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五章【真実】
四十一話 竜の洞窟へ
しおりを挟む一行がようやくたどり着いた街はカナという名の街だった。見た感じは今まで訪れた街と大差は無い広い街だ。水色や金色の髪の人も希にいるようで目に入る。海岸沿いで港もあり、どうやら他の大陸とも行き来があるようだ。
「んー、なんか変な感じだなぁ。セルヴィーテがここに人を入れるのを警戒してる割には、港があって他大陸とのやりとりもあるってのに、なんであそこまで警戒すんだろう」
カルロがそう全員に話す。それに対してザントは
「機械、と言う文明をこの大陸に取り入れることを阻止してる、とか?」
と意見を述べる。
「ほら、魔法というかこの大陸は竜が住む大陸。機械と相性が悪いとか、そう言うものがあって自主的に避けてるのかなって僕は思ったんだ」
ザントの言葉に
「それにしては海峡の流れまで変わってる。海峡全体に結界も張ってる。大掛かり過ぎるのよね」
とスティアが言う。
「とりあえず案内所に行って、宿の場所とか聞いとこうぜ」
ヴィッツがそう言うと一行は案内所を探した。旅人向けの案内所に立ち寄り宿や食堂そして浴場の場所を聞くついでにこの大陸のことについて案内人に聞く。他に旅人はいないようで、カウンターの案内人だけだった。
「ええと、俺たちこのあたり初めてなんだけど。宿とか大浴場の場所を教えてほしい。あと、このあたり特有の食い物とか名所とかあるかい?」
カルロがそう聞くと案内人は宿などの施設の説明をした後
「名所や名物は沢山ありますよ。豊富な海産物に北西付近の農村地帯で採れる野菜や果物。世界最大とも言われるグルドア大陸に無いものも沢山あります」
案内員の口から出た食べ物の話にグレイとザントが反応する。さらに案内人は
「名所なら世界の滝壺と言われる巨大穴の滝や、魔法石がよく取れる鉱山もあります。でも何よりどの大陸にもないものがあります。それが、竜の洞窟です」
その言葉に全員が黙り込んだ。そんな一行とは裏腹に案内人は淡々と話を続ける。
「この大陸は竜の住む大陸です。一部では神聖視されていますが、それを除けば普通の大陸なんですよ。でも今は違う。竜が呼んでいるんです。八つの精霊を宿し勇士と光を司る者と闇を司る者が来るのを待っています。竜人を目覚めさせるために、ね」
と案内人は一向に目線を向ける。
「それがあなた方なのでしょう? 竜の住む洞窟付近の村から連絡が来ておりました。竜のお告げによると、近々八人の旅人が来るとのことでした。まあ私は案内人ですのでそこまでしか話を聞いてませんが、街の人たちは知らない話なのでご内密に」
どうやらこちらの事情を知っている人のようでカルロは
「その竜の洞窟ってのはどこにあるか教えてもらえるか」
と聞く。案内人は
「ここから北に真っ直ぐ二、三日歩いて行くとトラースンという村があります。そこは竜を祀る村。小さな村ですが、竜の神の使いが洞窟からやってきて、竜からのお告げを伝えに来るそうです」
と話した。カルロは
「いや、充分な情報ありがたい。とはいえ、まさかこんな案内所で最重要内容を聞くとは思わなかった」
と言う。
「先ほども言いましたとおり、街の人々は竜の洞窟のことは知っていても、ただの観光名所と思っていて、普通に生活しているだけです。この案内所は竜を祀る村からの伝言を預かる由緒正しき役目を担っています。これはごく一部の者のみが知る内容です。私も貴重な体験が出来る時期にこの仕事が出来てよかったです。次は一体何年後になることやら」
案内人の言葉に
「千年に一度、じゃねぇのか? 親父から聞いた話じゃ千年毎にって聞いたが」
とカルロが聞くと
「元々は不定期だったそうです。ただ今言えるのは千年前に事故が起きて、その事故の修復が千年後の現在である、と言うことです。私も知っているのはそこまでなので、トラースンの村で聞いた方が確実です」
と案内人は答えた。
「そうか。とりあえず、その村を目指せばいいんだな。色々情報ありがとうな!」
カルロが礼を言うと
「世界の命運をかけた旅、無事達成できることを祈っております」
