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デザイン探し②
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■7. 羽生の提案
羽生:「そういえば、先生は僕がどういうのにするか、気になったりしない?」
新城は視線を上げ、軽く眉を動かす。
新城:「……ん? ああ、そりゃちょっとはな」
羽生はにやりと笑い、指で画面の水面の揺れをなぞる。
羽生:「実は僕、自分はちょっと羽のイメージが好きなんだよね」
新城は少し首をかしげる。
新城:「羽か。理由聞かせてくれ」
羽生は少し照れくさそうに肩をすくめる。
羽生:「水の模様を見てたら、ふわっと舞う羽みたいなのもいいなって思えてきて。なんとなく、自分の名前にも『羽』が入ってるから、無意識に惹かれるのかも」
新城はちらりと羽生を見て、薄く笑む。
新城:「なるほど……名前か。確かに自然な気がする」
羽生は指を休め、口調を柔らかくする。
羽生:「それに羽って自由な感じがして好きなんだ。水の静謐な美しさも捨てがたいけど、羽のほうが、なんだか……二人で飛んでいける気がするんだ」
新城は軽く頷き、少し照れくさそうに目を逸らす。
新城:「……なるほど、そういう感覚か」
羽生は嬉しそうに微笑む。
羽生:「うん。それで、僕はこういうのにしようかなって思ってる。先生はどう思う?」
羽生はタブレットを新城に向け、画面をじっと見せながら言った。
画面には、繊細な鳥の羽根をモチーフにしたデザインが映る。羽には槍が添えられ、その矢尻はハート型になっている。羽の上の方には水滴が広がり、少し神秘的な印象に仕上げてある。
新城は画面をじっと見つめ、ゆっくり息を吐いた。
新城:「……なるほどな。羽の柔らかさもあるし、槍や水滴で少し力強さや神秘性も出してる。単純じゃなくて、意図を感じる」
羽生はにやりと笑う。
羽生:「そうなんだ。槍や水滴の配置も、ちょっと遊び心を入れてみたんだ」
新城は小さく鼻で笑い、肩を落とす。
新城:「そのくらいの遊び心なら……悪くないな。シンプルな羽だけでもいいと思ったけど、こっちのほうがしっくりくる」
羽生は嬉しそうに頷く。
羽生:「そう言ってもらえると安心するよ」
羽生はタブレットを新城に向け、指先で画面を軽くなぞる。
羽生:「僕はね……腰骨から下腹に、斜めに入れようかなって思ってるんだ」
新城は目の前のデザインに視線を落としたまま、心の奥でそっと息を吐く。
(……お前は、自由だな)
内ももは俺だけが知っている場所――そう思っていたから、羽生の軽やかさにほんの少しだけ引っかかるものがあった。それでも、新城は肩の力を抜き、淡々と画面に向き直った。
羽生は、新城の隣にゆっくりと腰を下ろした。
さっきまでの軽口めいた温度は跡形もなく、代わりに、獲物の鼓動をひそかに読むような静かな集中がその瞳に宿っている。肩と肩が触れ合いそうな距離。そこに漂う熱だけで、新城の喉はかすかに詰まった。
羽生:「じゃあ──そろそろ僕の提案に移っても、いいかな?」
声は小さいのに、逃げ道をふさぐ強さがあった。
羽生:「先生が選んだ“水や泡”のモチーフは、本当に綺麗だった。繊細で、儚くて……だからこそ、守るものが必要だと思ったんだ」
新城は顎を引き、わざと低い声で応じる。
新城:「守る、か。大袈裟なんだよ、お前は……いい、聞こう」
羽生はわずかに表情を和らげる。その変化が妙に嬉しそうで、新城の胸に予感めいたざわめきが走った。
