教授の内腿に刻むタトゥー

マリ・シンジュ

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デザイン探し①

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■4.翌朝

東の窓から差し込む光が、ベッドルームに静かに満ちていた。

新城は、羽生の腕の中で目を覚ました。顔を埋めていた羽生の胸板は、昨夜の情熱を吸い込んだように、まだ微かに熱い。身体は疲労感よりも、満たされたような重い倦怠感に包まれていた。羽生はまだ深い眠りについている。穏やかな寝顔は、昨夜の支配的な青年とは別人のようだ。

(……やられたな)

新城は静かに目を閉じ、内腿に意識を集中させる。昨夜、羽生が執拗になぞり、そして最後にその熱を深く刻み込んだ場所。拒否しきれなかった羞恥と、抗えなかった快感の記憶が鮮明に蘇る。理性ではあの場所を許容するはずがない。しかし、羽生の「愛の要求」を前に、自分の身体が先に「降伏」を叫んでしまったのだ。

新城は、タトゥーについて思考を巡らせる。

(タトゥーは、入れる。場所も……もう、あそこしかないんだろう)

タトゥーを入れること自体は既に心の中で決まっていた。だが、昨夜の行為で、内ももへの刺激に抗えなかった身体の反応が、決意をより強く、「心の決意」と「肉体の同意」として結びつける屈辱的な儀式となったのだ。

残るは、デザインだ。新城の脳裏には、羽生の趣味から予測される軽薄なモチーフがいくつも浮かぶ。あれほどデリケートな場所に、男のプライドを最も傷つけるようなものを提案してくるに違いない。

(そこだけは、譲れない。俺の最後の抵抗だ)

新城はベッドに横たわったまま、腰の奥に残る微かな余韻を意識しながら理性とプライドを整理する。タトゥーの「場所」では敗北したが、「意味」を決定するデザインでは、最後まで「男」として主導権を握り直す決意だ。

そのとき、羽生がまどろみの中で動く気配を感じ、新城は振り返る。羽生はまだ眠そうだが、口元には小さな笑みを浮かべている。

羽生:「……おはよう、先生」

声は低く、かすかに震える。羽生の手が無意識に新城の腕に触れ、軽く握る。

新城はゆっくりと目を開く。黒目が羽生に触れる瞬間、眠気とともにわずかに柔らかい光が表情に宿る。

新城:「……おはよう、羽生」

短い言葉ながら、羽生には自分だけに向けられた温かさが確かに感じられた。羽生はベッドの端から身を乗り出し、頭を新城の肩に軽くもたせかける。

羽生:「昨日……疲れてたよね。大丈夫?」

新城は少し目を細め、唇の端だけを動かす。

新城:「……ああ、大丈夫だ。お前も、よく眠れたか?」

羽生は頷き、手をそっと新城の手に重ねる。力を込めるでもなく、ただ静かに存在を確認するように。

羽生:「うん、先生が隣にいてくれたから……安心して眠れた」

新城は軽く息を吐き、腕を羽生の肩に回す。距離を縮めるその仕草は、言葉より多くを語る。羽生は少し頬を赤らめつつ、目を細めて新城の胸に顔をうずめた。

羽生:「ねぇ、先生……」

新城:「……ん?」

羽生:「タトゥーのこと、考えてくれた?」

新城は短く目を閉じ、深呼吸する。言葉は少なめ、でも声には確かな意思が込められていた。

新城:「……考えてる。今日、詳しく決めよう」

羽生の目がぱっと輝き、静かに新城の手を握り返す。

羽生:「ありがとう……先生」

互いの呼吸と体温で、昨日の余韻がまだ残る静かな朝の親密さを、二人は共有していた。

■5.朝のキッチン

柔らかな朝の光がキッチンを優しく満たしていた。新城は静かにベッドルームを抜け出す。まだ内腿の奥には昨夜の余韻が残っているが、それを悟られないよう、普段通りの歩幅で足を運ぶ。心の奥では、昨夜の屈服をそっと反芻しつつも、外に見せる表情は淡々と冷静なプロの顔に整えていた。

襟付きのシャツを軽くまくり、コットンパンツにエプロンを羽織る。袖をまくる仕草やエプロンを結ぶ手元には生活感があり、朝の穏やかなリズムが静かに漂う。手際よく火をつけ、フライパンに油をひく。卵を割る音や軽く跳ねる油の音が、静かなキッチンに小さな活気をもたらす。

