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マリ・シンジュ

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夜の下書き(エロめ)

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1.下書き


夕食を済ませ、片付けも終わったリビング。柔らかい灯りの中、先生はソファに腰を下ろし、ゆったりとくつろいでいる。


羽生は立ち上がり、そっと先生の方を向いた。


羽生:「先生、もしよかったら、タトゥーの位置を今からちょっとだけ確認してみない?」


先生は顔を上げ、少し驚いたように羽生を見た。


新城:「……今からか?」


羽生:「うん、ちょっとだけでいい。すぐ終わるから」


先生は一瞬目を細めるが、羽生の真剣な様子を見て、肩をすくめて頷いた。


新城:「わかった……やるか」


二人はベッドルームに移動する。羽生はベッドの端に腰を下ろし、新城を見やる。


羽生:「先生、サイズを確認したい。ズボンを脱いで、仰向けになってくれる?」


新城は少し間を置いてから、ゆっくりと頷く。


新城:「……わかった」


新城はズボンを脱ぎ、ベッドに仰向けになる。羽生はそっと手元のプリントを取り出し、ベッドの脇に広げる。


羽生:「ここからここまでが、僕が考えた範囲だ」


羽生は指で線をなぞりながら続ける。


羽生:「サイズは大きすぎても小さすぎてもダメ。密やかで美しく見えることが重要なんだ。ここに置いた線の幅は、ちょうどそのバランスを意識して決めた」


新城はプリントをじっと見つめ、少し考え込む。


新城:「……うん。確かに、大きすぎなくて、これなら納得できる」


羽生は小さく頷き、紙をそっと閉じる。


羽生:「よし……これなら店でもスムーズに進められる」


羽生はプリントを手元に置いたまま、新城の方を見やる。


羽生:「先生、少し脚を開いて、膝を軽く曲げてお腹に近づける感じにしてみて。」


新城は小さく頷き、指示に従ってゆっくりと動く。


羽生はそっとクッションを差し入れて姿勢を補助する。


羽生:「そう、いい感じだ……これで店でも確認しやすい」


新城は少し情けなさと羞恥心を感じつつも、素直に羽生の手順に従う。


その静かな従順さを見届けた羽生は、プリントの横に置いていた赤い水性マーカーを指先で軽くつまんだ。


羽生:「よし、それじゃあ、今から試しに書いてみるね」


新城は眉をひそめ、少し小さく声を漏らした。


新城:「わざわざ書かなくても、店でやればいいのでは…」


羽生は淡々と、しかし逃げ道をふさぐように視線を落としつつ言う。


羽生:「……店で迷って時間かけたいなら、別にいいけど? 僕は事前に形を詰めておいた方が仕上がりも綺麗だと思ってるだけ。」


その静かな論破に、新城は言葉を失い、ほんのひと呼吸だけ間を置いてから小さく頷いた。羽生はその反応を確認して、また心の中で薄く微笑んだ。


新城の視線が自分の手元に釘付けになっているのを意識し、羽生は筆—細いペン先を指でそっと回す。動作は小さく、しかし一つ一つに集中がこもっている。


羽生:「……よし。このまま書いていくね」


羽生は新城の足首と太ももに軽く手を添えた。


羽生:「ここ、少し動かないで。僕が支えてあげるから」


新城は肩を軽くすくめつつも、羽生の手に沿うように身を預ける。微かな接触に、思わず息をつくのを羽生は見逃さなかった。


新城:「……は……っ」


筆先が肌に触れた瞬間、羽生は淡々と説明を重ねる。しかし心の奥では、新城の肩や背中の微妙な跳ねに密かに心躍らせていた。


羽生:「まず、リボンは緻密なレース素材。肌に優しく沿うように描くよ。テールはアシメで、片方を少し長めに伸ばして、色っぽく揺れる感じにする」


筆先は肌の上で

す……すう……すっ

と滑り、薄い線が透けるように重なっていく。


羽生:「このカーブが大事。硬く見えないよう、柔らかさを意識して」


