神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞

文字の大きさ
46 / 55

41 頼まれ事と望みの行方

しおりを挟む
鐘の音が鳴り、周りの風景が花畑になった。

しかし、いつもと違うのは彼岸花はなく、白いフリージアのみが咲き誇っていた。

そんな花畑に座り込んでいるヨミ達の前に神様が現れ

「このばか息子が。だから言ったのだ。いくら神格化した魂とて人は欲深き生き物だと」

そう言いながら、卵に手を翳した。
すると、石化した卵が普通の白い卵に戻った。

そして、その卵をひと撫でして

「ヨミよ、礼を言う。我が息子を見つけてくれたことを。そして、その魂を救ってくれたことを」

そう言って頭を下げた。

しかし、話についていけない俺は

「頭を上げて下さい!それにあの、息子さんって?」

神様は頭を上げると、また卵を撫でて

「この卵を守っていた者だ。わしの息子は、神格化して間もない神使の教育係になり、そして意気投合し、友人になった。しかし」

神様の話を纏めると、その神使は、神様の息子という立場のみに惹かれ、友人の振りをしていたという。

そして、この世界の神になり得る存在を育てる選定者に、息子さんを巻き込み無理やりなったらしい。

そしてこの世界に降り立った瞬間、その神使は息子さんを攻撃し、あの未開の森に捨てたそうだ。

自分の親になる者を攻撃され、怒りから邪心に飲まれそうになった卵を守るため、あの結界を張って今に至る。

「ほんと、未だになぜあのような者の魂が神格化したのか不思議でならぬ。息子も、それなりに厳しく育てたつもりだったのだがな」

そう言って悲しそうな目で卵を見ていた。

「ヨミよ。その卵をよろしく頼む。無事に孵し、正しく育ててくれ」

もう一度、卵に触れようとした手を止め、卵から目を反らした。

神様は一度目を閉じ、心の整理をしてから

「では、次だな」

と言って、目を反らした方向をまっすぐ見た。

するとそこに、ルルリカ様とくまさんが現れた。

「お主の望みとは何だ?」

神様はまっすぐルルリカを見た。
ルルリカもまっすぐ神様を見て

「今一度、私は私に生まれ、人生のやり直しをしたく存じます」

その真意を確かめるように神様はルルリカを無言で見つめた後

「時間の干渉は神であっても難しい事。それをまだ神にも成りきれていない者にやらせようとしていたのか?」

と、少し呆れたように言って

「こちらの都合で巻き込んだことの詫びとして、そなたの望みを叶えよう。ただし、この一度だけだ」

「それで構いません。わがままを言えるのなら、記憶はそのままでお願いしたいです」

神様の言葉に、ホッとしたように肩の力を抜いて、もう一つお願いを口にした。


「抜け目の無いことよ。あい、わかった」

神様の言葉にルルリカは、それはそれは良い笑顔をした。

そして俺に向き直り

「余り情を持たないよう、適当な名前を付けたことは後悔していないわ。でも」

と言って、くまさんの方を見ると

「長く接していれば、やはり情は湧くものですね。こんな私の側にいてくれてありがとう、くまさん。ヨミ、くまさんを宜しくお願いしますね」

ルルリカがそう言い終わると、その体が光の粒になっていった。

俺はルルリカとくまさんの側に行き、くまさんを見て

「ベティ。それが君の新しい名前だ」

名付けたら、ベティが光に包まれ、例によって手のひらサイズになった。しかも、デフォルトされ、まんま緑の毛皮に藍色の瞳のティディベア風に

「あらまぁ、可愛らしいわ。あなた、やはりかわいいもの好きなのね」

確かに、俺の周りの神候補は小さな動物だけど、けして俺自身がかわいいもの好きな訳ではない。

「ハハハ、、、」

手のひらサイズになることは諦めていたけれど、まさかティディベア風なるなんて予想外で、乾いた笑いしか出なかった。

「ふむ。我が息子もこうなるのかのう?ちと不安だ」

神様は眉を下げて不安そうに俺と卵を見た。そして俺はそっと目を反らした。

トテトテと擬音が付きそうな歩き方で、ベティがルルリカ様の側に行くと

「リカ、貴女の第二の人生に祝福を」

ベティがそう言うと、ルルリカ様の光の粒に緑の光が混じった。

ルルリカ様はその光を見て

「くまさ、、、いえ、ベティさん。ありがとう」

と笑った。その笑顔を最後に光の粒は空に帰っていった。

「ではな。ヨミ、頼んだぞ」

そう言って神様も消え、周りの風景は未開の森に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...