3IN-IN INvisible INnerworld-

ゆなお

文字の大きさ
上 下
46 / 58
六章【決着】

四十五話 愛する人を殺せますか

しおりを挟む

 サウザント城ではディア王とクレセアとそしてストナが第七会議室にいた。
「父上。ストナが急に一番高い所に行きたいと言うのでここに来ましたが、連れてきてよかったですかね?」
 クレセアが尋ねると
「私もいるから構わない。子供は高い所から風景を眺めるのも好きなものだ。ほら見てごらん」
 そう言ってディア王が指さす先では、東の窓から外を眺めている。
「父上にそう言ってもらえてよかったです。ストナ、城の一番高いこの場所からの眺めはどうですか?」
 クレセアが聞くとストナは海の方を指さす。気になったディア王とクレセアは窓の外を眺めてみる。すると海の先の方にどんよりとした雨雲が一か所に集まっていた。
「集中豪雨……ですかね? でもあの辺りっていつも晴れてて雨が降る場所じゃなかったような気がします」
 クレセアがそう言うと、ディア王の顔つきが変わる。
「あの場所は……ルードリー海域!」
「ルードリー海域といえば不思議な場所だとは聞いていますが、それがどうかしたのですか?」
 クレセアの問いに
「私も詳しくは知らないが、竜人に深くまつわる場所である、と聞いている。あの海域の上では雨が降らないはずだが、竜人に何かがあった、のだろうか……」
 と答えつつ考えているとストナが突然会議室から出て下への階段へと走っていった。
「あっ! ストナ! まだここに慣れてないんですから迷子になりますよ! 待ってください!」
 クレセアは慌ててストナを追いかけた。一人残されたディア王は雨雲をずっと見つめていた。

 一方、ヴィッツたちがたどり着いた先はそれこそ数歩歩けば海という、小さな小さな島の集合地帯だった。そしてその中心には巨大な山になった島があり、その周りを囲むように幅広のドーナツ状の陸地の島があった。ドーナツ状の島の一か所と山になった島が繋がっている。一行が到着したとき空は晴れていたが、徐々に雲が集まってくる。そしてどんよりとした重苦しい雲が広がった。
「まるで、今から儀式が始まるかのように雲が出て来たわね」
 ミーンがそう言うと
「まさにその通りだ。今頃島より少し外のルードリー海域は円を描くように、豪雨になってるよ。海域に人間を近寄らせないようにな。それじゃあ中心のあの島の中に入る。こっから島々を跳んで渡り歩くが、全員これくらいなら跳べるよな」
 全員うなずき島を渡って中心の巨大な島の端にたどり着く。
「この島の中が儀式の場だ。中に入れば開けた空間に出る。中心にそうだなぁ……エルフの杖が封印されてた時の台みたいなのがある。あそこと違って土で出来てるけどな。真ん中がくぼんでて水が入ってるが、俺以外は絶対に手を入れるなよ。世界が滅んでいいなら入れてもいいがな」
 ヴィッツはいつになく真面目な表情で話す。
「その水はそれほど大事な物なのね」
 ミーンの言葉にヴィッツはうなずく。そして
「この入り口の方向が北を指してる。中に入れば俺が北側に立ち、ティアスが西側、グレイが東側に台を挟むように向かい合って二人が立つ。ナスティは俺と向かい合う南側。スティアは北東、カルロは南東。ザントが北西でミーンが南西に立つ。俺とティアスとグレイを外側から囲むように五人には立ってほしい」
 ヴィッツの指示に全員うなずく。
「儀式自体の進め方は中で詳しく説明する。じゃあ中に入って、各自指定の場所に立ってくれ」
 ヴィッツを先頭に中心の島の洞窟に入る。先へ進むと中は明るくなっている。壁際の床はくぼみ、水で囲まれている。ヴィッツの言った通り空洞にたどり着くと、水がたまった土で出来た台があった。ヴィッツがまず台の北側に立つ。それを見てティアスとグレイが台の西と東に立つ。その三人を囲むように残り五人は指定の位置に立った。それを確認したヴィッツは