と案内人が一礼して一行が出て行くのを見送った。宿に到着し、各自部屋に荷を置いて全員がロビーに集まる。全員風呂に入りたいとのことで、大浴場のある温泉に行く。こうして身をきれいにした一行は街の中を散策する。するとどこからともなくおいしそうな匂いがする。それにグレイとザントがすかさず反応し、走り出した。
「あっ! 兄貴! ザント! 飯の匂い嗅ぎつけたな!」
慌ててカルロは二人を追いかける。
「グレイもザントも食うことには熱心だよな」
ヴィッツが笑うと
「まあ、あの二人は魔力の器が大きいから仕方ないわ」
ミーンも笑う。グレイとザントが店の前でカルロに食べたそうに何か言ってるのをヴィッツたちは遠巻きから見た。そして三人の近くまで行き、全員で色々買って食べ歩いた。
「トラースンの村に行くのに二、三日かかるんだっけか」
ヴィッツがそう言うと
「最低四日分くらいの食料は用意しといた方がいいな。寄り道がないとは言えないからな」
カルロがそう答え
「食料の調達は私たちに任せて」
とスティアが言う。
「食べ歩きして分かったけど、結構日持ちするタイプの軽い食材が多いみたいだから。色々厳選してみたいのよ。ミーンも手伝ってくれるかしら」
ミーンにそう言うと
「ええそうね。料理は基本私とスティアと、たまにカルロだから。私とスティアで食料はそろえた方が良いと思うわ」
と返事が返ってきた。
「じゃあ私は運ぶ係としてついて行きます!」
ナスティも食材調達についていき、男四人とティアスが残された。
「ああ、なんか取り残されちまったな。俺たちはどうする?」
ヴィッツがカルロに言うと
「まあ兄貴とザントは食うのに忙しいからな」
と二人を見る。両手いっぱいに食べ物を抱え無心で食べている。
「俺は兄貴とザントが食い過ぎないように見張りすっから。ヴィッツは姉貴とデートでもしてこい」
とカルロが言う。
「なっ、おいそりゃどういう意味だよ!」
ヴィッツが慌てると
「俺が気付いてないとでも思ったか? もしかしたらゆっくり出来るのもこれが最後かもしれねぇ。姉貴と楽しんでこいよ」
とカルロはグレイとザントの元に行き
「はいはい、二人ともここに座って。食べ終わるまで動くなよ」
とグレイとザントを近くのベンチに座らせて食べ終わるのをずっと見守っていた。
「ったく、グレイのやつが話したわけでもなさそうだし……。カルロにはバレちまってたのか……」
ヴィッツがため息をついてるとそっとティアスが手を握り
「ヴィッツ。私で良ければお供します」
と笑顔で言う。
「はぁ~。そう言う笑顔を見せるな。俺の決心が揺らぐ」
ヴィッツがそう言うと
「私もヴィッツのこと、好きですよ?」
とティアスが言った。
「まだこの姿になる前、ヴィッツは私のことを助けてくれた。そのときから私はヴィッツのことを慕っていました。でも私は過去に戻らなければならない。だから、ずっと気持ちは隠していました。でも、お互い同じ気持ちだったのですね」
と笑顔で言う。
「ティアスは元の時代に戻らなきゃならねぇ。ここでお前のことが好きだっつっても、結局は実らない恋慕だよ」
ヴィッツが諦めた様子で言うと
「生まれ変わったら必ず会いに行きます。でも、それまでに素敵な人に出会ったのなら、その人を大事にしてくださいね。もし再会出来た時にお互いの気持ちに変わりが無ければ、そのときにまたお付き合いしましょう」
とティアスは言った。その言葉に
「ははっ、そんときゃ俺は少なくとも三十過ぎてると思うぞ? それでもいいのか?」
ヴィッツがそう言って笑う。
「私は会える時期にもよりますが、十歳くらいかもしれませんね」
「そりゃあ流石に付き合うのは無理だ。もうちょい大人になってからだな」
二人はそう言って笑う。ヴィッツは
「この旅が終わって、ティアスが過去に戻って生まれ変わったなら。またお前と会いたいよ」
ティアスも
「私も記憶を持ったまま生まれ変わって、貴方に会いたいです」
そう言って二人は空を眺めた。確証のない約束だが、二人は旅が終わった後の再会を願った。
数日この街で過ごし、しっかりと旅の準備をした。
「ゆっくり休めたし、また三日くらいは野宿ね。そういえば魔物の話とか聞いてなかったけど……」
スティアがそう言うと
「ああ、その辺は後で俺が案内所の人に聞いてきた。やっぱりこの大陸自体魔物が出ないらしい。あとセルヴィーテからリュナ大陸への移動が禁じられてるのは、セルヴィーテ側の機械をこちらに極力流さないためだとも聞いた。竜が拒むんだとさ。だからセルヴィーテより南の方の街とは交流があるらしい。それくらいセルヴィーテは竜人に関して重要な場所であり、だがリュナ大陸としては受け入れがたい街ってことだ」