羽生は一度だけ新城の肩の動きを確認する。わずかに跳ねる肩を見て、心の中で小さくほくそ笑む。


羽生:「次は結び目の上に、孔雀の目玉モチーフを置くよ」


筆先が円を描き、くる……くる……くるっ

目玉模様が肌上に浮かび上がる。少し斜めに置くことで、まるで生きているような印象になる。


羽生:「赤一色だけど、濃淡と光の反射で立体感を出すんだ。光が当たると凹凸が感じられて、自然に目が浮かび上がる」


筆が肌をなぞるたびに、細い螺旋の線が生まれ、光を受けて淡く揺れる。


新城は肩をぎゅっと固め、浅い息を漏らす。羽生はその反応を楽しむように、微動だにせず筆を進める。


新城:「……っ、ぁ……」


羽生は静かに指先で目玉の輪郭を整え、赤の濃淡を重ねながら奥行きを作る。モチーフとして美しく馴染ませることに集中する。


羽生:「ここからテール。ひらりと長めに伸ばして、柔らかく色っぽく流す」


筆がスーッと下に滑り、ひら……す……と揺れる布の軌跡が肌上に描かれる。


新城はその長い線を目で追い、息が漏れる。羽生は心の中で微かににやりとしつつ、表情は崩さない。


羽生:「このひらひらの端まで行ったら、一回形は完成。こだわるのはリボンの質感と流れ、そして目玉の生きた表現。ここが正確じゃないと全体の美しさが台無しになる」


筆先がそっと肌をつつくと、新城の肩が小さく跳ねる。


新城:「……っ、だから……っ、いちいち言うなって……」


羽生は笑わず、静かに筆を進めるが、心の奥で新城の反応を楽しんでいる。


羽生:「言わないと伝わらないでしょ。……はい、今ここで“質感の頂点”。すごく綺麗に流れてる」


肌の上で、最後の線が、す……っと結ばれた。

2.写真撮影


羽生はそっとマーカーを置き、手元のスマートフォンを取り出す。画面に目を落とした瞬間、意識はまだ仰向けの新城に向いている。


――気づいたときには、もうシャッターが切られていた。

カシャッ、と静かな音が部屋に響く。


胸の奥で、ざわりとした感覚が走る。どこか、いたずらされているような気配。身体が軽く強張り、手のひらがわずかに湿る。


羽生が写真を差し出す。


羽生:「ほら、これが今撮ったやつ」


新城は視線をそらそうとし、軽く顔を背けるが、自然と画面に目が吸い寄せられる。

スマホに映る内もも付け根のライン、透け感のあるリボン、羽根の目玉――すべてが鮮明に写っている。


胸がギクッと跳ねる。強烈だ。胸の奥から、嫌だという感覚が湧き上がる。目を背けたい気持ちと、興味が引かれる視線が拮抗する。


うっとりとした声で羽生が告げる。


羽生:「ほら、透け感も目も、ちゃんと収まってる…」


胸にこみ上げる感覚に抗うように、新城は唇を噛み、視線を一度逸らす。

だが羽生はそのすべてを読み取り、静かに満足げな瞳で見つめる。見通された羞恥。微かな支配感。暗く濃密な満足感が、羽生の心を満たす。


羽生:「じゃあ、立ってみて」


新城は少し息をつき、眉をひそめながらゆっくり立ち上がる。


羽生は目線を滑らせながら、内もも付け根のラインや結び目の位置を確認する。


羽生:「うん…うーん、少し歪んでるな……」


淡々とした口調だが、羽生の観察眼は厳しい。


仰向けで描いたときには完璧に見えたリボンも、立位になると曲線が微妙にずれ、透け感や輪郭も少しだけ不安定だ。


羽生:「まぁ、素人が一発で描いたんだから、完璧にはいかないよね」


羽生は肩をすくめ、小さく溜息をつく。


羽生:「後ろからの見え方も確認したいから、四つん這いになって。頻度的にも重要だからね」


新城は小さく舌打ちし、肩をわずかに張る。


新城:「……ほんと、手間かけすぎだろ」



羽生は背後で膝立ちになり、腰に片手を添える。もう片方の手でスマホを構える。


新城は小さく息をつき、肩の緊張を残したまま腰を支えられる。


羽生はリボンのひらひら部分を少しでも見せようとしたが、実際には画面にほとんど入らず、わずかに映った部分もただの汚れのようにしか見えなかった。


