神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞

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19 救出

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まず最初に来たのはジェムの所だ。

「ジェム、助けに来たよ」

そう言って鳥かごに近づき、先にラグとレティを入れた。

ラグはジェムの邪心を浄化し、レティは俺に見せたように、蛇眼を使って彼の心境をジェムに伝えた。

暫くしてラグが笑顔で俺を見たので、無事浄化出来たようだ。

俺は鳥かごの鍵を開けて、ラグとレティ、そしてジェムを鳥かごから出した。
ジェムは俺を見て

「アルフに会いたい」

と言った。当然彼も助けるつもりだったので俺は頷き、地下牢へ転移した。

彼は相変わらず感情のない表情をしていたけど俺は知っている。彼の心が戻っていることを。

俺は最初にあの道具を魔法で壊し、ついでに牢の鍵も壊した。そして、ジェムを連れて牢の中に入り、全員で廃教会へ転移した。

俺はジェムを彼に渡し、そのまま教会の扉を開けた。そして、入り口を塞ぐように土壁を作り、ラグの植物魔法で土壁を覆った。これで暫くは時間稼ぎになるだろう。

俺は開けた扉を閉めると、彼らの元へ戻った。
俺が彼の元へ着くと、彼は俺に頭を下げた。

「ジェムを助けてくれてありがとうございます。そして、俺までも」

俺は慌てて彼に頭を上げるよう言うと、

「頭を上げてください。それにこちらも謝らなければいけないことがあります」

と言って、レティによって彼の生前の事や今までの事を許可もえずに見たことを謝った。すると、

「別に知られて困るような人生では無かったので構いません。それに、喋る事も出来なかったので、恥ずかしいですが心の内を知ってもらえてよかったです。そのお陰でジェムも助かったのですから」

そう言うと、優しい手付きでジェムを撫でた。ジェムも嬉しそうにその手にすり寄っている。どうやら蟠りが解けたようだ。

俺がこれからどうするのかを聞こうとしたときに、扉の向こうが騒がしくなった。

「思ったよりも早かったな」

彼が戸惑うように俺を見たので

「あなた達を捕らえていた貴族ですよ。ジェムもあなたも居ないことに気づいてここへ来たようですね」

俺の言葉を裏付けるように、外からあの貴族の怒鳴り声が聞こえた。

「ここにいるのは分かっている!さっさと出てきて、あの鳥を返せ!くそっ、なんで動けたんだ!お前達、さっさとこの壁を壊さないか!グズどもが!」

グズはお前だ!と言いたい。ラグの魔法もあるからそう簡単には壊せないはずだから問題はグズより神の方だ。

「俺はヨミ。アルフって呼んでも?」

俺が彼に問うと、頷いたので

「アルフ、どこまで時間があるかわからないけど、、、ジェムは邪神になりかけていた。その事を神がどう判断するかわからない」

俺の言葉にアルフはジェムを抱き締めた。

「そこで提案がある。ジェムの育成権を俺に渡してほしい」

そう言うと、ジェムが俺に威嚇の構えをした。

「落ち着きない、ジェム。まだヨミの話しは終わってないわ」

レティが諌めれば、渋々といった感じで威嚇をやめた。

「もちろん、育成権を俺に渡してもジェムの眷属はアルフのままでいい」

そう言って、アルフ達にヴァイオレットとレティの事を話した。

「レティに魂化をかけてもらい、ジェムの眷属のままでいればアルフの消滅はないと思う。候補と言ってもラグ達は神だ。神の庇護下にある内は別の神はその人物に干渉できないんじゃないかも思う」

俺はチラッとレティを見て

「俺の勘違いかもしれないけど、あの神様がヴァイオレットの魂を手にしたとき、ヴァイオレットの魂に何かしようとしていた気がしたんだ。でも、それから守るようにヴァイオレットの魂を何かが包んだように見えた。だから、ジェムがアルフを眷属のままにして、魂化をすれば神様はアルフを消滅させられないと思うんだ」

