Blood Spare of Secret : The story of Creeds

千導 翼『ZERO2005』

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第四章 バルジェリア皇国編

流れる水と冷え切った氷

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 バルジェリア皇国での戦いが終わり、数週間が経った。国は民と騎士が復興を始めながらも、どこかで対立が起こっている。新しく王座に就くはずだった王子は今のままでは王にふさわしくないとして、ロンバート・サニーズもとい、ネヴィア・フェシス・バルジェリアが一時的なバルジェリアの統治者として王座に就いた。ソフィア・ローアは第2騎士団と第4騎士団を束ねて民と共に国の復興を進める任に就き、ギアバシル・レインアズは第3騎士団を束ねて国を守る任に就き、ティルジェイ・ヴァランは第1騎士団をまとめて城を守護する任に就かされ、実質的にフェシス国王陛下とヴィクタ王子の近衛騎士となった。そして、ナイトメア・クラインは死刑にならないのならと自ら終身刑を望み、国の遥か地下にある独房に入ることになった。

 「本当に騎士として...戦えないのですか?」

 「私は...殿下に許されようと...現国王陛下に許されようと...奴隷にされた民がもし許そうと...他の騎士に望まれようと...私が...陛下の覚悟を踏み躙り、民を奴隷する選択を取った私自身を...許せないのです...。」

 「ナイトメア...。」

 「しかし...もしも...私がこの国の為に、もう1度剣を取れる日が来たならば......その時は...この心に...この身に誓いを立て...国の為に戦うと...。」

 「わかりました。陛下にも...そう伝えておきます...。」

 ナイトメアは感謝の意を示して独房に入っていく。それを王子は引き留めて手を差し出す。

 「?」

 「ナイトメアが...もう1度剣を取ってくれる時を待っています。」

 「...。」

 ナイトメアは差し出された手を強く握る。2人はそうして握手をしたのちに、ナイトメアは独房に入り、王子はその場を後にした。

 その一方、クリード達は王を奪還し、バルジェリア皇国を取り戻したことにより、報酬を貰い、戦いで受けた傷の治療を無料でしてもらえることになり、ある程度動いても問題ないところまで滞在することに決めた。

 「まさか誰1人犠牲なしで終結するとはな...。」

 クリードはそう言いながら、仲間の状態をバルジェリアで医学に精通している人から聞かされた。その内容はバンバは再生能力を使った反動が来て現在動けず、薫と光琳は動けるものの重傷。花仙は絶対安静で激しい運動を禁止。清雅は再生能力である程度治っているものの、重傷なことには変わりはないという状態というもの。青葉は大半再生はしているが体力の消耗が激しく十分な力を発揮できる状態ではない。

 「とりあえず出国の手続きは済ませた。明日この国から出国していよいよ3日後ユーフォリアに到着する。その際に、もし問題が起きた場合の臨時戦闘員は明日合流する青葉に頼む。護衛も兼ねてだ。それ以外は基本は俺が対応する。バンバと花仙は絶対安静で動くな。薫と光琳はある程度バンバと花仙の世話を頼む。清雅は問題が起きた場合の守りを頼む。だがまぁはっきり言って、俺と青葉以外は何もしなくてもいい。とりあえずユーフォリアの医療機関に到着するまでの辛抱だ。」

 「「はい!!」」

 薫と清雅が返事をする中、光琳はバンバの状態が心配でそれどころではなく、花仙とバンバは完全に眠っている。

 「まぁ何はともあれ今日はお前たち何もすることはないんだぐっすりと一日中眠っていろ。俺はバルジェリア皇国をしばらく見て回ることにする。」

 クリードはそう言って仲間たちと別れてつい数週間前までいがみ合い、戦っていた騎士と元奴隷の国民が国を復興させている。まだ対立しているところも見えるが、しっかりと手を取り合っている。それを横目に邪魔しないように歩いている。

 「未だにナイトメアが逃がした四方匡からの代理の王が見つかっていないから、どこか人目につかないところに沈められていると思ったが...ここまで探して見つからないとなると...奇跡的に国外逃亡したか...遺体が残らないように消されたか...。」

 そう言いながら人気のない場所を移動していると、違和感を感じる場所を見つけた。

 「...。微かだが...何か...違う...。」

 クリードは自身の感じる違和感を頼りに、最もそれを感じた場所を探す。そうして夕暮れ時になると、その場所を感じ取った。

 「...ここだ...。ここに微かに...血の匂いがする。...だが...血の匂いにしては...何とも...。? ここだけ...妙に肌寒い...。」

 すぐに立ち上がって振り向く。

 「誰も居る訳はない...。だが...妙な悪寒がするな...。」

 違和感を最も感じた場所を見る。

 「恐らくここに...代理の王の遺体があったんだろう...。いや...殺された場所というべきか...。一応騎士団に報告をしておこう。復興を碌に手伝わずに出国するのだからこれくらい、まぁいいだろう...。」

