Blood Spare of Secret : The story of Creeds

千導 翼『ZERO2005』

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第四章 バルジェリア皇国編

気だるげで面倒くさがりな男

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 3日後。バルジェリア皇国完全凍結解除。

 誰1人として違和感を抱かずに当たり前の日常に戻っている中、1人だけ確実に何かが違う感じていた。扉を開けた瞬間、違和感がある。

 「...何があった。」

 「ぅ...ぅん?」

 クリードの声に目を覚ました花仙が辺りを見回す。

 「薫と光琳は? ってか清雅も居ねえ...安静にしないといけないんじゃ...。」

 「何も聞いてないのか?」

 「うん。バンバもぐっすり寝てるし...何も言ってねんじゃねえかな?」

 その瞬間、扉が開く音がする。

 「はぁ...はぁ...。」

 クリードが振り向くと、息も絶え絶えの清雅がいた。

 「何があった?」

 「薫ちゃんと...光琳ちゃんが...さらわれた...!」

 「はぁっ!? ぐぅっ...!! いった...ごめん続けていい...!」

 驚いた花仙がその衝撃で激痛に襲われてそのまま倒れる。

 「誰にだ?」

 「白いスーツを着た男で...南西に真っ直ぐ向かいました。」

 「...遅かったか...!」

 「え?」

 「奴の狙いがある程度わかった。その狙いを達成するために薫と光琳がなんらかで必要であることもな...。」

 クリードはそう言いながら今の仲間の状態を見る。

 「異能力者スペアネルのNo.1格1人...。しかし...まともに戦える戦力は...いない...。」

 「私は戦えます...!!」

 「能力的に同じでは有効打を取れないし、そもそも技量や経験値に差がある。君ではあいつを倒せるどころか、時間稼ぎもできない。そもそも...恐らくだがあいつが向かった場所はあいつの本拠地のようなものだ。全員万全なら兎も角、俺や重傷だが動けはする清雅だけだ。氷に相性の良い花仙も、敵が大勢いた時に散らしてくれるバンバは動けない。」

 「行けるぜ...!!」

 花仙が痛みをこらえながらクリードにそう叫ぶ。

 「馬鹿なことを言うな。薫と光琳を助けに行くために死なせるわけにはいかない。それに忘れたのか? お前は依頼人だ。俺にはお前の依頼を達成する義務がある。もし奇跡的に生きて帰ってこられたとして後遺症が残らない可能性がどれくらいある? 友に会いたいんだろ? 五体満足でいなきゃ悲しませるだけだ。」

 「でも!」

 「いいから休め。対策は考える。」

 「クリードさん...。」

 「?」

 対策を考えようとするクリードに清雅は息を整えて言う。

 「彼は...3日は動かないって...言ってたんです...。」

 「...何?」

 その瞬間にクリードはどのようにして薫と清雅を攫ったのか、そして扉を開ける直前に感じた違和感の正体が分かった。

 「俺たちはこの国ごと...凍結されていたのか...。ということは溶けた今...もう丸3日経ったという事か。」

 「はい...。」

 「クリード...! 考えてる暇ねえって!! もし...生贄とかだったら...。」

 しばらくの沈黙の後、クリードは花仙とバンバを一瞥する。そこに青葉が現れて首を傾げる。

 「どういう状況だ?」

 そうして青葉を見ると、顔を疲れ切っていて、とても万全とは言えない。

 「...頼みがある。」

 「ん?」

 クリードの顔に青葉は眉間にしわを寄せる。

 「明日馬車が来る。バンバと花仙を乗せて先にユーフォリアに行かせる。その護衛を頼む。」

 「は?」

 なぜそう言ったのかいまいち理解できない青葉は更に首を傾げる。

 「クリード!」

 「薫と光琳が攫われた。奪還するなら少数だ。」

 クリードの言葉を聞いた青葉は眉間にしわを寄せて、胸倉を掴む。

 「だったら逆だろ。バンバと花仙には頑張ってユーフォリアに馬車で行ってもらって、清雅さんじゃなく、お前は俺を連れてくべきだ。」

 「清雅には、何かあった時の為に助け出した薫と光琳を連れて行ってもらわなければならない。」

 「だからこそだろ。何かあった時の為の俺だろ。それにお前や、さっき花仙さんが叫んだ時の反応からして...攫ったやつは相当な手練れなんだろ? 尚更俺を連れてくべきだ。」

 「万全のお前ならばそれも考えた。しかし、万全じゃないお前を連れて行くのはリスクだ。もし相手に感づかれてまた先手で凍らされたら何もできずに終わる。」

 「だからと言ってお前と富士浪さんだけ行って、気づかれない保証がどこにある? 馬車は騎士にでも護衛を任せろよ。そうすりゃ、富士浪さんも俺も連れていける。それが一番だ。」