「よし、立ち位置は問題ない。じゃあ儀式の進め方について説明する。まだ杖は普通の杖だから二人は安心してくれ」
 と言い、説明を始めた。
「この台の水の中には世界の天秤が眠っている。竜人のみが手にすることが出来る大事な世界の光と闇の均衡を調整するための天秤だ。俺は竜人の姿になったら、その天秤を呼び覚ます。そしたらティアスとグレイは杖を両手で握って地面と垂直になるように持つ。儀式の間は二人は目を開けちゃいけねぇ、絶対にだ。成功か失敗したら目は開けて大丈夫だ。儀式中は目を閉じて杖に祈りを捧げる。ティアスは光の力を、グレイは闇の力をそれぞれ杖に注ぐんだ。そしてその具合を俺が見て、どっちかが強すぎたり弱すぎたりしたら、どちらかに合わせるように俺が指示を出すから、その都度祈りの力を微調整してくれ」
 ティアスとグレイはうなずいた。
「時間はかかるがこの祈りの力が均衡を保ち、一定時間すぎれば天秤がまた眠りにつく。そうすりゃ少なくともこの時代の均衡は保たれて終わり。もし片方の力が崩れたら、強すぎた方の化身が表に出るから、それを倒してまた儀式は一からやり直しってことだ」
 ヴィッツの説明に
「光か闇の化身が出た場合、遠慮なく倒しちゃっても大丈夫?」
 ザントが疑問を持ったようで質問する。ヴィッツは
「化身はいわゆる『集まりすぎた光または闇の力の集合体』だ。精霊でもないし人間でもない。あくまでも実体化されたものだから、倒せば消滅してマナに変換される。安心して倒して構わねぇよ」
 と説明した。
「そっか。なら、魔物みたいに遠慮なく倒しちゃっても大丈夫なんだね」
 ザントはうなずきながら納得した。それに対してヴィッツも
「そういうこった。遠慮なくぶっ倒しちまっていいが、失敗したってことは儀式を一からやり直しになるから、その分の余力はちゃんと残しとけよ」
 と言う。次にナスティが手を上げ
「はいはーい! もし儀式が失敗続きになったり、まだ途中だけど魔力が足りなくなった場合。また街に戻ったりして休むことは出来ますか?」
 と聞いてきた。すると
「そりゃ無理だな。もうここに来た以上『何事もなくあるいは失敗はあってもなんとか光と闇のバランスが保たれて終わる』か『最終的に全員力尽きて光と闇のバランスが完全に崩れて世界が終わる』かの二択だ。島に入った時点で、もう儀式は進行している。単に俺がまだ開始の合図を出してないだけだ」
 とヴィッツは頭をかきながら言った。
「それくらい重要な任務なんだよ」
 ヴィッツの言葉に
「それはいけませんね! ではもう一つ! 私たちも結界張りますが、それは各自力加減はバラバラでも大丈夫ですか?」
 ナスティが再度質問する。ヴィッツは
「それは大丈夫だ。俺とティアスとグレイの力に余計なもんが入ってこねーよーに結界張ってくれれば、各自の力加減は関係ねーから安心しな。あ、あと結界張ってる間はお前らも目を閉じてくれよ。それと儀式中はよっぽど俺が声掛けしない限りは声は極力出さないでくれ」
 と笑う。
「分かりました! 王子! スティアさん! ザントさん! ミーンさん! 私たちも結界を張る者として頑張りましょう!」
 ナスティの掛け声に四人はうなずく。
「結界に関しては五人に任せときゃいいだろう。それじゃあそろそろ儀式を始める。ティアス、グレイ。準備はいいな」
 ヴィッツの声掛けに二人は頷いた。
「じゃあ始めるぞ。アディル シアーザ!」
 ヴィッツがそう唱えると姿が一瞬にして、竜の洞窟で見た竜人の姿に変身した。そして台の水から金色の天秤が現れた。ヴィッツはその台座を両手で持ち