羽生:「ありがとう。──僕が考えたのはね、儚さを封印する“赤いリボン”だよ。……インフィニティのタトゥーのデザインから着想を得て、僕たちらしく昇華させたものなんだ。ね、ロマンチックだと思わない?」
羽生がタブレットを操作すると、美しいテールを持つ豪華な深紅のリボンが、画面いっぱいに表示された。
羽生:「このリボンは水を連想させるようなデザインなんだ。泡のように緻密な模様で、縁が僅かに波打っている。素材は透け感のあるレースがいいと思う。」
新城は、呼吸を忘れたように見つめた。
たった数秒が、やけに長く感じる。
新城:「……っ、なぜだ。色が……強すぎる。まるで血だ」
羽生の口元がわずかに上がる。隠そうともしない確信。
羽生:「だって、そうだよ。血の色だもの。僕の情熱と……独占の色」
その率直さが、新城の胸に直接触れてくる。
新城は喉奥に圧を感じながら、あえて声の調子を整えた。
新城:「しかも、モチーフがリボンか……。それは軽薄だ。装飾性が強すぎる。皮膚の組織に、こんな誘惑的な意匠を刻むのは、男として受け入れがたい」
羽生:「違うよ、先生。これは装飾じゃない。
封印なんだ。誰にも見せてはいけない、大切な贈り物を結びつけるための」
新城:「……封印?」
羽生:「うん。先生の中にある、泡や水の模様みたいに、静かで儚いもの。でも、そのままじゃ壊れやすい。だから、このリボンで……その儚さをぎゅっと結び、守るんだ」
羽生:「よく見て。水の静けさが、リボンで形を持つようになったイメージ。儚さを閉じ込めるけど、柔らかさは残したまま──ね、先生」
新城の胸に、ひたりと重みが落ちた。
拒絶の言葉がすぐには出てこない。
羽生は、急がず、しかし逃げ場を計算した動きで、新城の正面に近い位置へと身体の向きを変える。
その「少し寄る」だけの仕草が、
新城のわずかな退路を静かに奪っていく。
肩に置かれた手の温度は、
理屈も言い訳もすべて遮断する。
羽生:「あの場所は……僕だけに許された場所だろ。だからこそ刻むんだ。あんたの身体も心も──“僕の秘密の所有物”として」
新城の呼吸が、そこで一瞬だけ停滞する。
“動揺”というより、“重さ”を受け止めている静けさ。
羽生の声は、さらに密やかで甘い響きを帯びる。
羽生:「先生。僕がこのデザインを先生の身体に刻めたら……。あんたは、僕のただひとつの“永遠の美しさ”になるんだ。所有されることで、永遠に変わらぬ美しさとして残る」
新城は短く目を閉じた。
拒否の言葉を選ぼうとするが──胸の奥で、わずかに別の感情が動いた。
“そこまで言うのか……お前は。”
“内腿”という言葉に含まれる羞恥が新城の胸を締めつけ、押し黙らせる。
沈黙が、数秒落ちた。
新城は、抵抗の矛先を別の部分へそらすように、画面を指し示した。
新城:「……その、結び目に描かれているのは……何だ」
羽生は答える代わりに拡大表示する。
画面に、モチーフ化された孔雀の羽根の中心が現れた。まるで意思を持つ目のように見える。
羽生:「孔雀の羽根の“目”をね……リボンと馴染むようにモチーフ化したんだ。装飾じゃなくて、意味だけを残した形にしてある」
新城:「……目、だと」(監視か──)
その言葉を飲み込む前に、羽生が重ねてくる。
羽生:「綺麗な目だよ、先生。ほら……あの場所に、この“目”が入ったら、ずっとあんたを飾ってくれる」
新城の視線が揺れる。
“羽根”の“目”が示す暗い密約。
羽生の真剣な瞳を見つめ返すことしかできない。
抵抗は、わずかに形を失っていく。
新城:「……お前は……どこまで俺を羞恥と支配の証にしたいんだ」
羽生は、新城の手をそっと取り、自分の頬へ添えた。