羽生:「うん……これくらいか…ほとんど見えないな」


羽生は少し悔しそうに眉をひそめる。だが、試行錯誤するこの時間自体を楽しむ気持ちは変わらない。


羽生は軽くため息をつくと、新城の背後から指先でリボンの端をそっと揺らす。


羽生:「ほら、ちょっと動かすと……あ、光の加減でようやく見える」


新城:「……っ、無駄に触るな」


新城の声は低い。

内腿の筋肉が僅かに強張る。怒っているというより、反応した自分を悟られたくない大人の声音だ。


羽生は喉の奥で小さく笑い、ペンを手に取り直す。


羽生:「じゃあ、もうちょっと“仕込み”してみようか」


新城:「やめろ、羽生。遊びすぎだぞ」


新城は腰を引きたがるが、無理に振りほどくほど子どもじみた真似もできず、その一瞬の迷いを羽生に読まれる。


羽生はペン先を動かすふりをしながら、指先でリボンの端をくすぐったり、ねじったりして軽く弄ぶ。


羽生:「あんまり見えないからって油断すると、こういう時にバレるんだよ」


新城は短く息を呑み、眉をひそめた。


新城:「……羽生。やりすぎだって言ってんだ」 


低く抑えた声は、大人としての威厳を保とうと必死だ。


だが、肩にわずかに入った力と、微かに揺れた呼吸だけが、動揺を裏切る。


羽生は愉快そうに目を細める。


羽生:「声に出てるよ」


新城:「調子に乗るな」


新城は睨みつける。


画面には映らなくても、身体の反応だけは羽生に全部読まれる。


新城:「……もういい。終わりだろ」


年上として、これ以上遊ばせてやる気はない、という低い区切り方だ。


羽生は満足そうに頷く。


羽生:「協力してくれて、ありがと」


新城はわずかに肩を揺らし、顔をそむける。


新城:「……礼なんていらねぇよ。余計なこと言うな」


口は荒いが、声の奥にかすかな照れが沈んでいる。

だが同時に、これから店でさらに恥ずかしいことを見られるかもしれない——という思いが、心に重くのしかかる。


羽生は提案する。


羽生:「じゃあ、次はお風呂でマーカーを落とそうか。湯に浸かればすぐきれいになるし」


新城は肩の緊張を残しながら小さく息をつき、頷く。


新城:「……わかった。でも、自分でやるから、手伝わなくていい」


羽生は微笑むように頷き、二人は浴室へ向かう。

3.お風呂でのひととき

羽生は浴槽にゆっくり腰を沈め、湯の熱を体に馴染ませながら、新城の仕草を静かに観察していた。新城は座って自分の手でリボンのマーカーを洗い落としている。指先の動きや肩の角度、湯に落ちる泡の反射まで、羽生の目に映る。


羽生:「そういえば、僕が手伝ってる語学サークルに、タトゥーを入れてるフランス人の学生がいるんだ」


羽生は湯に手を浸しながら、自然に話し始めた。


新城は肩を少し前に傾け、観察されていることを意識しながらも、表面は落ち着いた相槌を打つ。


新城:「へえ、そうなのか」


羽生:「彼ね、ステンドグラスみたいな薔薇のタトゥーを入れてて、僕に意味を教えてくれたんだ」


新城:「どんな意味だったんだ?」


新城は肩を洗いながら、素直に興味を示す。


羽生:「愛とか希望とか、色々あるんだけど、デザイン自体がすごくロマンチックだと思うんだ」


羽生の声には柔らかい熱が混じっていた。


新城も少し目を細め、頷く。


新城:「確かに、そう感じるな」


羽生:「彼にはフランスに彼氏がいるんだけど、タトゥーの意味は僕にだけ教えてくれたんだ」


新城は少しだけ肩の力を抜き、表情を変えずに相槌を打つ。内心で、微かに嫉妬が芽生えていることを認める。


羽生は湯に手を沈めながら、からかうように笑った。


羽生:「でも安心して。彼はタチだから、僕が困ることはないんだ」


新城はその言葉に軽く息をつき、肩をゆるめながら湯に指を浸す。羽生の観察眼は変わらず静かに新城を追い、微かに笑みを浮かべていた。






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