 クリードはその場を離れて近くにいたソフィア・ローアに報告し、戻ってきた。

 「ここだ。」

 「これは...。」

 「どうした?」

 ソフィアの反応にクリードが首を傾げると、ソフィアはここら一帯を見回して口を開く。

 「恐らくだけど...これは...ブリザ・アンヴィルヘムがあの王を殺した...。」

 「ブリザ・アンヴィルヘム...。白いスーツを着てた男で...お前を倒した男だな?」

 「あの時に答えた時も思ったけど...なんかえらく他人行儀ね? 仲間じゃないの?」

 クリードの反応に違和感を持ったソフィアがそう訊くと、クリードは首を横に振る。

 「一度共闘したことはあったが、仲間ではない...。」

 その答えに驚きながら考え込む。

 「じゃあなぜ私達騎士団の邪魔を...?」

 それを聞いてクリードもブリザの行動に違和感を持って考える。

 「アンヴィルヘムなら...この国の出身ではない...確かに...危険を冒してまでこの国で戦う義理はないはず...。」

 そうして、少しずつ思い出していく。

 「?」

 ―――自ら自分は中立だって言ってました。敵にもなるし、味方になるって...。

 「中立...。」

 ―――....親...殺し...。それは...惨いですね。

 「親殺し...アンヴィルヘム...。......シルヴァマジアの中央に降り注いだ隕石は全て凍って霧散させたあの影...。ソフィア・ローア。」

 「?」

 「ブリザ・アンヴィルヘムと戦闘をする前...何をしていた?」

 「あなたの仲間の若い女性2人を襲ってたわ。そこを守ったのよ彼は...。」

 「守った...薫と...光琳を...。(クルードフォーミアでも、シャインティアウーブでも、シルヴァマジアでも...このバルジェリア皇国でも...あいつは現れた...。あいつに仲間がいるという情報はない。だが...その場合、これら4つになぜ関わってきた? クルードフォーミアは船客ならば自分の身の為に戦うだろう...。しかし、シャインティアウーブやシルヴァマジアならば逃げることは可能だったはずだ...。それに...バルジェリアで戦う必要性なんてなかったはず...。奴は...俺たち何でも屋の戦いに絶対に関わってきている。なぜだ? 何でも屋に目的があるのか? 花仙はそもそもあいつの存在は知らない。バンバだって話で聞いただけだ。清雅も...あれを会ってるとは言えない。ならば...ブリザ・アンヴィルヘムを見ているのは、俺、薫、光琳の三人のみ...。俺はブリザと最初...。)」

 ―――いつの間に。

 「いつの間に? (あの状況で後ろに現れたなら、先に敵と思う方が普通じゃないか? その場合、誰だお前は!? と声を荒げてもいいはずだ...。いつの間に...? その後の会話もそうだ。妙にあっさりと会話が成立した。俺は...自身の素性を何も言っていないはず...味方だと思える情報なんざどこにも...。そもそも俺を知っているとしたら? 俺と薫や光琳とブリザ・アンヴィルヘムと会った時の状況の違いは...。俺から接触したか...あいつから接触したか...。あいつの目的...アンヴィルヘム...薫と光琳...。)」

 クリードは自分なりに答えを出した後に、様子を心配そうに見ていたソフィアに言う。

 「とりあえずは報告した。この後はそちらで収拾を任せる。」

 「何か答えでも出たの?」

 「そのようなものは出た。すまないが急ぐんでな。」

 クリードは走ってその場を離れる。ソフィアはその後ろ姿を見て、首を傾げながら遺体があったと思われる箇所を調べ始めた。

 同時刻、遥か上空で雲よりも高い場所でたたずむ影が1つ。青い髪に青い目、白い紳士服に身を包んだ目をつむっている。そうしてかつての出会いを回想する。

 ―――お前の望み...俺が叶えてやる。

 黒髪黒目。黒い服に身を包んだ男が彼にそう言った。

 「望み? できる訳ない...だって...もう...死んでるんだぞ...皆...。」

 当時の彼は絶望しきった声で男に言った。男はそれを聞いて、その屋敷の惨状を目の当たりにしながらも確かな声で言う。

 「蘇らせることは可能だ...。」

 その瞬間、彼はすがる思いで男を見る。

 「ただし2つ条件がある。」

 「条件?」

 彼は立ち上がって男の目を見る。

 「何だ?」

 「1つは深天極地の純血を1人でもいい。連れてこい。そうすれば...蘇らせてやる。」

 「2つ目は?」

 「2つ目は...。」

 回想を終え、彼はゆっくりと立ち上がり、下のバルジェリア皇国を見据える。

 「必ず...皆を...。ブリザ・〝アンヴィルヘム〟の名に懸けて...。」

 ブリザの体中から大量の冷気が放出される。

 「はぁぁぁぁぁぁぁ....。」

 冷気はバルジェリア皇国に降り注ぎ、覆いつくす。しかし...誰もその異変には気づかない。

 「3日だけ...眠ってもらうよ。氷河期アイスエイジ。」

 その瞬間、冷気が国を包み込み、人々のほとんどを凍らせた。その瞬間、ブリザは国の中心に降り立つ。夕暮れの太陽の光を反射する氷の国と化したバルジェリア皇国をゆっくりと歩く。