とカルロが聞いてきたことを話す。
「やっぱり機械って魔力の強いものが拒むものなんだね」
ザントがそう言うと
「そうね。竜がどんなものかは分からないけれど、世界の均衡を保つ竜人を作り出す存在。魔力が強いのかもしれないわね」
とミーンが言う。
「そういえばミーンは千年前の竜人そのものに会ってるんだよね? どんな姿だったとか覚えてる?」
ザントの問いに
「ええ、はっきりと覚えてるわ。見た目の形は人とほぼ同じ。でも額に角が一本生えていて、背中に翼があった。鳥や虫の翼とは違う、なんて言うのかしらコウモリのような、でもちょっと違う感じの大きな翼だった。そしてトカゲのような尻尾が生えてたわね。足下は私が水面から顔出して見てたから分からないわ」
ミーンは竜人に会った時のことを話した。続けて
「そして竜人は『この時代の歪みは正せるが千年しか持たない。だから千年後に本来この時代に目覚めるはずだった光を司る者を見つけ出して、本来の意味での光と闇の均衡を保て』と言ったの。その光を司る者が姫、そして闇を司る者がグレイだった。竜人は……竜の洞窟に行けば会えるかしらね」
と話す。カルロが
「まあその竜人とやらを見つけて、兄貴と姉貴の力で光と闇のバランスを保つ。その竜人に辿り着けるのが俺たち八勇士ってわけだ。さあ皆、忘れ物はねぇか?」
と確認すると全員うなずいた。
「それじゃあ北に真っ直ぐ向かうか。ザント、一応確認に指し示す方向を常時出してくれ」
「うん。分かったよ」
カルロに言われて街から北へと向かったザントは、杖を取り出し方角を確認する。
「緑の矢印は北を指しているね。この大陸に到着した時よりも大きくなってる」
ザントがそう言うと
「竜の、そして竜人の元に近づいてる証拠ね」
ミーンが言った。こうして街から離れた一行は北にあるというトラースンの村を目指した。森にさしかかると道があり、手前には「この先トラースン村」と書かれた看板があり村まで真っ直ぐ行けることが分かる。
「道があるってことは、このトラースンの村も外とは一応交流があるってことか」
カルロがそう言うと
「案内所の人も話してたくらいだからね。罠であるようにも見えない。矢印を確認しつつ進もう」
とザントが先頭を歩く。こうして長い森と草原を三日かけて歩き、四日目の昼には建物が見えてきた。
「お、村が見えてきたな」
カルロが眺めているとヴィッツが
「あーなんかワルトゥワの村を思い出すような風景だなぁ」
と言う。
「だだっ広い小麦畑に牧場に。まあ建物の形とかは違うけど田舎って感じは同じだ」
そう言ってヴィッツは笑う。
「ははっ、ヴィッツの住んでるところはこんな雰囲気なのか。よし、とにかく村に入ろう」
カルロの言葉に従って一行は村へと少し駆け足で向かった。村の入口に到着すると村人たちが農作業の行き来をしたり、子供たちが遊んでいた。そしてその村の奥に高い岩山がそびえ立つのが見えた。村を一望していると、一人の老人がこちらにやってくる。
「おやおや、こんな辺鄙な村に観光客かい? 竜の洞窟を見たがる客がよく来るが、あそこは我々でも入れん特殊な洞窟じゃ。入口を眺めては皆帰っていくよ」
と老人は話す。老人に対してカルロは
「えっと、俺たちは観光で来たわけじゃない。カナの街の案内人に聞いたんだ『竜人のことを聞きたかったらトラースンの村に行け』ってな」
すると老人の目つきが変わり
「なにゆえ竜人様を探っておるか聞いてもええか?」
と聞いてきた。ここまで来て隠す必要は無いと判断したカルロは
「その、信用してくれるか分からねぇが、俺たちは竜人を探している『基礎精霊を宿した八勇士』なんだ」
と話す。その瞬間、全員の精霊が現れ
「この人たちは選ばれし人。竜人を目覚めさせに来た勇士たちだ!」
とカルロの精霊アズィエーサが老人に話す。それを見て
「お、おお……ついにこの時が来たのか!」
老人は後ろを振り向くと
「おーい! 皆! 長を呼ぶのじゃ! 竜人様の目覚めの時が来た!」
と声を上げる。村人は動きを止め、一斉に散り散りになる。そして村の建物の奥から一人の中年男性が現れた。続々と村人も集まる。男性はカルロたちの前に来て、現れた精霊を見る。そしてお辞儀をして