その動作があまりに自然で、あまりに甘く──
新城の心の最後の防壁は、静かに溶けた。
羽生:「限りなく、だよ。そして永遠に。
この“目”は、僕があんたを見守る証で……誰にも渡さないための証でもある。ねぇ、先生──もう後戻りはできないよ」
新城は短く息を吐き、視線をわずかに落とす。
その沈黙には、反抗よりも“覚悟”が宿っていた。
新城:「……わかった。これが、お前の望む愛の対価だと言うなら……勝手にしろ。
……ただし、俺が自分で選んで受け入れたと、忘れるなよ」
羽生の瞳が微かに震える。
かすかな安堵と歓喜が入り混じった笑みが浮かび、視線が新城の内腿へと落ちた。
指先がそこへ触れたのは一瞬。
だが、その一瞬で新城の背筋には、はっきりとした熱の震えが走った。
羽生:「ありがとう、先生。──僕だけの、永遠の贈り物」
新城は視線を逸らし、わずかに目を閉じる。心の奥で、理性が少しずつ崩れていくのを感じた。
(リボン……こんな屈辱的なモチーフで、俺のプライドは粉々になる。だが、この羞恥と引き換えに、彼の独占と愛を手に入れたんだ──)
羽生の瞳が、新城をじっと見据える。甘く囁く声に、さらなる圧力を感じる。
(この目……僕だけの秘密……彼は知らずに、俺の手のひらで堕ちていく)
羽生:「ねぇ、先生。これで、ずっと僕のものだよ」
新城は息を吐き、抵抗をやめるしかなかった。
胸の奥で、羞恥と愛情が絡み合い、自分の心を掌握されていく。
(ああ……この男の愛に、俺はどこまで堕ちていくのだろう)
■8.ひとりの時間
新城はふと時計に目をやる。
新城:「……そろそろ支度する時間だな」
羽生はリビングで掃除機をかけながら、ちらりと顔を上げる。
羽生:「うん、そうだね。行ってらっしゃい」
新城は少し照れくさそうに笑う。
新城:「行ってきます……羽生」
羽生はリビングの隅を掃除機を止め、ふと微笑んだ。
羽生:「ふふ……やっぱり、思った通りだ」
心の中でちょっとだけ小さくガッツポーズ。
新城が素直に協力してくれて、計画通りに事が運んでいる――そのことが、なんとも言えない満足感をもたらす。
目の端で新城の姿を確認すると、自然と唇が緩む。
羽生:「今日はいい日になりそうだ……」
掃除機の低い音に混ざって、羽生の内心の小さな高揚が、密やかに部屋に漂っていた。
リビングの掃除を終え、羽生は少し息をついた。掃除機を片付け、窓の外をちらりと見てから、テーブルの上に置いたスマートフォンを手に取る。
羽生:「よし……これでいく」
彼は静かに電話をかけ、数コールの後に店の落ち着いた声が応対する。
受付:「はい、パールマリ工房です。どうなさいましたか?」
羽生は手際よく、二人分の初回相談の予約を希望する旨を伝える。時間は再来週の午後二時が最も早く空いているとのこと。羽生はすぐに確認する。
羽生:「その時間でお願いします。二人分です。名前は……はい、二人分です」
向こうの声は柔らかく、しかし的確に返答する。
受付:「かしこまりました。では、再来週水曜日、午後二時にお待ちしております。ご来店の際には筆記用具と、もしあれば過去のデザイン資料をお持ちください」
羽生は頷きながら聞き、メモをとる。
羽生:「承知しました。ありがとうございます。当日は忘れずに持参します」
通話を終えると、羽生はテーブルにスマホを置き、深呼吸してから顔をほころばせる。
彼は席に腰を下ろし、頭の中でシュミレーションを始める。初回相談で確認すること、下書きの流れ、そして施術当日の段取りまで、順序立ててイメージする。
