神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞

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18 少年の葛藤

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白いローブを着た人に連れられて来たのは広い場所だった。

そこには2人の男女が居た。男女は17・8くらいで、男は俺を睨んでいて、女はニッコリと笑い俺にすり寄ってきた。

「あなたも選ばれたの?やっぱり見た目がいい人が選ばれるのね。私はエリーって言うの。あなたは?」

俺は二人を観察して分かったことは、男の方は姿勢が崩れているけど、貴族の子息で、だけど女の方は平民以下の振る舞い。三流以下の娼婦のような振る舞いだ。

これは、俺がお祖父様にそれなりに貴族としての振る舞いやマナーを学んだからわかることだった。

俺は腕に絡み付いている女の手を払いのけ、二人から少し距離を置いて並んだ。

「なによ!ちょっと顔が良いからってお高く止まってんじゃないわよ!」

「お前も懲りないな。そんなことばっかりしていて処刑されたのによ。しかも俺まで巻き込みやがって」

「はあ?自分可愛さで私を裏切ったくせに!あんたのは自業自得って言うのよ!」

二人の言い争いはあの時の両親のようだった。ただ違うのは、母上だけが怒鳴り、父上はそれを宥めていただけだ。

尽きることなく言い争っている二人をよそに、別のローブの人が一人の女性を連れてきた。所作から高位の貴族令嬢のようだ。

「ごきげんよう。私はルルリカ バーベルと申します。まぁ、死んでしまえば家名など意味は無いのですが」

と、自己紹介的な事を言われたので俺も名乗ろうとしたが

「それにしてもあちらの方達は賑やかですね。はしたなくも大きな声で怒鳴り合うなど。女性に対して怒鳴る男性も、品なくわめき散らしている女性もあり得ませんわね」

声を潜めているわけではないので、当然あちらにも聞こえているわけで

「ちょっと、聞こえてるんだけど?あんた達みたいな人っていっつもそうやって聞こえるように陰口言って、こちらが注意すれば無視して!ほらっ、今だってそういうことする!」