「これより光と闇の均衡を保つための儀式を開始する。結界を」
 その言葉に五人は目を閉じ各自結界のための魔法に集中する。ヴィッツが持った天秤にはティアス側に白の光、グレイ側に黒い光が乗っている。天秤はかなり白側が上に上がっている。
「光と闇の天秤に力を」
 こうして二人は杖を握り閉め、目を閉じる。
「光を司る者は強く祈り、闇を司る者は弱く祈り……」
 ヴィッツの言葉に二人はそれぞれ祈りを杖に捧げる。徐々に白側の皿が下がっていく。しかし祈りが強すぎるのか、逆に白側の皿が下がっている。
「光を司る者は祈りを弱め、闇を司る者は強く祈る……」
 難しい力加減に悩みつつもティアスは祈りの力を弱める。またグレイもヴィッツに言われた通り、先ほどより強く祈る。こうして何度もお互いの皿が上がり下がりし、それをヴィッツが指示を出して調整する。こうして三十分以上が経過した。それでも皿は同じ高さを維持できない。
「ちきしょう……天秤の力にかなり揺れが生じてる。なんとかここを突破出来ればもうすぐ終わりだ。二人とも頑張ってくれ」
 ヴィッツはそう言ってもう少しであることを二人に伝える。二人とも顔に大量の汗をかいている。かなりの負荷がかかっているのがよくわかる。
「もう少し、もう少しだ……あと、あとす……! ティアス! どうした!」
 突然、白側の皿が急激に落下した。ティアスは杖を握りながら必死に立っているが
「力が……突然杖に全部吸い込まれて……制御が……出来なっ!」
 そうティアスが言うと同時にグレイが杖を握ったまま倒れてしまう。
「ティアスの力が強すぎたか! その力がグレイに流れ込んでバランスが崩れた! おい、皆! 光の化身が出ちまった! 外に出るぞ!」
 そう言ってヴィッツはティアスから杖を離す。すると、ティアスは目を開けて
「ごめんなさい……。急に杖が私の中の光をすべて持っていこうとした……」
 吐息を上げて言う。ヴィッツは
「お前のせいじゃない。とにかく光の化身を倒すのが先だ。動けるか?」
 と聞くとティアスはうなずいた。そして
「なんとか、動けます。戦力にはならないかもしれませんが……」
 と言う。ヴィッツはティアスが動けることを確認すると
「全員目を開けろ! カルロ! 倒れたグレイを外まで運んでくれ! すまねぇがお前らの出番だ。ティアスは光の化身とは相性が悪い。そしてグレイは光の化身に対しては強いんだが、今の状態じゃ戦えねぇ。とにかく、全員外に出るぞ!」
 そう言ってヴィッツは外へと走っていった。ナスティがティアスを支え、カルロがグレイを抱えてそして全員外へと出た。ヴィッツはドーナツ状の島を北に向かって走っている。その北側には巨大な逆三角形のような形をした、両手の生えた光の塊が宙に浮いていた。
「あれが……光の化身。凄く神聖な力があふれてる。でもあれは、本当に暴走してる」
 ザントがそう言ってエルフの杖を取り出し
「フロートエア!」
 とヴィッツ以外のそばにいる全員に魔法をかけた。
「急いでヴィッツに追い付こう!」
 ザントたちはヴィッツの後を追う。こうしてヴィッツは光の化身の前に立つ。そして
「セデン シエルン!」
 と唱えると、ヴィッツの三倍ほどの巨大な剣が現れた。
「なんだその武器!」
 カルロが驚くと
「これは、竜人の時だけ呼び出して扱える俺のメイン武器だよ! かっけーだろ!」
 とヴィッツはニヤッと笑って翼をはばたかせて宙に浮く。
「こいつは俺を中心に攻撃してくる! でもこいつの腕がそっちに流れてくっから、その腕を攻撃してくれ! 魔法使えるヤツは本体の方がより攻撃が効く! 極力俺が削るから援護頼むぜ!」