指先でメモ帳の端を軽く触りながら、自然と笑みがこぼれる。
羽生:「◯……うまくいくといいな……ふふ、楽しみだ……誰にも言わないで、ね……」
羽生:「そういえば、先生は僕がどういうのにするか、気になったりしない?」
新城は視線を上げ、軽く眉を動かす。
新城:「……ん? ああ、そりゃちょっとはな」
羽生はにやりと笑い、指で画面の水面の揺れをなぞる。
羽生:「実は僕、自分はちょっと羽のイメージが好きなんだよね」
新城は少し首をかしげる。
新城:「羽か。理由聞かせてくれ」
羽生は少し照れくさそうに肩をすくめる。
羽生:「水の模様を見てたら、ふわっと舞う羽みたいなのもいいなって思えてきて。なんとなく、自分の名前にも『羽』が入ってるから、無意識に惹かれるのかも」
新城はちらりと羽生を見て、薄く笑む。
新城:「なるほど……名前か。確かに自然な気がする」
羽生は指を休め、口調を柔らかくする。
羽生:「それに羽って自由な感じがして好きなんだ。水の静謐な美しさも捨てがたいけど、羽のほうが、なんだか……二人で飛んでいける気がするんだ」
新城は軽く頷き、少し照れくさそうに目を逸らす。
新城:「……なるほど、そういう感覚か」
羽生は嬉しそうに微笑む。
羽生:「うん。それで、僕はこういうのにしようかなって思ってる。先生はどう思う?」
羽生はタブレットを新城に向け、画面をじっと見せながら言った。
画面には、繊細な鳥の羽根をモチーフにしたデザインが映る。羽には槍が添えられ、その矢尻はハート型になっている。羽の上の方には水滴が広がり、少し神秘的な印象に仕上げてある。
新城は画面をじっと見つめ、ゆっくり息を吐いた。
新城:「……なるほどな。羽の柔らかさもあるし、槍や水滴で少し力強さや神秘性も出してる。単純じゃなくて、意図を感じる」
羽生はにやりと笑う。
羽生:「そうなんだ。槍や水滴の配置も、ちょっと遊び心を入れてみたんだ」
新城は小さく鼻で笑い、肩を落とす。
新城:「そのくらいの遊び心なら……悪くないな。シンプルな羽だけでもいいと思ったけど、こっちのほうがしっくりくる」
羽生は嬉しそうに頷く。
羽生:「そう言ってもらえると安心するよ」
羽生はタブレットを新城に向け、指先で画面を軽くなぞる。
羽生:「僕はね……腰骨から下腹に、斜めに入れようかなって思ってるんだ」
新城は目の前のデザインに視線を落としたまま、心の奥でそっと息を吐く。
(……お前は、自由だな)
内ももは俺だけが知っている場所――そう思っていたから、羽生の軽やかさにほんの少しだけ引っかかるものがあった。それでも、新城は肩の力を抜き、淡々と画面に向き直った。
羽生は、新城の隣にゆっくりと腰を下ろした。
さっきまでの軽口めいた温度は跡形もなく、代わりに、獲物の鼓動をひそかに読むような静かな集中がその瞳に宿っている。肩と肩が触れ合いそうな距離。そこに漂う熱だけで、新城の喉はかすかに詰まった。
羽生:「じゃあ──そろそろ僕の提案に移っても、いいかな?」
声は小さいのに、逃げ道をふさぐ強さがあった。
羽生:「先生が選んだ“水や泡”のモチーフは、本当に綺麗だった。繊細で、儚くて……だからこそ、守るものが必要だと思ったんだ」
新城は顎を引き、わざと低い声で応じる。
新城:「守る、か。大袈裟なんだよ、お前は……いい、聞こう」
羽生はわずかに表情を和らげる。その変化が妙に嬉しそうで、新城の胸に予感めいたざわめきが走った。
羽生:「ありがとう。──僕が考えたのはね、儚さを封印する“赤いリボン”だよ。……インフィニティのタトゥーのデザインから着想を得て、僕たちらしく昇華させたものなんだ。ね、ロマンチックだと思わない?」
