気が付いたら異世界で孤児だったけど、立派な宇宙海賊になってみせます~貧民惑星から始める転生成り上がり銀河無双~

渋谷千立

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亡霊たちの影

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「艦長、帝国軍より通信が入っています」

「帝国軍から?何の用だよ」

「以前の治安維持作戦の件ではないかと」

「そういえばそんなのあったな。繋いでくれ」

「了解。通信、繋ぎます」

『久しぶりだな、コウキ艦長』

そうして現れたのは、帝国軍ケルベロス・スロット宙域提督の、リサだった。

「どうした?あんたはケルベロス・スロット宙域の担当じゃなかったのか?」

『ケルベロス・スロット宙域の安定化の功績でマリア・クレスト宙域に異動となってな。貴艦がいると聞いて声をかけさせてもらった』

「そうかい。で、今回も違法海賊狩りか?」

『そうだ。今回は違法海賊団“メルセデス”が討伐の対象となった。マリア・クレスト宙域は広くてな。潰しても潰しても湧いて出てくるんだ』

「“メルセデス”?聞いたことねえな。新興か?」

『いや、かつては“サザンクロス連合”の傘下だった。壊滅したと思われていたが、最近になって活動が再確認された』

「……また厄介な連中だな。で、俺たちに何をさせたい?」

『“哨戒任務”と“前線諜報”だ。現在、敵艦の動向を探るため、複数の宙域に偽装艦を潜らせている。そちらも、その一環として参加してほしい』

「情報戦ってことか。悪くねえが、報酬は?」

『もちろん、帝国から正式な契約報酬が出る。それと……』

「それと?」

リサの視線が、ふっと揺れる。

『……“メルセデス”のバックに、旧帝国系の亡霊組織の存在が噂されている。もしそれが事実であれば、単なる海賊狩りでは済まない。お前たちには、そのあたりも含めて探ってもらいたい』

「……亡霊、ね」

俺は腕を組み、しばし沈黙する。

アイカが無表情のまま、こっちを見ていた。

「艦長、帝国の正式依頼なら受諾するメリットは大きいです。ですが、想定されるリスクはかなり高いと考えられます」

「わかってる」

リサが再び口を開く。

『無理にとは言わない。だが、貴艦の能力は我々が最もよく知っている。頼れるのは、お前たちしかいないんだ』

「……考えさせてもらう。クルーと相談して、返事は明日出す」

『ああ、待っている。それじゃあな、コウキ艦長』

通信が切れる。

艦内に、重たい静寂が降りた。

「……あー、また面倒ごとに巻き込まれそうだな」

思わずつぶやいた俺に、アイカが頷く。

「はい。ですが、我々にはその“面倒”を乗り越えてきた実績があります。艦長」

「おだてても何も出ねえぞ」

そう言いながら、俺はモニターの消えた通信パネルを見つめた。

“亡霊”――その響きが、なぜか胸の奥でざわついていた。



ブリッジに集合したクルーたち。
帝国からの作戦打診を受け、俺は改めて全員に状況を説明していた。

「――というわけで、帝国軍のリサ提督から“メルセデス”討伐作戦への協力依頼が来た。作戦自体は哨戒と情報収集が中心だが、相手の背後には旧帝国の亡霊組織が絡んでる可能性がある。リスクは高い」

「ふーん……なんかきな臭いわねぇ」
マリナが腕を組み、渋い顔をしていた。

「“メルセデス”……あの連中、ブラックマーケットにも出没していたな。武器の質が異様に高かった記憶がある」
リズはタブレットを操作しながら頷く。

「どうするの、おにいちゃん?たたかうの?」
キョウカがクッションを抱えたまま、ぽかんと口を開けた。

「現段階では哨戒と諜報だけだ。全面衝突はまだ先……のはずだ。だが、何が起きるかはわからん」

「リサ提督からの依頼なら、断る選択肢もあるでしょうか?」
アイカが問う。

「あるにはある。が、彼女がわざわざ俺たちを指名してきたってのは、それだけ状況がまずいってことだ。下手すりゃ、他の艦には任せられないってレベルのな」

沈黙が落ちる。

「ま、やるしかないじゃん?」
マリナが破顔する。

「どうせどこ行っても騒ぎに巻き込まれるんだし、だったら最初から首突っ込んでた方が楽でしょ?」

「私も同意見だ。敵が誰であれ、我が叡智を以て滅ぼすのみ!」
リズが中二病全開で拳を握る。

「やるならわたしもがんばるよー」
クッションに頬を埋めながらも、キョウカが無邪気に言った。

「……アイカ、お前はどう思う?」

「リスクは高いですが、貴艦の成長と評価には繋がります。また、亡霊組織の存在が真実であれば、これを放置することは今後の脅威となるでしょう。私個人としては――参加すべきだと考えます」

「……そっか」

少しだけ、目を閉じる。

目の前に広がるのはまだ見ぬ戦場。
敵の正体も、目的も、何もかもが霧に包まれている。

それでも――

「決まりだな。帝国の依頼、受けるとしよう。哨戒と諜報から始める。準備を整えろ」

「了解!」

「ふっ、ようやく血が騒ぐな……!」

「はーい。おひるね終わりー」

思い思いの返事が返ってくる。

俺はブリッジの窓の外――マリア・クレスト宙域の星々を見つめた。

この宙域には、まだまだ“何か”が眠っている気がする。

だからこそ――この依頼は、ただの始まりに過ぎないのかもしれない。
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