 気を失っているグレイを除いた全員が武器を構える。空中でヴィッツが飛びながら化身を攻撃する。その間にザントとミーンが魔法で本体を攻撃し、カルロとスティアとナスティはこちらに向かって攻撃してくる腕を攻撃する。ティアスは光同士になってしまうため、魔法があまり効かず全員の補助と回復に回る。ティアスの後ろにはいまだ目覚めぬグレイが倒れている。
「せめて魔法が効かないなら、私は皆を補助しながらグレイを護ります!」
 ティアスはそう言って魔法を唱え、全員を回復する。一方、こちらに向かってくる腕に攻撃をするカルロたち。
「ひえー。こりゃあ力の差がありすぎる。こんなの倒せんのか?」
 カルロがそう言うと
「なんだい、君らしくないこと言うね。ほら、いつものように言ってみなよ」
 とザントが笑いながら言う。するとカルロは
「いやあ、相変わらずあんたにゃかなわねぇな。それじゃあ俺の本気、いっちょ出しますかねぇ!」
 と槍で化身の手を高速突きする。それを見て
「そうそう、君にはそっちの方が似合ってる。さあ、僕も頑張るよ!」
 ザントもそう言ってサークレットを外し、魔法を唱えて化身の本体を攻撃した。こうして全員で攻撃し、徐々に化身の大きさが小さくなってきた。
「あとちょっとだ! もう少しで化身を倒せる! 皆、頑張ろうぜ!」
 ヴィッツの掛け声に全員が総攻撃を仕掛ける。その時だった。こちらに向かって攻撃した化身の腕がティアスの方に向かう。
「ティアス! 逃げろ!」
 ヴィッツが慌てて言うも
「今私が動けばグレイが攻撃されてしまう! 私が何としてでも止めてみせます!」
 ティアスはその場でグレイを護るように立つ。
「姉貴!」
「ティアス!」
「ティアスッ!」
 カルロとスティアとナスティが急いでティアスを護りに走りに行く。手はティアスに一直線に向かい、そしてティアスはバリアの魔法を唱えた。しかし、その手はティアスを攻撃せずに指が現れ、ティアスを握りしめる。
「!」
 掴まれたティアスはそのまま手に連れて行かれて本体の方に連れて行かれる。
「はっ、離してっ!」
 ヴィッツが急いでティアスを助けに行くも、もう一つの手に邪魔されて行くことが出来ない。ティアスがもがくも手はそのまま本体の前まで連れて行き、本体に突然現れた口の中に一気に飲み込まれてしまった。
「ティアスーッ!」
 ヴィッツが叫ぶ。しかし飲み込まれたティアスはそのまま光の化身の中心に姿を見せた。
「こいつ……まさか、ティアスを飲み込んで力を補充して、さらにティアスを人質に俺たちに攻撃させないつもりか! 本来化身は知恵などないはず。でもこいつは違った。くそっ! どうすりゃいいよ! これじゃあこいつを攻撃すればティアス自身も傷つく! 俺たちはこれ以上手出しができねぇ……」
 光の化身を倒さねば儀式の続きが出来ない。だがティアスを人質に取られた今、化身を倒すことすら出来なくなってしまった。ヴィッツは地面に降りる。
「何か……何か手段はないのか……」
 そう言って剣を仕舞い、ヴィッツが地面に膝をつきうつむいて震える。すると
「まだ手段はありますよ」
 と化身の方から声がした。全員が化身の方を向くと、化身の頭上に青色の鳥のような翼をはばたかせる人影が見える。その顔や姿は逆光で見えない。だが
「お前……まさか、青い死神!」
 ヴィッツがそう言うと
「なんだって? 大規模戦争が起こる度に現れて全員殺しちまうって言うあの青い死神のことか?」
 とカルロが聞く。ヴィッツは
「ああ、あの青い翼見たらそれ以外考えられねぇ。おい! 青い死神! まだ手段はあるっつったよな! それが何か教えてくれ! 頼む!」
 そう言って両手を地面につけ懇願する。すると
「これを使いなさい」
 と言って一本の金色の細長い槍が地面に刺さる。ヴィッツはその槍を手に取る。
「これは、槍か?」
 すると
「光の化身の弱点を突ける槍です。これがあれば一瞬に倒せるでしょう」
