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一章【集結】
六話 ナトルイア島へ
しおりを挟むヴィッツは夢を見た、幼い頃の母と一緒にいた時の夢を。逆光で見えない母の顔、おとぎ話のような異国の話が優しい声で聞こえる。「その国は──」そこから雑音が入り、思わず目が覚めるとそこは宿の自室だった。ヴィッツは上半身を起こす。どうも服を着替えぬまま寝たらしいが、正直何故この格好で寝たか記憶にない。そもそも酒に酔いつぶれたわけでもないはずだが、部屋に戻ってきたところで記憶が飛んでいる。
「んーなんかあった……かな? 思い出せねぇ。禁酒しすぎて久々の酒に飲まれたかな」
昨日のことはすっかり忘れてしまっていたヴィッツ。部屋を出るとちょうどミーンも部屋を出てきたところだった。ミーンの顔を見て思い出す。
「あー! お前のところになんか、えーと誰か入って来てた、のを追いかけた気がする。何だこの感覚、記憶が抜け落ちてんな……」
ヴィッツが頭を抱えてそう言うと
「ええ確かに人がいたわ、グレイよ。ちょっと用事があってね、部屋に来るように言っておいたの」
ミーンの話を聞いて思い出す。
「そうだ! あいつがお前の部屋から出てったからなんかあったかと思って追いかけて捕まえようとして、そこからはやっぱり覚えてねーな。先にミーンの安全を確認した方がよかったか」
ヴィッツは自分の行動優先順に頭を抱えた。
「いいのよ。今回は特に何もなかったし、そもそも私が用事があって呼んだことだから。でもあなた身体能力はそこそこあるみたいね、実戦経験を除いてだけど」
ミーンの言葉に
「まあな。村じゃ走り回ったり木登りしたり、建物の屋根上ったりして遊んでた。確かに戦えるかはわからねーけど、まあ逃げたり避けたりくらいは出来ると思う」
とヴィッツは自身の能力について話す。
「あれだけ動けるなら充分だわ。あと、野生の勘も割と強そうね。自分の身は自分で守りなさい。今日向かう先は今までとは別物よ」
ミーンはそう警告して一階のロビーに向かう。ヴィッツもついて行く。ロビーにはまだスティアとザントの姿は見当たらない。しばらく待っていると、ようやく二人が降りてきた。
「あ、二人とももう起きてたのね。昨日早く寝すぎちゃってザントが夜中に一回起きちゃってね。また寝かしつけるのに時間かかってたら起きるのが遅くなっちゃった」
あくびをしながらスティアがそう言い、当の本人ザントもいつもと違って右に左にふらふらしながら飛んでいる。
「ん~おは、よぉ~」
とても眠そうなザントだったが
「朝食の時間でしょ。そんなに寝ぼけてるとみんなでザントの分も食べちゃうわよ」
とのミーンの言葉に
「ごはん! ごはん!! ボクのごはん!」
と一気に目が覚め、外の食堂へと飛び出していった。
「ちょっと! ザント、あたしを置いてかないでよー!」
スティアも駆け足で宿から食堂に走っていく。ヴィッツとミーンはそんな二人にゆっくりとした足取りでついて行った。ザントの希望と言うより直感で選んだ昨日とは違う食堂。肉や肉の加工品料理が多くザント的には大満足のようであれもこれもと色々頼む。滞在費用は国王の取り計らいで心配はないが、それでもザントの食欲と食べるスピードには相変わらず驚くしかなかった。ミーンは今日から向かう先、ナトルイア島について軽く説明した。平和なこのあたりとは違い魔物の巣窟とされる無人島。そこに修行に出ている王子カルロに会いに行くことを話す。全員がその話に頷き、朝食が終わり全員で宿に戻り荷物を整理補充する。基本は戦えないヴィッツが荷物持ち。重くないかとスティアに聞かれたが、農作業の道具や収穫物と比べたら軽いと笑う。こうして一行は再びサウザント城へと向かった。門を通り抜けそして謁見の間に向かう。再び国王と会う。ナスティとグレイはすでに国王の両端にそれぞれ立っていた。
「国王陛下、我々はナトルイア島に向かいます」
と改めてこの場にいる全員への確認の意味も込めてミーンが言う。
「ああ、我が息子カルロの力が必要なのだな。息子のことは任せよう」
国王の言葉にミーンはこくりと頷く。
「ナスティとグレイの力もお借りします」
ミーンがそう言うとナスティとグレイはミーンたちの前に向かう。
「それでは皆さん、改めてよろしくお願いします!」
と元気に挨拶するナスティ。そしてグレイは相変わらず何も言わなかった。こうして全員が国王に対して礼をして謁見の間から出た。スティアたち女性陣とザントが前を歩き、後ろをヴィッツが歩く。そして最後尾をグレイが付いてくる。距離は少し離れているものの、どうにも思い出した昨夜の件が腑に落ちないヴィッツはグレイが気になる。ミーンが呼んだから部屋に来ていたとはいえ、一体何を話していたのかも気になるが事情を一切知らずグレイを追いかけて捕まえかけた時のことを思い出していた。
「(あのときの声……思い出しても、うーん。聞き間違い……いや、それはないな。でもな……)」
グレイの髪を掴んだ時にとっさに漏れた声。その声がヴィッツの中で引っかかっていた。