 「騎士の中に内通者がいない保証はない。」

 それを聞いた青葉はクリードを壁に押し付ける。

 「まだ...まだ自分以外を信じてないのか? いい加減...人の善性を信じろよ...! まだ仲間も...任務遂行の道具として見てたりしねえだろうなぁ...!?」

 「この状況で善性を信じるだと? 馬鹿を言うな。ユーフォリアに何があるかわからないお前じゃないだろう?」

 その2人の声にバンバは目を覚ます。

 「大丈夫だ。」

 バンバは痛みに耐えながら立ち上がる。

 「俺は動ける。あの国だって...よく知ってる。光琳と薫を...助けるためには...確実に...青葉は...必要だ...!!!」

 「無茶言うな。お前に何かあったら光琳を助けても意味がない。」

 「そりゃそうだが言ってる場合か?」

 「おい...やめろよ3人とも...こんな時に喧嘩すんなよ...。」

 「(あの時私が...止められていれば...クリードさんたちの氷を溶かせていれば...!)」

 険悪な雰囲気の中で扉が開く。

 「「「「「?」」」」」

 「ん? 何だ? えらく険悪だな?」

 黒い革のジャケットと革のデニムパンツを着て鎖の腕輪とチョーカー、鮮血のように赤い髪と目をした褐色肌の男が首を傾げていた。

 「俺この国出るから一応別れでも告げようかなぁと思ってたんだが...。邪魔したか?」

 「いや...。」

 「フレア!」

 クリードの言葉を遮って花仙がフレアの名を呼ぶ。フレアは首を傾げながら花仙の声に耳を傾ける。

 「ん? どした?」

 「今さ...うちらの仲間がさ...攫われたんだ...。しかも...結構...手強い奴に...。」

 それを聞いてフレアは辺りを見回す。

 「あぁ~まぁ言われてみりゃあ...2人ぐらいか? 足りねえ気がするな。」

 「騎士団との戦いであたしも...バンバも...無茶しすぎちまってよ...とても戦える状態じゃない...。ここにいる青葉ってやつも...まだ万全じゃない...。清雅も...全然ちゃんと戦える状態じゃないんだ。助けに行く...戦力が絶望的に足りてねえんだ...!」

 花仙の言葉にフレアは腕を組んで扉に寄りかかる。

 「フレア...うちらの仲間を助けるの...協力してくれ...!」

 花仙の言葉にしばらく沈黙した後に、クリードが口を開く。

 「別に協力しなくてもいい。そんな義理はないだろう? 協力したところで金を俺達が払う保証はない。」

 「クリード...!」

 クリードの言葉に花仙が叫ぶと、青葉が殴りかかるとバンバが制止させる。

 「ちなみに...協力しなかった場合...どういうプランにする予定だったか教えてくんね?」

 フレアはクリードを見てそう訊く。

 「動けないバンバと花仙は馬車に乗せて本来の目的地であるユーフォリアに青葉に護衛を頼んで先に行ってもらう。そして、何かあった時の為に氷の能力に決定打は打てないが耐えることができる清雅に薫と光琳を任せる。基本は俺主体で助けに行く。あくまで2人を奪還するだけだ。大人数はいらない。まして、万全なのは俺だけだからな。」

 「ユーフォリアに行く馬車に護衛をつけるってことは...なんか訳ありか?」

 「俺と、バンバと、青葉にとっては...第二の故郷のようなものだ。」

 「なのに護衛か...まぁこれ以上は詮索しねえよ興味ねえし。...花仙。」

 フレアが不意に花仙の名を呼ぶと花仙は首を傾げながらもフレアの目を見る。

 「?」

 「何で助けたいんだ? シルヴァマジアでお前に会った時...ここの奴らと接点ある感じなかったよな? あの後に一緒に旅するってことになったの?」

 「うん。昔別れた友達に...会いたいんだ...。」

 「その攫われた2人を助けるのに...何でお前はそんな必死なんだ? 付き合いそんな長くねえ筈だよな? 少しでも動けたら今から飛び出しそうな雰囲気あるぞ今。」

 「うん。長くねえよ...。でも...あたしは...別れることの辛さを最近よく知ったからさ...。鍛えてくれた師匠も...育ててくれた母親も...失ったばっかなんだ...。もう会えないって事実が...すごい...今のでも心に深く刺さってんだ...。だから...付き合いが長さとか...そうじゃねえんだ...。攫われて...これが今生の別れになっちまうのが嫌なんだ...! やっと...少しずつ打ち解けてきたんだ...! それに...あたしは...自分より年下の人間に...先に死んでほしくねえんだ...! だから...無謀なことも馬鹿なことも、無茶なこともする。でも...! 今のあたしには...それができねえ!! 納得させるほど濃い理由なんて思いつかねえ...! あの2人に会えなくなるのが嫌なんだ!!」