 と答えた。
「光の化身の弱点……。そりゃどこにある」
 ヴィッツの問いに
「光の化身の弱点、いわゆる人間の心臓。そう、彼女がいる場所です」
「!!」
 ヴィッツは絶句する。
「そりゃあ、ティアスのことも刺しちまうよな……。ティアスも……」
「死にますね」
 無残な答えに
「それじゃあ解決にならねぇんだよ! ティアスを助けなきゃ意味がねぇんだよ!」
 とヴィッツは嘆く。
「光の化身の弱点と彼女の心臓とには少しだけズレがあります。上手く彼女の心臓を避けて、光の化身の弱点だけ貫けば彼女は助かります。それを見定められるのは竜人、あなたです」
 そう言って青い死神と呼ばれた者は姿を消した。ヴィッツは
「俺だけが、見定められる……。あいつを……ティアスを助けて、光の化身だけを倒す。そんなことできんのか……」
 しばし考えたが
「いや、迷ってる場合じゃねぇ! ティアスを助けて、ヤツを倒すんだ! 俺が! 俺がやるしかないんだ!」
 と言いながらヴィッツは槍を握り、光の化身の方を向いて弱点である心臓のズレを探す。
「(見ろ! 見定めろ! 竜人しか見定められない、あいつとヤツの心臓のズレを探すんだ!)」
 眩しさにヴィッツが目を閉じる。すると、光の化身とティアスの影が色違いで見えた。
「(これか! これで心臓のズレを探すのか! よく見ろ! 落ち着け! 俺なら出来る! 出来るはずだ!)」
 ヴィッツは目を閉じ、二つの弱点のズレを探す。そして
「見つけた!」
 と目を見開いた。
「ティアスと化身の心臓のズレが分かった! だが……本当に僅かなズレだ……。俺は、失敗せずに貫けるのか……」
 ヴィッツの手が震える。成功するか失敗するか分からないほどのわずかな差に、震えが止まらなかった。そこにそっと誰かの手が触れた。それは
「ヴィッツ。大丈夫だ、俺がいる」
「グレイ……」
 目を覚ましたグレイが、槍を構えるヴィッツのそれぞれの手に自身の手を載せ
「お前ひとりに責任を負わせたりしない。俺も一緒だ。お前に伝えておく。ヨウア ヴィニィ スェトリァ リーヴィティトル」
 と言って励ます。
「お前……」
 ヴィッツはグレイの顔を見る。そしてうなずき
「分かった。お前の言葉、そして気持ちと覚悟。信じよう。行こう!」
 とグレイに言う。グレイはこくりとうなずいた。
「俺たちも信じてるぞ! 姉貴を助けてくれ!」
「姫を、助けて!」
「ヴィッツなら出来る! 大丈夫よ!」
「そうだよ! 君なら出来る!」
「ティアスを、お願いします!」
 全員の声援に二人はうなずき、そしてヴィッツは
「俺の竜人としての力をフル稼働するぜ! グレイ! お前も宙に浮けるようにする!」
 そう言ってヴィッツはグレイと共に光の化身の心臓の高さまで浮かぶ。化身は一切動こうとはせずじっとしていたが、ヴィッツが宙に上がったのに気づいたのか小刻みに震え始めた。
「こいつ……タダじゃ突かせねぇってわけか」
「ヴィッツ、どうする?」
 二人が迷っていると
「ストップムーブ!」
 とナスティの声が上がる。
「私が! この光の化身の動きを! 止めて! みせます! ぐぬぬ! 手ごわいですが負けませんよ!」

 ナスティは必死に魔法で光の化身の動きを鈍らせていく。
「化身の動きが止まったらお願いします! それまで! 力尽きてでも! 私が魔法を使います!」
 そう言って全身全霊力を込めてナスティは動きを止める魔法を唱え続けた。こうして徐々に光の化身の動きはゆっくりになり、遂に止まることに成功した。そして
「行くぞ! グレイ!」
「ああ! ヴィッツ!」
 二人は勢いよくティアスのいる光の化身の心臓めがけて突っ込む。そして光の化身に槍が刺さった瞬間、周辺は閃光のようにまばゆい光が溢れた。
しおりを挟む

処理中です...