人生最初のホストクラブは死後でした

炭酸水

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死後の世界

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「ようこそお越しくださいました!」
「死後の世界へ!」

…ん?

「ええと、お名前は?」
「僕の源名 サクラと申します!」
「えー、漢字は寂しいの寂と、楽しいの、楽で、寂楽と言います!」
「すみません、それよりここは?」
「あぁ、ここは死後の人が、天国に行く前にゆっくーり休む所です!」
えぇと,全然意味がわからない.この人ずっと笑ってるし,何だか気味が悪い.
「ていうか、ささ!早くお店入りましょー」
私はホストに入ったことがなかったので入ることを少し否定したものの,死んでしまったものは仕方ないと諦めホストの中に足を踏み入れた.
チリンチリンと鈴が鳴り私は重い足を引きずりながらもう一歩踏み込むと
「「ご来店誠にありがとうございまーす!」」
ホストだと実感させられるような雰囲気に負けそうになった.
「こわぁ、…」
そう呟くと横からニコッとさくらさんが、喋りかけてきた。
「怖くないですー!」
「安心してくださいね~!」
どうして同じ空間にいるのにこんなに違いがあるのだろうか.
「というか、お姉さん名前は?」
あれ?言ってなかったっけ、と思いつつも、人生で何度言ったかわからない台詞を言う.
「秋原あかりです.よろしくお願いします.」
「りょ!あかりね!」
その後は特に喋ることなく席に案内された.
「じゃあここに座ってね!他にどんどんいろんな男の子たちがでてくるからよろしくね!」
「あっ、はい.」
スピード感が掴めない…
少し1人の時間になれたと一息つくと突然
コンコンとドアが鳴った.そうして顔の整ったホストの人が入ってきた.

「失礼しまーす.あかりさんこんにちはぁ、」
「僕の源名ヨキ喜(キ)書いて喜って読むよろしくね.」
「こ、こんにちは」
ほんとに人間なのかこの顔の整い方.
一瞬顔を見た瞬間に整ってるなと思ったぐらいの整い方だもんな.そりゃすごいか.
と言うかこれ人間のレベル超えていないか?
「やだなぁ、人間だよ.」
「へ、?なんで、言葉出てました?」
「んー?勘だよぉ、?」
なんて、無邪気な笑い方.
今の私はこんなことでさえ狂気味を感じた.
「あかりさん,お酒は?」
「あ,じゃあいただこうかな…」
「じゃあレモンサワー入れるね~.」
とくとくとぷっとグラスから音が鳴る。
綺麗な音だなぁ.と私がつぶやくと
ヨキさんがだよねぇ。僕もこう言う音好き.
と、声をかけてくれた.
「いいですよね.」
共感してくれるだけなのにこんなに嬉しいのは私がちょろいだけなのか.
でも,いまは,ちょろくてもこんな気持ちに浸って居たいと思った.
「じゃあKP!」
「け,けーぴー!」
ごくっごくっ
喉に通る久々のお酒
「そういえば死後の世界でもお酒ってあるんですね.」
私はそう小さく呟いた.
そうすると彼は爽やかな顔で
「まぁね,そんな死後も変わらないよ.」
声のトーンも話し方も何も変わってないはずなのに私はなんだか少し違和感を覚えた.
「よきさんはここにくるまではどんな人だったんですか?」
「僕は…」
何だろうこの感じ絶対に触れてはいけない話題だった気がする.
「すいません踏み込みすぎですね.嫌でしたら話さなくても全然気にしないのでお気になさらず.」
そう私が言うと,さっきまでの曇った顔が嘘みたいに話し始めた
「あかりさんはとても心が清く,優しい人なんですね.」
「えぇ!?そんなことないですよ…」
やばい,大きな声をだしすぎてしまった.
「そんなあかりさんになら話したくなっちゃうな…」
そして何かを気づいたのかハッとこっちをみて何でもないです.お楽しみでいきましょう.と訳のわからないことを言い出した.
「僕ね、自殺したんです.」
「私と同じです.」
私はそんな言葉を突然口に出していた.
優しい彼に元気を持ってもらいたくて言ったのかただ同情したかったのかわからない.
でも,私は自分のために言ったことは確かだ
ひとつだけ自分の気持ちがわかることは、よきさんみたいにいい人が自殺してしまうような世界に怒りを覚えたことだった。
「悔しい…」
「え?」
私が突然そんなことを口にするものだからよきさんが困っているかもしれない。けれどどうしても伝えたかった。
「なんで、なんでよきさんみたいにいい人が自殺しないといけない世の中なの。おかしいよ…おかしい…」
視界がぼやける。
多分周りから見たらわたしはひどい顔をしているのだろう。
「あかりちゃん。ハンカチあるから涙拭きな」
自分と重なって見えたのか、それともいまよきさんにこんなに優しくしてもらって同情の涙なのかな。わたしって最低かな。結局困らせちゃったし。
「うぅ…」
「よしよーし。僕は大丈夫だから安心してね。あかりちゃん。辛かったね。」
5分ほど感情の制御が効かなかったけれど、とても幸せを感じた。
よきさんの匂い、なんだか懐かしくて落ち着くな。
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