 「(花仙...さん...。)」

 痛みに耐えながら発した花仙の言葉を受け止めて、フレアはこの場にいる全員を一瞥してクリードを見る。

 「なぁ。」

 「ん?」

 「俺はどっちの担当だ?」

 「それは協力するという事か? その場合...君にメリットがあるとは到底思えないが...。」

 「君じゃなくて...フレアって呼べよ。メリットは...そうだなぁ...俺がまた動くきっかけを与えて...くれた女への恩返しってやつだ。な?」

 フレアが花仙を見ると、下唇を噛んで深く頷く。

 「その場合は...薫と光琳を奪還する俺と清雅についてきてもらう。」

 「オッケー。で、ここにいる人たちのフルネームを教えてもらおうか。」

 その場にいる全員が名を名乗るとフレアは柔軟をしてクリードに手を差し出す。

 「フレア・アステラな? よろしく。俺もまぁ万全かどうかで言えば何とも言えねえが...。まぁ戦闘民族だ、カバーできる。いつ出発だ?」

 「今からだ。青葉。」

 「俺が責任もってバンバと陽葉山さんを送り届ける。」

 その言葉を聞いたクリードは3人分の金を渡して、清雅を一瞥してフレアを見る。

 「準備は元からできるよ。行こうぜ。」

 フレアに続いて出ると、清雅は青葉、バンバ、花仙を見る。それに気づいた青葉は優しく笑う。

 「大丈夫です。俺が必ず守りますよ2人ともね。」

 それを聞いて清雅は深く頷いてクリードとフレアについていく。

 2日前 元ルーウィッド領 アンヴィルヘム邸

 凍結が完全に溶けた薫と光琳は白いダボっとした服に着替えさせれ、扉や窓に鉄格子の付いた質素な部屋に閉じ込められていた。その中で気を失っていた薫が目を覚ます。

 「ここは...?」

 薫がそう言うと、光琳が起き上がって辺りを見回す。

 「?」

 今の状況に困惑しながら薫を見る。

 「私たちは...攫われたの...。」

 「攫われた...? 深天極地の純血...だから...?」

 「多分ね。」

 「一体誰が...。」

 「氷の人だよ。」

 それを聞いた光琳は驚きながらも納得していき、扉や窓についている鉄格子を握ってみる。

 「っ!!」

 「光琳?」

 「冷たい...。」

 光琳の手の平が少し凍り付いている。それを見て薫が駆け寄る。

 「大丈夫?」

 「うん...でもこれじゃ...自力で脱出できそうにないね...。」

 「そうだね...。そもそもここがどこかもわからないから...脱出できても...どこに行けばいいのかわからない...。」

 薫の言葉を聞いて、光琳は下唇を噛んで座り込む。

 「でも...。」

 「?」

 「諦めない。まだ時間があるなら...もしかしたら...外に連れ出されることもたまにはあるかもしれないし...何度かは...絶対にここを見に来るはず...それを期待しよう。来てくれれば情報を取れるし...連れ出されたら...ここの構造をある程度把握できるかも...。」

 「来なかったら...?」

 「その時は...諦めるしかない...。だから...来ない場合は考えない。ネガティブになるから...。」

 強い意志を持って言う薫を見て、光琳は深く頷く。

 「出られたら...私達のものを探そう。あれがないと、今の私達じゃ...ちゃんと戦えない...。」

 「動けはするけど...血の力を使ったらすぐに動けなくなるもんね...。」

 「取り敢えず待とうか...。誰かが来るまで...。」

 「うん...。」

 「「......。!?」」

 2人でそう話していると、突然扉の鍵が開く音がする。驚いた2人は警戒しながらその方向をジッと見つめる。扉が開くと数十人の執事とメイドが現れ、その中の1人が前に出て挨拶する。

 「橘薫様、入町光琳様。深天極地の純血の御二方。朝食のお時間になりましたので、お迎えに上がりました。」

 「「......。」」

 あまりに無機質且つ無感情な声色と、口以外全く動かない顔でまるで当たり前かのように言う執事に本能的に恐怖し困惑していると、後ろに控えていた複数の執事とメイドが入ってきて、薫と光琳を取り囲む。

 「ぇ!? な、何なんです...!?」

 「坊ちゃまのご命令ですのでご容赦ください。」

 薫と光琳はうなじをトンと叩かれると、氷のチョーカーが首に巻かれる。

 「え...? 何なんです? ...これは?」

 「詳しくは坊ちゃまにお訊きください。」

 困惑する薫と光琳を他所に執事とメイドは2人を連れて部屋を出て、2人をしっかりと取り囲んだまま、広い部屋に案内した。

 「...ここは...。」

 豪華なシャンデリアや豪華絢爛な色使いの部屋だが、家具や柄はアンティークでまるで貴族のような部屋だ。だが、どこか寂しげで冷たい印象を感じる。

 「来たね」

 「「!!」」

 全く無音の空間の中、聞き覚えのある声が静寂を打ち破った。

 「「...。」」

 「...。あ~そういえば君らには名乗ってなかったね。この屋敷の主。ブリザ・アンヴィルヘムだよ。短い間だけど...よろしく。」

 ブリザはそう名乗って深くお辞儀をして微笑みかける。そうすると、部屋の明かりがついて、カーテンが開いて外の光が入ってくる。

 「ようこそ。我がアンヴィルヘム邸へ...。」

 その瞬間、執事とメイドと甲冑を着た人たちが全員私たちにお辞儀をする。しかし、ここまで人がいるのにも関わらず、相変わらずこの部屋はどこか寂しげで冷たい。
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