「八勇士の皆様、ようこそいらっしゃいました。この村に住む我々は代々竜の神に仕える一族です。長年語り続けられた千年前の事故の修復へ、この時代に八勇士がやってくると竜の神の使いの方から先日聞いておりました。それが今日でしたか。よくぞここまで辿り着きましたね。カナの街から来たのならお疲れでしょう。宿と言えるものはありませんが、皆様が休める家を用意しましょう」
長である男性は村人たちに何か話して、そして話を聞いた村人数人はどこかへ行った。しばらくして戻ってきた村人からそれぞれ二人ずつ家に泊められるという四軒の家を紹介された。
「あ、いやぁ……何なら俺たちは村の外でテントで寝泊まりしてもいいんだが……」
カルロがそう言うと
「いえ、大事な客人です。それに竜の神に会うのは今日では遅い。あの山を少し上らなければならないのです」
と言って村のすぐ北にある岩山を指す。すぐ見える位置に洞窟らしきものがあるが
「あの洞窟が入口ですが、遠回りしなければ辿り着けないのです。だから、今日はゆっくり休んでください。皆様おそろいのところ、散り散りになって申し訳ありません」
そう言って全員に休むことを勧めた。
「泊めてもらうだけでありがてぇ。じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうよ。なあ皆、どう分かれる?」
カルロがそう言って話し、ヴィッツとグレイ、カルロとザント、スティアとナスティ、ミーンとティアスでそれぞれ村の家で休ませてもらうことになった。各自泊めてもらった家で食事を振る舞われ、そして風呂にゆっくり入り部屋に案内された。ミーンとティアスは
「ついに竜人に会える。そして竜人を連れて姫とグレイで世界の光と闇の均衡を保つ。私たちの旅ももうすぐ終わりなのね」
「はい。任務のために頑張ります。そして、この時代とのお別れも……覚悟は決めています」
「姫、私も正直皆と別れるのは辛いです。最初は姫を連れ戻すことだけが最優先だった。でもこうやって旅を続けて、彼らと共に居るのも悪くない、そう思うようになった。でも、私は任務を優先します」
「ミーンも家族に会いたいでしょう。私も父や母に会いたいです。そのためにも、無事終わらせましょう」
「ええ」
そう言って二人は話す。一方スティアとナスティは
「ああー、ようやく竜人が目の前なのね」
「どんなお姿の人? 人と呼んで良いのか分かりませんが、どんな方なんでしょうね?」
「私にも分からないわね。だって直接見てるの、千年前にいたミーンだけだもの。話聞いただけじゃちょっと想像つかないわ」
「そうですね! 明日会えることですし、とにかく今日はゆっくり休みましょう!」
と明日に向けて二人はベッドでゴロゴロと休んだ。その頃、カルロとザントは
「なんだろう。凄く神聖な場所にいるのに、どことも変わらない感じなんだよね。まあ魔物が出ないってところが違うけど」
「そうだなぁ。『ここが神聖な場所だ!』って強調しすぎるのも危ういから、竜が住む洞窟がある名所、くらいにしか一般的には知られてないんじゃねぇかな」
「竜や竜人がいることは長老様から話は聞いてたけど、まさか僕がその世代の人になるとは思わなかったよ」
「俺も同感だ。ヴィッツたちが島に来て、それからどれくらい経ったかねぇ。まさかこんな世界の命運を分けるような旅に出るとは思わなかった。だが、俺が国王になるために色々吸収させてもらったよ。俺にとっちゃかなり実りのある旅になったな」
「流石カルロだね。何事も前向きに捉えられるって普通じゃ出来ないことだよ。君といると色々と楽しいことに巻き込まれる。エルフの杖を封印したら、僕もグレイと同じで魔法科学研究所にでも入ろうかな」
「あんたはダメだ! 俺は兄貴を親父に取られちまうんだぞ? 一人寂しい俺の話し相手になってくれよ」
「何言ってるんだい。君は国王としての仕事が最初は山積みでしょ?」
「だからそれを補佐してくれってことだよ。絶対俺とスティアだけじゃ間に合わねぇ」
「なるほど、そういうことなら僕で良ければ補佐として付き合ってあげてもいいよ」
「なんだその上から目線。あんた、たまになんかそういう意地悪な面見せるな」
「お互い様、でしょ?」