羽生がタブレットを操作すると、美しいテールを持つ豪華な深紅のリボンが、画面いっぱいに表示された。
羽生:「このリボンは水を連想させるようなデザインなんだ。泡のように緻密な模様で、縁が僅かに波打っている。素材は透け感のあるレースがいいと思う。」
新城は、呼吸を忘れたように見つめた。
たった数秒が、やけに長く感じる。
新城:「……っ、なぜだ。色が……強すぎる。まるで血だ」
羽生の口元がわずかに上がる。隠そうともしない確信。
羽生:「だって、そうだよ。血の色だもの。僕の情熱と……独占の色」
その率直さが、新城の胸に直接触れてくる。
新城は喉奥に圧を感じながら、あえて声の調子を整えた。
新城:「しかも、モチーフがリボンか……。それは軽薄だ。装飾性が強すぎる。皮膚の組織に、こんな誘惑的な意匠を刻むのは、男として受け入れがたい」
羽生:「違うよ、先生。これは装飾じゃない。
封印なんだ。誰にも見せてはいけない、大切な贈り物を結びつけるための」
新城:「……封印?」
羽生:「うん。先生の中にある、泡や水の模様みたいに、静かで儚いもの。でも、そのままじゃ壊れやすい。だから、このリボンで……その儚さをぎゅっと結び、守るんだ」
羽生:「よく見て。水の静けさが、リボンで形を持つようになったイメージ。儚さを閉じ込めるけど、柔らかさは残したまま──ね、先生」
新城の胸に、ひたりと重みが落ちた。
拒絶の言葉がすぐには出てこない。
羽生は、急がず、しかし逃げ場を計算した動きで、新城の正面に近い位置へと身体の向きを変える。
その「少し寄る」だけの仕草が、
新城のわずかな退路を静かに奪っていく。
肩に置かれた手の温度は、
理屈も言い訳もすべて遮断する。
羽生:「あの場所は……僕だけに許された場所だろ。だからこそ刻むんだ。あんたの身体も心も──“僕の秘密の所有物”として」
新城の呼吸が、そこで一瞬だけ停滞する。
“動揺”というより、“重さ”を受け止めている静けさ。
羽生の声は、さらに密やかで甘い響きを帯びる。
羽生:「先生。僕がこのデザインを先生の身体に刻めたら……。あんたは、僕のただひとつの“永遠の美しさ”になるんだ。所有されることで、永遠に変わらぬ美しさとして残る」
新城は短く目を閉じた。
拒否の言葉を選ぼうとするが──胸の奥で、わずかに別の感情が動いた。
“そこまで言うのか……お前は。”
“内腿”という言葉に含まれる羞恥が新城の胸を締めつけ、押し黙らせる。
沈黙が、数秒落ちた。
新城は、抵抗の矛先を別の部分へそらすように、画面を指し示した。
新城:「……その、結び目に描かれているのは……何だ」
羽生は答える代わりに拡大表示する。
画面に、モチーフ化された孔雀の羽根の中心が現れた。まるで意思を持つ目のように見える。
羽生:「孔雀の羽根の“目”をね……リボンと馴染むようにモチーフ化したんだ。装飾じゃなくて、意味だけを残した形にしてある」
新城:「……目、だと」(監視か──)
その言葉を飲み込む前に、羽生が重ねてくる。
羽生:「綺麗な目だよ、先生。ほら……あの場所に、この“目”が入ったら、ずっとあんたを飾ってくれる」
新城の視線が揺れる。
“羽根”の“目”が示す暗い密約。
羽生の真剣な瞳を見つめ返すことしかできない。
抵抗は、わずかに形を失っていく。
新城:「……お前は……どこまで俺を羞恥と支配の証にしたいんだ」
羽生は、新城の手をそっと取り、自分の頬へ添えた。
その動作があまりに自然で、あまりに甘く──
新城の心の最後の防壁は、静かに溶けた。
羽生:「限りなく、だよ。そして永遠に。
