなろうと知ったこっちゃねえんだよ。主に手を出されたらその元凶も実行した奴も殺す。」
「殺すだと? 貴様何を...。」
切っ先を向けていた男の顔面を掴んでその場で焼き殺した。
「なっ...。」
「あと5人。」
「奴隷の分際で何をしたかわかっているのか!!」
「殺したんだよ。奴隷になる前もそうやって生きてた。この際たかだか6人ぐらい殺そうが、王を殺そうが何も変わらねえんだよ。」
俺はそう言いながら主を斬った男を熱波で跡形もなく溶かす。
「化け物めぇ!!」
俺はそうやって残った4人を次々と殺す。1人は頭を掴んで潰し、1人は胴体をぶち抜き、1人は腹から爆破し、1人は燃やして灰にした。
「フレア...。」
「ゴミみてえな決定を下した王を殺しに行ってきます。」
「冷静になって...。今のこの国の王を殺しても、奴隷は解放されない...。」
俺は主の言葉を聞き終わる前に飛び立ち、王のいる城に突っ込んだ。
「!?」
「てめえか。私利私欲にまみれたクズ野郎は。」
「誰だ貴様!! 騎士を呼べ!! ナイトメアを呼べ!!!」
動揺する王に俺は拳から火を噴射させて勢いよく殴りかかる。
ガンッ
かてえ音がする。明らか殴った音じゃねえ、防がれた音だ。
「あ゛?」
「...。」
俺が睨みながらその相手を見る。
「ナイトメア・クライン。王の決定に背き、この国を地獄に突き落とした張本人...。本物の王は裏切ったのに、偽物の王には守るのか? その忠誠心はどっから来るんだ?」
「貴様には関係ないだろう。国王陛下。別室に避難をお願いします。」
「私に動けというのか!!」
「この男を前にして、守りながら戦うのは無理です。」
ナイトメアにそう言われた王は黙って玉座の間から出ていく。
「邪魔だよ。」
「仕事だ。あれでも守らねばならない。」
ナイトメアの言葉を聞き終わる前に俺は、高熱化した拳で殴りかかる。
「熱拳。」
「斬。」
ナイトメアの剣と俺の拳が激突する度に耳に来る金属音と爆発音が轟く。
「業火掌!!」
「瞬光剣!!」
俺は片方の拳に燃え盛る黄色い炎を溜めて殴りかかり、ナイトメアは凄まじい速さで斬りかかってくる。互いの攻撃がぶつかり合う瞬間...
「!?」
他の騎士共に俺は押さえつけられた。
「離せ。」
「すまねえな。これ仕事なんだよ。」
「...。」
「よくやったぞ貴様ら。」
俺が戦闘できない状態になったと感じた王は自慢気に俺を押さえつけた騎士とナイトメアを褒める。その間、無言で俺を見つめていたナイトメアは王に目を向けて進言する。
「さきほど決めた決まりはやはり取り消すべきです。」
「何を言うか。」
「また彼が襲ってきますよ。」
「ここで殺すのだから襲えるわけなかろう。」
「今の状態の彼を殺せば、恐らくそのまま自爆されこの国丸ごと吹っ飛ぶでしょう。我々だけ全力で逃げても恐らく間に合いません。」
「脅しているのか? 貴様。」
「いえ。しかし、1つ言っておくことがあるとすれば、あなたはあくまで四方匡の王からの命令でここに来たのにも関わらず、私利私欲に溺れた決まり制定したことがバレた場合。ただじゃすまないということです。遠まわしに言って申し訳ありません。」
「ぐっ...。」
ナイトメアはそう言って王を黙らせた後、俺に目を向けて剣を鞘に納める。
「...。今は逃がす。いずれ決着をつけるために...。」
ナイトメアにそう言われた後、また目の前が霧がかる。やっと霧の正体が掴めた。これは俺の夢だ。夢の中で俺が印象に残っている過去が回帰されてる。だがあくまでファーラの奴隷になった後の事ばっかだ。一族の事も、あの実験場の事も、ファーラの奴隷になる前の事もなかった。一体何を表すのか俺には皆目見当もつかねえ。そろそろ霧が晴れる。やけに今回は長かったな。
「...。」
屋敷だ。昏倒させられた後に、ファーラが迎えに来て一緒に帰ってきた直後か。
「フレア。ご飯作ってぇ~。お腹空いちゃって空いちゃって腹ペコよ。」
「主。」
「ん?」
「悪かったな。」
「え?」
この日、ナイトメアに負けた日から、俺は完全に燃え尽きた。奴隷がどんな扱われ方をされていても、その主人が理不尽な態度を取っても、騎士がまともに機能してねえことにもムカつかなくなった。どうでもよくなった。良くも悪くも俺の人生だもんな。他人がどうなろうと知ったこっちゃねえし。どう見られようと関係ねえ。変わる事のねえ国を俺が死に物狂い変える義理はねえ。俺は今の大事なものを守ればいい。それが俺の今のやりたいこと。
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