二人で城に帰った後の話をした。ヴィッツとグレイはベッドに隣同士に座り
「お前からもらったピアス……。ここに来るための大事な鍵だった」
「そうだな」
「お前に出会わなかったら、俺は一生自分の殻の中に閉じこもっていたんだろうか」
「どうだろうな。もしかしたら村も無事で家族と平和に過ごしてた。そんなこともあったかもしれねーしな」
「家族の死は辛かった。だが、俺は大事なものを得て、そして知った。お前という親友だ」
「お前、こういうときだけは面と向かって『親友』って言ってくれるのに、他の奴らがいるとはぐらかすよな」
「そっ、それは……恥ずかしいだけだ」
「何恥ずかしがってんだよ。俺と親友なのが恥ずかしいってのか?」
「そう言う意味じゃない」
「じゃあ何なんだよ」
「これは俺の中だけの秘密だ。話せる時が来たら話す。だから今はあまり詮索するな」
「何か分かんねーけど、まあ、お前の気持ちを根掘り葉掘り聞くのも失礼だしな」
「分かってくれればそれでいい。明日、無事竜人に会えるよう、今日は休む」
「ああ、おやすみ」
そう言ってそれぞれベッドに入った。一夜明けて八人は荷を村に置いて竜の洞窟に向かうことにした。村の長に洞窟への案内を命じられた青年が先頭を歩き、その後ろを八人がついて行く。こうして一時間ほど山道を登ると洞窟の前に到着した。案内の青年が
「ここは竜の神に選ばれた勇士たちだけが入れる場所です」
そう言って青年が入口に手をかざすと、光の壁が浮かび上がる。そして入ろうとする青年は、その光の壁で入れないことを見せた。
「皆様なら通れるでしょう。入口は暗いですが、奥に入れば明るいと聞きます。そのまま真っ直ぐ進むと水の道がある、とまでは聞いております。その水は人を弾くそうで、水の上を歩けるとかなんとか。竜の神の使いの方がそうおっしゃっておりました」
青年は一礼して、皆が戻るまでここで待っていると言う話をした。
「ついに竜に、そして竜人に会えるのか」
カルロの一言に全員は洞窟の中へと入った。徐々に入口から離れ、暗くなっていく。そして曲がりくねった洞窟を進むと明かりが見えた。そこには光る水が洞窟の通路のように漂っていた。
「これがさっき聞いた人を弾く水ね」
ミーンはそう言って水面に手を当てる。すると弾力で手が弾かれた。
「ここから先の通路は全部この水の上を歩かなきゃいけないみたいだね。歩ける面がどこにもないもの」
ザントがそう言って水路の先を見ると、水面以外はない通路となっている。
「これ、本当に沈まねぇよな……」
カルロが心配そうに眺める。ミーンはそのまま水面の上に立った。少し揺らめく水面に
「ちょっと揺れるみたいだけど大丈夫そうよ」
と言って少し歩いてみた。ザントも水面に乗り
「わぁ、本当だ。僕でもちゃんと水面歩ける」
と感心する。スティアとナスティも飛び乗って
「何これ! 面白い!」
「水のはずなのにぷよんぷよんしますね!」
とその弾力で飛び跳ねて遊ぶ。
「私でも大丈夫でしょうか」
ティアスが心配すると
「もし落ちるようなことがあったら俺がすぐ受け止める」
とグレイがティアスの背中に手を当てて二人一緒に前に進む。
「あ、本当に歩けるんですね」
「水の精霊持ちの俺でも大丈夫なのか」
カルロは
「本当に沈まないよな? 鎧とか槍とか錆びるの嫌なんだが」
と言って恐る恐る水面に足を付けた。
「お、おお……マジで水面歩けるのか。なんか変な感じだな」
と言った。ヴィッツも
「皆大丈夫そうだなー。じゃあ俺もっ!」
そう言って勢いよく水面に立った瞬間、ヴィッツの体が水に沈む。
「おわっ! なんだこれ! た、助けてっ!」
その場に居た全員が驚く。慌ててグレイとカルロがヴィッツの元に行き手を掴む。手を掴まれて安定すると
「あ、これ水の深さ腰のちょっと上くらいか……って、そんな話ししてる場合じゃねぇよ! なんで俺だけ水に沈まなきゃなんねーんだよ!」
と混乱した様子で叫ぶ。するとミーンが
「さっきの人が言ってたわよね『人を弾く水』だって。つまりそれって、私たちは人だと認識されてるけど、ヴィッツは……」
と言いかけた時、全員の脳内に低い声が響く。
『よく来たな、基礎精霊を宿し八勇士……そして、我が息子よ』
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