遠くのベッドルームから、羽生が顔を洗う水の音や、クローゼットの扉を開ける軽い音が届く。新城はその音に気づき、喉の奥でわずかに息を詰めるが、振り返らず作業を続ける。羽生の存在を音で感じ取りながらも、日常のリズムを崩さず、支配された身体の記憶を理性で覆い隠していた。

やがて羽生が身支度を終えてリビングに入る。寝起きの緩さは残るが、Tシャツにハーフパンツの格好は乱れがなく、柔らかい光の中でも長身は新城への優位性を示していた。その姿に新城は心の奥で抗いがたい魅了を感じるが、それを見せず、日常の一部として淡々と行動する。  

カウンターには、目玉焼きやトーストなど、新城が手際よく並べた朝ごはん。香ばしい匂いが静かな空間に広がり、二人の間に漂う湿度の高い空気を優しく包む。

羽生:「ありがとう、先生」

羽生は自然な声で礼を言い、そっとカウンターに移動する。軽く頭を下げ、コーヒーメーカーのスイッチを入れる。カップを取り出し、丁寧にコーヒーを注ぐ湯気が立ちのぼり、香ばしい香りが二人の間に広がる。

新城は目玉焼きを皿に盛りつけながら、羽生の動きを横目で確かめる。その視線には、昨夜の肉体の記憶とは違う落ち着きと、朝だけに見せるささやかな優しさが混ざっていた。羽生は朝食の皿をテーブルに運び、静かな朝の時間に身を任せた。