「(それになぁ、なんか後ろからおとなしくついてくるのが不気味なんだよな。昨日のあの態度見てたらなんか違和感しかねぇんだよなぁ)」
ヴィッツの中の勘が働く。実際、後ろをついてくるグレイは昨日挨拶しようとしたグレイではない。
「(極力彼らと喋ることはしないように。昨日もうっかり油断をして危うく私の正体がばれるところだった。表立った任務は私は苦手、どうしても彼を完全に演じきれないから。私は……)」
そう彼女が考え込んでいると
「どうした? なんかあったか?」
とヴィッツに声をかけられた。彼女は冷静に
「別に」
とグレイの声で返事をした。肉体を持たぬ身、どんな声色も出せるのだけは自身の今の特権である能力だ。それを聞いてヴィッツは
「(あ、やっぱ俺の思い違いか。昨日聞いたグレイの声だったわ)」
と納得した様子でそのまま歩いていった。こうして城を出て街を抜け馬車で港まで向かう。港の一角の船着き場にはマストを二本備えたヴィッツたちが悠々と乗れるくらいの、しっかりとした小さな帆船が泊まっていた。
「みなさーん。これからの航路はサウザントからナトルイア島ですー。普段は無人島のため船の行き来はないですが、特別に用意していただいた船に乗ります! もちろん専属の船員の方々がいらっしゃいますのでゆっくり休んでいただけます! でも一度ナトルイア島に到着すると船は別の任務でしばらく離れてしまうので、再度この島に寄れるのが十日後になります。食料は皆さんが準備してらっしゃる分以上、こちらでも用意しております!」
ナスティの話では最低十日間の無人島生活となるようだ。
「無人島には恐らく昼過ぎに到着すると思います。それまではゆっくりとおくつろぎください!」
そう言ってナスティは船尾にある木の四角いテーブルと座り心地のよさそうなソファの設えられた休憩室へと案内した。それぞれ荷物を休憩室の角に置き、ソファに座った。ヴィッツたち四人は雑談をしながら島に到着するのを待つ。一方ナスティと彼女は甲板の先端の方にいた。
「大丈夫でしょうか、十日もグレイとあなたが離れた状態が続くなんて。正直不安です」
ナスティが心配する。
「恐らく……大丈夫だと思います。彼も後からすぐ来ると言ってましたし、十日経つまでには合流できると思います」
長距離そして長時間の分離はお互いの命にかかわること。それだけにナスティは彼女のことが心配だった。
「あなたは精神を蝕まれ、彼は肉体を蝕まれる。やっぱり二人でひとつの存在なのですね」
初めてお互いが別々の長期任務に行った際、彼女はまるで精神干渉を受けたように発狂し、彼は攻撃を受けてないのに体中が傷だらけになった。なんとか城に戻らなければとその一心で狂いながらも傷だらけになりながらも城へと戻ろうとした。城に到着する前に再会した瞬間、彼女は心の平穏を取り戻しそしてグレイの体の傷も消えた。それをきっかけにお互い離れ離れになってはいけないのだと悟った。それ以来任務はどちらか片方は必ず城にいさせることでもう片方に異変がないか、異変があれば即座に戻らせることを重視し、また長距離の任務の場合は両者同行する形で任務が与えられた。それでも時折距離や時間を取りすぎて症状が出ることがあったのだ。その度に即座に強制帰還魔法が使われていた。
「本当に無理だけはしないでくださいね。症状が現れたらディア様に連絡します」
そう言ってナスティは魔結晶(まけっしょう)と呼ばれる特殊な宝石のように加工された状態の不透明な緑色の石を取り出す。どうやって作られ、どんな用途で使われていたか全く判明されていない、形も色も法則性がなく発見に関しても不明瞭で入手するのが難しい不思議な石。人はそれを「魔結晶」と呼ぶことにした。ナスティが持っている物はほんの少しだけ解析が進んでいる石のひとつで、伝えたい相手に言葉を送れる効果があるが使用後に消滅してしまうところまで解析結果が出ている。貴重品としてサウザントの魔法科学研究所で保管されていたものを今回の任務のために国王命令でその石をナスティに渡されていた。
「それだけディア様にとってグレイもあなたも大事な存在なの。だから本当に些細な事でも、何か異常があったら言ってね」
ナスティの言葉に彼女は頷いた。ナスティと彼女、そして休憩室にいるヴィッツたちがそれぞれ色々な話をしているうちに、気付けばナトルイア島に到着した。島の周りはぐるりと一周砂浜で囲まれていて、島の真ん中は下から頂上までぎっしりと青々した木々が生い茂る山があった。大昔の記録では活火山だったらしく何年かに一度は噴火していたらしい。砂浜にも溶岩の塊らしきものや飛んできたであろう巨大な岩など噴火の形跡がまだ残っているようでぽつぽつと転がっている。しかし頂上が丸みを帯びているため今はすっかり噴火もしなくなったことが伺える。何年も経つうちに木々に囲まれる山となっていた。六人は手漕ぎボートに乗り島へと上陸した。それを確認すると船はまた引き返しサウザントの港に向かった。この山のどこかにカルロ王子がいる。彼らは木々の山の中へと歩いて行った。
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