俺の話しにキレたのはレティだ。

「はあ?聞いてねぇぞ!なんでそのときに言わなかった!」

オネェあるあるのキレたら男に戻るが発動した。

「一瞬だったら、勘違いや見間違いかもと思ったんだよ!だから最初に言ったろう?勘違いかもって!うわっ、やめろ!手首に巻き付くな!締め上げるな!」

数分間レティと格闘して、俺は疲れ果ててた。

「はぁはぁ。少し脱線したけど、どうするか決めるのはアルフ達だ」

俺は座り込んで、肩で息をしながらアルフ達を見上げ聞いた。

少し離れた所では、ラグがレティに説教をしていた。まるで(精神年齢的に)弟に説教されている姉(兄?)の構図だ。と言っても、レティはとぐろを巻いていて聞いてないけど

呆気にとられて俺達を見ていたアルフ達は互いに見つめあい、そして

「ジェムをお願いできますか?」

と言った。ジェムは悲しそうな顔をしたけど、それが最善だとわかっているので何も言わなかった。

俺は立ち上がり、手を伸ばした。
その手にアルフがジェムを乗せるとジェムが光に包まれた。いつの間にか戻ってきていたレティに

「新しくジェムに名前を付けて。そうすれば譲渡完了よ」

「え?レティの場合は名前がなかったから付けたけど、ジェムはあるんだからジェムで良いんじゃないか?」

「ジェムはアルフが付けた名前。でも新しくヨミが育成者になるんだから、ヨミも名前付けないといけないのよ」

俺はジェムの名前を無くさないよう色々考えたけど良いのが思い付かず、

「ジェムリーで」

と考えるのを放棄した。

名付けると光が収まった。しかし、俺の手の感触が嫌な予感を感じさせた。

光が完全に収まると、そこには手のひらサイズのフクロウがいた。しかも、なんか前髪と言うか、よく漫画で書かれてらるピヨンと跳ねてる触覚が生え、その触覚が藍色で、瞳も赤と藍色のオッドアイになっていた。

「なんで、手のひらサイズなの?さっきまで普通のフクロウサイズだったじゃん」

ジェムも自分の体が小さくなっているのに驚いて、めっちゃ細くなっている。
アルフも目を大きくして驚いていた。

俺が打ちひしがれていると

「ヨミの中でこのサイズが守りやすいって思っているからかもね」

とラグが俺の腕を伝い、ジェムの側まで行き、ツンツンとつついた。

俺は今までのバッグから別のバッグに変え、ラグを胸ポケットに、ポケットの増えたバッグの一つ一つにレティとジェムを入れた。

「これでいいかな?さてとアルフ、ジェム。最後に話しておきたいことはない?」

ジェムはバッグのポケットから飛び立ち、アルフの肩に止まると

「オレ、いい神になる。そして自分の世界を作るから、アルフが笑顔でいられる世界を作るから、オレの世界に転生してくれる?」

ジェムが首を傾げて聞くと

「ああ、楽しみにしている。それと、無理にオレって言わなくていいよ。最初はボクだっただろう。ずっと言いにくそうにしていたけど、ジェムの好きなようにさせようとそのままにしていた。けど、もう無理に言わなくていいんだ。ジェム、こんな俺の所へ来てくれてありがとう。大好きだよ、ジェム」

アルフは気づいているのかな?自分が泣いていることに、そして笑えていることに。

「オレ、、ボクも大好きだよ!ずっとずっとアルフの事、大好きだよ!」

俺はレティを見た。レティは静かに頷くと魔法を発動させた。

アルフの体が透けていき、その形を変えていく。

「ヨミ、ジェムを頼む。そして、ありがとう」

「ああ、必ずジェムを立派な神に育てるよ」


ジェムが俺の肩に止まり、アルフが完全に魂化したとき、あの鐘の音が響いた。

辺り一面に彼岸花とローダンセが咲き誇っいる。そこに神様と神使が現れ

「悪知恵の働く事だな。その者もこちらで預かろう。心配せずともなにもせん。先の者も無事じゃ、そう睨むでない」

俺はレティとジェムを宥めるように撫でた。

次に神様は神使に向き直ると

「今回の神使を選んだ者は誰だ?問題児ばかり選びよって。先の者は改善が見られなければ、人の生を終えた後消滅が決まっておる。しかし、お前にはそんなチャンスもないわ。死者の生者に対する別れを阻み、連れてくるとは」

冷たい視線を神使に向け手を翳すと、神使がなにか言う前に、神使の体は光の粒に変わった。

神様は何事もなかったように俺に向き直ると

「この際お主に託そう。この国の港街に聖女と偽っている育成者がおる。その者から候補を救い、育成者を眷属から外してくれまいか。後はこちらで処理をする」

そう言って神様は消え、気づくと海の香りのする街にいた。

*****

どうにか壁を壊し、教会の中に入った貴族達は、その体を一瞬ビクッとさせたかと思うと周りを見渡した。

「なぜわしらはこんな所へ?」

貴族の男は近くの騎士に聞いたが、その騎士も困惑したように首を振るだけだった。
他の騎士達も同様に困惑していた。

「役立たず共が!もういい!さっさと帰るぞ!」

そう言うと、ドタドタと足音を立てながら教会を後にした。

その後、この貴族のしていた色々な悪事が明るみになり関係者は処刑され、関わりの無かった使用人や親類縁者はお咎めなしとなった。

誰も居なくなった部屋の片隅にある鳥かご。
その中にあった一枚の赤い羽が、黒い煙を上げながら静かに消えていった。
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