羽生は目玉焼きを一目見て、魅了されたように思わず笑みを浮かべる。

羽生:「うわ、黄身が柔らかそうで、フチはこんがりカリッとしてる……完璧だな、先生」

新城は箸でそっと目玉焼きを整えながら、感情を排した声で答える。

新城:「見た目がいいと、朝の気分も上がる」

羽生はフォークを手に取りつつ訊く。その声には微かな挑発が混ざっている。

羽生:「今日、タトゥーのデザイン、チェックしてくれるんだよね?」

新城は手元を片付けながら、わずかに口元を緩める。

新城:「ああ。どんな提案でも、逃げずにちゃんと見てやるよ」

羽生はにやりとし、フォークで黄身をそっとつつきながら、いたずらっぽく核心を突く。

羽生:「変なデザイン、混ぜてみてもいいんだよね?」

新城は箸を置き、肩の力を抜きつつ静かに、威圧的に返す。

新城:「……楽しみにしてろよ。昨夜、俺の理性がどうなったかをお前が覚えているなら、デザインでは覚悟しとけ」

羽生は小さく笑い、一口分だけ黄身を口に運ぶ。その瞳の奥は、新城の反撃すら楽しむ余裕に満ちていた。

羽生:「覚悟って、先生の言うことだから余計にワクワクするね」

朝の光と香ばしい匂いに包まれたキッチンで、二人は表向きは穏やかな日常、内面では濃密な交渉の余韻を共有していた。


■6. 好みの把握

羽生はタブレットを手に取り、画面を新城に向けた。

羽生:「先生、まずはこういう感じのデザインを見てみる?」

画面には、いくつかの小さなモチーフや線が繊細なパターンが並ぶ。羽生がネットで見つけた画像を組み合わせ、少し加工してまとめたものだ。

新城は椅子に座ったまま、目を細めてじっと眺める。

新城:「……お前が描いたわけじゃないんだな?」

羽生:「うん。ネットで見つけた素材を少しアレンジしただけ。でも、肌に馴染む感じを意識したんだ」

羽生は軽く口角を上げ、スクロールしながら答える。

羽生:「特にこの辺の組み合わせは派手じゃないけど、ずっと見ていられると思う」

新城は指先で顎を撫でながら考える。

新城:「なるほど……悪くないな。でも、こういうのはまだ序盤って感じだろ?」

羽生は頷き、次の候補へ画面を送る。

羽生:「うん、じゃあまずは花系のデザイン。百合みたいなシンプルで上品なものとか、線が細かいから派手すぎずに肌に馴染むやつ」

新城は少し眉を寄せる。

新城:「……花か。正直、俺は花ってあんまり得意じゃないんだよな」

羽生は少し肩をすくめ、柔らかく笑う。

羽生:「そっか。でもこういう百合なら男でも違和感ないと思うよ。無理に押すつもりはないけど、見てほしいな」

新城は短く息を吐き、軽く頷く。

新城:「……まあ、確かに悪くはない。でも、抵抗感は拭えないな」

羽生はそれ以上押さず、次のカテゴリーへ画面を送る。

羽生:「じゃあ、宝石系も見てみようか。ルビーやサファイアみたいに立体的で、光の加減で表情が変わるデザイン」

新城は画面をじっと見つめ、少し笑みを浮かべる。

新城:「ああ……これなら悪くない。派手すぎないし、線もきれいだ」

羽生は嬉しそうに指で画面をなぞる。

羽生:「立体感があるから、男でも違和感なくて、肌に馴染むと思う。見飽きないデザインだし」

新城は短く頷く。

新城:「よし、これは候補に入れておくか」

羽生は微笑み、さらにスクロールを続ける。

羽生:「じゃあ、天体モチーフも見てほしいな。月や星みたいな、宝石みたいに立体的だけど、もっと神秘的なやつ」

新城は少し考え込むように眺める。

新城:「……月か。静かで、ちゃんと存在感もあるな」

羽生は微笑みながら指を動かす。

羽生:「夜空に浮かぶ小さな光のイメージで、肌に馴染むけど、ずっと見ていられる。流れ星みたいな柔らかい線もあるんだ」

新城はちらりと羽生を見て、薄い笑みを浮かべる。

新城:「お前、こういうのを見る目あるな……ま、悪くはない」

羽生は嬉しそうに頷き、いよいよ水系モチーフに画面を切り替える。

羽生:「で、最後に水系。細かい泡みたいなのとか、水面の揺れとか」

羽生は画面を新城に近づけ、静かに語りかける。

羽生:「……これ、見て。泡みたいになってるやつ。水の底の静けさっていうか……先生の肌に自然に馴染む気がするんだ。強く主張しないけど、ずっと見ていられる綺麗さがあるっていうか」

新城は腕を組み、目を細めてじっと画面を見る。

新城:「泡か……悪くないな。俺は、賑やかな感じよりこういう静かなイメージの方が好みだ。海の下の、音が落ちていく感じ……わかる」

羽生は小さく笑う。

羽生:「ああいう“深いところの青さ”って、柔らかいのに輪郭だけは残るんだ。先生の雰囲気に合うと思う。線も滑らかで、男でも違和感ないし」

新城は少し視線を上げ、画面の別のデザインに指をやる。

新城:「これと……ほら、この水面っぽいやつ。揺れてる線が肌の影にそのまま溶けそうだろ。こっちも派手じゃないけど、落ち着く」

羽生は頷き、嬉しそうに答える。

羽生:「うん、どっちも候補に残せばいいと思う。僕はね、この“消え入りそうな泡の跡”がすごく好き。触れたらふっとほどけるみたいで……静かで綺麗」

新城は軽く目を細め、少し照れたように言う。

新城:「……おまえ、たまに妙に詩的だよな」

羽生は微笑んで答える。

羽生:「褒めてるなら受け取るよ?」

新城は短く頷く。

新城:「……確かに、悪くない」

羽生はタブレットを閉じ、新城の肘に手を触れて、少し身を乗り出す。声のトーンは一気に甘く、かつ低くなる。

羽生:「ねぇ、先生。この『泡の跡』が、あんたのあの柔らかい場所に入って、肌に溶け込むところを想像すると、どれだけ綺麗だろうね? ──僕がこうして想像するだけで、あんたの体温がまた上がってるのが分かるよ」

新城はハッと息を詰めた。咄嗟に目を逸らし、肘に触れる羽生の手を無意識に振り払おうと力が籠もる。

新城:「っ、やめろ……っ。そういう話は、真面目に終わらせろ。……ふざけるな」

羽生は軽く笑い、触れていた手を退かす。その瞳は、新城の動揺をしっかりと捉えている。

羽生:「ふふ、真面目だよ。僕にとっては、デザインを選ぶことも、あんたの身体に触れることと同じくらい大事なんだけどね?」

新城は深呼吸で動揺を押し殺し、なんとか顔を整える。

新城:「……わかったから。次のデザインに移れ。俺の気が変わらないうちに」


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