この“目”は、僕があんたを見守る証で……誰にも渡さないための証でもある。ねぇ、先生──もう後戻りはできないよ」
新城は短く息を吐き、視線をわずかに落とす。
その沈黙には、反抗よりも“覚悟”が宿っていた。
新城:「……わかった。これが、お前の望む愛の対価だと言うなら……勝手にしろ。
……ただし、俺が自分で選んで受け入れたと、忘れるなよ」
羽生の瞳が微かに震える。
かすかな安堵と歓喜が入り混じった笑みが浮かび、視線が新城の内腿へと落ちた。
指先がそこへ触れたのは一瞬。
だが、その一瞬で新城の背筋には、はっきりとした熱の震えが走った。
羽生:「ありがとう、先生。──僕だけの、永遠の贈り物」
新城は視線を逸らし、わずかに目を閉じる。心の奥で、理性が少しずつ崩れていくのを感じた。
(リボン……こんな屈辱的なモチーフで、俺のプライドは粉々になる。だが、この羞恥と引き換えに、彼の独占と愛を手に入れたんだ──)
羽生の瞳が、新城をじっと見据える。甘く囁く声に、さらなる圧力を感じる。
(この目……僕だけの秘密……彼は知らずに、俺の手のひらで堕ちていく)
羽生:「ねぇ、先生。これで、ずっと僕のものだよ」
新城は息を吐き、抵抗をやめるしかなかった。
胸の奥で、羞恥と愛情が絡み合い、自分の心を掌握されていく。
(ああ……この男の愛に、俺はどこまで堕ちていくのだろう)
■8.ひとりの時間
新城はふと時計に目をやる。
新城:「……そろそろ支度する時間だな」
羽生はリビングで掃除機をかけながら、ちらりと顔を上げる。
羽生:「うん、そうだね。行ってらっしゃい」
新城は少し照れくさそうに笑う。
新城:「行ってきます……羽生」
羽生はリビングの隅を掃除機を止め、ふと微笑んだ。
羽生:「ふふ……やっぱり、思った通りだ」
心の中でちょっとだけ小さくガッツポーズ。
新城が素直に協力してくれて、計画通りに事が運んでいる――そのことが、なんとも言えない満足感をもたらす。
目の端で新城の姿を確認すると、自然と唇が緩む。
羽生:「今日はいい日になりそうだ……」
掃除機の低い音に混ざって、羽生の内心の小さな高揚が、密やかに部屋に漂っていた。
リビングの掃除を終え、羽生は少し息をついた。掃除機を片付け、窓の外をちらりと見てから、テーブルの上に置いたスマートフォンを手に取る。
羽生:「よし……これでいく」
彼は静かに電話をかけ、数コールの後に店の落ち着いた声が応対する。
受付:「はい、パールマリ工房です。どうなさいましたか?」
羽生は手際よく、二人分の初回相談の予約を希望する旨を伝える。時間は再来週の午後二時が最も早く空いているとのこと。羽生はすぐに確認する。
羽生:「その時間でお願いします。二人分です。名前は……はい、二人分です」
向こうの声は柔らかく、しかし的確に返答する。
受付:「かしこまりました。では、再来週水曜日、午後二時にお待ちしております。ご来店の際には筆記用具と、もしあれば過去のデザイン資料をお持ちください」
羽生は頷きながら聞き、メモをとる。
羽生:「承知しました。ありがとうございます。当日は忘れずに持参します」
通話を終えると、羽生はテーブルにスマホを置き、深呼吸してから顔をほころばせる。
彼は席に腰を下ろし、頭の中でシュミレーションを始める。初回相談で確認すること、下書きの流れ、そして施術当日の段取りまで、順序立ててイメージする。
指先でメモ帳の端を軽く触りながら、自然と笑みがこぼれる。
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