 「聖転騎士団も...この前の戦いで外の傷は治っていても...内側の傷や体力は完全には戻ってはいない...。僕の考えはどうやら当たりらしい。」

 ブリザはソフィア・ローアやギアバシル・レインアズの氷像を見つけてそう言った。

 「同じランクのはずなのに...僕にこんなに凍らされているのは...その証拠だ。気づいてる様子すらない。天敵であるフレア・アステラも、地下に幽閉されているナイトメア・クラインも...あの全力を出した後で、僕の技に耐えられる程回復はしていない。」

 ブリザはそう言いながら何でも屋がいる場所に真っ直ぐ向かう。

 「...!?」

 そうしていると、走りながら扉に手をかけるところで止まっているクリードの氷像を見つけた。

 「この表情...驚いたな...どうやら...僕の狙いに気付いたみたいだ...。」

 氷像を慎重にどかして中に入る。

 「...。」

 無言で薫と光琳の元に歩いていき、1人の襟を掴む。

 「!?」

 1人目覚めた薫はブリザの姿を見て驚愕する。

 「バンバさん!! クリードさん!! 光琳!!」

 咄嗟に叫ぶが、誰も反応しない。

 「皆...凍ってるよ。3日は動かない...。」

 「なっ...!?」

 「助けを呼んでも無駄だよ。君は止まっている時間の中で助けの声が聞こえると思うかい?」

 「...!」

 今までのブリザとの雰囲気のあまりの違いに薫は驚愕する。

 「!」

 薫は咄嗟にバタフライナイフを手に取ろうとするが、うまく握れない。

 「かじかむ手では武器なんて思うように扱えないよ。」

 ブリザはそう言いながら光琳を氷のそりに乗せて、薫も乗せられる。

 「ぐっ...!!」

 薫は何とか立ち上がってレーザーナイフをブリザに向けるが、その瞬間に腕を凍らされる。

 「ぐああああ!!!」

 「無駄な抵抗は止めてくれ。そうしなきゃ、この国を消すよ。」

 「...!?」

 「今この国は君や彼女を除いて凍っている状態だ。つまり僕の手中にある。凍ったものを壊すことなんて簡単だよ。」

 ブリザにそう言われて、薫は凍った仲間たちを、光琳を一瞥してがっくりと項垂れる。

 「そう。それが一番だ。」

 ブリザはそう言って、そりを引きながら自身の拠点までの道を作り、そりを滑らそうとする。

 「待って!!」

 「?」

 ブリザが振り向くとそこには、純白のレースのワンピースに花柄の和服を羽織り、白い花の耳飾りと水色の花の髪飾りと青みがかった白髪をなびかせた富士浪清雅が刀を構えていた。

 「私の仲間なんです...! 攫わないでください...!」

 「そんなことわかってますよ。わかった上で攫うんです。わかった上で敵になるんですよ。」

 それを聞いた清雅は跳びあがって刀をブリザに振り下ろす。

 「はぁぁぁ!!!」

 「止めておいた方がいい。」

 しかしブリザはそれを片手で受け止め冷静に清雅を宥める。

 「私の仲間を凍らせておいて、攫おうとしておいて...! 止まれるわけがない!!」

 「清雅さん...。」

 「なら仕方ない...。」

 ブリザがそう言うと、清雅の体が凍り付いていく。

 「同じ異能力者スペアネルでも能力の精度にここまで差があると...押し負けてしまうものなんです。」

 「ぐっ...!!」

 「僕の氷河期アイスエイジを耐えたのは凄いことだけど...それだけだよ。ある程度傷が治っても元が重傷であの戦いの後なんだから完治してるわけがない...。その状態で僕に挑むのは...あまりに無謀だよ。」

 「清雅さん!!」

 薫の声も虚しく、清雅は凍り付いた氷像と化す。

 「今のが最後の希望だったね。でも...虚しい希望だ。来てもらうよ。君ら明け渡す場所〝アンヴィルヘムの屋敷〟に...。」

 薫と光琳はアンヴィルヘムの屋敷までの道をそりで滑走し、ブリザもそれを追うように氷の道を滑り始める。

 バルジェリア皇国完全凍結。
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