女性がバーベル嬢に突っかかると、バーベル嬢は手にしていた扇子を広げ、口を隠し女性から視線を外した。

これは“あなたとは話したくない”という令嬢の仕草だ。
バーベル嬢は女性を無視して

「周りが少々賑やかになってしまったので、あちらへ移動しません?」

俺を巻き込まないでもらいたい。まぁ、場所を移動するのは賛成なので頷いた。

うるさい二人から離れると、またローブの人が一人の女性を連れてきた。

バーベル嬢は俺にしたように挨拶をするも、女性はこちらをチラッと見ただけで何も言わずそのままバーベル嬢の隣に少し間を空けて並んだ。

「どうやら色々と訳ありな人が集められているのね。そういえば、お名前伺ってませんでしたわね」

「アルフリートです」

俺が名前を名乗ると、少し首を傾げたが何も言わず微笑んだだけだった。

「ちょっといつまで待たせるのよ!早くしてよ!」

俺が来たときにはもうすでにいたので、しびれを切らした女性が叫んだ。

「本当、品のない事」

バーベル嬢は扇子を広げボソッと呟いた。その時

「君もあそこへ行って」

という声が聞こえたので、最後に来た女性以外全員が振り返った。

そこには黒い髪が目を隠すほど伸びた男性が居た。

最初に来ていた男女は、その男性を値踏みするように見て見下すような態度を取った。

俺とバーベル嬢は言葉は発しないまでも、礼儀として礼を取ると、黒髪の男性も礼を返してくれた。

その後神様が現れ、俺達がなんのために集められたかを説明して、それぞれ卵を選んだ。

最初の男女の態度で、あの二人はなんでここに来たのかを知っているようだった。

卵を選んだ後は、光に包まれ気がついたら何処かの廃教会の中に居た。
着ている服も、学園の制服ではなくなっていた。

適当にバッグを取り出し、タオルに卵を包んで無造作にバッグに突っ込んでおいた。

廃教会を出て街に行き、そこで得た情報でここはイムシという国の王都だということがわかった。

数日、廃教会と街を行き来していると、バッグの中からコツッコツッと音がしたの卵を取り出し、タオルを外すと一気に卵が割れた。

産まれたのは赤色をしたフクロウで、瞳も赤かった。産まれたフクロウに名前をつけてと言われたので、ふと頭に浮かんだ“ジェム”と名付けた。

ジェムは最初、自分の事を“ボク”と言っていたのに、いつの間にか一人称が“オレ”になっていた。

ジェムが産まれてからジェムが嬉しい事や楽しい事があったとき、なぜかジェムの感情が俺にも流れてきた。

俺の失くしたはずの感情を埋めるように、ジェムが感情を教えてくれているように俺は思え、

「ジェム。何があっても俺がジェムを守るし、いつまでも側にいるからな」

と無意識に言葉にしたら、ジェムが嬉しそうに俺に頭を擦り寄せてきた。

ある雨の日、今日は街へは行かずこのまま廃教会で過ごそうと思っていたら、大勢の人がズカズカと入ってきた。

雨宿りにでも来たのかと思っていると、その人達は俺の所へ真っ直ぐ来た。

興味が無かったので入ってきたときは無視したが、こちらに向かってくるのを確認して初めてその団体に目を向けると、先頭にいるのは貴族であとは専属騎士っぽいので、伯爵以上貴族みたいだ。

貴族の団体が俺の前まで来ると、貴族の男がでっぷりお腹を付きだし、いやたぶんあれは胸を張ったのか?偉そうな態度で

「少年、その赤い鳥をわしに譲れ!金は言い値を渡す!」

そう言うと、騎士に命じてジェムを奪おうしたので、俺は団体から距離を取り

「お断りします」

と言った。騎士は直接俺を捕らえるのを諦めると、俺の周りを取り囲んだ。

「今一度言う。その鳥を渡せ」

貴族の男が何かの道具を俺に向けながら言った。

俺は再度断ろうしたが、言葉が出ずしかも、体も動かせなくなった。

俺が動けなくなったのを見ると、貴族の男が再度騎士に合図を送った。

「アルフ?どうしたの?早く逃げよう!あいつらが来るよ!アルフ!」

言葉が出ないのでジェムに逃げろとも言えず、俺から離れないジェムは騎士達に抵抗するも、捕まってしまった。

「アルフ!アルフ、助けて!アルフ!」

ジェムを捕まえた後、俺は騎士によって膝をつかされた。そんな俺の前に貴族の男が来て

「フハハ、流石は聖女の力が込められたものだ。選定者だろうと手足も動かせなくなったわ!こいつも連れてこい。そして地下牢に入れて、牢にこれを付けておけ。このまま放置して取り返しに来られても面倒だからな」

貴族の男に捕まり、牢に入れられてどのくらい経っただろうか。ジェムの感情が俺に流れ来るのは変わらず、戸惑いと期待の感情が次第に、悲しみから憎しみへと変わっていった。

(ああ、誰でもいい。誰かジェムを助けてくれ。俺は消滅しても構わない。でもジェムは、ジェムだけは助けてくれ。神よ)

牢に入れられても、あの道具があるせいで俺は身動きが出来なかった。ジェムを助けに行きたくても俺には出来ない。

短い間だったが、ジェムに感情を教えられ、俺も感情を取り戻しかけていたのだろう。ジェムの悲しみと憎しみの感情を感じる度に、胸がジクジクと痛かった。

そんなある日、憎しみと絶望が支配していたジェムの感情に葛藤が生まれた。

俺がジェムの変化に戸惑っていると、俺の目の前に急に体の透けた人が立っていた。

その人は藍色の髪に藍色の瞳をしていたが、すぐにあの黒髪の男だとわかった。

男の両肩には小さなフェレットと蛇がいた。

(あれが彼が生み出した神か。なぜ2柱いるのかわからないが、彼らが来たからジェムの中に葛藤が生まれたのかもしれない。どうかジェムを助けてくれ)

俺の言葉が通じるわけがないのは分かっているが、どうしても言いたかった。すると彼の姿がスッと消えた。

すると今度はジェムの感情が大きく動いた。悲しみと憎しみと怒り。そんな負の感情が流れてきた。

俺がそんなジェムの感情に申し訳なく思っていると、突然ジェムの感情が凪のように収まった。あれほどの強い感情が嘘のようだ。そんな突然の凪に俺は不安になった。

(ジェム。ジェム。どうかジェムが邪神になっていませんように。俺は消滅してもいい。だから神よ。いや、同胞よ。どうかジェムを助けてくれ)

 ******

俺が目を覚ますと、藍色の瞳が俺を覗き込んでいた。

「レティか。蛇眼を使ったのか?」

「彼を見たとき、彼の思いが見えたからね。ヨミに知って欲しくて」

俺は体を起こし、周りを見るとラグは籠の中でぐっすりだった。

「ジェムも彼も助けられるか」

レティもラグを見て

「ジェムの方はラグが居れば大丈夫よ。彼の方は、、五分五分かしら」

俺は重い頭を振り

「はぁ、ヴァイオレットといい、彼といい。なんか色々と重いものを持っているな」

俺は寝ているラグを起こし、身支度をすませ、隠匿の魔法が付与されたローブを纏うと転移した。
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